【12-001】中国の脱炭素社会シフトを加速させたCOP17
範 雲涛(亜細亜大学アジア・国際経営戦略研究科 教授) 2012年 1月31日
2009年12月のコペンハーゲン会議以前から、中国は,すでに着々と理論的な検討を進め、国内経済のインフラ整備および環境保全とエネルギ--開発利用に関する法整備に取組み、それと平行して国際交渉戦術を巧みに駆使して温暖化外交を積極的に展開してきた。2011年12月10日閉幕したCOP17会議を経て、2011年12月27日に国務院主催による「COP17国際交渉総括大会」が北京で開かれた。商務部、外交部をはじめ、国家発展改革委員会、気象庁、国家環境保護総局などの17ヶ所の中央省庁や関連部署から総勢100人以上の専門家会議が招集された。ダーバン会議で得られた国際交渉の成果を総点検し、今後2015年からはじまる2020年を発効の目処にする京都議定書次期国際枠組みに向けた国際管轄官庁のコンセンサスを強化させる趣旨で今後の国家方針が確認された。すなわち、これまで、脱炭素社会への構造転換を本格的に宣言することに躊躇っていた中国は、COP17によって得られた外交成果を外圧として利用し、国内の経済成長パターンを思い切って切り替えたのである。
12月5日、COP17会議の最終局面において、中国代表団団長謝振華さんはこのように発言した。「一定の条件が整えれば、中国は2020年以降の二酸化炭素削減義務を数値目標として受諾する用意がある」との趣旨のコメントがマスコミに向けて出されたのである。これを、アメリカやEU諸国の主要メデアがたちまち早とちりして、この発言がすでに中国政府が、2020年から発効される見込みの京都議定書次期国際枠組みへの無条件参加を意味する公式見解かとミスリーデイングした騒ぎが起きた。
それにもかかわらず、中国の本気度を示す具体的な政策パッケージが昨年12月中旬にははっきりと示されている。2011年12月15日付では,国務院が公布した《国家環境保全第12次五カ年計画ガイドライン》によれば、2016年までの間に,中国の環境省エネ政策プログラムの思い切った実行が、環境に優しい経済社会作りと資源エネルギー節約型の経済成長モデルへの構造転換を約束する最優先課題であると宣言されている。具体的な約束指標インデックス数値に関しては,以下の図表で確認できる。
出所:中国国務院公表(2011年12月15日) | ||||
順位 | 政策目標 | 2010年基準 | 2015年基準 | 2010/2015 比伸び率 |
1 | COD排出総量(万トン) | 2551.7 | 2347.6 | -8% |
2 | NH3アンモニア排出総量(万トン) | 264.4 | 238.0 | -10% |
3 | Sox排出総量(万トン) | 2267.8 | 2086 .4 | -8% |
4 | Nox排出総量(万トン) | 2273.6 | 2046.2 | 10% |
5 | 地表水国家排出基準V分類水質比例(%) | 17.7 | <15 | -2.7% |
七つの河川流域国家排出基準Ⅲ分類を上回る比例(%) | 55 | >60 | 5% | |
6 | 地方レベル以上の都市大気コーリテイーが2級以上になる比例(%) | 72 | ≧80 | 8% |
以上の図表で読み取れるように、第12次五カ年計画(2012年-2016年)の実施は,2013年10月に予定されている中国共産党第18回大会で採択される第5世代最高指導者交替により、新たな習近平新国家主席体制のもとで、年率7%前後の成長率を維持する一方で,脱炭素経済社会、ひいては日本やドイツ、フランス、アメリカのような環境先進国と肩を並べるような資源再生・循環リサイクル型持続可能な「普通の大国」に脱皮していくことができるかどうかの試金石となる。
EU諸国で取引されているEU−ETS排出権市場に倣って、2013年から2020年までに中国でも本格的に二酸化炭素と二酸化硫黄、NOx等主要汚染物、大気汚染物質に対する国内排出権市場の育成が模索されることが、国家重要戦略として策定されている。まず、その実験モデル都市として指定されているのは、
北京、上海,重慶、天津という直轄市以外に、広東省経済特別区深圳市,加えて湖北省、広東省を含めた7ヶ所である。
2013年から本格的に中国独自の基準スタンダードで実験される排出権取引市場が成功するかどうかは、2020年に向けた京都議定書次期枠組み再構築における中国のリーダーシップを左右する程の重要性を持つことは、言うまでもない。いままで「環境問題のデパート」と揶揄されてきた中国が,いよいよ環境対策、省エネ産業の振興で約55兆円規模の大型公共投資を注ぎ込まれる中,
やがては、東日本大震災や円高不況でダブルパンチを受けている日本を後目にして、着実に環境対応の先進国にまで成長し、京都議定書メカニズムの擁護者たる国際的地位を不動のものにしていくものと予想される。
範雲涛(はん・うんとう):
亜細亜大学アジア・国際経営戦略研究科教授/中国人弁護士
1963年、上海市生まれ。84年、上海 復旦大学外国語学部日本文学科卒業。85年、文部省招聘国費留学生として京都大学法学部に留学。9 2年、同大学大学院博士課程修了。その後、助手を経て同大学法学部より法学博士号を取得。東京あさひ法律事務所、ベーカー&マッケンジー東京青山法律事務所に国際弁護士として勤務後、上海に帰国、日系企業の「駆け込み寺」となり、日中関係や日中経済論、国際ビジネス法務について、理論と現場の両方に精通した第一人者。著書に、『中国ビジネスの法務戦略』(2004年7月日本評論社)、『やっぱり危ない!中国ビジネスの罠』(2008年3月講談社)、『中国ビジネス とんでも事件簿』(2008年9月 PHPビジネス新書)など。