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【13-16】事態の沈静化と交流回復急げ 宮本雄二・元駐中国大使が提言

2013年 9月30日 小岩井 忠道(中国総合研究交流センター)

 日中関係で今、必要なことは事態の沈静化―。9月14日都心で開かれた国際シンポジウム「 現下の難局を乗り越えて~日中が信頼関係を取り戻すには~」(日本日中関係学会主催、中国中日関係史学会共催)で、基調講演した宮本雄二―元駐中国大使が提言した。 

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 宮本氏はシンポジウムを主催した日本日中関係学会の会長。日中両国の関係が深刻な状況にあることを示す例として、1月に起きた中国海軍のフリゲート艦による海上自衛隊護衛艦に対するレーダー照射を挙げた。p p
「日本とロシアの間では、レーダー照射は敵対行為であり対抗措置をとれる、という了解がある。日中間にはそうした了解はなく、現場で何をやっていいか悪いかという(共通の)理解がない。非 常に危険な状況にある」と危機感をあらわにした。

 さらに、外交、政治が国民世論の動向に著しく影響を受ける、という日中両国共通の現状を挙げて、事態打開の困難さを指摘した。「両国とも国民世論と違う外交手段はとりにくくなっている。大きな解決、妥 協策は不可能ではないか」。こうした見方を示し、「どちらが勝ったか負けたか分からない形の解決策しかない」と語った。

 同時に、尖閣諸島を安定化するには、この問題を正面から取り上げる中期的な努力が必要であることも指摘している。「尖閣諸島に領土問題が存在する」と日本政府が認めることで、中 国政府の主張がさらにエスカレートする可能性を指摘しつつ、国際司法裁判所への提訴を手段の一つに挙げた。

 宮本氏によると、日中の考え方の違いに国際法に対する理解の差もある。「国際法は、覇権国が勝手につくったもの」という中国政府の考え方に対して、「自分の言っていることが正しいのだから、自 分の言うことを聞け。力づくでも実現する…というのでは19世紀の帝国主義と変わらないことになってしまう」と疑問を投げかけ、公平、正義を実現する手段として「法の支配」の重要性を強調した。

 宮本氏も触れたが、日本のNPO法人「言論NPO」と中国のメディア「中国日報社」が8月に発表した日中共同世論調査結果によると、相手国に対し「良くない印象を持っている」と答えた人が、両 国とも9割を超え、過去最悪の数字となっている。日中友好関係の強化に努力していた人たちの間に落胆と失望感が広がっている現実を指摘する一方で、「気落ちせず、こつこつやれることをやっていく」こ とを氏は訴えた。具体的な取り組みとして「青少年交流、文化交流、地方交流を可及的速やかに回復してほしい」と呼びかけた。