日中交流の過去・現在・未来
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【18-04】幸運と縁を発展させて結実させた新エネルギー研究

2018年 3月19日

本稿は中国総合研究交流センター編『縁遇恩師 ―藤嶋研から飛び立った中国の英才たち―』より転載したものである。

孟 慶波:中国科学院物理研究所研究員、中国科学院物理研究所クリーンエネルギー実験室主任

 中国科学院クリーンエネルギー最先端研究実験室主任、北京市新エネルギー材料・デバイス重点実験室主任、中国再生可能エネルギー学会常務理事、中国再生可能エネルギー学会光化学委員会委員、中国再生可能エネルギー学会太陽光発電専門委員会委員、中国材料研究学会ナノ材料・デバイス分会理事および英文の重要ジャーナル多数の編集員を務める。1999年〜2002年に日本に留学して藤嶋研究室のメンバーとなり、日本科学技術庁特別研究員(STAFELLOW)、東京大学研究員、神奈川科学技術アカデミー(KAST)専任研究員を務める。2001年に中国科学院「百人計画」に入選、2005年に中国科学院「百人計画」優秀賞、2007年に「傑出青年基金」、2010年に国務院政府特別補助金、2011年に東京理科大学校長賞を獲得、2013年に科技北京「百名リーダー人材」に入選、2014年に「国家自然科学基金委員会イノベーショングループ」の資金援助をプロジェクトリーダーとして獲得。

光科学研究の道に私を導いたのは藤嶋先生と佐藤博士

 私は1987年に吉林大学物理学科を卒業後まもなく、中国科学院長春応用化学研究所に勤めながら勉学を続けた。そして、1997年に長春応用化学研究所で博士学位を取得した後、1997年から1999年まで中国科学院物理研究所表面物理国家重点実験室で博士研究員 (ポストドクター)の職についた。

 確か1998年の春と夏の変わり目の頃に、私は北京で何年かぶりに大学時代の同級生の江雷博士と再会した。そして、その江雷博士の推薦と協力を受けながら申請したおかげで、日本の科学技術庁にSTA Fellow として受け入れられることになった。1999年8月1日、私は妻と子供を連れて来日し、藤嶋先生の率いる神奈川科学技術アカデミー(KAST)光科学重点研究室のSATO-Group に加えていただくという幸運に恵まれた。

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筆者と藤嶋昭先生

 こうして、藤嶋昭先生の研究グループと強いご縁を結ぶことができた。その後は業務上の必要から、私はKAST専任研究員から東京大学研究員、NEDO研究員へと役職を変えたが、2002年8月19日に帰国するまでの間ずっと、藤嶋先生のご指導とご配慮のもとで仕事を続けることができ、また、Group Leader の佐藤博士からもわが身を顧みないほどの支援を受けた。日本の研究生活の中で、藤嶋先生と佐藤博士の研究グループが第一の水先案内人だったといえる。

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筆者と佐藤博士

情熱あふれる藤嶋昭研究グループで太陽電池研究に取り組む

 初めての外国で、右も左もわからない私たちを成田空港で出迎えてくれたのは顧忠沢博士だった。彼のおかげで、私たち家族は海外生活で感じる壁をスムーズに乗り越え、早期に仕事をスタートさせることができた。実際の研究業務においても、彼に助けてもらった。そしてこの間、高橋博士、栄長博士、速水博士、兪加力さん、久保さん、尚子さん、由美子さん、只今芳博士、銭衛平博士、何志聡博士、張晰桐博士、劉洪武博士、崔愛麗博士、Raoさん、Trykさんら、多くの日本人や中国人、インド人、アメリカ人の友人と知り合い、仕事を通じて理解と友情を深めることができた。

 あの頃、フォトニック結晶の作製に成功し、完全固体型色素増感太陽電池の開発に初めて成功した時の喜びは今でも忘れることができない。太陽電池研究の中で、藤嶋先生からいただいた支援と励ましに重ねて感謝を申し上げたい。

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 藤嶋先生に認めていただき、手厚い支援をいただいたからこそ、私は太陽電池の研究を続けてこられたのだ。藤嶋研究室で、私は世界各国からの友人と知り合い、永遠の友情を築くことができた。この頃が私たち家族の日本での生活の中で最も幸せな時期であった。

藤嶋先生との厚い情誼は海のように深い

 藤嶋先生から直接指導を受けることによって私の研究に対する価値観は変化し、先生の追求する科学的価値観も完全に理解できるようになった。つまり、価値観は国境を越え、この点で先生とは心が通い合ったのだ。先生に全力で推薦していただけたおかげで、私は中国科学院物理研究所で職を得ることができた。

 私がより良く、よりスピーディに仕事を進められるように、2002年から2006年にかけて、先生は何度も物理研究所を訪問された上に、物理研究所主催の中関村フォーラムで研究発表をしてくださった。また、当時の物理研究所所長の王恩哥先生、表面物理国家重点実験室主任の薛其坤先生、陳立泉先生、科学研究処長の孫牧先生と座談会を開き、クリーンエネルギーの重要性を説いてくださったことは、私が自分の研究グループを作る上で大きな後押しとなった。

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藤嶋先生と薛其坤院士

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藤嶋先生と陳立泉院士

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藤嶋先生と王恩哥院士

 藤嶋先生は物理研究所を訪問されるたびに、かつて日本で研究し帰国した先輩たちの研究室を必ず訪れ、私の研究にも関心を寄せられ、支援するよう依頼していただいた。また、先生を通じて、佟振合先生と趙進才先生という大切な先生と友人と知り合うこともできた。

 その後、趙進才先生のお声がけにより、先生の主宰する中日二国間会議と全国光化学・光触媒会議の審査に合格し、招待演説をする機会に恵まれた。このおかげで、私は光化学研究界に早く溶け込むことができた。こうして、2002年の帰国直後は個人としての研究者に過ぎなかった私も、その後常勤研究員5名と研究生20名余りを擁する研究グループを発展させ、今では新世代の量子ドット太陽電池分野で一定の影響力を持つ研究室を持つまでになった。これもすべては藤嶋先生の知遇を得て、育てていただけたからである。先生には感謝の念に堪えない。

中日二国間会議の記念写真

 中国への帰国後、私は博士32名、修士11名を指導し、このうち中国科学院院長奨学金取得者1名、宝鋼教育基金優秀学生賞1名、朱李月華優秀博士学生賞1名、中国科学院優秀卒業生1名、中国科学院優秀学生幹部1名を輩出し、2名が優秀卒業生として卒業式で代表スピーチを行った。また延べ29名が中国科学院大学三好学生賞を獲得し、卒業後もそれぞれの分野ですばらしい活躍を見せている。

研究グループは卓越した能力を発揮した

 私の研究室は明るい未来を追求する研究グループである。夢の実現のために、私たち研究グループは共に手を携えて前進している。

 研究室は物理研究所B棟にあり、面積は700平方メートル余りである。先進的な太陽電池材料設備を備え、デバイスの組み立てと評価に特徴がある。当研究室は教授3名、高級工程師1名と研究生20名余りを擁し、主に太陽電池材料およびデバイスに関する基礎・応用研究を行っており、具体的には太陽電池材料の作製および光電気デバイス、太陽光・風力併用によるマイクログリッドの設計とその制御に関する研究、新型複合光触媒材料の作製(光触媒水分解)、フォトニック結晶デバイスの組立ておよび応用等が含まれる。

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孟慶波研究グループの写真

 近年、研究室からはJ. Am. Chem. Soc., Adv. Mater.,Adv. Energy Mater., Adv. Funct. Mater., Energy Environ. Sci.,Chem. Comm., Appl.Phys.Lett., J. Phys. Chem., ACS Appl.Mater. Interfaces, Electrochem.Commun., Solar Energy Mater.Solar Cells 等の国際的に重要な学術誌に累計で論文約200編を発表しており、7000回余り引用され論文の被引用に関するh指数は50である。

 国家発明特許は80件余り申請しており、このうち47件が特許を取得している(うち1件は日本の発明特許として受理)。また、国際的および中国国内の重要な学会で招待講演および研究発表を延べ100回余り行っている。

 さらに、中国の国家ハイテク研究発展計画(863計画)と国家重点基礎研究発展計画(973計画)に基づき実施された研究成果について、科学技術部専門家グループと科学技術部の指導者たちから高い評価を受け、「第10次5ヵ年計画」期における科学技術部の重大成果として評価され、「第11次5ヵ年計画」期に追加の資金援助を獲得した。現在の研究経費は年間約300万元である。

 また、我々は多くの社会活動にも積極的に参加している。現在、イギリスElectrochemistry Communicationの編集委員、ならびにドイツGreen: The International Journal of Sustainable Energy Conversion and Storage の創刊時からの編集委員、中国再生可能エネルギー学会常務理事、中国再生可能エネルギー学会光化学・太陽光発電専門委員会委員、中国材料研究学会納米材料・デバイス分会理事、国家基金委員会第13回・第14回エンジニアリング・材料科学部専門家評価グループのメンバーを務めている。

 私は2014年から4回連続で新型太陽電池学術シンポジウムを主催して成功を収め、参加人数は当初の500人余りから800人余りへと年々増加を見せた。特に第4回シンポジウムではオンライン中継を行い、会議現場で参加した人数に加えて、中国内外から平均約550人の科学技術者がオンラインで会議に参加した。

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新型太陽電池シンポジウム会場

 こうした幅広い関心と実績によって、物理研究所と中国科学院は新型太陽電池研究分野おける影響力を高めることができた。

研究グループによる主な科学研究成果

 私は藤嶋昭教授から大きな影響を受けたために、産官学の結びつきに高い関心を持っている。ナノ結晶染料増感太陽電池は、1990年代に発展し始めた新型の太陽光発電技術である。研究室では固体型ナノ結晶太陽電池の各構成部分、すなわちナノ結晶薄膜、染料、電解質および対電極等について全面的な分析と最適化を行った。そして比表面積が大きく、間隙率の高いナノ結晶二酸化チタン薄膜や分光感度の高い有機染料、イオン伝導性と導電率の高い固体電解質ならびに省白金かつ高活性な対電極の作製に成功し、組み立てを行った小面積固体型ナノ結晶電池の効率は世界先進レベルの5.48%に達した。

 また、開発した環境にやさしい準固体電解質を含むナノ結晶太陽電池の効率は6%に達した。このほか、電池の作製・組立技術についても全面的に研究を行い、大面積電池の作製と工業化生産に向けて良好な基礎を築いた。また、当実験室では、15×10㎠の大面積電池の開発に成功しており、これには潜在的なビジネス価値がある。

量子ドット太陽電池の研究

 この分野に関しては、多成分の新型量子ドットの設計・合成を行っており、化学成分の調整によって近赤外線吸収性能を持つCdSexTe1-x 合金量子ドットが得られ、かつ、合成された量子ドットを量子ドット太陽電池に応用した。

 界面修飾とSiO2 ゲル電解質導入の相乗効果により、スペクトル吸収の高いCdSexTe1-x 合金量子ドット増感電池の効率はさらに高まって11.3%に達した。この成果は、現時点で報告されている最も高い効率の一つである上に、電池の安定性がひときわ優れている。

新型ペロブスカイト太陽電池の研究

 この分野に関しては、ペロブスカイト薄膜2段階沈殿法によりペロブスカイト吸光層の結晶品質と界面結合性を効果的に高めたことにより、無正孔ペロブスカイト太陽電池の効率がいち早く10 %を突破して10.5%に達し、当時の最高効率として発表された。

 また、炭素電極に基づく無正孔PSCs をさらに発展させたところ、電池効率が13.5%に達した。また、半導体を素材とする太陽電池の理想ダイオードモデルについて、当該電池の電荷輸送とヘテロ接合の特性を系統的に研究した結果、当該電池は典型的なヘテロ接合太陽電池であることが証明された。

 この研究を、APL104(2014)063901 にて発表したところ、2014年度の中国で最も影響力のある国際的学術論文100編の一つと評価され、現在すでに284回引用されている。私と李玉良院士研究グループの協力により、共役大π 結合を持つGraphdiyne をP3HT 正孔輸送層に初めて導入し、かつ、それをペロブスカイト太陽電池に応用した。

 この結果、Graphdiyne の導入によって正孔の遷移速度が高まると同時に、Graphdiyne には高い散乱作用があることから、長波範囲における吸収が高まり、電池効率が効果的に向上した(Adv. EnergyMater. 2015, 5, 1401943, 現在までに68回被引用)。

 また、電子輸送層の界面改良研究により、界面における電荷の複合消費をさらに低減させ、溶液法による薄膜作成時の配合成分と条件の最適化による相乗効果により、薄膜の結晶品質と担体の輸送性能が向上した。すなわち、ペロブスカイトの薄膜作製条件の最適化により、電池効率は21%を超えた。

光触媒水分解による水素発生に関する研究

 この分野に関しては、研究室では光触媒水分解による水素発生に関するオンライン分析試験評価システムをすでに自主開発し、硫化物系触媒(CdS、ZnIn2S4 等)やグラフィティック・カーボンナイトライド(Graphitic Carbon Nitride (g-C3N4))系複合光触媒等を設計・合成した。

 形態制御やドープ等により半導体触媒の伝導帯/ 価電子帯位置の制御を実現し、光生成キャリアの分離を促し、光触媒による水素発生および光分解活性を高めることによって、光触媒による水素発生の反応メカニズムを研究した。これまでにSCI論文15編を発表し、特許を5件申請し、うち4件で権利を取得している。

デバイス開発研究

 この分野に関しては、染料増感太陽電池の光感度が遅く、光源が不安定であるという特徴に対して二重光路システムを採用し、かつ、トランスコンダクタンス増幅器の原理とネガティブフィードバック技術を結びつけて分光感度特性(IPCE)測定システムを開発した。当該システムは測定時間が短い上に精度が高く、海外の同種製品より優れている。

 この研究では国家発明特許を3件取得している上に、すでに定型化製品の開発にも成功し、清華大学中国石油大学、徳州学院、アモイ大学、北京航空航天大学(2システム)、北京信息科技大学、東北師範大学重慶大学、首都師範大学等の兄弟校10校余りで実用されている。

 さらに、半導体光デバイスの電荷および電場感度の測定に用いる制御可能な過渡光電流測定システムを自主開発した。当該システムでは、実際の作業状態下での太陽電池の電荷の動力学的プロセスを測定することができる。

 また、当該システムと関連の物理モデルに基づいて従来型の多結晶シリコン型太陽電池と新型ペロブスカイト太陽電池のそれぞれの界面における電荷移動の動力学的プロセスに関する定量研究を行い、その物理メカニズムを解明した。さらには、ペロブスカイト電池の巨視的な光電ヒステリシスの背景にある微視的な動力学的原因およびその物理メカニズムを解明することによって、当該電池のイオン輸送、ドープと欠陥との間の内在関係を構築した。

日本語版編集:馬場錬成(特定非営利活動法人21世紀構想研究会理事長、科学ジャーナリスト)


日本語版「縁遇恩師 ―藤嶋研から飛び立った中国の英才たち―」( PDFファイル 3.08MB )