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【18-01】一部の大学が提出した「一流大学建設方案」について―当事者に聴く中国教育事情

2018年1月16日 金国峰(日本留学信息中心)

はじめに

 2017年11月のコラム「『双一流』の発表について―当事者に聴く中国教育事情」 で「双一流」プロジェクトに選ばれた高校名とその選出方法について紹介致しましたが、2017年12月に各大学から「一流大学建設方案」が発表されました。今回は幾つかの大学を例としてその内容を分析してみたいと思います。

一部の大学が提出した「一流大学建設方案」について

 2017年12月28日に北京大学清華大学中国人民大学復旦大学上海交通大学等のホームページで「一流大学建設方案(世界レベルの一流大学をつくるプラン)」が発表されました。この中から一部の大学の特徴的な部分をご紹介したいと思います。

北京大学

 北京大学のプランは全6章34節あり、3つの目標を設定して、「30+6+2」の形(学科数)でそれぞれの学科を重点的に発展させるという内容でした。2020年を目標として30科目の学科を世界一流学科へ重点的に発展させ、2030年を目標として理学、情報と工程、人文、社会科学、経済と管理、医学等の六つの学科を交互に発展させます。また、2048年までに北京大学を世界一流の大学に発展させて、主な学科を世界トップレベルまで発展させることが目標として掲げられています。

清華大学

 清華大学のプランは2020年に世界一流大学の仲間入りを果たし、2030年に世界一流大学の上位に立ち、2050年には世界トップレベルの大学となるとのことでした。

中国人民大学

 中国人民大学のプランは短期、中期と長期の3つの目標が設定されました。大学は世界一流大学の仲間入りを果たし、中国人文社会科学領域での権威性を保ち、大学の主な学科での優位性を強化しつつ、総合的な実力と国際競争力を引き上げるというものです。この基礎の上で中国人文社会科学領域での権威性、総合実力と国際競争力をさらに強化し、全面的に中国の特色のある世界一流の大学を作り上げるという内容でした。

復旦大学

 復旦大学のプランは2020年までに中国の社会環境に応じた大学制度の改革を完成することで特色のある世界一流大学を作ることを目指すものでした。また、2030年までには大学のレベルを世界一流大学の上位まで引き上げ、22世紀半ばには世界一流大学のトップレベルに到達することを目標としています。

上海交通大学

 上海交通大学は三段階の目標を提示しました。2020年までに世界一流大学の仲間入りを果たし、一部の学科を世界一流の上位に引き上げます。更に2030年には大学として世界一流大学の上位入りを果たし、また一部の学科を世界トップクラスに引き上げます。そして2050年には卓越した世界一流大学を作り上げます。

 以上の大学以外にも同済大学南開大学中南大学重慶大学西北大学等の教育部に所属している国立大学が12月28日にそれぞれの大学発展プランを発表しました。各大学のプランで感じられるのが10月に開催された十九大人民代表大会の影響を受けていることです。つまり中国の特色のある世界一流の大学を作るというテーマです。

 各大学が如何にして目標を達成するかに関する部分ですが、まとめてみると5つの傾向があると思われます。

  1. 人材の育成制度と各段階(学士、修士、博士)の募集制度を改革することで学生の基本的な素養を強化する。
  2. 講師陣を最適化する。人事制度を改革しまた優秀な人材をスカウトすることで優秀な講師陣を構築する。
  3. 科学研究については研究経費の投入比率を最適化し、学科を超えた研究体制を築くことで、最終的に大学の研究力を向上させる。
  4. 社会主義の価値観が全ての基軸になっていること。
  5. 研究成果に関して、大学は企業との協力・提携を緊密化して、優秀な研究成果を実用化するシステムを構築する。

 以上の5点が各大学のプランに必ず盛り込まれている内容となっております。また、各大学が国際的一流大学になるために決して避けて通れないことが外国の大学との国際交流です。そのため、今後中国の大学は更に外国の大学との教育交流を積極的に行うと考えられます。

 各大学のプランで発表されている国際教育の内容は非常にシンプルなものでした。しかしながら2017年11月のコラムで紹介したような「双一流」プロジェクトは第三者機関からの評価も考慮されていましたので、中国の大学が一流大学として認められるために、必ず各国の大学との国際交流を積極的に行い、各方面からの評価を高めるために活動に力を入れるだろうと考えられます。そのため、今後日中両国の大学間の交流が促進される機会があると考えられ、中国の大学は人材の共同育成、研究者の交換交流、学術面の共同研究等で大きな需要が生じるのではないでしょうか。

私の考え

 私は日本の大学の共同事務所のスタッフとして活動し、中国で多くの日本留学説明会に参加しプレゼン等を行ってきました。その中で感じたことは、中国の多くの大学は公式な教育機関なので、日本国大使館のような影響力の強い公式機構の訪問に対して歓迎しますが、企業あるいは単一の大学に対しては消極的になります。なぜなら、大学といえども企業あるいは外国の大学に対して十分な知識を持ち合わせていないことから、信頼させることがとても難しいからです。日本国大使館のような影響力が強い公式機構が主催する留学説明会では容易に大学の先生たちの信頼を得ることができるルートとなっており、国際教育交流をスタートさせるには格好のチャンスではないかと思います。

筆者より

 「当事者に聴く中国教育事情」は2010年に中国現地にいる日本留学志望者に資するために設立した大学連合事務所の定期情報として発刊しました。2015年4月に現在の名称・体裁に変更しました。私たちは中国の学生向けに日本の大学について定期的に情報を提供しておりますので、より多くの日本の大学と情報交換したいと思います。ぜひお気軽にご連絡ください。

 E-mail: image(金国峰)(王璨)

※本稿は、日本留学信息中心が発行しているメールマガジン「当事者に聴く中国教育事情」2018年第61号を、日本留学信息中心の許可を得て編集し転載したものである。