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【15-03】改革怠れば危機浮上も 柯隆氏が中国経済見通し

2015年 1月23日 小岩井 忠道(中国総合研究交流センター)

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 中国の経済状況に詳しい柯隆富士通総研主席研究員が1月19日、日本記者クラブ主催の研究会で中国の経済見通しについて講演、「中国経済は習近平政権がここ4、5年できちんとした政治・経 済改革ができれば持続可能な成長は可能だが、改革を怠れば危機が浮上する」との見方を示した。

 柯氏は、リコノミクスと呼ばれた李克強首相主導の経済政策がこの2年間で「完全に失敗した」と厳しい評価を下した。李首相が意図したのは、拙速な金融緩和をせずに、輸出・投 資に依存する経済から消費に依存する経済に転換すること。さらに深刻な環境汚染を引き起こしてきた産業を廃しエコな産業へ転換し、国有企業は民営化する、というものだった。しかし、こ うした構造転換ができなかった、と氏は断じている。

 最近、代わりに言われ出した「新常態」という掛け声に対しても、「経済減速もやむなし」と言うと否定的な印象を与え、国民の反発を招くことを恐れての造語としている。結局、今年は金融緩和策を進め、3 年ほどは7%前後の経済成長率を維持できるのではないか、との見方を示した。一方、柯氏自身が続けている中国の幹線道路のコンテナ通過量を実際に調べるという定点観測結果などから判断すると、実 際の経済成長率は6%前後とみられる、とも語った。公的には7.4%とされた昨年の成長率について、昨年11月に米国で開かれたあるシンポジウムでは、実際は5%程度、というのが参加者たちの共通認識だった、と いう事実も紹介した。

 政治改革が行われなかった結果による影響の深刻さも氏は、指導層の腐敗横行と格差拡大の実態を示すことで説明している。改革開放政策で35年間経済成長に取り組んできたものの、所得分配の枠組み、制 度づくりは成されなかった。この結果、共産党高級幹部、国有企業経営者、民間企業オーナーという全人口の3%にすぎない勝ち組が富の75%を支配しているのが現実だ、としている。

 柯氏は現在の中国の姿を一部の特権階級が優遇される「半封建社会」と呼び、習国家主席が政治の面においては個人崇拝が顕著だった毛沢東時代の復活を考え、経済面では資本主義を引き続き目指し、社 会的には民族主義とナショナリズムの高揚という互いに相反するベクトル(進路)を掲げて国を統治し、中華民族の復興を図ろうとしている、と見ている。

 柯氏によると、中国国内で2013年に1,000万円級の乗用車が125万台売れ、世界で売れた2,000~3,000万円の高級車8,000台のうち2,600台は中国人が購入した。所 得分配の不平等差を示す指標として使われるジニ係数では、0.4を超えると社会が大混乱する危険が高まるとされるが、中国は0.475に上る。こうした現実を挙げ、農 民一揆によって政権交代が繰り返されてきた中国の歴史を思い起こせば、最底辺の農民層のボトムアップと都市部住民を中所得層にする所得再分配ができないと、暴動や大規模デモなどが大変な事態が起きるだろう、と 氏は警告している。

 金融緩和の方向に向いていることで、「住宅バブル崩壊は遠のいた」との見通しを示したが、一方で住宅価格が勤労者家族の平均年収の20倍に達しているという数字を挙げて「既にバブルの状態にある」と 明言した。新築住宅のうちでマイホームとして購入された実需に相当するのは60%程度しかなく、残りは投資・投機目的というデータも示し、この背景に「貯蓄より収益を重んじる」中国人の国民性に加え、日 本と異なり賃貸住宅市場がほとんどない中国特有の現実があることも指摘している。

 金融情勢の変化に対し最も危ういのが地方政府によってつくられた投資会社で、銀行から借りた金の一部を不動産投資に向けていることが金融危機の発火点になる可能性も示した。


YouTube動画サイト  日本記者クラブ主催研究会・柯 隆富士通総研主席研究員「中国の経済も通し」