【17-02】中国朝鮮族学校の教育事情―当事者に聴く中国教育事情
2017年 6月20日 王燦、金国峰(日本留学信息中心)
はじめに
中国の東北に集中する朝鮮族は少数民族で、韓国と日本に距離的に近いため、韓国語および日本語を学ぶ者が多く、そのため授業に採用されている科目や進学受験制度などの面で、教育システムが漢民族の学校と多少異なります。一般的に、中国の朝鮮族の学校には「朝鮮語が必須科目である」、「韓国語も日本語も上手だ」という印象があるかと思われますが、今回は幼稚園から高校まで、中国遼寧省の代表的な朝鮮族学校の教育事情についてご紹介してみたいと思います。下記、遼寧省朝鮮族の学校と北京の一般の学校との相違点を、幼稚園から小学校、中学校、高校に至る、受講科目や進学受験制度などの違いについてまとめました。ご参照ください。
北京市内の一般の学校 | 遼寧省の朝鮮族学校 | 備考 | |||
受講科目 | 進学制度 | 受講科目 | 進学制度 | ||
幼稚園 | 中国語、数学、音楽、美術などの基本科目 | 試験あり | 中国語、数学、朝鮮語、音楽、美術などの基本科目 | 試験なし | |
小学校 | 中国語、数学、英語、音楽、美術などの科目 | 試験あり | 中国語、数学、朝鮮語、音楽、美術などの科目 | 試験あり | 中国語の教科書が異なる。漢民族の方が難しい。 |
中学校 | 小学校の科目以外、追加される科目:物理、化学、生物と歴史、地理、政治。外国語は英語。 | 試験あり | 小学校の科目以外、追加される科目:物理、化学、生物と歴史、地理、政治。外国語は英語か日本語。 | 試験あり | 中学校卒業とともに義務教育が終わる。 |
高校 | 高校二年生から理科系/文科系に分かれる、外国語は英語。 | 試験あり | 高校二年生から理科系/文科系に分かれる。外国語は英語か日本語。 | 試験あり |
朝鮮族の学校は「朝鮮族」という属性的な言葉を付けて名づけてられます。例えば:「○○省○○県朝鮮族小学校/中学校」が一般的な学校の名前になります。大部分の学生は同じ省や県の朝鮮族学校範囲内で順番に進学します。
まずは朝鮮族幼稚園についてご説明します。朝鮮族の子供たちは4歳から朝鮮族幼稚園に入園します。家庭ではすでに中国語と朝鮮語を話している朝鮮族の子供たちは幼稚園でも中国語と朝鮮語の単語や文法などについて系統的に学び、両方の言語を「母語」として使えるようになります。
3年間の幼稚園時期を経て、小学校進学試験を受けることなく、朝鮮族小学校に入学できます。ここから中国の九年義務教育が始まります。政府からの学費援助は全員が対象となります。中国の多数の地域では小学校の時期から英語の勉強を始めます。朝鮮族小学校では国語(中国語)、朝鮮語、数学などの授業がありますが、英語の授業はありません。学年制度は6年間で、中学校進学試験を通じて、朝鮮族中学校に進学します。
多数民族の中学校で行われる外国語教育は英語が一般的となりますが、朝鮮族中学校の外国語教育は英語または日本語から、学生にいずれか一つを選択させます。以前は日本語を必須外国語科目とされている朝鮮族中学校および高校が多かったのですが、最近はグローバル化の中、国際的視野の持つ人材を育てるため、教育制度の改革により、朝鮮族中学校はだんだん英語と日本語を選択できるような学校になってきました。日本語は朝鮮語の文法や発音が似ている部分が多く、朝鮮族学生にとっては日本語のほうが学びやすいので、日本語を選択する学生が多数います。3年間の中学校での学業を修了すると九年義務教育が終ります。
九年義務教育を終えると、高校に進学するケースが多いですが、朝鮮族高校への政府からの学費援助については、定員枠が定められています。中学校から高校への進学試験は義務教育制度の場合と異なり、それぞれの朝鮮族中学校内で試験の成績順位により、学生たちが公費又は私費で朝鮮族高校に進学するかどうかが決められます。同じ高校に就学しても、下の順位の学生は上位の学生の5倍くらいの学費を払わなければなりません。ある朝鮮族高校の学費の例を挙げると、私費学生は毎年3000元+700元の学費で、公費学生には学費援助があるので、免除された後の金額、700元だけを支払うことになります。
授業科目の点からみると、高校2年生から理科系と文科系に分けられ、学生たちが自由に選択できます。理科系は「物理、化学、生物」、文科系は「政治、地理、歴史」の受講科目があり、これは多数民族の高校と同じですが、4つの必須科目として、国語(中国語)、数学、朝鮮語および外国語(日本語か英語)の授業が3年間ずっとあります。こうして日本語を外国語教育として選択した学生は、中学校と高校を併せて計6年間日本語を勉強することになります。日本語の学習以外、日本文化や風習などの知識にも触れられています。6年間の日本語学習により、朝鮮族高校の卒業生たちの日本語能力は普通N2級に相当します。
朝鮮族高校生が大学に進学する場合、中国の普通高等学校全国統一試験を受験します。全国統一試験といっても、朝鮮族学生が受ける受験科目は中国多数民族地域の全国統一試験と異なります。第一に受験時間が通常より半日間長くなります。元の国語(中国語)、数学、理科総合/文科総合、外国語(英語か日本語)以外にもう一科目:朝鮮語の試験があります。元々二日間で終わる普通高等学校全国統一試験で、朝鮮族学生は連続2日半かけて受験します。試験結果は朝鮮語試験の点数と国語(中国語)試験の点数の平均点を取ります。つまり中国語と朝鮮語の試験の点数を足して二で割った点数が国語の点数となります。二つ目に異なる点は、中学校で日本語を選んだ学生は高校までの外国語教育は日本語教育であったため、外国語試験では英語ではなく日本語能力が審査されます。三つ目は朝鮮族学生が受験する国語(中国語)試験の難易度が通常より易しく設定されています。これも中国語と朝鮮語の成績の平均点が国語試験に採点される原因となっています。中国語試験の古文の一部だけ難易度の低い問題が課されます。
私の考え
中国の朝鮮族学校には多数民族学生が通っている学校と多少相違点がありますが、朝鮮族学生には外国語への強みがあると言えます。中国語はもちろん、朝鮮語もほぼ母国語と同じように使っており、朝鮮語も無論相当高いレベルの能力を持っています。また、中学校から日本語を外国語教育として学ばれ、高校までの6年間、朝鮮族学生の高い日本語能力を育みます。
現在、朝鮮族高校/大学の卒業生は韓国に留学や就職する人が一番多く、2番目は日本となります。海外での就学や就職以外、中国国内で就職活動をする場合も、日系企業や韓国系企業を就職希望先として選択する卒業生が多いです。就職範囲も東北地域の地元から、北京や上海など、日系企業や韓国系企業が集まった都市にだんだん拡散しています。
ご参考に
■中国少数民族が大学に進学する場合に受験する普通高等学校全国統一試験には、それぞれの民族語の試験があり、一般的には試験日程の3日目の午前に行われます。例えば:モンゴル族、ウイグル族、チベット族の大学受験生はそれぞれの少数民族の民族語試験を受けます。しかし、すべての少数民族の民族語試験があるわけではないです。例えば満族のような漢民族に同化され、民族語が失われてしまった場合、満族学生も漢民族学生と同じ制度の大学入学試験を受けます。
■中国九年義務教育…新改訂された『中華人民共和国義務教育法』により、2006年9月1日から実施されています。「義務教育法」には児童の教育を受ける権利および義務が明記されました。小学校6年間、中学校3年間(一部省・市は小学校5年間、中学校4年間)は九年義務教育に含まれています。近年、「十二年義務教育」制度が話題となり、高校3年間教育も義務教育制度内に組みこむべきという声が少なくありません。中国の浙江省、広東省、河北省などの沿海部・経済発展地域でしか実験的に行われていませんが、近日終わったばかりの「両会」でも、教育関係の代表者の方々が「十二年義務教育」制度の推進について熱く討論されました。
筆者より
「当事者に聴く中国教育事情」は2010年に中国現地にいる日本留学志望者に資するために設立した大学連合事務所の定期情報として発刊しました。2015年4月に現在の名称・体裁に変更しました。私たちは中国の学生向けに日本の大学について定期的に情報を提供しておりますので、より多くの日本の大学と情報交換したいと思います。ぜひお気軽にご連絡ください。
E-mail: (金国峰)(王璨)
※本稿は、日本留学信息中心が発行しているメールマガジン「当事者に聴く中国教育事情」2017年3月第2回を、日本留学信息中心の許可を得て編集し転載したものである。