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【13-08】日本海資源守るのも日中韓の協力で

2013年 7月26日 (中国総合研究交流センター 小岩井忠道)

 揚子江に降る雨が日本海に大きな影響を与えてきた。日中韓が協力して日本海の資源、生態系を守るべきだ-。 

 7月18日に都内で開かれたシンポジウム「日本海-小さな海の大きな恵み」http://www.nippon-foundation.or.jp/news/articles/2013/46.htmlで、古気候学者や環境考古学者が、領土問題でギクシャクしている現状に警鐘を鳴らし、広い視野に立った協力の必要を訴えた。

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 このシンポジウムは「海の日」に合わせて、東京大学海洋アライアンスhttp://www.oa.u-tokyo.ac.jp/と日本財団http://www.nippon-foundation.or.jp/が開いた。講演者の1人、多田隆治・東京大学大学院理学系研究科教授によると、日本海は狭く浅い海峡でのみ外洋とつながる孤立した海。九州と朝鮮半島の間の対馬海峡が唯一の海流の流入口となっている。黒潮から分岐した対馬暖流が海峡の南東側から、東シナ海陸棚の上を流れてくる台湾暖流が北東側からそれぞれ日本海に流れ込む。

 台湾暖流が日本海に運び込む東シナ海沿岸水は、対馬暖流よりもプランクトンが繁殖する基になるリンや窒素といった栄養塩に富む。梅雨時に揚子江の流出量が多くなると、日本海に入り込む量も増える。「日本海に流入する海水の栄養塩濃度は揚子江の流出量によって決まる」(多田教授)というわけだ。

 これまでの多くの研究によって、地球上の海水は、北大西洋で沈み込んで深層水となり大西洋を南下、インド洋の南方を経由して太平洋を北上、北太平洋で上昇することが分かっている。この後、表面水となり逆のコースをたどって北大西洋まで戻り、再び沈み込んで深層水に…という海洋大循環が続く。さらにこの海洋大循環が、過去に起きた気候変動に深く関係していることも分かってきた。8万年前から2万年くらい前まで続いた最終氷期中に急激な気候変動が頻繁に繰り返されていたことが、グリーンランドの氷床の研究で裏付けられる。さらにグリーンランド沖の太平洋底堆積物の調査と、コンピュータによる再現研究から、海洋大循環が急激で頻繁な気候変動に深く関わっていたことも突き止められたのだ。

 多田教授による長年の日本海堆積物調査は、さらに海洋大循環から取り残されていると思われていた日本海も、最終氷期中の急激な気候変動に大きな影響を受けてきたことを解き明かした。最終氷期中の亜間氷期には偏西風が北上して揚子江流域に大量の雨を降らす。しかし、逆に亜氷期になると偏西風がチベットの南にまで下がってしまい、あまり雨が降らない。その結果、揚子江の流出量が減って、日本海にも栄養塩を含む海流が入ってこなかった…。揚子江と日本海のこうした関連が明らかになったのだ。

 講演が一通り終わった後に開かれたパネルディスカッションで多田教授は「日本海については中国、韓国の研究者と共同研究を続けている。領土を守るといったことだけに集中せず、中国、韓国と協力して日本海(の資源、生態系)を守っていくという意識が大事ではないか」と訴えた。

 安田喜憲・東北大学大学院環境科学研究科教授(環境考古学)も、長江(揚子江)文明と日本との関係の深さを数多くの証拠を挙げて説き起こした講演の後、日本海の資源を守るため中国、韓国と協力する必要を、パネルディスカッションで強調していた。