【13-05】愛知大学国際中国学研究センター(ICCS)が日中経済をテーマに公開ワークショップを開催
2013年 7月 3日 (中国総合研究交流センターフェロー 単谷)
愛知大学国際中国学研究センターは6月6日、「日中経済関係の構造的変化と今後の課題」と題する公開ワークショップを愛知大学名古屋校舎で開催した。このワークショップは、中 国総合研究交流センター(CRCC)が後援した他、(社)中部経済連合会及び、東海日中貿易センターの後援で開催された。
冒頭、ICCSの高橋五郎センター長より開会の挨拶とともに本ワークショップの趣旨について説明が行われた後、CRCCから橋本俊幸参事役が挨拶を行った。
ワークショップでは北京大学経済学院副院長の章政教授及び周建波教授を迎え、新体制下の中国経済の構造変化や抱える課題、それに今後の展望についての講演をいただいた。
両氏は、中国経済は当面多くの問題を抱えながらも、引き続き高成長を維持していくとの見方を強調するとともに、中国経済の構造変化、諸課題、改革の原動力、今後改革の方向性などを分析した。
このほか愛知大学の高橋五郎センター長と李春利経済学部教授の研究報告が行われ、中国に関する地道な研究が一般聴衆にもわかりやすく解説が行われた。
日中関係が微妙な中での開催だったが、定員を上回る応募があり、会場からの質問も多く、関心の高さが示された。
章政氏の講演概要
世界経済における中国の位置付け、GDP伸び率の変化、製造業とサービス業、サービス貿易の動向、貿易方式の変化、中国国内消費の動向、市場金利の変化、銀行間取引規模の拡大、投資者数の変化、金 融商品の多元化及び金融商品取引の実態などの一次情報によると、中国経済の構造は、安定化、多元化、自由化と高度化に進んでいる。
一方、中国経済の主な課題は、市場に関わる諸問題(インフレ、新規雇用の創出、国民所得水準等)の対処、成長モデル転換に伴うリスク対応、改革路線と政策実施の調和などが挙げられている。
今後の展望について章教授は、金融自由化による中小企業への支援充実、国有経済体制基盤の更なる強化、貿易構造の多様化による新しい国際関係の構築などの重要性を指摘した。
周建波氏の講演概要
中国の政治体制は「太子党(元老の子孫の意味だけではなく、党の伝統の意味である)」と「職業官僚(各社会階層のエリート集団)」との局面が長らく続き、政治体制の改革は、こ の二つの利益集団の衝突進化とともに進んでいく。
中国の都市化はまだ進行中である。都市化が未完成の段階では、投資の国民生産に占める割合が消費の割合より多く、経済発展の主要な原動力となっているので、中国経済の高度成長は2025年まで続くが、長 期的な経済成長を持続可能にするのは、産業構造の転換が不可欠である。
中国経済の発展には、当面人口ボーナスの喪失、不動産価格の急激な上昇、改革の効果の減少、社会保障、教育、国民医療など多くの短期的な課題があるが、農業税の免除、中 国政府の社会経済問題改革能力の向上、中国共産党の政権運営能力の強化等の好材料もある。
改革の原動力は、中国共産党自身の存続危機感である。今後改革の方向性について周教授は、市場化改革の加速(民間企業の石油、石炭、鉄鋼、航空、金融などへの参入)、政治体制の改革( 民間の力の政治領域への参入、民間による官僚腐敗などへの監督)が重要であると分析した。
高橋五郎氏の講演概要
日中経済関係の構造的変容と諸問題<日中「加工食品モジュール」論の視覚から>とのテーマで行われた講演で高橋教授は、貿易国際競争力という観点から日中比較を行い、と くに食品の貿易をターゲットに分析を行った。「モジュール」とは、パソコンなどに見られる、一定の規格にあった部品を組み合わせて製品化することなどが代表例であるが、その概念を食品に適応して議論を展開した。& amp; amp; amp; amp; amp; amp; lt; /p>
現在、日本が中国から輸入する食品は非常に多く、価格などの面では太刀打ちできない状況といえるが、食品の加工度が高まるほど貿易国際競争力の差は減少し、食 品によっては日本のほうが中国に対して競争力が高い(輸出超過)ものが現れることを、財務省貿易統計のデータを使って解説した。
また、中国で生産される食品でも、食品の構成要素となるパーツ(各食材)ごとに分ければ、世界中から輸入し、それを元に加工食品を製造する、まさにモジュール生産といえる生産例も紹介した。
さらに高橋教授は、中国で生産される食品であっても、原材料がすべて中国で生産されるわけではなく、あくまで加工のみの場合もあり、週 刊誌等で掲載される中国食品の安全性に対する過度の懸念を戒める発言もなされた。
李春利氏の講演概要
日本側から見た中国経済の展望と今後の課題のタイトルの講演がなされた。李教授は中国の経済の展望で、成長を鈍化させるいくつかの壁について指摘を行った。これらの成長の壁を、①生産人口の減少( 人口ボーナスの終了)と人件費高騰、②内需主導型への転換の遅れ(消費がGDPに占める割合が極めて低く、投資がGDPに占める割合が相当高い)、③将来への不安(養老保険加入率が低い一方、不動産バブル)、④ 地域間格差の拡大、⑤環境・エネルギー制約(PM2.5問題の顕在化、石油の対外依存度上昇)の5つに分類し、解説を行った。その上で、5つの壁を克服するソフトランディングの可能性や、新 たな消費の起爆剤を見つけられるか等についても言及した。