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【07-06】日中科学技術交流の架け橋になりたい~生物電子学国家重点研究室・顧忠沢副主任が語った日中の研究交流~

顧 忠沢(生物電子学国家重点研究室副主任)  2007年9月20日

 私がはじめて橋本和仁先生に お目にかかったのは1994年秋の東京大学本郷キャンパスであった。当時、私は文部省の奨学金をもらって、東京大学工学部応用化学専攻に留学にきていた。 橋本先生は応用化学専攻の助教授で、(財)神奈川科学技術アカデミー(KAST)の光機能変換材料プロジェクトリーダーを務めていた。このプロジェクトは 本郷キャンパスに遠く離れた本厚木で実施された。東大に入った頃、私はこれから神奈川科学技術アカデミーに深く関わるとは夢にも思わなかった。

 その頃、橋本先生のプロジェクトは立ち上ったばかりであったが、光磁性材料などの研究は世界に先駆けて行なわれていた。人手が足りなかったからだろうか、藤嶋昭先生と 橋本和仁先生に本厚木で光磁性材料の研究をしてみないかと聞かれた。このことは、私の研究人生を大きく変えた。当時、光機能変換材料プロジェクトには優秀 な若い研究者がたくさん集まっていた。特に、磁性グループにはすばらしい研究者が大勢いた。全員の名前を挙げると長くなるが、いま九州大学にいる佐藤治教 授、東京大学にいる大越慎一教授らが当時のメンバーであった。

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 私の博士論文テーマは光磁性材料であった。この研究テーマは私にとって全く新しい分野だった。当時、光磁性を研究した研究員、学生はみな私と同じ く研究した経験がなかった。研究をするため、先生も含めて、全員一丸になって一生懸命に勉強し、実験をした。夜の11時、12時でも橋本先生が研究室で働 かれる姿がよく見かけられた。プロジェクト用磁性測定機SQUIDが三台あるにも関わらず、予約が常に一杯だった。夜の12時過ぎでもサンプルを測定する 人がいる。プロジェクトに参加した研究員や学生は十人十色で、みんなすばらしい人ばかり、出身国もいろいろで、中国、ドイツ、ロシヤ、ベトナム、ジンバブ ウェ、韓国などとあって、さながら、国際研究所のようだった。

 橋本先生がいつも微笑みを浮かべながら、私に声をかけてくださるのが印象的だった。重要な話をする時も和やか雰囲気だった。論文を直す 時のことを一番よく覚えている。橋本先生はよく、論文を書く時、ロジカルが一番大事だと言われた。当時、先生に教わりながら論文を書いていたが、先生の おっしゃる言葉の意味を深く理解することが出来なかった。数年経った後、私が研究員そして先生になって、学生諸君の論文を直す時になってから、漸くその意 味が分かってきた。今、私は橋本先生がおっしゃった言葉をよく学生に言い聞かせている。これはたった一例であるが、神奈川科学技術アカデミーで身につけた 習慣や、習ったこと及び当時の人脈は今でも役に立っている。

  東京大学卒業後、私は神奈川科学技術アカデミーの研究員を経て、2003年に中国の南京にある東南大学の教授として帰国した。東南大学の biomedical engineeringは中国でファーストランクの学科である。研究テーマはバイオセンサー、ナノバイオマテリアル、医療器械など多岐に渉っている。東南 大学に帰った後、神奈川科学技術アカデミーでの光機能材料の研究経験を生かして、材料をバイオに応用し、新しい検出法やディバイスなどを開発した。研究の 詳細や最新情報は私のホームページ(http://www.lmbe.seu.edu.cn/chenyuan/guzhz/index.asp)で紹介している。  

 例えば、我々は自己集合化したフォトニック結晶というナノ材料を利用して新しい生体分子のencoding方法を提案した。この方法は、 蛍光法よりbackgroundが低く、表面積が大きいため、検出の感度が高い。また、蛍光法安定性の問題も解決できたので、今後臨床分析、薬の開発など への応用が期待されている。さらに、我々は、ナノファイバに基づき、環境にやさしく、感度の非常に高い検出法−新しい固体型抽出法(solid phase extraction, SPE)を開発した。この方法によれば、無進入で人のneurotransmitter(神経伝達物質)、麻薬などの検出が可能になった。最近、中国で青 粉が問題になったが、我々はSPEによる青粉の毒素の高感度検出の研究を行っている。

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  現在、私のグループは東南大学生物電子学国家重点研究室に教授・助教授らが5人、スタッフと学生らが40人近くいる。主に、バイオセンサーや光機能材料の 研究をしている。最近、蘇州市政府の支援を受けて、環境と生物安全研究室を立ち上げた。東南大学で主に基礎研究を行い、蘇州で企業と政府の協力の下、大学 の研究成果を環境や医療分野に移転し応用していく取り組みを行なっている。

  日本との交流は今も続いている。いま私は神奈川科学技術アカデミーの兼任研究員を務める傍ら、文部科学省の環境にやさしい水質浄化技術研究開発の国際プロ ジェクトに参加している。2007年11月、橋本先生と共同で第14回China-Japan Bilateral Symposium on Intelligent Electrophotonic Materials and Molecular Electronicsを南京で主催することになっているので、多くの日本の大学や企業の方々の参加を期待している。

 私は、日本に9年間いた。長い間、藤嶋昭先生、橋本和仁先生をはじめ、多くの方々にお世話になった。日本で勉強したことを今も中国で活用している。これからも、私は日本での経験を生かして、日中科学技術交流の架け橋になりたい。

顧 忠沢

顧 忠沢:
生物電子学国家重点研究室 副主任

略歴

1989年中国 東南大学 生物医学専攻卒業。 
1998年東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻卒業(工学博士)。 同年から神奈川科学技術アカデミー専任研究員。
2003年1月中国"長江奨励計画"特聘教授に選ばれ、同年から中国東南大学 生物医学専攻教授。
現在、生物電子学国家重点研究室副主任。主に光機能材料、バイオセンサーなどの研究に従事する。