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【13-18】中国各地に延べ3400人派遣 高齢パワー生かす民間支援団体

2013年10月 8日 小岩井 忠道(中国総合研究交流センター)

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神服巌(左)、小高清蔵(右)の両理事

  中国科学技術交流中心の代表団が7月下旬に来日し、民 間レベルで技術支援を続けている 公益財団法人日本シルバーボランティアズを訪れ、「 シルバーボランティアの派遣をもっと増やしてほしい」と要請したことを、 中国科学技術部のウェブサイトが伝えた。

 高齢者の技術を対外援助に生かす活動を続ける日本シルバーボランティアズが過去30年間で中国に派遣したボランティア指導員は、延べ3,400人を超す。中国科学技術交流中心代表団の邢継俊団長( 同中心副主任)が、「日中民間友好交流の手本」と評価したという日本シルバーボランティアズの活動ぶりを、神服(はっとり)巌、小高清蔵の両理事に聞いた。

―日本シルバーボランティアズができたきっかけから伺います。

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神服巌理事

 日本シルバーボランティアズができたのは1979年1月です。初代理事長の渡邊武氏はアジア開発銀行総裁を務めた人で、当財団の役割を明快に表す言葉を残しています。「魚を与えて一日を養い、漁法( すなどり)を伝えて一生を養う」。お金を渡して終わりといった対外援助ではなく、本当にその土地の人々の生活向上に役立つ援助が大事、という意味です。企 業を定年退職した人たちがボランティアとして現地で技術指導するのが効果的、という渡邊氏の提唱に経済団体や企業が賛同し、発足しました。

 1979年というと、中国では鄧小平氏が復活し、胡耀邦氏とともに文革の清算と改革開放政策を始めたころです。80年2月に党主席に就任した胡氏と82年に首相に就任した中曽根康弘氏の関係もよく、高 齢の(シルバー)ボランティアが日本の技術を途上国の人々に教える活動が軌道に乗りました。今年3月末の時点で、アジアだけでなく豪州、中近東、アフリカ、中南米、ロ シアなどへ約4,500人ものボランティアが出かけ、技術指導に当たって来ましたが、中でも中国は3,417人と飛び抜けています。

―派遣された方々はどういった人たちですか。

 年会費5,000円を払って会員になっていただき、登録された会員の中から、先方の要請に合った方に現地に行ってもらっています。現在、登録いただいている方が360人います。年 齢別で見ると70歳代が一番多く38.2%を占めており、続いて60歳代が29.7%。80歳以上の方々も14.7%で、50歳代9.4%を上回っています。

 専門別で見ますと「日本語教育」が最も多く38.2%、続いて「農林水産」の23.2%、「鉱工業・技術」の15.9%という順になっています。

―中国にはどういう場所にどのような目的で派遣されているのでしょう。

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小高清蔵理事

 当初は浙江省のような沿海州が多かったのですが、その後河北、河南、安徽、山東省などに拡大し、最近ではさらに奥地の陝西、青海、四川省などに広がり、派遣先の省は中国全体のほぼ7割に達しています。鉱 工業分野の技術支援の要請も強いのですが、知的財産の問題が絡んでくることが少なくありません。ビジネスの世界の話になるとボランティアでは対応できないので、農業関係が多くなっています。高 齢ではあっても現役の農業人が、自身の仕事の合間を縫って、10日間ほど現地で指導するという形が大半です。まず最寄りの空港から、航空機などを乗り継いで現地へ入り、ほ とんど休み無く指導に当たってもらうわけで、10日間といえども負担は軽いとはいえません。

―中国側の受け入れ態勢はいかがでしょう。

 中国科学技術交流中心が、どこどこにこういう人を派遣してほしいという各省からの要望を取りまとめ、こちらに要請してきます。それに対応して当財団が適任者を募って、派遣するという形です。最 初に派遣要請書を出す各省の窓口だけでも50カ所くらいになるでしょう。派遣者の日本国内の交通費は当財団が持ちますが、渡航費と現地での滞在費用は中国側が負担し、通訳も用意してくれます。

―最近、特に要望が大きいのはどのようなものですか。

 換金作物といわれる果物が農家の収入増につながるということで、派遣要請が増えています。イチゴ、リンゴ、トマト、ブドウといったものは、中国国内でも高く売れますから。指 導の成果が出ているものもいくつかあります。日本に輸出できるような高品質のものを生産できるまでにはもうちょっと時間がかかりそうですが。

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安徽省でブドウの剪定(せんてい)を指導する塩崎三郎さん(日本シルバーボランティアズ提供)

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河北省で桜桃の剪定(せんてい)を指導する塩崎三郎さん(日本シルバーボランティアズ提供)

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河北省でリンゴ幼木の剪定(せんてい)を指導する塩崎三郎さん(日本シルバーボランティアズ提供)

―悩みとこれからの期待を伺います。

 当初は、国際協力機構(JICA)から資金援助があり、渡航費や日当なども日本側で負担できたのですが、2003年にこれが打ち切られました。本 事業の継続を望む中国側が国際航空賃と中国国内の滞在費を負担することで、今日まで活動が継続しています。ただし、活動が始まったばかりの1980年代と現在では状況がだいぶ変わっています。当時は、日 本企業の多くが社会貢献ということに積極的で、国内だけでなく休暇を取って海外支援活動をすることなども社員に奨励していました。バブルがはじけ、企業もゆとりがなくなり、さ らに年金支給開始年齢の引き上げなどもあって、高齢者の余裕も今はかつてほどではありません。

 当財団は、運営費を会員の年会費と企業などからの寄付に頼っていますので、苦しい状況が続いています。寄付をすることでどのようなメリットがあるか、企 業も明確な説明を株主から求められるという時代ですから、簡単にはお金を出してくれません。財政的な苦労は大きいです。

 一方、中国側からの期待と評価は依然として大きいのです。2010年5月に、温家宝首相(当時)が来日した時、日本の8つの団体が中日人民対外友好協会と中国日本友好協会から「中日友好貢献奨」を 贈られました。この団体の一つにわれわれの財団が含まれています。

 また毎年、国慶節に合わせて授賞式が行われる中国「国家友誼奨」という賞があります。経済、産業、文化の分野で中国の近代化、発展に貢献した外国の専門家に贈られる最高の栄誉賞とされています。こ こ数年では、シンクロナイズドスイミングの代表コーチとしてロンドンオリンピックで中国選手に二つのメダル(デュエット銀、チーム銅)を獲得させた井村雅代さんらとともに、日 本シルバーボランティアズの会員も数名受賞しています。今年は長野県飯山市の果樹栽培の専門家、塩崎三郎さんが受賞しました。塩崎さんは、中国へ70数度にわたり訪問し、農家の方たちに果樹栽培を教えました。 

 われわれの活動は、中国側にこれほど喜んでもらえているわけです。昨年9月の日本政府による尖閣諸島国有化で日中関係は急激に悪化してします。しかし、中 国各地に派遣された日本シルバーボランティアズの会員の方々が不愉快な目にあったという報告は全くありません。いろいろ困難はありますが、こ れからも会員のみなさんとともに草の根レベルの活動を続けたいと考えています。