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【13-10】「韓国の中国接近慎重に見極めを」木村幹神戸大学大学院教授が提言

2013年 8月14日 (中国総合研究交流センター 小岩井忠道)

 韓国の中国接近は、韓国にとっては相応の理由がある。韓国よりはまだ余裕のある日本は与えられた時間を活用して中国との付き合い方を十分に考え、行動したほうがよい―。

 8月8日、日本記者クラブ主催の研究会で講演した(「中国とどうつき合うか:韓国の対外政策を参考に」)木村幹・神戸大学大学院教授(比較政治学)は、中国との関係重視が目立つ韓国の内情を解説した上で、中国に対して日本が慎重な対応をとるよう提言した。

 2月に就任した朴槿恵韓国大統領は、オバマ米大統領に続き、習近平・中国国家主席と立て続けに会談した。しかし、安倍首相との会談は就任後半年たった現在もまだ実現の見通しがはっきりしていない。韓国にとってこれは十分理由があることだ、として木村氏は、3月27日に韓国外交通商部が発表した業務報告「国民幸福、希望の新時代を開く信頼外交」に書かれている「韓国外交の基本的課題」を紹介した。6つ掲げられている基本的課題の一つに「韓米同盟と韓中パートナー関係の調和・発展、および韓日関係安定化」がある。そこにみられる中国、米国、日本に対する韓国政府の姿勢の違いから、中国重視と日本軽視が明白に読み取れる、と指摘した。

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 氏がまず重視しているのは、韓中関係には「両国間交易3,000億ドルの早期達成」など前向きな目標が盛り込まれ、ネガティブな記述がないこと。一方、韓米関係については「原子力協定改正、防衛費分担特別協定等の両国間の懸案の円満な解決を推進」が書かれていることに注意を喚起した。韓中関係ではいかなる課題も指摘していないにもかかわらず、韓米間にはむしろ「懸案」があると明記していることに、韓国政府の中国重視姿勢は明らかだ、としている。

 韓日関係が韓中、韓米関係のいずれよりも軽く見られている理由として、氏がまず挙げたのは、記述が韓中関係、韓米関係に比べて半分にも満たないこと。さらに「安定した協力基盤の造成を推進する」という後半部分の内容も、これまで繰り返されてきた「お題目」にすぎない。「歴史問題などに対しては原則に基づいた断固たる対処を行う方針」という前段が、韓国政府の日本に対する最重要な政策と読める、というのが氏の見立てだ。

 保守派とみなされている朴大統領が、日本の保守勢力などの期待に反して就任早々、中国重視の姿勢を明確にしているのはなぜか。背景として韓国の保守勢力が昨年秋ごろから、中国重視の姿勢を強めていることを、木村氏は挙げている。それを裏付ける例として氏が紹介したのが、保守派の論客として知られる金大中・朝鮮日報顧問が4月に朝鮮日報紙に発表した論説。「北朝鮮の脅威を取り除くためには、直接的な影響力を持たない米国より、むしろ中国を積極的に頼るべきだ」と主張している。

 氏はさらに4月に世論調査機関「韓国ギャラップ」が実施した調査結果を示し、米国に対する不信感、不安感が韓国国民の間に増えている現実を指摘した。この世論調査結果では「北朝鮮が核兵器を使用した時、米国が核の傘を提供してくれると思うか」との問いに対し、「思う」と「思わない・分からない」という回答が、ほぼ半々に分かれた。

 韓国の中国接近の理由として氏が挙げたもう一つの数字は、GDP(国民総生産)に対する貿易額の比率。韓国の総貿易額に占める対中国貿易額の比率と、日本の総貿易額に占める対中国貿易額の比率は、いずれも20%程度と大きな差はない。ところが自国のGDPに占める数字でみると、日本の対中国貿易額は5%弱でしかないのに対し、韓国は約20%と一挙に差が開く。韓国経済は、貿易に依存する度合いが極端に大きいからだ。

 一方、中国から見た場合、韓国との総貿易額は、GDPの約4%に満たない。中国にとって対韓国貿易の持つ重要性に比べると、韓国にとって対中国貿易の占める位置がはるかに大きいことも、木村氏は併せて示した。ちなみに日本と韓国の関係も、中国と韓国との関係に似て、GDPに占める総貿易額の割合に大きな差がある。ただし、韓国のGNPに占める日本の総貿易額は約10%と、対中国のほぼ半分だ。

 氏はさらに米国と中国の軍事力の大きさも示し、結論として、さまざまな状況から「米国と共に中国とも協調しなければならない」という道を韓国がとらざるを得なくなっている現実を浮かび上がらせた。一方、日本との関係の重要性は逆に低下し、韓国政府にとって「日韓関係の修復は後回しになっている」という厳しい見方も併せて示している。

 「日本が尖閣問題などで中国との対立に米国を巻き込もうとしているのは困る、というのが韓国の立場。現在の事態は、日本の経済力が低下したことによる一時的な現象ではなく、グローバル化が組み合わさって起きた。韓国の日本に対する評価は後退している。一方、韓国も中国も日本が既に直面している人口減少と経済のマイナス成長という難題に近い将来、遭遇する。幸い日本は韓国よりは図体が大きい。韓国よりは与えられた時間が多いことを活用して、中国との付き合い方も十分考えるべきだろう」というのが、木村氏の提言だった。

日本記者クラブウェブサイト:
木村幹・神戸大学大学院教授講演「中国とどうつきあうか:韓国の対外政策を参考に

木村幹(きむらかん)氏プロフィール:

東大阪市生まれ。1990年京都大学法学部卒、93年京都大学大学院法学研究科博士課程中退、愛媛大学法文学部助手。同講師、神戸大学国際協力研究科助教授を経て2005年神戸大学大学院国際協力研究科教授。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。第二次日韓歴史共同研究(2007-2010年)委員会研究委員(教科書小グループ)。NPO法人汎太平洋フォーラムhttp://ppfkobe.web.fc2.com/index.html理事長。著書に「近代韓国のナショナリズム」(ナカニシ書店)、「韓国現代史―大統領たちの栄光と蹉跌」(中公新書)など。