【14-04】「上海市における児童・生徒の健全な学力に関するグリーン指標(試行)」(仮訳)
2014年 5月16日
新井 聡:文部科学省 生涯学習政策局参事官
(連携推進・地域政策担当)付 専門職
略歴
1998年 埼玉大学文化科学研究科文化構造専攻 修了
2003年 ロンドン大学東洋アフリカ学院 人類学・社会学部博士課程 退学
2005年 在アゼルバイジャン日本国大使館草の根・人間の安全保障無償資金協力外部委嘱員
2009年 文部科学省生涯学習政策局調査企画課専門職
「PISAの経験を基にした上海市の新たな教育評価手法の開発と導入」(その1)(その2)に関連し、以下に、2011年11月に上海市教育委員会が公布した「上海市における児童・生徒の健全な学力に関するグリーン指標(試行)」の仮訳を掲載する。
「上海市における児童・生徒の健全な学力に関するグリーン指標」
1.児童・生徒の学力水準指数
児童・生徒の学力水準指数は、児童・生徒の成績の標準達成度、高次思考力指数及び児童・生徒の成績均衡度を含む。その中で、児童・生徒の成績均衡度は、総体的均衡度、区・県間の均衡度、学校間の均衡度の3つの側面を含む。
(1) 児童・生徒の成績評価基準の達成度
児童・生徒の学力水準の基準は、カリキュラム基準に基づき、児童・生徒がある学科、ある段階で身につけるべき基本的内容と中核的能力の等級の基準を確定する。
成績評価基準の達成度は、児童・生徒が各科目で合格水準以上に達した人数の比例を指す。基準の画定の際は、学力測定や学力検査等で国際的に広く応用されている基準設定方式を採用する。
(2) 児童・生徒の高次思考力指数
児童・生徒の成績評価基準の達成度に注目すると同時に、高次思考力にも注意する必要がある。高次思考力は、知識移転能力、予測・観察・解釈能力、推理能力、課題解決能力、批判的思考や創造的思考・能力等である。
(3) 児童・生徒の成績均衡度
児童・生徒の成績均衡度は、総体的な均衡度、区・県間の均衡度、学校間の均衡度の3つの側面を含む。
① 上海市における児童・生徒の総体的な成績均衡度
総体的な成績均衡度は、上海市において測定に参加するあらゆる児童・生徒の成績の総体的差異を表す。各科目の成績には、多種の近代的な統計測定方法を用いて分析を進める。
② 区・県間における児童・生徒の成績均衡度
区・県間における成績均衡度は、上海市の各区・県間の児童・生徒の成績の差異を指し、階層的データを分析するための統計モデルである階層的線形モデルを通して分析される。
③ 学校間における児童・生徒の成績均衡度
学校間における児童・生徒の成績均衡度は、各学校間の児童・生徒の成績の差異を指し、階層的線形モデルを通して分析される。
2.児童・生徒の学習意欲指数
児童・生徒の学習意欲指数は、主に、学習に対する自信、学習の動機、学習から来るストレス、学校に対する帰属意識の4つの側面から成る。
(1) 学習に対する自信
数年来の大規模な測定データが示していることは、児童・生徒の学習に対する自信と学力水準には、明確な正の相関がみられるということである。児童・生徒の自信は主に、児童・生徒の個人の学習能力の評価、困難な課題を解決してみようとする意欲、優位な成績を取得することや学習目標を完成させることに対する期待等の課題を調査することを通じて、児童・生徒のアンケートを採集し、データに対する統計分析によって結果を得る。
(2) 学習の動機
数年来の大規模な測定データが示していることは、児童・生徒の学習意欲と学力水準には、明確な相関がみられるということである。学習意欲は成績を予測する上で良い材料となる。学習意欲の測定には、児童・生徒の学習それ自体への興味、学習目的や学習の意義に対する認識等の課題を含み、児童・生徒のアンケートを採集することを通じ、データ分析によって、結果を得る。
(3) 学習から来るストレス
数年来の大規模な測定データが示していることは、児童・生徒への過重な学習ストレスと学習の質の間には、ある種の負の相関がみられるということである。学習から来るストレスは、主に、学習過程で産出される心理的負担やあせり、児童・生徒の宿題量や宿題の難易度、試験回数及び学校における成績の公表、試験前の気持ちを質問することを通して調査される。学習ストレスは児童・生徒のアンケートデータを採集し、データを分析することで結果を得る。
(4) 学校に対する帰属意識
数年来の大規模な測定データが示していることは、児童・生徒の学校に対する帰属意識と成績の間には正の予測作用があり、正の相関がある。
児童・生徒の学校に対する帰属意識は、主に、児童・生徒の同級生との関係、学校の団体活動に参加したいか否か、学校を好きか否か及び学校で孤独を感じるか否か等の問題を含み、児童・生徒の学校への帰属意識の程度を指す。児童・生徒の学校への帰属意識の程度は、アンケートデータを採集し、分析することによって結果を得る。
3.児童・生徒の学習負担指数
(1) 学習負担の総合指数
数年来の大規模な測定データが示していることは、学習負担の増加は、成績を向上させる簡単な方法ではなく、また、学習時間の増加と成績の間には明確で、単純な関係はないということであり、より多くの学習時間は決してより良い成績をもたらすものではないということである。児童・生徒の学習負担は、児童・生徒の睡眠時間、宿題の時間、補習授業の時間を調査することを通じて反映される。学習負担指数は、アンケートデータを採集することを通じてデータを分析して結果を得る。
(2) 学習負担の項目別指数
① 睡眠時間
教育部は義務教育段階の児童・生徒が毎日少なくとも9時間の睡眠をとることを切実に要求している。
数年来の大規模な測定データが示していることは、睡眠時間の比較的多い児童・生徒と比べて、睡眠時間の比較的少ない児童・生徒はより注意力が散漫になる現象がみられ、学習効率が低下し、睡眠時間が減少するにつれて成績が向上しないということである。
② 宿題の時間
数年来の大規模な測定データが示していることは、小学生の毎日の宿題時間は1時間前後、中学生の宿題時間は2時間前後で、児童・生徒の学力水準は宿題をしていない児童・生徒や宿題時間が長すぎる児童・生徒より明らかに高いということである。宿題時間とは、学校の教員が配布した当日中に完成させる書面の宿題と保護者が手配した宿題(家庭教師や授業外の補習クラスなど)を含む。
③ 補習授業の時間
数年来の大規模な測定データが示していることは、児童・生徒の成績と補習授業の時間の間には明確な関係は存在せず、補習授業時間の増加は、成績の向上を意味するものではない。補習授業時間は、学校が要求するものと保護者が要求するもの(家庭教師や授業外の補習クラス)を含む。
4.教員と児童・生徒間の関係に関する指数
数年来の大規模な測定データが示していることは、教員と児童・生徒との関係は、児童・生徒の学力水準に明確に正の相関を示し、また児童・生徒の成績に明確な正の予測作用がある。
教員と児童・生徒との関係の調査は、主に、教員が児童・生徒を尊重しているか、児童・生徒を公平・平等に扱うか、児童・生徒を信頼しているか等を含む。教員と児童・生徒との関係指数は、児童・生徒のアンケートデータを採集することを通じて、データ分析により結果を得る。
5.教員の指導方法に関する指数
数年来の大規模な測定データが示していることは、教員の指導方法と児童・生徒の成績との間には、明確な正の相関があり、良好な教育方式は児童・生徒の成績に対して積極的な影響を与える。教員の教育方式は教員の自己評価と児童・生徒の評価の2つの側面がある。
(1) 教員による自己評価
教員の教育方法に対する自己評価は主に学習者に応じた弾力的な教育、教員間での相互学習、探求・発展能力の3つの指標から成る。教員のアンケートデータを採集し、データ分析を行うことで結果を出す。
(2) 児童・生徒による評価
児童・生徒の教員の教育方法に対する評価は、児童・生徒のアンケートデータを採集し、統計的方法を用いて結果を得る。アンケートの内容は主に、教員が状況アプローチによる教育を行っているか否か、児童・生徒が手を動かし、実践することを奨励しているか否か等の問題を含む。
6.校長のカリキュラム・リーダーシップに関する指数
数年来の大規模な測定データが示していることは、校長のカリキュラム・リーダーシップが教員の教育や児童・生徒の学習に重要な影響を与えているということである。
校長のカリキュラム・リーダーシップの調査・分析は、カリキュラムのストラテジーの決定と計画、カリキュラムの組織化と実施、カリキュラムの管理と評価の3つの側面が含まれる。校長のカリキュラム・リーダーシップの指数は教員のアンケートデータを収集してデータ分析を行い、結果を得る。
7.児童・生徒の社会・経済的背景が成績に与える影響に関する指数
保護者の教育レベル、職業、家庭文化資源等の総合が児童・生徒の社会・経済背景となり、それは児童・生徒の成績と結合しているため、家庭が児童・生徒の成績に影響している指数を分析し、学校教育に反映させる。指数は、児童・生徒のアンケートを通じて採集され、階層的線形モデルを利用して統計的に分析され、結果を得る。
8.児童・生徒の品行に関する指数
良好な品行は、個人の成長、生涯にわたる発達の基礎であり、社会に有用な人材を作り出す重要な条件である。児童・生徒の品行や道徳観の形成が成功するかは、学校教育の成否に完全に反映される。指数は主に、児童・生徒の理想と信念、市民の資質、健全な人格の3つの側面を含み、祖国を愛し、自分を愛し、他人を尊重し、誠意と責任感を持ち、公徳を遵守し、配慮の心を有することや公正の心を有すること等の具体的な指標を通して、アンケートデータを採集する方法で、データ分析により結果を出す。
9.児童・生徒の心身の健康に関する指数
児童・生徒の心身が健康であるか否かは、民族の全体的な資質が向上できるか否かに関わり、国家の未来と衰退に関わる。児童・生徒の心身の健康レベルは主に、児童・生徒の生理、心理、情緒等の指標に反映される。心身の健康指数は「国家児童・生徒・学生体質健康基準」の測定データベースを通じて、児童・生徒のアンケートを採集し、また学校・行政機関の調査によりデータが分析され、結果を得る。
10.児童・生徒の学力向上に影響する各種要素の改善に関する指数
数年来の大規模な測定データが比較的明らかにしていることは、多くの地域で児童・生徒の学力が向上した場合、学力に影響しているいくつかの鍵となる要素も明確に改善されているということである。改善指数は、学習意欲の進歩指数、教員と児童・生徒間の関係性に関する改善指数、学習負担改善の指数等を含む。
上海市教育委員会ウェブサイト2011年11月8日