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【25-27】SSFSSR法による中国食料自給率の測定(第2回)
中国研究者による中国食料自給率の方法と計算結果

2025年11月27日

高橋五郎

高橋五郎: 愛知大学名誉教授(農学博士)

略歴

愛知大学国際中国学研究センターフェロー
中国経済経営学会前会長
研究領域 中国農業問題全般

はじめに

 食料自給を国家の主要な目標の一つとして堅持する中国では、食料の輸入増加が続く現状に対して、非常に敏感な雰囲気が漂っている。にもかかわらず、あるいはそうであるがゆえにか、政府はいまだかつて、食料全体の自給率を計算して公表したこともなければ、国家としてこれに取り組もうとの姿勢を見せたこともない。

 そうした中、中国の学界では食料自給率を計測するための独自の方法論を探る研究が出現しつつある。今回は、それらの中から方法論として一定のレベルにあるとして、期刊雑誌に掲載された6つのケースを取り上げ、中国の食料自給率をどのように導き出しているか紹介したい。

 また、今回の紹介作業を受けて次号では、これら6つのケースについて、その有効性を基準とする筆者なりのコメントを加えることとしたい。

1.中国における食料自給率の方法論の現状

 最初に、中国における食料自給率の方法論の現状についてであるが、内容的に典型的なケースといえる下記6氏の方法を取り上げよう。

 なお、ここで取り上げる6氏の方法は、CNKI(中国知網国際版)の文献データベースから、「糧食自給率」「食物自給率」[i]を中心的な検索ワードとして抽出し、内容を読んだ上で選んだものである。

 以下では、方法面で比較的単純なものから、やや解りにくいものを順に解説していく。

(1)曽福生氏の方法論

 曽福生氏(湖南農業大学経済学院教授・博士指導師[ii]、肩書が明記されている場合は論文刊行日時点のもの、以下同じ)ほか1名は、地域を農産物の供給と需要の面から、全国のほか、6つ[iii]に分けた地域について、それぞれの食料自給率の計測を試みている。

 ここで取り上げた論文は「中国区域糧食[iv]自給率測算与分析」(『農業経済論与管理』2017.1)である。この論文の形式は、(1)食料自給率の方法論を確定し、(2)それを用いて、地域ごとの食料自給率を計測する、というものである。

1)対象とする食料品目

 研究者により、対象とする食料品目が異なっているが、曽福生氏は「コメ」、「小麦」、「トウモロコシ」という中国の主要穀物3種を取り上げている。

2)計測の方法(計算式)

 計測の方法も研究者により区々だが、曽福生氏の場合は、最も一般的かつ単純な方法、対象品目の国産量×100/消費量(%)としている。

 なお筆者の認識では、中国は食料の消費量を統計的に公表していない現状にある。

3)対象品目の単位

 計測する品目の単位を何にするかは、非常に重要な意味を持っている。その取り方によっては、計算式と、結局は食料自給率の実効性に影響を与えかねない。曽福生氏の場合は、単位は重量である。

4)計測に使ったデータ

 食料自給率の計測方法にもよるが、どこから、どんなデータを使用するかという点は大変に重要である。曽福生氏の場合、文献は「中国統計年鑑」、「中国農業統計年鑑」、各省「統計年鑑及びその他関係統計年鑑」、消費量は上掲の「年鑑データから算出したデータ」とある。しかしこれらは諸統計をまとめた出版物の名称にすぎず、さらに具体的なデータ説明が必要とされるのが普通である。

5)計測された食料自給率(2014年、%)

 ここで示された数値がグラフ表示であるため、以下の数字は必ずしも正確ではない可能性があることをお断りしておく。

 「コメ」:全国250、華北30、東北550、華東300、中南280、西南120、西北80

 「小麦」:全国200、華北120、東北20、華東280、中南400、西南130、西北120

 「トウモロコシ」:全国200、華北800、東北1600、華東220、中南100、西南200、西北600

(2)辛超麗氏の方法論

 辛超麗氏(貴州商学院教授)も食料主産地と消費地ごとに、複数の地域(省・自治区・都市)に分けて、食料自給率の計測方法、計測結果、食料自給率に影響する要因を述べている。

 ここで取り合上げたのは「農業"三項"補填改革対糧食自給率的影響研究」(『東岳論叢』2024.8)である。

1)対象とする食料品目

 辛氏が取り上げた品目は「糧食」だが、具体的な穀物種類は説明されていない。中国では一般的だが、「糧食」に「薯類」が含まれているかどうかは不明である。

2)計測の方法(計算式)

 計測方法は国産量×100/需要量(%)、曽福生氏の場合と基本的に同じである。

3)対象品目の単位

 これもデータの詳細が不明なので正確ではないが、文脈からは重量だと思われる。

4)計測に使ったデータ

 一切の説明がないので確証はないが、計測の方法から判断すると、主要なデータは「中国統計年鑑」等ではないかと思われる。

5)計測された食料自給率(2021年、%)

 「糧食主産地域」(13省・自治区):黒竜江671、河北137、吉林453、河南176、安徽178、山東144、四川114、内モンゴル426(以下略)

 「糧食需給均衡地域」(11省・自治区):山西109、貴州76、雲南110、陝西86、新疆179(以下略)

 「糧食主要消費地域」(7市):北京5、天津49、上海10、広東27(以下略)

(3)周徳氏の方法論

 周徳氏(南京農業大学中国糧食安全研究センター)ほか2名は、計測対象品目の栄養成分(炭水化物、タンパク質、脂肪、カロリーの4種)を用いた食料自給率の計測を試みた。

 この方法は世界的に特に珍しいものではないが、中国に限定すると例外に等しい。ここで取り上げたのは周氏(論文筆頭者)ほか2名による「大食物観下基于栄養平衡的食物自給率測算与食物安全保障策略」(『農業経済問題』2024.10)である。

1)対象とする食料品目

 計測の対象品目は「穀類」(種類は不明)、「豆類」、「肉類」(「牛肉」、「羊肉」、「豚肉」、「禽肉」、「その他」)、「乳類」(種類は不明)、「卵類」(種類は不明)、「蔬菜」(種類は不明)、「油脂」(種類は不明)である。

2)計測の方法(計算式)

 周氏は3つの「自給率」について述べている。㋐「実際自給率」(通常の食料自給率)、㋑「栄養成分自給率」。

 ㋐・㋑の計算式は、対象品目ごとの重量に当該品目に含まれる栄養成分量で計った「国産―輸出」を同じく「国産+輸入―輸出±在庫」で割って100を乗じたもの。つまり当期供給で当期供給に見合う国産を割って100を乗じたもの、である。食料自給率計算の基本的な方法としては、上掲2氏の方法と変わるものではない。

 周氏には、ほかに㋒「栄養摂取満足度」という指標も述べている。この方法も国際的には比較的よく見られる方法で、摂取すべき栄養成分をどれくらい充足しているかをパーセントで計るものである。

 たとえば、すべての食料品目合計の摂取すべき1人1日当り平均を2300カロリーとする場合、これに対して、中国人平均の摂取カロリーが2000とすれば、2000/2300の87%をカロリー摂取満足度として、その水準の良し悪しを評価するものである。しかし、「食料自給率」を計る指標としては参考程度とされることが一般的で、世界の学界では、これをもって「食料自給率」そのものとはされていない。多くの場合は、食料安全保障の範疇で使われている。

 また周氏の場合、穀物、大豆、肉類など7つの食料について、個別品目ごとの「満足度」を計測している点で特徴がある。

3)対象品目の単位

㋐対象品目ごとの重量、㋑対象品目ごとの重量に対して、当該品目に含まれる栄養成分量、㋒品目ごとに含まれる4つの栄養成分量だが、具体的な単位は不明。

4)計測に使ったデータ

㋐のために使ったデータはFAOSTAT、㋑の「栄養成分自給率」は「FAO記録の65種類食料の栄養物質含有量」とあるだけで、一次資料としてのデータソースは不明である。㋒の「栄養摂取満足度」については、摂取すべき栄養成分について中国の調査資料。他は中国国内論文となっており、一次資料は不明である。

5)計測された食料自給率(%)

㋐「実際自給率」(2022):「穀類」89、「豆類」21、「肉類」91(「牛肉」65、「羊肉」94、「豚肉」96、「禽肉」92、「その他」100)、「乳類」63、「卵類」99、「蔬菜」99、「油脂」66

㋑「栄養成分自給率」(2022)(グラフなので不正確):「炭水化物」84、「タンパク質」70、「脂肪72」、「カロリー」80

㋒「栄養摂取満足度」(2022):「穀類」106、「大豆」12、「乳類」70、「肉類」98、「卵類」100、「蔬菜」100、「果物」95

(4)張元紅氏の方法論

 張元紅氏は㋐カロリー単位自給率と、㋑重量単位自給率の2種類の単位の食料自給率を算出している。カロリーについては20種類、重量については穀物(内訳は不明)単一である。

 ここで取り上げた論文は、「中国食物自給状況与変化影響分析」(『中國農村経済』2016.4)である。

1)対象とする食料品目

㋐の計測の対象品目は「穀物」(「小麦」、「コメ」、「大麦」、「トウモロコシ」、「コウリャン」)、「デンプン根類」、「砂糖原材料」(具体的な品目は不明)、「砂糖と甘味料」(甘味料の種類は不明)、「大豆を除く豆類」(内訳は不明)、「堅果類」(クルミ、栗、アーモンドなどと思われるが、内訳は不明)、「食用油原材料」(内訳は不明)、「油用大豆」、「植物油」(内訳は不明)、「蔬菜」(内訳は不明)、「肉類」(内訳は不明)、「卵」(内訳は不明)、「乳類」(バターを除く、ただし内訳は不明)など20品目。

㋑の計測の対象品目は「穀物」

2)計測の方法(計算式)

㋐カロリー単位自給率:上掲20品目の国産カロリー合計×100/同消費カロリー合計(%)

㋑重量単位自給率

①(在庫変動を無視)国産量×100/(国産量+輸入量―輸出量)(%)

②(在庫変動を考慮)国産量×100/(国産量+輸入量―輸出量±在庫変動)(%)

3)対象品目の単位

㋐カロリー、㋑重量

4)計測に使ったデータ

㋐FAOSTAT(Food Balance Sheets)[v]

㋑同上

5)計測された食料自給率(2013年、%)

㋐「食物合計」86、「穀物類」99、(「小麦」96、「コメ」101、「大麦」47、「トウモロコシ」101、「コウリャン」71)、「デンプン根類」85、「砂糖原材料」(具体的な品目は不明)99、「砂糖と甘味料」(甘味料の種類は不明)81、「大豆を除く豆類」(内訳は不明)93、「堅果類」(クルミ、栗、アーモンドなどだが、内訳は不明)98、「食用油原材料」(内訳は不明)46、「油用大豆」15、「植物油」(内訳は不明)66、「蔬菜」(内訳は不明)102、「肉類」(内訳は不明)97、「卵」(内訳は不明)100、「乳類」(バターを除く、ただし内訳は不明)81

㋑①96、 ②99

(5)楊明智氏の方法論

 楊明智氏(中国水利水電科学研究院)他2名は㋐「定額統計法」、㋑「流向統計法」、㋒「消費統計法」という3つの方法を挙げ、それぞれの方法から自給率の計測を試みている。

 ここで取り上げる論文は「中国粮食自給率研究--粮食、谷物和口粮自給率分析」(『自然資源学報』2019.4)である。

1)対象とする食料品目

㋐「定額統計法」:糧食(具体的には不明)、㋑「流向統計法」:糧食(同)、㋒「消費統計法」:糧食(同)

2)計測の方法(計算式)

 国産量×100/需要量(%)

㋐「定額統計法」:需要量=1人当たり消費量に人口を乗じたもの(国産量は既知、以下同)。

㋑「流向統計法」:需要量=国産量+輸入量―輸出量±在庫変動量

㋒「消費統計法」:需要量=「直接消費量」+「?」[vi]+「工業向け穀物量」(穀物の内訳は不明)+「種子用保存穀物量」(穀物の内訳は不明)+「ロス穀物量」

 ここで、「直接消費量」=都市住民(1人当たり消費量×人口)+農村住民(1人当たり消費量×人口)、「?」(語句は記載されているが、論理的に該当する語句が不明なので「?」とした)  、「工業向け穀物量」、「種子用保存穀物量」、「ロス穀物量」のデータおよびそのソースは不明である。

 なお、この論文中に「飼料向け穀物量」(穀物の内訳は「小麦」、「トウモロコシ」、「大豆柏」、「雑穀」、「馬鈴薯」)という語句があり、「牛肉」、「羊肉」、「豚肉」、「動物油」(動物の内訳は不明)、「家禽肉」(内訳は不明)、「卵」(同)、「水産品」(同)、「生乳」(同)、「酒類」(同)の9品目について、穀物の単位当たり「転化率」(倍数)という概念を使用して、これらを生産するための穀物の需要量を考慮している。

 「飼料向け穀物」の穀物それぞれの構成比は家畜の種類によって異なるとされ、例えば牛肉の場合だと、「小麦」8%、「トウモロコシ」69%、「大豆柏」8%、「雑穀」8%、「馬鈴薯」8%としている(その根拠は不明)。

 「転化率」は、「牛肉」4.1、「羊肉」4.1、「豚肉」4.6、「動物油」4.6、「家禽肉」3.2、「卵」3.6、「水産品」2.0、「生乳」0.8、「酒類」0.72。推測するに、「牛肉」4.1とは「牛肉」1kg生産に飼料4.1㎏を消費する、ということと思われる。これらの生産が増えると、それだけ、飼料向け穀物量の需要が増える、ということであろう。

 上掲の計算式中「?」が不明のため、㋒による自給率計算は、再現できない。

3)対象品目の単位

㋐重量、㋑重量、㋒重量

4)計測に使ったデータ

㋐「1人当たり適正需要量」は「国家糧食安全中長期計画綱要」(2002-2020)、「実際の消費量」はソースが不明。

㋑「食料在庫減少量」はアメリカUSDA。

㋒「直接消費量」:不明、「工業向け穀物量」:「中国糧食主管部門統計」(事実上不明)及び他者論文からの引用(一次資料は不明)、「種子用保存穀物量」:他者論文からの引用(同)、「ロス穀物量」:他者論文からの引用(同)。

5)計測された食料自給率(2016年、%)(計測された糧食自給率、穀物自給率、口糧(経口)自給率のうち、糧食自給率を示す)

㋐の計算式:112

㋑の計算式:93

㋒の計算式:88(前述の通り、データが一部不明のため、計算プロセスが不明)

(6)熊啓泉氏の方法論

 熊啓泉氏(華南農業大学教授)は食料貿易には、2つの性質、「顕在性貿易」と「潜在性貿易」があり、自給率の計測に当たって考慮すべきとしている。「穀物加工食品」(詳細は不明)、「畜産物」、「大豆油」、「水産品」の4つの食料の生産に中間投入財として穀物(原材料、飼料として)が投入されており、これらの輸入は穀物の隠れた輸入であるとの視点から真実の食料自給率を把握することに努めている。中間投入財は一般の穀物や蔬菜にも当てはまる概念であるが、この点についての言及はない。

 畜産物や食用油などを考慮する点で、(5)で紹介した楊明智氏の方法論と似た発想であるが、微妙な点では違いがある。

 なお熊氏は㋐「伝統糧食自給率」、㋑「糧食真実自給率」の2つの自給率を示している。

ここで取り上げたのは、「中国糧食的真実輸入規模与自給率」(『華南農業大学校学報(社会科学版)』2022.3)である。

1)対象とする食料品目

 対象とする品目は「穀物」、「コメ」、「小麦」、「トウモロコシ」、「大豆」である。

2)計測の方法(計算式)

 ㋐「伝統糧食自給率」:糧食生産量×100/(糧食生産量+「顕在的純輸入量」)(%)

 (「顕在的純輸入量」とは、穀物純輸入量+大豆純輸入量+乾燥豆と薯類輸入量としている)

 ㋑「糧食真実自給率」:糧食生産量×100/(糧食生産量+「糧食真実輸入量」)(%)

(「糧食真実輸入量」とは、「穀物加工食品」、「畜産物」、「大豆油」、「水産品」の輸入量のうち中間投入財としての穀物を抜き出したもの。これを通常の穀物、その他一般品目の形態の生産量に加えたものを分母としている)。

3)対象品目の単位

 ㋐「伝統糧食自給率」:重量、㋑「糧食真実自給率」:重量

4)計測に使ったデータ

 農業農村部「国際農産品貿易統計年鑑」、「中国農産品貿易発展報告」、中国国家統計局「中国統計年鑑」、農業農村部「中国農村統計年鑑」

5)計測された食料自給率(2020年、%)

㋐「伝統糧食自給率」:83

㋑「糧食真実自給率」:78

 次回は、「中国における食料自給率の方法論の問題点」についてコメントしたい。


[i] 日本で一般的な「食料自給率」という表現は、中国ではやや馴染が薄い。

[ii] 「博士指導師」とは、大学院博士論文指導資格を持つ者。日本の「Dマル合」と呼ばれる資格保持者と同じ。

[iii] 論文には6地域の特別市・省・自治区の区分法が明記されていない。一般的、習慣的な地域区分法は次の通り。華北地区(北京市・天津市・河北省・山西省・内モンゴル自治区)、東北地区(遼寧省・吉林省・黒竜江省)、華東地区(上海市・江蘇省・浙江省・安徽省・福建省・江西省・山東省)、中南地区(河南省・湖北省・湖南省・広東省・広西チワン族自治区・海南省・香港・マカオ)西南地区(重慶市・四川省・貴州省・雲南省・チベット自治区)、西北地区(陝西省・甘粛省・青海省・寧夏回族自治区・新疆ウイグル自治区)。

[iv] 中国の「糧食」とは、穀物+イモ類。

[v] 本論文では、品目別のカロリーのデータソースをFAOSTATとしているが、FAOSTATには、そのようなデータは掲載されていない。また、摂取すべきカロリー合計値のソースをFAOSTATとしているが、その具体的な数値は国民によって、時代に応じて異なることもあり、FAOがFAOSTATを通じて掲載しているような事実はない。

[vi] 論文執筆者による記述ミスと思われる。筆者による修正ができないことはないが避けた。


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