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【14-17】海外からの移住女性と共に生きる社会を 李善姫氏提言

2014年 7月23日 小岩井 忠道(中国総合研究交流センター)

 多様性・ジェンダーの視点から災害対策のありようを考える日本学術会議主催のフォーラム「減災の科学を豊かに」が、7月20日、日本学術会議で開かれた。日本人男性と結婚し海外からの移住してきた女性が東日本大震災後でどのような状況にあるかを研究している李善姫・東北大学東北アジアセンター専門研究員が報告、「異なる文化背景をもつ人たちが共に生き続けられる社会をつくることは、震災大国日本にとっても重要」と提言した。 

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 東日本大震災で最も被害が大きかった宮城、福島、岩手3県には、法務省発表によると2013年末時点で、それぞれ15,247人、9,726人、5,505人の外国人登録者がいる。これは日本国内では非常に少ない数字だ。宮城県を例にとると、東日本大震災前、県内の外国人登録者約16,000人中、1万人は仙台市内の住人だが残り6,000人は34町村に散在していた。これらのうち特に日本人男性と結婚して海外から移住してきた女性を李氏は「見えない外国人」と呼び、日本語学習の機会も与えられず、同国出身者との自助組織も形成されにくい孤立した状況に置かれている人たちが多いことを指摘した。

 1980年代後半に山形や新潟を中心に行政が結婚相手をあっせんし、日本語の学習や就労、家庭生活まで支援していた国際結婚が増えた。90年代に入ってこうした国際結婚の形態が変わってきたことを、孤立化する移住女性が増えてきた背景として、李氏は挙げている。90年代以降、あっせん業者や個々人の紹介による韓国、中国人女性との結婚が増え、東北地方の太平洋沿岸県である宮城、福島、岩手3県はこちらのケースが多い。行政による国際結婚家庭の支援策も十分でないことから、外国人である前に嫁であることを求められ、地域の人たちとの交わりも少ない人たちが増えているというわけだ。

 移住女性たちは、安定した結婚生活を一定期間送らないと永住資格が得られない。もともと不安定だった立場が東日本大震災によって職場を失うなどさらに苦境に陥るケースも多く、移住女性の中での階層化、多様化が進んだ現実があることも李氏は重視している。

 日常的に困らない日本語力があり、滞在年数も長く、地域と良好な関係を築いている「キーパーソン型」、家族関係の維持を重視しながらキーパーソン型になりたいと思っている「定着努力型」、生活の多くを配偶者に依存し、同国出身者とのネットワークが狭い「孤立型」、永住許可取得前に配偶者と死別や離婚した人によく見られる「放浪型」と4タイプに、李氏は移住女性たちを分類した。

 孤立型、放浪型の移住女性とその家族に配慮したコミュニティをつくる。キーパーソン型や、定着型の移住女性を増やし、さらにキーパーソン型の女性たちにコミュニティを引っ張るリーダー型になってもらう…。李氏はこうした取り組みの必要を提言したうえで「さまざまなタイプの移住女性が生きやすい社会は、多様な人たちからなる日本人にとっても生きやすい社会になるということだ」と強調した。

 移住者の社会参加を応援している公益財団法人宮城県国際化協会によると、東日本大震災後に宮城県内に定住している外国人約1万4,000人のうち約4割が外国からの結婚移住者。中には家庭内暴力やしゅうととの関係悪化などで離婚した後、母子家庭として手地域で生活せざるを得なくなった女性たちも少なくないという。

法務省の発表資料によると、2013年末時点で国内の在留外国人の数は約207万人。最も多いのは中国国籍の人たちで約65万人と全体の31%を占める。次いで韓国・朝鮮籍の約52万人(25%)、フィリピン約21万人(10%)、ブラジル18万人(9%)、ベトナム7万人(4%)の順となっている。また在留外国人のうち「日本人の配偶者等」は全国で約15,000人とされている。

 (注)公益財団法人宮城県国際化協会の示す数字は、法務省発表の2012年末時点の数字を基にしていると思われる。この法務省発表数字によると宮城県内の在留外国人のうち「日本人の配偶者等」は1,220人。「外国人約1万4,000人のうち約4割が結婚移住者」という宮城県国際化協会の説明と照合すると、同県内に住む外国からの結婚移住者は5,000人程度で、このうち、まだ永住資格を得てない女性が1,220人ほどいるという意味と思われる。

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