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【15-17】中国経済は「減速」であって「失速」はない-瀬口清之氏が強調

2015年 9月14日 信太 謙三(中国総合研究交流センター)

 日本の経済専門家、瀬口清之氏(キヤノングローバル戦略研究所)は2015年9月8日、東京都千代田区の一橋大学学術総合センター講堂で「中国経済:減速と失速の違い~転機にさしかかる日米中関係~」と題して講演し、「中国経済は2012年以降、安定した状態を保持しながら穏やかに減速しており、失速する可能性はほとんどない」との見解を表明した。

 瀬口氏はこの中で中国当局が繰り返し表明している経済の「新常態(ニューノマル)」について、「速すぎた成長速度の適正化」と「不健全な経済構造の筋肉質化」であると指摘。今年の経済成長目標である「7%前後」についても十分達成可能であるとし、「失速して5%になるようなことはほとんどない」と断言。「2016から2020年(の経済成長率)は6.0~6.5%で推移するだろう」との考えを示した。

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 また、中国経済の先行き不安の要因のひとつとされる輸出の減少について、瀬口氏は「輸出の伸び率鈍化傾向は下げ止まっている」と指摘。輸入の減少については「数量は反転しており、輸入の落ち込みは価格の下落が原因である」と強調した。さらに、同氏は「不動産価格は昨年秋以降、穏やかな回復傾向をみせている」とし、消費者物価は2012年以来、(2%前後で)安定的に推移していることや政府に財政出動の余地が十分にあることを挙げ、中国経済が「失速」状態に陥ることはほとんどないと語った。

 ただ、瀬口氏はその一方で、中国経済の問題点にも言及。株価暴落時の当局による市場介入などに触れ、「市場との対話に不慣れで、『市場はコントロール可能』という従来型発想から脱却できていない」と指摘。国有企業改革が遅れている現状や反腐敗キャンペーンの影響で役人の意欲が低下している中国の現状を紹介した。

 このほか瀬口氏は日米中関係に関連し、「米国の覇権国としての地位は相対的に低下する」と語り、「日本は日米同盟を堅持しつつ、経済面では中国を中心とするアジアの連携強化により、日本経済の回復を目指すべきだ」と訴えた。

瀬口 清之

瀬口 清之:キヤノングローバル戦略研究所研究主幹/
アジアブリッジ(株)代表取締役

略歴

1982年東京大学経済学部卒業後、日本銀行入行。1991年4月より在中国日本国大使館経済部書記官、帰国後1995年6月より約9年間、経済界渉外を担当、2004年9月、米国ランド研究所にてInternational Visiting Fellowとして日米中3国間の政治・外交・経済関係について研究。2006年3月より北京事務所長。2009年3月末日本銀行退職後、同年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹、杉並師範館塾長補佐(2011年3月閉塾)。2010年11月、アジアブリッジ(株)を設立。