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【08-021】意外と急進していない一流雑誌掲載論文数

寺岡 伸章(中国総合研究センター フェロー)     2008年12月19日

 

 研究論文は基礎研究成果を反映する指標の一つである。各国や研究機関が発表した論文、特に高いレベルの雑誌に発表した論文から、当該国や研究機関の基礎研究状況及びレベルを推し量ることができる。
中国科学技術部基礎研究管理センターが発行している雑誌『中国基礎科学』2008年4号に掲載された論文の概要を紹介したい。
彼らはレベルの高い学術雑誌を選んで、中国本土の研究機関(香港、マカオ、台湾の研究機関を除く)がこれらの雑誌で発表した論文を統計して分析し、中国基礎研究の発展状況やレベルなどを調査分析した。世界的な4つの代表的で総合的な雑誌を選び、1991年から2006年まで発表された論文の状況を分析している。選ばれた雑誌は以下のものである。
Science, Nature, Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)及びPLoS ONE。

中国の研究機関が発表した論文の数

 1991年から2006年まで、中国の研究機関は前述した4つの雑誌で学術論文を639報発表した。発表論文数の推移を表1に示す。
表1から、中国の研究機関がこれらの雑誌で発表した論文の数は着実に増え、1991年の9報から2006年の110報まで増加し、年平均増加率は18.1%に達することが分かる。特に2000年以降、顕著な増加が見え、年平均増加率は21%に達した。なお、中国の研究機関が発表したSCI論文の数の1991年から2006年までの年平均増加率は24.1%で、2000年から2006年までの年平均増加率は15.1%である。

表1 中国の研究機関が選定された雑誌に発表した論文の数     

 1995年から2006年にかけて、中国の研究機関が選定された雑誌に発表した論文の数は599報で、この期間の論文総数の1.59%を占めている。
表2と図1はこれらの雑誌に発表された論文のうち、中国の研究機関が発表した論文の割合を示した。2003年から2006年にかけて、中国の研究機関が発表したSCI論文はそれぞれSCI論文総数の4.48%、5.43%、5.30%、5.90%を占めた。
これらのデータから、中国が高水準の雑誌で論文を発表する能力はまだ低いという事実が分かった。だが、表2と図1から中国の研究機関が選定された雑誌で発表した論文の割合は年々増えていたことも見える。1995年から2006年までの年平均増加率は16.7%に達し、2000年から2006年までの年平均増加率は18.8%に達した。

表2 選定された雑誌で中国の研究機関が発表した論文のシェア

中国の研究機関を“主として”完成した論文の数

 1991年から2006年にかけて中国の研究機関は選定された雑誌で299報の論文を発表した(独立で完成、国内協力で完成、国際協力の中で第一完成者として完成した論文を含む)。 表3は1991年から2006年まで、選定された雑誌で発表された論文数の推移を表した。表3は、中国を“主として”発表された論文は中国が発表した論文の総数の42.2%を占め、中国を“主として”論文を発表する能力はまだ低いことを示している。 一方、中国の研究機関を“主として”発表した論文の数は顕著に増え、1991年の1報から2006年の48報まで増加し、年平均成長率は29.4%に達した。この成長率は、中国が選定された雑誌で発表した論文の総数の年平均成長率を超えた。また、2000年以降の平均成長率は22.8%である。これらのデータによって、中国研究機関を“主として”世界の高レベルの雑誌で論文を発表する能力は向上し続けたが、近年成長の速度はやや緩和したことが分かる。

表3 中国の研究機関を“主として”発表された論文の数

 1995年から2006年にかけて、中国研究機関を主として選定された雑誌で発表した論文の数は288報で、これらの雑誌が同時期に発表した論文の総数の0.5%を占めた。表4と図2は、1995年から2006年にかけて、これらの雑誌で発表された論文の総数における中国の研究機関を“主として”発表された論文のシェアを表わした。  
表4と図2が示す通り、選定された雑誌で中国の研究機関が発表した論文の割合は着実に成長し、1995年から2006年までの年平均成長率は14.6%に達し、2000年から2006年までの年平均成長率は20.5%に達し、特にこの3年間、この割合は約0.9%に達した。

表4 中国の研究機関を“主として”発表した論文のシェア

国際協力

 1991年から2006年にかけて、中国の研究機関が選定された雑誌で発表した639報の論文のうち、国際協力で完成した論文は582報である。そのうち、中国の研究機関は第一作者として完成した論文242報を発表し、国際協力で完成した論文の41.6%を占めた。これは中国の研究機関が国際協力で従属的立場にあることを示している。図3は1991年から2006年まで、国際協力論文で中国の研究機関が第一作者として完成した論文の割合を示した。この図から中国の研究機関は国際協力での地位があまり変わっておらず、近年、むしろ下がる動向が見られる。

 図3 国際協力論文で中国の研究機関が第一作者として完成した論文の割合

選定された雑誌に論文を発表した中国の研究機関

1991年から2006年まで、選定された雑誌で論文を発表した研究機関は210ヶ所あった。表5は選定された雑誌で論文を発表したトップ20の研究機関を示した。

表5 雑誌で論文を発表したトップ20の研究機関

表5から、トップ20の研究機関(22ヶ所)のうち、大学や中国科学院の研究所が19ヶ所ある。  トップの古脊椎動物・古人類学研究所、6位の地質科学院、8位の南京地質古生物学研究所は、恐竜考古学、人類考古学、地質学などの専門の研究機関であり、中国は研究現場を国内に擁する分野での健闘が光っている。

まとめ

1)中国の研究機関がレベルの高い雑誌で発表した論文の数と割合は迅速な成長が見られた。これは、中国の基礎研究レベルと影響力はだんだん向上しているのを示している。ただ、研究開発費の伸び率20%と比較すると、論文数の上昇率は緩慢であると言える。

2)中国の研究機関が選定された雑誌で発表した論文の統計によると、中国の研究機関がレベルの高い国際的な雑誌に発表した論文の割合はSCIの割合より低い。これは中国の研究機関がレベルの高い総合的雑誌で論文を発表する能力はまだ低いことを示している。

3)国際協力で中国を“主として”完成した論文の割合は50%未満で、中国は国際協力で従属的立場にあるのを表明した。特に、中国の研究機関が国際協力のよる論文発表から見て、中国の研究機関が発表した論文の数が増加している一方、国際協力での主導的な立場が減少している。

4) 研究機関別の論文数で分かるように、恐竜考古学、地質学などでの健闘が光る。

5) 最後に、中国の基礎研究力は着実に伸びているものの、爆発的な成長段階にはまだ到達していないばかりでなく、国際協力においてリーダーシップを握れないという段階に位置している。研究費の増加のみでなく、閉鎖的な研究システムの改革や自由な研究環境の構築が期待されるところである。