【17-34】中国の影響力増大 IEA世界エネルギー展望公表
2017年12月28日 小岩井忠道(中国総合研究交流センター)
中国のエネルギー政策変更が世界のエネルギー動向を大きく変える、とする報告書を国際エネルギー機関(IEA)がまとめ、公表した。報告書は、世界のクリーンエネルギー化移行を早めるなど、中国の影響力が増大していることを大きな変化の一つに挙げている。
IEAは毎年、世界のエネルギー動向を見通した「世界エネルギー展望(ワールド・エネルギー・アウトルック)」を公表している。12月14日、ティム・グールドIEAエネルギー供給見通し担当部長が来日、日本人記者向けに今年の報告書の内容を詳しく説明した。報告書は、各国が公表しているエネルギー政策に沿った場合のエネルギー需要や消費の見通しを「新政策シナリオ」として分析し、2040年までにどのような変化が生じるかを示している。
グールドIEAエネルギー供給見通し担当部長(OECD東京センターで)
グールド部長が、大きな変化としてまず指摘したことは、「中国は2040年までにエネルギー成長の主たるドライバー(けん引役)ではなくなる」という展望。2016年~2040年間に世界のエネルギー需要がどう変わるかを表す地図を示し、中国のエネルギー需要の増加が鈍化し、インドがけん引役として取って代わる見通しを明らかにした。2040年までの今後25年間で、インドのエネルギー需要は原油換算で10億500万トン。中国はインドに次いで多いものの7億9,000万トンにとどまる。
(「World Energy Outlook 2017」から=OECD東京センター提供)
燃料別に見た世界のエネルギー需要の変化を示したグラフでも、2040年までに中国が果たす役割の大きさが明快に示された。1990~2016年間に世界全体で20億トンに上った石炭需要は、2016~2040年間では5億トン余りと4分の1に激減する。中国が大量に使わなくなるためだ。1990~2016年間に世界全体で1日当たり2,700万バレルだった原油の需要も約3分の1に減る。これも中国の需要が大幅に減るとの見通しが影響しているのが分かる。反対に天然ガスや、再生可能エネルギーの需要は伸び、こちらも中国の需要増が大きな割合を占めている。
(「World Energy Outlook 2017」から=OECD東京センター提供)
「中国の石炭需要は2013年をピークに頭を打った。2016年に世界で生産された太陽光パネルの半分は中国。その他、風力、原子力、バッテリー技術など低炭素技術への投資で中国は世界を先導している」。「石炭の需要減も低炭素エネルギーの需要増も中国の燃料シフトが大きな影響力を持つ」。グールド部長は、中国の新たな経済モデルとクリーンなエネルギー構成への転換が、世界でも同様な動きを推し進めるとの見通しを、このように説明した。
新政策シナリオでは、世界経済が2040年までに年平均3.4%成長し、人口が現在の74億人から90億人を超えるとの予測が前提となっている。世界全体のエネルギー需要は、2040年までに現在より30%増えるとされた。伸び方はこれまでより鈍化する。しかし、中国の大きな変化がなければ、この程度の需要増ではすまないということが、以下の数字からもうかがえる。
中国はエネルギー需要の伸びが2000~2012年間に年平均8%あった。しかし、2012年以降は2%未満に低下、さらにこの後2040年までは年1%に鈍化するとみられる。需要鈍化の主な要因とされているのは、エネルギー効率化を狙う規制だ。また、2040年までの世界の新規風力発電、太陽光発電設備の3分の1が中国で導入され、電気自動車への投資額は世界全体の40%を占める。毎年200万人もの早期死亡者をもたらしているといわれる大気汚染の主要な原因とされる石炭の使用量は、2013年をピークに2040年までに15%減少する。さらに乗用車とトラックに対する厳格な燃費対策と、自動車の4台に1台が2040年までに電気自動車になるという変化を考慮すると、もはや中国は世界の石油消費の主要なけん引者ではなくなる、との見通しが示された。
石炭、石油に代わり再生可能エネルギーが主役になる変化については次のような数字が挙げられている。再生可能エネルギーは、世界全体の発電所向け投資額のうち3分の2を占め、多くの国で新規の電源の中で最も低コストの電源となっている。太陽光発電は中国とインドを中心に急速に普及し、2040年までに低炭素発電で最大の供給源になる。再生可能エネルギー全体では、2040年までに総発電量の40%に達する。欧州連合(EU)ではすでに新規発電容量のうちの80%を占めるまでになっているが、風力発電が陸上、海上ともに大幅増となるため、2030年すぎから全体としても再生可能エネルギーが主要な電源になる。
中国の石炭、石油依存からの転換を可能にするのは、再生可能エネルギーとともに天然ガスの需要増だ。石炭、石油に比べ温暖化の主原因になる二酸化炭素(CO2)の排出量が少ない天然ガスの需要増を可能にしたのは、米国が開発したシェールガスだ。2020年半ばまでに米国は世界最大の液化天然ガス(LNG)輸出国になり、シェールガス同様、頁岩層から採取されるタイトオイルにより、その数年後には米国は石油の純輸出国になる、との見通しも、IEA報告はもう一つの大きな変化としている。
中国と米国のこうした変化に加え、「クリーンエネルギー技術の急速な普及とコストの低下」と「エネルギーの電化の進展」も大きな変化とされた。「電化の進展」に関しては、冷房、産業用モーターシステム、端末機器用などの需要が増えるのに加え、現在、200万台しかない電気自動車も2040年には2億8,000万台に増え、電力需要を押し上げる。こうした需要に対応し、電力消費は2040年までにエネルギー最終消費の増加分のうちの40%を占めるようになる。中国だけで、2040年までに現在の米国の発電容量に匹敵する新規発電容量を増やす必要があり、インドは現在のEUの発電規模に匹敵する発電容量の増強が必要になる、とされた。
説明の最後にグールド部長は、これまでと異なるエネルギーモデルを早期に展開しようとしている中国の影響が大きくなる可能性を重ねて指摘し、中国の動向にこれまでと違った視点で関心を持ち続ける必要を強調した。
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