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【08-01】働きながら学業を遂げる日々新鮮な気持ちの留学生活

張 也 (慶應義塾大学大学院留学生)  2008年1月20日

 慶應義塾大学大学院商学研究科修士課程2年の張也です。私は高校2年生のときに、「日本留学」という言葉に出会いました。自分も 中国人留学生だったプロデューサの張麗玲さんが制作し、中国本土で大ヒットした『私たちの留学生活〜日本での日々』を見て、日本の留学生活を初めて知りま した。そして、日本留学の大変さも番組を通じて 知りましたが、自らを鍛えるチャレンジの場だと確信し、どうしても自分で体験してみたくなりました。

 2004年の10月、 私もとうとう日本留学への旅に立ち、主人公のように、自分の目で見、足で歩き、肌で感じる 日本にやって来 ました。成田空港から 住まいの場所 まで2時間 かかりましたが、私にとっては、自分の目でこの新しい土地をじっくり見つめる 有難い一時でした 。薄曇の空、立ち並ぶ高層ビル、綺麗な街角・・・・・・。車窓から見た東京はどことなく閑静な雰囲気の漂う都会でした。これが私の東京についての第一印象 でした。

異文化の触れ合い

 最初の住まいは留学生会館で、 色々な国の人がいて、テレビを通じても未だかつて聞いたことのない言葉が 賑やかに飛び交うところでした 。豚肉を食べないマレーシア 人、牛肉を食べないタイ 人、空手が大好きな南アフリカ 人。 共有トイレ、共有キッチン、シャワー室も共有 で、 皆がまるで大家族のように暮らしていました。 

 もちろん、家族でもたまに問題が 起こることがありますが、 互いの文化や習慣を尊重しながら問題を解決していく ことがここのルールでした。国際的なコミュニケーションは私たち留学生の日常生活の一部でした。この環境のおかげで、色々な国の人に出会い、たくさんの面 白い話や、多様な考え方を知り、本当に世界は広いなあと実感しました。当時付き合っていた友達は、有り難い存在です。今でも連絡を取り合って、たまに会っ たりしています。 

 留学生会館が与えてくれたのは、これまでに経験したことのない異文化交流、それに家族のような思いやり、尊い友情、大切な国際的な考え方でした。初めて来日した日の車窓から見た長閑な東京は本当は開かれていて、包容力のある都会だ、ということにほどなく気付きました。

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勉強すればするほど、難しく感じる奥の深い日本語

  日本に来て一番困ったことと言えば、日本語でした。上海の大学で第二外国語として少しかじった程度の片言の日本語が日本でほとんど通じないということが分 りました。日本語の勉強は「笑着進去,哭着出来」(「にこにこしながら入り、泣きべそをかいて出て行く」の意味)と言われるとおり、入門は簡単なようです が、勉強すればするほど、難しくなり、奥が深いということです。日本語に漢字があるから、簡単に覚えられると思い、日本語を習い始めた同級生は大勢いまし た。しかし実際、日本語の漢字の読み方が一通りでないこと、漢字・カタカナ・ひらがなと文字の種類が多いこと、そして、発音が簡単なようでも、促音、拗音 の練習で苦労しないと、綺麗な日本語にならないこと、また助詞や活用など文法が複雑であることなどがネックになっています。

 それに加えて、自分の専攻でちょっと忙しかったり、英語の等級検定などにかまけて授業を怠けたりすると、日本語の勉強が続かなくなります。勉強し ているうちに、脱落者が続々出てきます。というわけで、最初100人いるクラス(第二外国語)も、最後まで授業を受け続ける人は僅か十数人しか残りません でした。その中で、日本語能力試験1級に合格したのは私一人でした。とはいえ、試験対策ばかりしているので、日常生活で使われる日本語は喋れませんでし た。

 やはり一般的に言われるように、中国で学ぶのと日本での生活を通して必要に駆られて学ぶのと効率面では雲泥の差があります。当然のことながら、私も留学開始から三ヶ月後に行われた日本語実戦では、中国で学んだ日本語よりもはるかに良い結果がでました。

アルバイトと大学生活

 アルバイトのために日本に来たわけではないですが、アルバイトをしなければやっていけないのが私費留学生の厳しい現状です。とはいえ、アルバイトの体験 が、私の日本留学の一部にもなっています。アルバイトは日本社会を知る手段の一つであると同時に、仕事仲間や色々な人との触れ合いを通じて、実生活の中の 生きた日本語を習い、日本の歴史、文化、風俗習慣をよりよく理解し、現地社会に溶け込むまたとない機会をもたらしてくれます。

 私は最初に飲食店でアルバイトをしました。覚えることが多くて大変でしたが、先輩たちが親切に教えてくれたお陰で、すぐに慣れました。しばらくすると、洗 い場から、ドリンクの調合、厨房補助、オーダー取りまで何でもこなしました。学校で習わなかった日本語のくだけた言い方や、他人の立場を思いやる気持ちな ども身につけることができました。

 一方で、アルバイトと勉強の両立に苦労もしました。学費を稼ぐために、もう一つのバイトをやり始めました。朝起きると、ファーストフードのバイトに飛び込 み、昼過ぎに少し休憩して、次のイタリアンレストランに向かいます。一日のアルバイトが終わったら、もう夜の11時です。急いで家に戻り、シャワーを浴び たら受験勉強です。このような繰り返しが何ヶ月も続きました。辛く思うときもありましたが、その追い詰められる感覚がなんとなく好きでした。今までに無 かった貴重な経験ができました。そして、私の努力が報われ、私立難関と言われる慶應と早稲田大学両方の大学院修士課程入学試験に合格しました。

 慶應義塾大学は早稲田大学とならぶ私立大学の雄と称されるように全国で最も教育水準の高い名門校の一つです。また慶應義塾は、啓蒙思想家として歴史上名高 い福澤諭吉によって1858年に創設された日本で最も古い歴史を誇る私学でもあります。私はこの慶應義塾大学大学院商学研究科の修士課程に入り、ブランド 戦略、クチコミ及び消費者行動などをテーマに研究しています。また私が上海の大学で専攻していた商学関係の授業が日本ではどのように行われているか、日中 間でどのような違いがあるか、ということに興味がありましたので、商学部の授業もいくつか受けることにしました。授業はすべて日本語で行われるため、最初 は多少不安を感じましたが、幸い日本で生活している所為か授業に慣れるのは予想以上に早く、入学開始から約一ヶ月後には授業内容がほぼ聞き取れるようにな りました。また日本人学生や色々な国から来た他の留学生と一緒に受けた授業では、一つのマーケティングの事例に対して、様々な発想があり、グローバルマー ケティングを中心に熱い議論が交わされる中、非常に多くの刺激を受け、とても貴重な体験ができました。

掛け替えのない留学生活

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 光陰矢のごとし。2007年も過ぎて、学生生活は残り3ヶ月とありません。この残り少ない学生生活を大切にし、いい思い出をたくさん作りたいと思っています。そして、3年間の留学生活に終止符が打たれる時に、私は一人の社会人として、4月からNTTデータで働くことになります。

 この3年間、文化や習慣の違うたくさんの友達と触れ合い、視野を広げることができたので、本当に感謝しています。今後私は日本人と同じ様に、一人の社会人 として日本社会に向けて立脚することができたら、更にこの社会の寒暖を感知することができるのではないかと思います。そして、私は日本人の価値観、人生観 などに至る精神的なものをさらに深く理解して、そうしたものをできる限り多くの中国人に伝えていきたいと思います。このような考えを抱いて、私はいずれか の日にか国に帰って、日本で学んだことを中国で実践してみようと考えています。日本での留学生活は、中国と違う社会を知り、日本と中国を比較することに よって、今の中国社会を客観的に評価できるという点でも非常に意義あることです。特に現在非常に速い変化を続けている中国においては国の違いによる社会の 相違のほか、時代の変化にともなう社会構造の大きな変革もありますので、これらを通じて、より幅広い価値観を以って今の中国社会を見極めることができるの ではないかと思います。

 また、一人の日本企業経験者として、中国企業に日本で学んだ貴重な経験を伝授し、現地の日本企業と一緒に中国市場での異文化コミュニケーションを探求し、 両国の企業を結びつける橋渡しの役割を果たしたいと思います。さらに、一帰国留学生として、将来、中国の大学の教壇に立って、私と同様な目標を持つ情熱の ある青年達に往年の自分自身が経験してきたことを伝えたいです。これも日本留学に対する最高の社会への恩返しです。これらの理想が現実となることを夢見つ つ、私はこれからも一日一日を大切にして日本での掛け替えのない学生経験を積み重ねていきたいと思います。

 2004年10月に東京に来てから、早くも3年3ヶ月が経ちましたが、今も毎日新鮮な気持ちで留学生活を送っています。日本での生活にもだいぶ適応してきたと実感しています。とはいっても故郷の漬け物、そして大雪がたまに恋しくなることもあります。

張 也

張 也(ちょうや):留学生

略歴

2004年7月、上海の華東理工大学卒業。
同年10月に来日、国際学友会を経て、2006年4月に慶應義塾大学大学院に入学、現在慶應義塾大学大学院商学研究科 修士2年。
専門は、ブランド拡張戦略、クチコミ及び消費者行動論。主な研究、「中国おける情報伝達モデル(クチコミ)」(三田商学の大学院高度化研究推進プロジェクト)、「 ブランド拡張とクチコミの駆動要因」(消費者行動研究学会、2007福岡)
2008年4月NTTデータに入社予定。