【16-02】「胃袋の国際化」がもたらす地域のグローバル化―異文化交流地点としての横浜中華街(曽徳深氏インタビュー)
2016年 6月16日
曽徳深(「菜香」グループ会長)
横浜中華街で中華料理店を経営する曽徳深氏は、当地を訪れる観光客と毎日接することにより、横浜中華街こそが日中交流の重要な拠点であると実感しているという。今回は曽氏に訪日中国人が飛躍的に増加した昨今の状況を踏まえ、今後の日中交流のあり方と横浜中華街のもつ可能性について聞いた。
平和への願いを込めた善隣門の建設
中華街の10基の牌楼(門)のうちの善隣門には「親仁善隣」という文言が掲げられています。孔子の春秋時代「春秋左氏伝」という書の中に、「親仁善隣国の宝なり」という言葉があるんです。小さな国に別れて争っても戦争では何も解決しない。隣近所で仲よくすることが大事なんだ、という意味です。中国と日本には長い交流の歴史の中で不幸な時期があったけど、やっと平和な時代が来た。これからも平和を守って仲良くしていこう。そういう願いを込めて1989年に善隣門が再建されたんですね。
日本、中国、韓国、隣り合う国同士の今の状況を見ると、お互いに相手のことを知らないままに感情的に「嫌い」と言う人が多いし、知ることが非常に重要だと思いますね。人間教育を小さい頃からきちんとして、双方がもっと成熟しないといけない。お互いの一般市民が理性的に考えられれば、やすやすと戦争は起きないはずだから。
今は「爆買い」ばかりが報道されるけど、あれだけたくさんの中国人が日本に旅行に来るようになった。日本は清潔で食べ物は美味しいし、人は礼儀正しくて親切で良いところだなあと思って、多くの中国人が日本を好きになって帰っていく。そして、また遊びに来るわけでしょ。こういうお互いの行き来というのは非常に意味があることなんですよ。だから、もっと日本人にも中国に行ってほしい。
まずはお互いに相手のことを知り、交流する。そうすれば、良い面も悪い面も理解に繋がるし、理性的に物事を捉えて考えられるようになるわけですよ。
胃袋の国際化から頭の国際化へ
僕はね、胃袋と脳みそというのは、繋がっていると思うんです。「日本人は中国が嫌いだ」とマスコミでは騒がれているけど、もし本当に日本人みんなが中国を嫌いだったら、中華街には誰も来ないし、中華料理も誰も食べないだろう。でも、今のところ、中華街には毎日たくさんの日本人が来てくれているし、中華料理もみんな食べているでしょ?料理を通じて行き来があるうちは大丈夫だと思っている。
写真1 曽氏の店舗の厨房
僕が大学生になる頃まで、韓国焼肉店というのは身近な存在ではなかった。それが今では、日本で一番多い外国料理の店は焼肉店だという。中華料理店も日本中、あらゆる場所にある。だけど、日本にはアフリカ料理の店はあまり無いし、日本人はアフリカについてはまだまだよく知らないと言える。だから、胃袋や味覚の国際化と、頭で国際的に考えられるかどうかということは、実は繋がっていると思うんですよね。そういう意味で、食文化を通じて相手を理解するということは非常に大事だと言える。
異文化交流地点としての中華街
横浜中華街という街の存在意義も、ここが一つの国際交流の場としての役割を果たしているという側面がある。中華街に料理を食べに来て、美味しいとかまずいとか、接客態度が良いとか悪いとか体感するでしょ。つまり、「食文化」を通して異文化理解、コミュニケーションできる場所が身近にあるということ。その中で、良いことだけではなく摩擦もあって、そして磨かれる。それは地域社会のグローバル化にも繋がっていくし、きっと日本にとってもいいことですよね。
世界のチャイナタウンというと、普通は中国人が集まるための場所だけど、ここは、それだけではなくて大勢の日本人が遊びに来てくれる場所。横浜中華街は、異文化交流拠点として良い見本になりうるコミュニティだと思いますね。
(インタビュー・構成 茉莉花)
※本記事は日中交流文化誌『和華』第八号(アジア太平洋観光社、2015年10月)に掲載されている。
『和華』HP http://wa-ka.org/