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【17-05】中国上昇、日本は下降 英教育誌アジア大学ランキング

2017年 3月21日  小岩井忠道(中国総合研究交流センター)

 英国の教育誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション」は3月15日、中東を含むアジア地区の大学ランキングを発表した。昨年同様、1位はシンガポール国立大学、2位は北京大学で、3位に5位から順位を上げた清華大学が続く。2年前までアジア地区1位だった東京大学は昨年に続き7位。中国の大学が年々、評価が高くなっているのと対照的に日本の大学の大半が昨年より順位を落としているのが目を引く。

「アジア大学ランキング2017」トップ30
(タイムズ・ハイヤー・エデュケーション「Asia University Rankings 2017」から作成)
アジア
順位
前年
順位
前々年
順位
大学名 国・地域
1 1 2 シンガポール国立大学 シンガポール
2 2 4 北京大学 中国
3 5 5 清華大学 中国
4 2 10 南洋理工大学 シンガポール
5 4 3 香港大学 香港
6 6 7 香港科技大学 香港
7 7 1 東京大学 日本
8 10 8 KAIST 韓国
9 9 6 ソウル大学 韓国
10 8 11 浦項工科大学 韓国
11 13 13 香港中文大学 香港
12 16 23 香港城市大学 香港
13 12 16 成均館大学 韓国
14 11 9 京都大学 日本
15 14 26 中国科学技術大学 中国
16 19 24 復旦大学 中国
17 22 29 香港理工大学 香港
18 32 39 上海交通大学 中国
19 25 46 浙江大学 中国
20 17 26 高麗大学 韓国
21 17 25 エルサレム・ヘブライ大学 イスラエル
22 20 22 テルアビブ大学 イスラエル
23 26 キング・アブドゥルアズィーズ大学 サウジアラビア
24 15 17 国立台湾大学 台湾
25 29 35 南京大学 中国
26 23 19 東北大学 日本
27 27 37 インド理科大学院 インド
27 21 47 コチ大学 トルコ
29 37 28 延世大学 韓国
30 24 15 東京工業大学 日本

 タイムズ・ハイヤー・エデュケーションのランキングは、論文がどれくらい他の研究者の論文に引用されているかと、研究、教育の質に重きを置き、さらに国際性(外国人教員・学生比率)、教員1人当たりの産学連携による企業からの収入も評価対象に加えて、順位付けしている。2年前の「アジア大学ランキング2015」では、トップの東京大学をはじめ日本の5大学が上位20位内に入っていた。しかし、中国の大学の躍進は、その時点から顕著になっている。4位と5位に北京大学清華大学が入り、上位100位内の大学数を比べると、中国が21と日本の19を上回った。既に「アジア大学ランキング2015」で同誌は、日本の大学がアジアトップの座を発展が目覚しい中国に明け渡したことを注目点に挙げていた。

 この傾向は、昨年の「アジア大学ランキング2016」でさらに顕著になっている。東京大学が前年の1位から7位に急落したほか、9位の京都大学が11位、15位の東京工業大学が24位、18位の大阪大学が30位、19位の東北大学が23位と、上位20位内だった5大学すべてが順位を下げた。今年の「アジア大学ランキング2017」でもこの流れは変わらない。東京大学は辛くも同じ7位を保ったが、京都大学は11位から14位、東北大学は23位から26位、東京工業大学は24位から30位、大阪大学は30位から32位と上位5大学はいずれも2年連続で順位を下げた。

 これに対し、中国の上位大学は、北京大学が昨年4位から2位に上げた順位を今年も維持し、一昨年、昨年とも5位だった清華大学が3位に浮上した。さらに、2年前まで20位以下だった各大学もこの2年で順位を上げているのが目を引く。一昨年の26位から昨年14位に上がった中国科学技術大学は、15位と順位を一つ下げた。しかし、復旦大学が一昨年24位から昨年19位、さらに今年は16位へと着実に上昇、上海交通大学も39位から32位さらに18位に、南京大学も35位から29位、さらに25位と、いずれも2年続けて順位を上げた。上位30位内の大学数で比較しても、日本がこの2年間で、5から4に減ってしまっているのに対し、中国は4から6、さらに7へと年々、数を増やしている。

「アジア大学ランキング2017」31~50位の日本、中国・香港・マカオ・台湾大学
(タイムズ・ハイヤー・エデュケーション「Asia University Rankings2017」から作成)
アジア
順位
前年
順位
前々年
順位
大学名 国・地域
32 30 18 大阪大学 日本
33 35 34 国立清華大学 台湾
35 34 32 名古屋大学 日本
39 31 36 国立交通大学 台湾
40 豊田工業大学 日本
41 28 52 国立台湾科技大学 台湾
43 50 40 マカオ大学 マカオ
45 48 58 九州大学 日本
47 40 47 中山大学 中国
47 41 49 国立成功大学 台湾
49 44 45 香港浸会大学 香港
49 55 49 武漢大学 中国

 上位100位内になると、差はもっとはっきりする。2年前に21と大学数で既に日本を追い抜いた中国は、昨年は22、今年は24と着実に数を増やしている。他方、日本は2年前の19から昨年14、今年12と減少が止まらない。日本側の明るい結果は、昨年まで上位200位内に入っていなかった豊田工業大学が40位にランクされたことくらいだ。豊田工業大学は、トヨタ自動車が社会貢献活動として1981年に創立した新しい大学である。

  昨年から始まった日本の大学の評価低落の理由は何か。論文の被引用数の激減が、全体の評価急落の大きな理由、と豊田長康 鈴鹿医療科学大学学長は指摘していた。背景に公的研究資金の削減が続いたことや特定の研究に研究助成金が集中する近年の傾向があることを挙げ、論文数減少に影響した、とも。確かに2年前に、アジアトップの位置にあった東京大学の論文被引用度の評価点数は、当時ランキング2位で、昨年からトップになったシンガポール国立大学や、現在、順位が上の北京大学清華大学より高かった。しかし、昨年急落し、今年の評価でやや持ち直したもののこれら3大学には及ばない。東京大学に続く京都大学、東北大学、東京工業大学、大阪大学の上位大学は、2年前の時点で既に論文被引用度の評価点数が、シンガポール国立大学、北京大学清華大学より悪く、その後も、さらに低くなるかほとんど変わらない評価となっている。

  「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション」の評価では、論文被引用度に次いで研究と教育の質に重きが置かれている。具体的には、研究者による評価に加えて教員当たりの論文数や研究費収入が評価対象だ。この数年、財政難に起因する研究費抑制が大学の研究、教育の質低下を招いているという大学関係者の危機感が強まっている。アジア大学ランキングで上位にランクされている大学を含む国内11の主要大学の総長、学長で構成する「学術研究懇談会(RU11)」は、既に2015年11月に公表した提言で、基盤的研究費、科学研究費補助金(科研費)、競争的研究費における間接経費の充実を訴えていた。

  提言が充実を求めた基盤的研究費とは、国立大学運営費交付金と私学助成を指す。国立大学運営費交付金は、毎年減額が続いた結果、2015年度は11年前に比べ13.4%も減り、私立大学の経常費補助金における補助割合も1980年度の29.5%をピークに減り続け、2015年度は10.1%にとどまる。提言はこうした数字を挙げて、「研究を支える大学の財政基盤が年々縮小し続ける状況が続くと、将来にわたってノーベル賞を生み出し続ける状況を維持できるか、強い危惧を抱かざるを得ない」と強い懸念を示していた。

  この状況は、現在でも大きな変化はない。昨年10月31日、全国34の国立大の理学部長らで構成される「国立大学法人理学部長会議」が、「未来への投資」と題する声明を出した。声明は、科学・技術の基盤で国力のもとである基礎科学なしに、人類への貢献も独自の産業創出もおぼつかないと主張し、基礎研究の推進の基になる運営費交付金削減をやめるよう訴えている。

  「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション」の大学ランキングで、日本の大学の順位が下がった理由に、昨年から論文被引用度などの評価法が、トムソン・ロイターの論文データベースからエルゼビアの論文データベースを基にした手法に変わったことを指摘する声もある。確かに研究者が多い分野と少ない分野の論文被引用数をどう補正するかなど、論文にかかわる評価は単純、一様ではない。日本の大学に不利になった可能性は否定できないが、逆に変更になる前は日本の大学に有利だった可能性もある。論文データベースの変更だけに日本の大学の順位低落の原因を帰すことはできない、ということではないか。

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