【10-02】北京大学臨床腫瘍学院李萍萍教授、工学院大学孔子学院にて講演
米山 春子(中国総合研究センター フェロー) 2010年 4月26日
2010年4月16日の午後、北京大学臨床腫瘍学院李萍萍教授が工学院大学孔子学院で、「中医学・西洋医学融合治療法の成果によるがん治療の進展」と題する講演をされました。こ れには100名以上の方々が参加されました。
孔子学院は、中国政府が中国語と中国文化の普及を目指し、世界の大学と共同で設置、展開している教育機関で、世界各地ですでに200余が設立されています。工学院大学孔子学院は日本では11番目で、工 科系大学では始めての設立とのことです。北京航空航天大学が、工学院大学のパートナー校として、工学院大学孔子学院の運営に携わっています。
李萍萍先生の講演会はまず学校法人工学院大学理事長・工学院大学孔子学院理事長大橋秀雄氏の挨拶からはじまり、続いて李先生の旧友である財団法人日中医学協会理事長・中 国医科大学客員教授安達勇氏が挨拶されました。その後、工学院大学孔子学院副院長の張海英氏より李萍萍教授が紹介されました。
李教授は、中国の中医学・西洋医学融合がん治療法開発の第一人者です。米国のジョージ・ワシントン大学で臨床薬理について研究されたのち帰国し、中医科実験室を創立されました。と くに癌治療の補完代替法の開発に大きな成果を挙げられ、国内外の学術刊行物に多くの論文を発表されています。これまで北京大学の医学部の"985計画"のプロジェクトを主宰されたほか、現 在いくつかの中国の重要な科学技術プロジェクトを引き受けておられます。
講演では、中医学の歴史、および現代医学での中医学の役割、中医学と西洋医学の融合療法の特長と癌治療におけるそれぞれの役割分担などについて講演されました。
中医学は中国文化の重要な要素であり、人々の健康に多大な貢献をしてきました。約1700年前、中医学の中興の祖華侘は「麻沸散」を発明し、全身麻酔をかけて手術をしたとのことです。こ れが世界初の麻酔術と言われています。11世紀、中国はヒトの天然痘接種法を用いて、天然痘の予防対策をしました。16世紀になって、この方法は世界中に広まりました。中医学では人と自然・環境・社 会は一体であると考え、人は自然の一部であり、環境との全体的な調和を求め、まず自然環境に順応し、天と人の調和を果たすと主張しています。西洋医学は病気の完治あるいは病気の進行を遅らせるように、症 状に基づいて医療行為を行います。中医学は整体観念治療と弁証論治の数千年の経験に基づくものであるとのことです。癌治療の補完代替法としても非常に大きな役割を果たしています。李教授によれば、長 年のがん治療の例および統計データから、癌の化学療法を受けた後に中医学の処方を施して、化学療法の副作用の軽減や、免疫系の立て直し、身体全体の調整などに顕著な臨床結果が見られるとのことです。また、化 学療法と中薬療法を配合して治療成果を強化したり、化学療法を受けられない患者への中薬療法を施すなどして、大きく貢献しています。李教授によれば、このような癌患者に対する補完代替医療は中国のみならず、2 005年のアメリカ臨床腫瘍学会の機関誌(Journal of clinical oncology 2005 Vol.23(12) 2646-2654)の発表データによると、日 本でも行われているとのことです。
近年、中医学は世界中で注目され、WHOの発表した「2002-2005伝統医薬策略」には、伝統医学は知識融合、熟練技能、理論技術、宗教信仰と異なる文化など特有な経験を用いて、人 々の健康と長寿を目指す医学であり、健康への道には中薬は重要であり、不可欠なものであると記載されているそうです。2000年にはオーストラリアビクトリア州において「中医学に関する法律」が施行されました。こ れは中国以外の国における中医学医療に関する初の立法です。また、2008年、英国チャールズ皇太子の提言で、英国厚生省は「鍼灸・中薬・中医とほかの伝統医学に関する立法意見書」を政府に提出しています。オ ーストラリアのロイヤルメルボル工科大学(RMIT)には欧米豪諸国では初めて中医学士課程が設立されました。いま豪州では6校の大学に中医学士、修士、および博士課程が開設されているとのことです。
最後に、李教授は、当然ながら中医学には非論理的な部分が存在し、未知なことがたくさんあります。しかし、中医学の良さを大いに活かせば、それなりに威力を発揮できるではないかと結びました。
講演後、李教授は多くの中医学に関心のある方々と意見交換を行い、非常に有意義な議論ができました。一 衣帯水の間にある日本と中国の両国のこのような親密な文化交流と相互理解は両国の発展と平和のために不可欠であると思います。