【14-02】北京外国語大学生、王新さん優勝 日本語スピーチコンテスト
2014年 1月22日 小岩井 忠道(中国総合研究交流センター)
中国全土の大学から選抜された学生が日本語の表現力や発音を競う「第8回全中国選抜日本語スピーチコンテスト」(日本経済新聞、中国教育国際交流協会、日本華人教授会議共催)が1月20日、東京・大手町の日経ホールで行われた。
出場者16人のうち、「実るほど頭(こうべ)を垂れる稲穂かな」のことわざが自分の生き方に与えた影響を紹介した北京外国語大学生、王新さんが優勝、審査委員長の立石博高・東京外国語大学学長から「発音、イントネーション、表現力がすばらしかった」とたたえられた。
今回のコンテストの課題テーマは「日本に紹介したい中国のことわざ 中国に紹介したい日本のことわざ」。王さん以外にも、日本のことわざを取り上げた出場者が多く、「桃栗3年、柿8年」「石の上にも3年」や、「旅は道連れ世は情け」「親しき仲にも礼儀あり」など日本人の辛抱強さや心遣いに共感を示したスピーチが目立った。
全中国選抜日本語スピーチコンテストは、日中関係悪化の影響を受け、例年のような形の予選会を中国で開くことができず、中国国内8地区16の大学で行われたコンテストで優勝した16人が本選の出場者となった。開催時期も昨年夏に行う予定だったが、今年にずれ込んだ。
王新さんのスピーチ内容は以下の通り。
中国に紹介したい日本のことわざというテーマでお話しします。それは、「実るほど頭を垂れる稲穂かな」です。このことわざは日本語を習い始めてすぐに学んだのですが、実は納得がいきませんでした。私は麦畑が広がる中国北部で育ちました。麦は、風に負けず天に向かってまっすぐに伸びます。この麦の姿勢こそ人のあるべき姿だと教わりながら育った私には、稲穂が頭を垂れるのは自信のなさの表れに思えたのです。 私は高校1年から日本語を勉強し始めました。クラスには中学時代から日本語を学んでいた生徒もいました。そんな時、日本人の先生が一冊の本をくださいました。先生の字で「君は天才だ」と書いてありました。そういわれるとなんだか本当にそんな気がしてきたので、「私は天才だ。やればできる」と自分に言い聞かせ、そして高校3年の時にはクラスでトップになっていました。
そのおかげで念願の大学に推薦入学が決まりました。誇らしさや自信を胸に大学の門をくぐった私を待っていたのは、全国から日本語のエリートばかりが集められたクラスでした。クラスメートの実力の高さは授業中の発言などから十分に伺うことができました。それでもみんな簡単な授業にもまじめに取り組み、知らないことは素直に尋ね合っていました。しかし、私は弱みを見せたくなくて、不明点があってもなかなか自分から尋ねることができないでいました。そして、授業では積極的に発言して自分の力を見せつけようとする一方で、そんなことをしている自分をとても小さく感じていました。クラスメートとは人間のレベルが違うような気さえしたほどです。
そんなある日、偶然、先のことわざと再会してふとそれまでの経験がよみがえってきました。日本語を学び始めた高校1年のころは、上へ上へとがむしゃらに考えることでパワーを付けてきました。それは穂が出る前にもっと光を浴びようと背伸びをしているようでした。そして今の自分は、ようやくできた小さく軽い稲穂を上に向けて、ゆらゆら揺れている状態でしかない。つまり自信だと思っていたものはただの小さな優越感に過ぎなかったのではないか、と気づいたのです。しっかり実を結んだ稲穂は頭を垂れていくものです。頭を垂れるというのは決して自信のなさの表れではなく、本当の意味での自信だと分かってきました。
本当の意味での自信を持つからこそ、謙虚に自分を省みて相手を敬い感謝することができるのではないでしょうか。
小さいときから、麦を見ながら胸を張ってまっすぐに生きていくべきだという教えの下で育ってきました。そして日本語を勉強してこのことわざに出会ってから、今度は実れば実るほど頭を垂れていく稲についても理解できるようになりました。実は、表現の差こそはあれ、中国にも謙遜を表すことわざは幾つかあります。そして謙遜、謙虚は美徳と考えられてきました。しかし、若い世代がこれからいかに引き継いでいくか、考えさせられます。
この移り変わりの早い時代の中、勝ち抜いて成功した人は自信過剰になりやすい傾向があるようです。私自身、良い大学にいるというだけで意味のない優越感を持ってしまうことがあります。しかし、成長するにつれて理解できるようになってから、このことわざを覚えて自分自身を省みることができました。これからは時には麦のようにたくましく、時には稲のように余裕を持って謙虚に物事に取り組んでいけるよう頑張っていきたいと思います。
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