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【09-01】中国科学技術館事業の発展と実践 ~中国科学技術館元館長 李象益教授インタビュー 

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李 象益:中国科学技術館元館長

略歴:

 国際博物館会議執行協議会委員、中国自然科学博物館協会名誉理事、中国科学技術協会全国委員会委員。
北京市人民政府諮問委員会顧問。北京大学北京師範大学教授。

 1961年北京航空航天大学卒。その後、同大学にてジェット・エンジンの研究。1981年中国科学技術館副館長。1991年中国科学技術協会科学普及部部長。1995年中国科学技術館館長。2 001年中国科学技術協会会長。2004年国際博物館会議執行協議会委員。

中国総合研究センター フェロー 米山春子 記

 2009年7月15日午後、日本科学未来館のみらいCANホールで「科学コミュニケーションのネットワークに向けて」をテーマとしたフォーラムが開催され、日本科学未来館毛利衛館長の要請をうけ、中 国科学技術館元館長李象益教授が「中国科学技術館事業の発展と実践」と題して講演されました。講演後、独立行政法人科学技術振興機構中国総合研究センター・細川洋治参事役のインタビューに応じられ、李 教授は中国の科学技術館の建設について語られました。

 細川: 素晴らしいご講演をお聞かせいただきまして、ほんとうに感動いたしました。どうも、ありがとうございます。ご講演内容について日本の方々に広くご紹介いたしたく、イ ンタビューさせていただきます。とくに関心のある三つの点について質問させていただきたく存じます。まず、中国の科学技術館はものすごい勢いで成長されているように思います。わ たくしにとってはショッキングだったのですが、日本よりはるかに整備が進んでいると感じました。なぜ中国科学技術館、および中国での科学技術に関する普及・啓発活動が急速に発展できたのかについて、李 先生はどのようにお考えになっておられるでしょうか?

 李: 長年科学技術館や博物館の仕事に努めてまいりまして、日本の読者にわたくしの限られた経験を紹介する機会を与えていただきまして、たいへん嬉しく思います。

 最近、特に中国の改革、開放以来、科学技術館は新しい社会教育方法として、また社会的公益事業として、急速な発展を遂げてきました。発展の第一は中国政府の強い支援によるものです。2002年中国政府は「 科学普及法」を制定し、2006年「全国民科学素質行動計画綱要」、2007年「科学普及能力構築の強化に関する意見」、その後2008-2015年 「科学普及基礎施設発展計画」を相次いで発令しました。こ れらの計画は科学技術普及活動の指針であり、明確な目標を設定しています。たとえば、「全国民科学素質行動計画綱要」は①各省都市や自治区首府に、大・中型の科学技術館を少なくとも1館設置すること。② 人口100万人以上の都市に、科学技術系博物館を1館設置すること。③年間延べ5,000万人の見学者を受け入れることとはっきり要求しています。

 また、社会的な組織として中国科学技術協会があり、これは全国の科学技術館の建設と発展を推進し指導する重要な社会的役割を果たしています。また、中国科学技術協会は政府部門と共同で「 科学技術館建設基準」等関係政策の制定、「全国民科学素質行動計画綱要」の実施のみならず、全国の科学技術館の開催するイベントの推進と運営、科学技術系博物館を発展させる対策の研究、分 野別科学技術博物館の発展強化や全国科学普及施設の成長状況に関するモニタリングアセスメントの実施などさまざまの面からサポートしています。

 このような中央政府と地方政府の連携による体制があり、組織的にも保障されています。当然、資金調達も容易です。科学技術系博物館の建設費用のほとんどは国家予算で賄っています。現在、世 界同時不況ですから、博物館や科学技術館のような非営利事業の展開に大きな影響のある国が多いでしょうが、中国ではまったく影響を受けていません。計画通りに確実に進んでいます。今後数年間で、科 学技術館が100館近く新設され、中国の科学技術館事業の最盛期を迎えると思われます。

 一方、科学技術センターや科学技術館は、20世紀以来の博物館の成長の流れを引き継ぐのみならず、新しい視点に立って発展させています。科学教育の先進的な理念のもとで社会の需要にも合わせ、科 学と知識をエンタテイメントとすべく取り組んでいます。多くの企業や研究所、大学は科学技術館関連事業のイノベーション創出に関心があり、研究成果を分かりやすく展示することに興味を持っており、科 学技術センターや科学技術館の運営の支持層を形成しています。現在、科学技術センターや科学技術館の来場人数は従来の博物館よりかなり上回っています。以 上が中国の科学技術館は迅速な発展を遂げてきた重要な要素と思います。

 細川: よくわかりました、ありがとうございます。つぎの点は、ご講演によりますと、李元館長を中心に、科学技術館の展示内容に対してさまざまな工夫をされています、ど のような理念に基づいて、どのように工夫されているかについてお話をいただければと思います。

 李: 科学技術館の建設について、われわれはイノベーション創出を中核としています。つまり、イノベーション創出は科学技術館の建設と発展の精神的基盤になっています。注 目すべきポイントは三つあります。理念の向上とイノベーションの重視、持続的発展です。科学技術館のイノベーションと構築を推進するため、理論と実践を融合させなければなりません。科学技術館の建設には、一 定の専門知識を持ち、自主的にイノベーションできる管理チームが必要です。建設の初期から持続可能な発展に視野を置かなければなりません。われわれは建設する前に、欧州やアメリカ、日 本などの多くの国の博物館などを見学しました、各博物館の経営理念、展示品、展示方法などの資料を収集し、分析しました。世界に学びますが、単純に真似をするわけではありません。中 国の科学技術館は大学および研究所、国家重点研究室、企業と密接な連携を図っています。彼らの研究の最新成果をいち早く分かりやすく社会に披露させるのが重要です。展示では、単に展示品を設置するのみでなく、教 育活動という視点を重視しています。見学者のイノベーション意識を刺激するように心がけています。問題に対して既存の答えを提供するのではなく、好奇心を呼び起こすことを重視し、見 学者により多くの問題を提起させ、見学しながら答えを見つけさせるように、工夫しています。このような考えに基づき、科学技術新館では、人類の直面している重要な問題と挑戦を最大規模で展示するとともに、見 学者に自ら答えを探す意欲を呼び起こさせるよう工夫しています。また、科学技術のイノベーションが持続可能な発展に向けて人類にもたらした利益と幸福を展示します。そ こでイノベーションが未来の挑戦において果たす重要な役割を解き明かします。見学者に将来の科学技術発展の問題に対する関心と思考を持つように導きます。われわれは、展 示のコーナーの設置にも従来の伝統的な分類によらず、社会の需要にあわせて、自然科学と人文科学を混在させ、いままでにない新しい天地の開拓を試みています。

 細川: たいへん素晴らしいお考えであると存じます。最後の質問ですが、わたくしは国際機関に勤めていたことがあり、世界の博物館を多く見てまいりました。日 本科学技術未来館は結構進んでいる方かもしれませんが、ほかの日本の博物館、科学館は先進国の博物館と比べて規模も小さくて、展示内容も乏しく、足りないところが多いと思いますが、日本の科学館は今後どのように発展させたらいいのか、アドバイスをいただければと思います。

 李: 個人的な意見ではありますが、日本の科学技術館は世界でも重要な位置を占めています。とくにこの未来館や、奈 良の私のしごと館は応用な面から見れば素晴らしい成果を上げています。大きな役割を果たしていると思います。今後は、イノベーション創出にもう少し力を注いではいかがでしょうか。日 本の企業は非常に高い先進技術を持っていますので、科学技術館に随時取り込めば、斬新さと活気を維持できるではないでしょうか。科学技術館は科学思想・方法を伝播する新しい科学普及の場であり、イ ノベーション力を探求・体験・育成する社会教育の場でもあります。科学技術政策を伝達し、民間と政府の交流するプラットホームであり、都市の科学技術・教育・社会発展を体現する重要な窓口となっています。持 続的に発展させる重要なポイントは、生活に密着していること、社会のホットスポットに注目すること、科学の理念や科学的方法と密接な関係を保つこと、人文科学と自然科学を融合すること、この四つです。公 演内容との重複にもなりますが、今後もこのような交流を期待しています。ありがとうございました。

 細川: 今日わざわざお時間を頂きまして、たいへん感謝いたしております。今日のインタビュー内容を、ご 講演資料と一緒にわれわれの中国総合研究センターのホームページに掲載させていただきます。今日は、本当にありがとうございました。

インタビュー後:李教授と細川洋治参事役