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【19-02】高等職業教育に希望の春、産学融合が重要

2019年2月25日 代小佩(科技日報実習記者)

「どれほど優れたイノベーションやデザインも、最終的には労働者、特に技術労働者の手を経なくては実現しない」―「改革の先鋒」の別名をもつ巨暁林氏はある座談会でこう強調し、技能の高い職業労働者、特に技術労働者を大量に育成する必要があることを訴えた。

 その高い技能を持つ職業労働者の育成において、高等職業教育機関は無視できない勢力である。先日、中国教育部は、2019年の高等職業教育専攻学科設置届出及び審査認可結果を公布し、2019年に新設を承認した国家管轄高等職業専攻機関225ヵ所と承認しなかった国家管轄高等職業専攻機関244ヵ所を発表した。このニュースを受け、多くの人が高等職業教育は新たな発展のチャンスを迎えたという見方を示した。果たして、高等職業教育の春は本当に近づいたのだろうか。

地域に立脚し、専攻学科の設置を促す

 浙江省温州市は「中国の靴の都」とも呼ばれ、「バルブの都」という別称もある。

 このため、温州職業技術学院も靴・被服専攻とバルブ関連の専攻学科を開設している。「当学院の専攻設置や育成目標、育成手法等においては、一貫して地域経済のニーズを中心に考えている」温州職業技術学院情報技術学部の田啓明主任は科技日報の取材を受けてこう答えた。

 田啓明主任によれば、温州職業技術学院は産学融合を進めて地方経済に積極的に奉仕しており、「温州経済との連動、業界・企業とのウィンウィン」が学校運営の方針となっている。温州職業技術学院には業界との共同建設により、地域基幹産業と緊密なつながりを持つ6つの二級学院が設置され、世界のトップ500社にランクインの経験がある700社あまりや業界のリーディングカンパニーと協力関係を結んでいる。卒業生の就職率は13年連続で98%以上に達し、卒業後も温州市にとどまる卒業生の割合は68%以上となっている。

「高等職業教育機関については、学校運営制度と人材育成モデルに柔軟性があるため、市場のニーズにタイミング良く合わせる上で有利だ。専攻学科の再編に際しては、当学院は企業と共に発展し、市場に必要とされる人材を育てることを考慮している」。田啓明主任はこのように語り、教師陣も企業と一丸となって、専攻学科の設置を市場に先行して計画しなければならないと説明した。そのためには、「外部に頻繁に出かけて、さまざまな国際会議や新技術フォーラムに参加する必要がある」という。

 中央美術学院の副教授であり、第45回国際技能競技大会(通称:技能五輪世界大会)でファッションテクノロジー競技の技術チームリーダーを務めた李寧氏は、職業教育に10年あまり従事している。李氏はかつて、科技日報の記者に対して、「職業教育の発展は産学連携の模索と密接に関係する」と話している。また、中国職業技術教育学会副会長で、上海教科院高職研究センターの馬樹超主任も、「産学融合は世界の職業教育に共通の経験である」という。

「地域に立脚し、市場にねらいを定め、地域経済の発展に貢献する。こうして初めて、職業教育は学生にとって将来性があり、地域と密着し、業界に認められ、世界と交流できるというニーズを満たすことができる」と田啓明主任は語る。

意識を改革し、職業教育機関の自由度を高める

「就職率については、多くの職業教育機関が見栄えのよい実績表を発表しているが、就業先の質についてはまだ向上の余地が大きい。たとえば、給与や安定性、社会保障等の面で、高等教育機関の卒業生と比べると心配がある」。中国教育科学研究院の研究員である儲朝暉氏は率直に語り、「一部の専攻は学生に人気がなく、生徒の募集状況もあまり良くない」と続ける。儲氏によれば、高等職業教育機関の入学志願者選考に際しては、農民が質の良い種を必要とするのと同じように、高等職業教育機関も良い種子を選んで初めて多くの収穫を得ることができる。

 しかし、高等職業教育機関の「種子」選びの方法は非常に単一的である。「現在の評価体制では、単純にいえば、成績のあまり高くない学生が職業教育機関を選ぶ」と儲氏は語る。このため、こうした学生たちは、たとえある面で天賦の才能に恵まれているとしても、入学後に努力によって自尊心を回復するのは難しい。

「社会的地位の低さのために、高等職業機関の学生は自己認識が低くなっている。彼らは自分たちを淘汰された者と認識しており、挫折感が強い」と李氏も語る。職業教育は負のワードと結びつくこともあるため、もともと非常に手先の器用な子も劣等感に陥りやすい。

 儲氏は、これを変えるために最も重要なのは意識改革であると強調する。「ドイツやオーストラリア等の職業教育の現状を参考にしつつ、子どもたちが早く人生の方向性を決められるようわれわれも支援する必要がある」と儲氏は語る。「オーストラリアでは、中学の3年間で多くの職業体験が行われる。たとえば、料理をしたり、洋服を作ったりする体験があり、このような活動では子どもたちにデパートのようなものを開店させたり、さまざまな職業をひととおり経験させたりしている」。そして、「教師は活動の中で子どもたちのパフォーマンスを記録し、彼らの進学先の選択に際して、高等教育機関あるいは職業専門学校のどちらに向いているかを検討するための参考にする」と続ける。

 ドイツも小学校から学生の「グループ分け」を行い、教師たちは学生を観察し、どの学生が職業学校に進学し、職業技能を高めるのにふさわしいかを大まかに判断している。「この方法を使えば、生まれながらの才能を持つ子どもも、好きな職業で達成感を得やすい」と儲氏は考える。

 しかし、改革の実施は容易ではない。「これを実現するには、管理体制と評価体制から教育制度を変えることが求められる」。「生徒募集や専攻学科の設置、教師陣の募集先のいずれについても、さらに多様性を高め、職業教育機関の自由度を高める必要がある」と儲氏は語る。


※本稿は、科技日報「高職教育走向春天,産教融合很重要」(2019年2月14日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。