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【16-17】総数で中国、上位は日韓両国が独占 アジアの革新的大学ランキング

2016年 9月 5日 小岩井 忠道(中国総合研究交流センター)

 国際通信社「ロイター」が8月31日、アジアで最もイノベーティブな大学として上位75大学のランキングを発表した。上位20位内に日本の9大学、韓国の8大学が並び、両国でほぼ上位を独占している。一 方、総数では、中国が22大学と日韓両国(それぞれ20大学)を上回る結果となった。

 ランキングは、国際情報サービス企業「トムソン・ロイター」の学術文献引用データベースや特許引用データベースなどを基に、科学の進歩、新技術の発明、グローバル経済の推進に貢献した度合いを分析し、順 位付けしている。毎年、さまざまな機関から発表されている大学ランキングと比べると評価軸が異なっているため、近年、被引用率が高い論文数が急激に伸び、各 種大学ランキングで上位に評価されている中国の大学が日韓の大学に比べ低位にランクされているのが目を引く。

 トップに評価されたのは、韓国のKAIST(韓国科学技術院)で、2位に東京大学が入った。続いてソウル大学、大阪大学、浦項工科大学、東北大学、京都大学、成均館大学、延世大学、慶應義塾大学と、1 0位まで全て韓国と日本の大学。20位内を見ても、日韓以外の大学では、11位にシンガポール国立大学、13位に清華大学、16位に北京大学の3大学が入っただけとなっている。

表1 アジアで最もイノベーティブな大学ランキング(上位75大学)
(トムソン・ロイタープレスリリースから)
http://ip-science.thomsonreuters.jp/ssr/news/20160831/
順位 学校名 国名
1 韓国科学技術院(KAIST) 韓国
2 東京大学 日本
3 ソウル大学校 韓国
4 大阪大学 日本
5 浦項工科大学校(POSTECH) 韓国
6 東北大学 日本
7 京都大学 日本
8 成均館大学校 韓国
9 延世大学校 韓国
10 慶應義塾大学 日本
11 シンガポール国立大学 シンガポール
12 東京工業大学 日本
13 清華大学 中国
14 高麗大学校 韓国
15 漢陽大学校 韓国
16 北京大学 中国
17 光州科学技術院 韓国
18 九州大学 日本
19 名古屋大学 日本
20 北海道大学 日本
21 香港中文大学 中国
22 亜洲大学校 韓国
23 浙江大学 中国
24 上海交通大学 中国
25 慶熙大学校 韓国
26 広島大学 日本
27 オークランド大学 ニュージーランド
28 シドニー大学 オーストラリア
29 筑波大学 日本
30 香港科技大学 中国
31 東京医科歯科大学 日本
32 モナシュ大学 オーストラリア
33 クイーンズランド大学 オーストラリア
34 メルボルン大学 オーストラリア
35 南洋理工大学 シンガポール
36 復旦大学 中国
37 全南大学校 韓国
38 岡山大学 日本
39 信州大学 日本
40 熊本大学 日本
41 天津大学 中国
42 金沢大学 日本
43 梨花女子大学校 韓国
44 仁荷大学校 韓国
45 華東理工大学 中国
46 千葉大学 日本
47 北京化工大学 中国
48 早稲田大学 日本
49 華南理工大学 中国
50 慶北大学校 韓国
51 全北大学校 韓国
52 ニューサウスウェールズ大学 オーストラリア
53 カトリック大学校 韓国
54 釜山大学校 韓国
55 南京大学 中国
56 香港大学 中国
57 華中科技大学 中国
58 東南大学-中国 中国
59 建国大学校 韓国
60 神戸大学 日本
61 大連理工大学 中国
62 南開大学 中国
63 ハルビン工業大学 中国
64 西安交通大学 中国
65 中央大学校 韓国
66 香港理工大学 中国
67 四川大学 中国
68 中山大学 中国
69 慶尚大学校 韓国
70 日本大学 日本
71 インド工科大学(IIT) インド
72 インド理科大学院(IISC)-バンガロール インド
73 マレーシア プトラ大学 マレーシア
74 南オーストラリア大学 オーストラリア
75 マラヤ大学 マレーシア

 近年、中国の研究者による論文数、高被引用論文数の伸びが、著しい。科学技術振興機構が国際的出版社エルゼビアの抄録・引用文献データベースScopus(スコーパス)を基に集計した表によると、被 引用回数が上位10%に入る論文数の国別比較で中国は、27研究分野中5分野で世界一になった(対象は2010~15年に出版された論文)。残りの分野は全て米国が1位なので、被 引用論文数の比較で日本は中国に追い越されてしまっている。

 東京で行われた発表記者会見では、日本、韓国、中国、ニュージーランドの大学などでイノベーション推進活動に関わる人たちによるパネルディスカッションが行われた。韓 国大学ランキングフォーラム議長の徐義鎬 浦項工科大学教授は、「後追いではなく、ファーストムーバー(先発者優位)を先導する大学をつくろうと産学連携に力を入れてきた結果」と、韓 国の大学が日本とともに上位を独占した理由を説明した。

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写真1 パネルディスカッションの様子

 浙江大学 科学技術教育政策研究所長の魏江教授は、「中国の大学は上位75大学の30%を占めている」と、ランキング結果に満足の意を表明する一方、「大学から企業への技術移転の仕組みができてなく、ま だまだ不十分」であることを、上位20位内に中国の大学が少ない理由として認めた。同時に、自身の浙江大学に関しては、研究資金の85%を政府に頼っている清華大学などと異なり、企 業からの資金提供が多い現状を紹介し、産学連携に力を入れていることを強調した。十分ある資金を企業がどうイノベーション創出に活用するか、技術主導に企業が変わることが、中国で今求められていることだ、と の考えを示した。

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写真2 パネルディスカッションで発言する魏江氏(中央)と、徐義鎬氏(右)、有本建男氏(左)

 日本の大学は、国際性(外国人教員、外国人学生の比率)や高被引用論文数で見劣りし、このところシンガポール国立大学、北京大学清華大学など他のアジア各国の大学の高い評価が目立つ。昨年、発 表された英国の教育誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション」でも、前年まで上位にランクされていた大学が軒並み順位を下げた。有本建男政策研究大学院大学教授・科 学技術振興機構研究開発戦略センター上席フェローは、「日本の特に上位の研究大学は、改革を進め、戦略の練り直しをしている最中。しかし、まだ大学内で意見が一致していない。議論を進めるには、大 学評価のような裏付けが必要だ。今回のように多様な指標が提供されるのはありがたい」と、イノベーションを重視する大学評価が発表された意義を認めた。