【14-14】民意のいらだち噴出する報復社会に 富坂聰氏が習近平政権の難題指摘
2014年 6月 9日 小岩井 忠道(中国総合研究交流センター)
環境、格差、国有企業問題などが深刻化する中で、民衆のいらだちが高まり、報復社会と呼ぶような現象、事件が中国で目立つ。習近平政権は解決困難な問題を抱えたまま、しばらく混乱も視野に入れた運営をせざるを得ないのでは―。
5月17日、日中関係学会の総会で講演した富坂聰拓殖大学海外事情研究所教授は、民衆のさまざまな不満がネット上で飛び交い、増幅し、社会に噴き出ている具体例を次々に示し、習近平政権の今後が予断を許さない状況にあることを指摘した。
民衆のいらだちがネットを介して高まり、日本では考えられないような結果を招いている。そうした例として富坂氏が挙げた一つに、浙江省の15の市や県の環境保護局長らがそろって汚れのひどい川で泳がざるを得なくなった出来事がある。発端となったのは、川に身を投げた少女を助けた警察官が、汚れた川の水をしたたかに飲んだため入院せざるを得なくなったことだった。警察官に同情する声がネット上にあふれ、ついに環境保護の責任者たちに対する激しい怒りに変化・増幅した。「環境保護局長たちにも汚れた川で泳いでもらおう」という要求にエスカレート、とうとう環境保護局長たちが大勢の市民たちの前で泳がざるを得なくなったということだ。
氏が挙げたもう一つの例は、北京で暮らす大学卒業生たちの悲惨な生活ぶり。こちらもその画像が全国に流れ、広さ80平方メートルしかない狭い居室に25人もの人間が暮らす現実が、多くの人々の関心を呼ぶ。こうした背景に大学卒の就職内定率が30%(上海では44%)しかない事実があることを、氏は指摘した。一方、中国社会科学院が昨年11月発表した報告書によると、国営企業のホワイトカラーの平均年収は70万元(約1,200万円)に上るという現実も...。
ネット上に瞬く間に広がった画像によって、給料では到底買えない高級時計をいつも腕にはめている、あるいはネットで流されるのを恐れて外したことで、逆にいつもは高級時計をはめていることが日焼け跡から分かってしまった。そんな腐敗地方公務員たちがネット上で次々にやり玉に挙げられ、降格させられた例も幾つか紹介された。
昨年5月、北京市などの空港に「航空機に爆弾を仕掛けた」という脅迫電話が入り、航空会社5社の11便が緊急着陸や出発空港に引き返すという騒ぎが起きている。富坂氏は「この犯人は社会がにくかった、と語った。昨年6月には、厦門市で47人が死亡したバス炎上事件も起きている。民意がいらだって無視できない力になっていることを示すものだ。『報復社会』が大きな事件のキーワードになりつつある」と指摘した。
結論として富坂氏は次のように語り、習近平政権の今後が非常に難しいという見通しを示した。
報復社会の基にある環境、格差、国有企業問題などは、2002年、胡錦濤政権発足時に分かっていたこと。「このままではいずれどん詰まりになる」と改革の必要が叫ばれた。しかし、12年たっても肝心なところには何も手が付けられなかった。大学卒の就職内定率が30%でしかないという問題も、年平均700元ももらっている国有企業の人間の給与を減らして再分配すれば、相当数の大学卒が就職できる。再分配を習近平政権が思い切ってできるなら別だが、そうでないなら混乱を視野に入れた政権運営をせざるを得ないだろう。治安維持にかかる負担も膨らんで行かざるを得ない。
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