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【11-008】遅学斌、科学研究に生涯を捧げる

科学技術日報     2011年10月28日

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 遅学斌は、高性能の計算方法とソフトを研究領域としてきた。その研究生涯において、同氏は国家科技進歩賞、中国科学院科技進歩賞、中国科学院自然科学賞、北京市科学技術賞等の賞を獲得した。

 彼が現在取り組んでいるのは、並列計算の応用研究とソフト化実現で、これまで多数の国家科技プロジェクト(国家863プロジェクト、国家基礎条件プラットフォームプロジェクト、中国科学院知識イノベーション工程情報化建設特別プロジェクト、国家973プロジェクト、国家自然科学基金プロジェクト等)に参与してきた。学術会議と刊行物で発表した論文数は60篇以上に達し、2冊の書籍を連名で出版し、並列計算の研究とソフトの研究開発において数々の成果をあげている。

 2001年より、遅学斌は中国科学院コンピュータネット情報センタースーパーコンピュータセンター(以下「スパコンセンター」)の主任として、中国科学院スパコン環境建設の重責を担った。

 縁とは不思議なものであるとはよく言われるが、遅学斌の場合も不思議な縁の力があった。彼は1983年に大学の本科を卒業すると、中国科学院と20年以上に及ぶ縁で結びついた。

 修士、博士、研究員に到るまで、遅学斌はコンピュータセンター(コンピュータネット情報センターの前身)で研究を12年間続けた。彼はその後、コンピュータセンターを離れ、中国科学院ソフト研究所に異動された。これにて新たな研究生活が始まるかと思いきや、6年後の2001年に縁あってかスパコンセンターに戻り、主任となるのだった。

 遅学斌を取材し、仕事内容について質問すると、感慨深げに語ってくれた。この不思議な縁の結びつきにより、スパコンセンターでの業務が遅学斌の生命の一部を形成した。

科学者の踏むはしごの一段になれれば

 「スパコンセンターの使命とは、科学者のために計算サービスを提供することで、私たちは人に踏まれるのが仕事です」と語る遅学斌は、控えめな笑顔を見せた。「しかし、科学者の踏むはしごの一段になれれば、それだけでも結構です。よいはしごになるためには、努力を続ける必要があります」

 取材中、遅学斌は謙虚で控えめな態度を保ち、自分の成果を誇ることはなかった。人のためにはしごになる、この言葉は彼の業務内容をよく表している。彼は「よいはしご」になることを目標としている。

 「ここに来るまで、私は純粋な意味での研究者でした。私は顧客として、ここの資源を利用していたのです」遅学斌はスパコンセンターに来たばかりの頃を思い出して言った。「ここに来ると、利用者から管理者になり、立場がガラリと変わりました」

 2001年、遅学斌はソフト研究所での仕事を後にし、スパコンセンターの主任となった。しかし彼がスパコンセンターに異動してきたばかりのころ、そこには職員が4人しかいなかった。彼らの仕事は、設備の運転とメンテナンスのみだった。当時の設備は海外から購入したもので、ソフト数が少なく、顧客に提供できる計算サービスが少なかった。しかもスパコンセンターの資源の利用者も、当時は10〜20人ほどだった。

 「当時、スパコンセンターの条件がこれほど悪かったにも関わらず、なぜ自身の研究を諦めて異動されたのですか?」と、記者が遅学斌に質問した。

 「私も迷いましたよ」と言うと、遅学斌が声をあげて笑った。「それまで、ソフト研究所での研究が非常に順調で、成果を残せそうだと感じていました。しかしこちらにやって来ると、増えるのは心配事ばかりで自由が減り、個人的な成果も少し減りましたので、迷っていました」と語ると、彼は間を置いてから、決意に満ちた口調でこう言った。「しかしここでは、多くの人のため働くことができます。スパコンセンターは科学者に質の高い計算環境を提供でき、国家全体の科学研究の進歩に対してもより多くの貢献ができます」

 遅学斌は「はしご」になるつもりでスパコンセンターに異動された。出勤初日、スパコンセンターは改善に継ぐ改善の道のりを歩み始めた。現在のスパコンセンターは、昔と比べて大きく成長した。職員数は60数人、顧客数は数百人に達した。スパコンは、外国製の毎秒数十億回のSGIから、中国の自主開発による毎秒150兆回のレノボ製深騰7000になった。またスパコンセンターはチームを結成し応用ソフトの研究開発に取り組み、顧客の需要を満たし、利便性の高いサービスを提供している。

自己満足に陥ってはならない

 「私たちは自己満足で研究を行ってはなりません。顧客の需要こそが原動力なのです」遅学斌はスパコンセンターの建設に関して、何度もこう強調した。「サービスの中心理念は、需要がサービスを牽引し、サービスが研究開発を推進し、研究開発がサービスの質を高め、サービスが応用を促す、です」

 ハード面で、現在のスパコンセンターと世界の距離は縮まっている。現在使用しているレノボ製深騰7000の計算能力は、毎秒150兆回に達している。「レノボ製深騰7000環境製作プロジェクト」の審査期間は2年弱に渡った。スパコンセンターは同期間に困難な道程を歩んだ。遅学斌は同プロジェクトに全力で取り組んだ。「プロジェクト設計と装置製作のプランは、顧客の実際の計算需要を考慮し、検討と論証を重ねて立てられました。その道程はとても苦しいものでしたが、妥協することなく、顧客に満足してもらえる計算環境を作り上げようとしました」

 今年6月、スパコンセンターが自主開発した「科学計算ネットの長距離可視化方法」が国家発明特許を取得した。同ソフト技術はまさに、「顧客の需要を原動力とする」理念の重要な成果である。遅学斌は次のように説明した。「顧客はこれまで、私たちのプラットフォームを利用して計算を終えると、多くのデータを得ていました。これでは照合と表示が困難になります。そこで私は、可視化により数値を図に変換し、分かりやすくすることを思いつきました。現在、一部のユーザーはウェブを通じ私たちのプラットフォームを訪問しています。この状況下、いかにして可視化を実現するべきでしょうか。この問題を解決することが、私たちの研究開発の原動力となりました」同技術による成果は現在、科学計算ネット環境下の可視化システムを提供しており、ユーザーはウェブサイト閲覧により同長距離可視化システムを訪問することができる。既存のネット環境や可視化ソフトの旧ナンバーを変更することなく、長距離可視化を実現可能だ。これにより顧客のスパコンセンターの資源利用が容易になり、同センターのサービス品質と科学研究における実質的な応用価値を高めた。

センターのために経費集め

 「スパコンセンターに異動されてから8年が経過しますが、何か特別な感想はありますか?」と記者が遅学斌に質問した。

 「スパコンの応用について、さらなる改善が可能です。コンピュータは科学研究にとって有用であり、私たちが提供する並列計算は、研究者たちの計算問題解決の規模と効率を向上させることができます。しかし並列計算の分野に従事する人は少なく、また並列計算の使用をさらに普及させる必要があります。数学、物理、化学、地理、バイオ科学などさまざまな分野における問題点の多くは、スパコンセンターの提供する並列計算プラットフォームにより解決できます」遅学斌は現在、同センターの管理事務にいそしむ他に、並列計算の普及に力を尽くしており、毎年全国各地で研修会を開催している。

 「またソフト開発チームの安定性をいかに維持するかという課題があります」と、遅学斌は不安な表情を見せた。「開発チームの維持は難しく、資金源の確保面に問題が存在します」スパコンセンターは科学院内部の機構を対象に無料で開放されている。同センターの資金源はプロジェクトが中心で、国家から経費を支給されることは稀だ。「アプリケーションソフトの研究開発は重要です。中国はこの面が弱いのですが、私たちは諦めてはなりません。私は今、あちこちを訪ねセンターのためにプロジェクトを獲得し、そこから経費を得て開発チームを維持しています」

 「この仕事は辛くありませんか?」という記者の質問に対して、遅学斌の「人のためにはしごになる」という一言が、彼の仕事に対するすべての思いを表している。「私たちの目的は、より効率的な方法を科学者に提供することです。この目的が達成されれば、辛くても平気です」


遅学斌、中国科学院コンピュータネット情報センタースーパーコンピュータセンター主任、博士指導員。