【14-28】デューク・スタンダードで世界トップレベルを目指す―昆山杜克(デューク)大学
2014年12月26日 石川 晶(中国総合研究交流センター)
2014年、上海市から程近い江蘇省昆山市に新しい大学が開学した。昆山杜克(デューク)大学である。
アメリカのノースカロライナ州ダーラムに本部を置くデューク大学、湖北省の国立武漢大学、そして昆山市政府の三者の合作による「チャイニーズ・ジョイントベンチャー」として昆山杜克大学は設立された。中国では国内の教育機関と海外の教育機関が協力して大学等を運営する「中外共同運営機関・プロジェクト」を近年は一段と積極的に推進しているが、昆山杜克大学もその一例である。
筆者は開学間もないこの大学を取材した。上海虹橋駅から高速鉄道に乗り、一駅目の昆山南駅で下車。昆山南駅から大学キャンパスまでは車で30分ほどで到着した。
写真1 昆山南駅。上海虹橋駅からの所要時間は17分ほど。
そのキャンパスの印象は、中国の従来の大学とはイメージが異なり、近未来的な建物が立ち並んでいた。建物を含むキャンパス全体のデザインもアメリカのデューク大学の関連企業によるものであるという。その一方、周辺の開発はこれからのようで、空き地が非常に多かった。ちなみにキャンパスの土地はすべて昆山市からの提供によるものである。
写真2 空き地が目立つ昆山杜克大学周辺。右奥は大学のアカデミックビルディング。
大学の二期工事が進むと、このような景観も激変するという。
大学に到着すると、李慧教授(校長助理)らがカンファレンスセンターで取材に応じてくれた。まだアカデミックビルディングの内装工事などが終わっておらず、暫くはホテルのような事務作業には向いていないカンファレンスセンターで業務をこなさなければならないとのことであった。
昆山杜克大学のカンファレンスセンターは、アメリカのデューク大学からの関係者や国際学術会議などで海外から訪れた研究者らが宿泊できる部屋を多数備えている。それらの部屋はまさに欧米の高級ホテル並みのクオリティを誇るものであった。このような施設が必要なのは、海外から大学関係者、研究者の往来が頻繁であるためだという。
写真3 カンファレンスセンター外観
写真4 カンファレンスセンター内部
開学初年は医学物理学専攻、グローバル健康理学専攻、経営学(管理学)専攻の3つの専攻を設置している。いずれも2014年度は碩士課程(日本の修士・博士前期課程に相当)の募集のみであったが、2015年度には、上記専攻の本科生(学部生)、博士課程、また人文科学、物理・自然科学、社会科学等の学科、専攻も設置する予定となっている。
中でもグローバル健康理学専攻は、設置している大学がこれまでのところ多くなくい。この研究分野はアメリカで提唱された、全人類の健康増進、健康の公平性を実現することを目的とする医学、公共衛生学、生物学、法学、公共政策学など複合的な要素をもち、バックボーンを異にする研究者の英知を集め、全人類が抱える困難な問題の解決に立ち向かうという。
このほか、環境管理・エネルギー政策研究センターの設立も準備が急ピッチで進められている。昆山杜克大学での環境・エネルギー政策の研究は、世界そして中国の社会経済の発展から、また中国長三角(長江デルタ地域)の発展により環境・エネルギー問題が顕在化したために強く要望され、アメリカでの研究の蓄積を長江デルタ地域に位置する昆山杜克大学を通じてその成果を実装するねらいもある。
写真5 大学キャンパス内
李教授によると、デューク大学と同様に学生はまずリベラルアーツから学習をはじめ、例えば専攻に関係なくギリシャ哲学なども研究するという。このような基礎教養を重視している点が、従来型の中国の大学と異なるといえよう。
写真6 アカデミックビルディング
現在の学生数は約120人で、そのうちの40%超が海外からの学生で、非常に国際色が豊かな人員構成となっている。海外からの学生のほとんどはアメリカのデューク大学からの学生で、出身地域別ではインド、アフリカ各国が多いとのことである。
入試制度もデューク大学と同様の基準が設けられ、特に英語能力の要求水準はTOEFLスコアで最低90ポイント、もしくはIELTSスコアで7.0ポイント以上に設定されている。なお中国の大学入試「高考」の得点は全く関係ないという。
昆山杜克大学の学生は、課程修了後、デューク大学に進学することを目標とするケースがひとつのモデルとなって確立している。中国国内ではアメリカをはじめとする海外の大学への進学やアカデミックポストを目指すトップクラスの学生・研究者は多いが、そのニーズも汲み取っているといえよう。
教員はその9割がデューク大学から派遣されている。また新規採用の教員についても、デューク大学の基準と全く同じ基準をクリアすることが要求されている。
数多くの優秀な人材を輩出したアメリカのデューク大学同様、昆山杜克大学も「デューク・スタンダード」で世界トップクラスの大学を目指していると李教授が熱く語っていたことが最も印象的であった。