【16-02】中国の大学の構造について―当事者に聴く中国教育事情
2016年 6月 7日
日本留学信息中心 「当事者に聴く中国教育事情」編集部
王 妍:「当事者に聴く中国教育事情」主任編集員 日本留学信息中心担当
2014年長崎大学環境科学学部卒業
馬 慶明:「当事者に聴く中国教育事情」編集長、日本留学信息中心総経理
大連外国語大学名誉教授、1987年大連外国語学院日本語学部卒業
はじめに
日本と中国は隣国でありながら、社会制度の違いから大学の仕組みはかなり異なっていると思います。今まで一つの学部との留学交流(学部間協定)が多かったのですが、大学間の交流(大学間協定)となるとプログラムを進めるときの難しさがあります。その理由は学部間協定の多くは、日中の専門教授の学術交流によってできました。しかし、学部間協定から大学間協定にシフトすることが少ないからです。
今回は中国の大学の仕組みについて説明したいと思います。
中国の大学の構造
図1 一般的な中国の大学の組織図
上図のように一般的に中国の大学では大きく分けて3つの部門が設けられています。大学によっては、3部門の下に所属している課・弁公室・研究所などが異なることがあります。どの大学でも同様ですが、この3部門の学内での権限は上にいくほど強くなります。
まず、党委部門について説明します。党委部門とは共産党委員会のことであり、中国の大学には欠かせない組織で中国の大学内のトップリーダーであります。党委部門の中には共産党以外に共青団もあり、大学の基本的方針などを仕切っています。
日常の業務内容としては、中央政府、共産党による新たな政策を大学内(学長から学生に至るまで)へ伝達することです。また学長が学内の重大な決定をする際に輔佐する立場でもあります。学内を統括管理し、対外的にも広報・宣伝を行います。中国では、共産党の一般連絡などを各大学に行き渡らせるための重要な機関です。
行政部門とは事務を行う部署であり、日本の大学で言えば、入試課、広報課、国際交流課などに相当します。
教育部門には、学部、大学院研究科と研究所、またそれらの事務室があります。これは日本の大学とほぼ同じです。
日本の大学と一番かかわりのある部署は、行政部門の国際合作課です。別名、外事弁公室ともいいます。
北京にある大学の国際合作課のホームページ掲載内容を例として挙げます。
①国際的な学会、フォーラムなどの企画;
②海外の大学との連携に関する協議、調印;
③協定校の大学へ留学する学生の奨学金、学生の選抜;
④外国人留学生の受け入れ;
⑤外国人留学の大学での中国語学習コース企画、インターンシップの紹介;
⑥外国人教授、講師の招聘、雇用;
⑦国際会議の申請;
⑧教職員の海外出張の旅券、ビザの申請手続き;
⑨その他。
国際合作課は上記のことを主な業務として行っています。どの大学もほぼ同じです。
日本の大学とも大きな違いはありません。中国の大学の国際合作課は海外の大学との連携、交換プログラムまたは教職員のために日常業務を行っています。また在学中の学生には、長・短期留学の際の資金援助(奨学金)、交換留学の際の上位学生の選抜面接などの事務作業を行っています。
中国の大学の国際合作課にはKPI(Key Performance Indicators:重要業績評価指標)があります。一年間で、何人の学生を送り出すか、年間海外の協定校を何校まで増やすか、外国人留学生何人を受け入れるかなどです。達成方法を考え、目標達成のために業務を行います。
しかし、実際に学生が出国するにあたっては、大学が出来ることが少ないのが現状です。
例えば中国の事情ではありますが、戸籍制度上、ビザ申請は出生地でしか手続きができなく、管轄の領事館も違います。学生の出身地がそれぞれ違うため、大学の事務作業も一括でまとめることができません。学生は自らビザ申請などの渡航手続きをしなければならず、結果として手続きが分からない学生は担当教授に頼るか、うまくいかなければ留学をあきらめてしまうこともあります。
中国の大学は、日本と同じく国公立、私立の分類があります。
①中国教育部管轄大学、②中国の省、市、自治区と直轄市の教育庁の管轄大学、③私立大学と3種類に分類されています。しかし日本と違うのは、この教育部>地方教育庁>私立の順で大学が一般評価されている点です。
中国は建国初期の1952年頃、ソビエト連邦を模範にして計画的に大学を設置していました。一つの専門学部で大学として成り立っていました。このような背景もあって、中国の大学は、国営企業と似ているところが多いのです。
学長と党委書記
中国の大学で最も大きな権限を持っているのは学長ではなく、党委書記(党委部門中のトップ)です。また、中国の大学の学長は教育庁(教育委員会)の派遣になっています。そのため、ある大学の学長が他の大学へ異動することは少なくありません。
※本稿は、日本留学信息中心が発行しているメールマガジン「当事者に聴く中国教育事情」2016年3月第2回を、日本留学信息中心の許可を得て再編集のうえ転載したものである。
筆者より
「当事者に聴く中国教育事情」は2010年に中国現地にいる日本留学志望者に資するために設立した大学連合事務所の定期情報として発刊しました。2015年4月に現在の名称・体裁に変更しました。私たちは中国の学生向けに日本の大学について定期的に情報を提供しておりますので、より多くの日本の大学と情報交換したいと思います。ぜひお気軽にご連絡ください。
E-mail: (王妍)、(馬慶明)