【17-009】中国高速鉄道の発達で「南轅北轍」が可能に
2017年10月30日
楊保志(風生水起);広東省科技庁科技交流合作処副調研員
河南省潢川県出身。入学試験に合格し軍事学校に入学。26年間、軍務に就き大江南北を転戦し、その足跡は祖国の大好河山に広くおよび、新彊、甘粛、広東、広西、海南などの地域で銃を操作し弾を投擲した。メ ディア、組織、宣伝、人事などに関する業務に長年従事し、2013年末、広東省の業務に転じた。発表した作品は『人民日報』『光明日報』『中国青年報』『検査日報』『紀検監察報』『法制日報』『解放軍報』『 中国民航報』などの中央メディアの文芸・学術欄に、また各地方紙、各軍関連紙軍兵種報紙にも掲載され、『新華文摘』『西部文学』『朔方』などの雑誌や、ラジオ、文学雑誌にも採用され、“中国新聞賞”文芸・学 術欄銀賞、銅賞をそれぞれ受賞し、作品数は500篇に迫る。かつては発表を目的に筆を執っていたが、現在は純粋に「自分の楽しみ」のためとしている。
「南轅北轍」(なんえんほくてつ)は四字熟語で、戦国時代の逸話がまとめられた「戦国策・魏策」に出てくる。同書によると、季梁という男が太行山の麓で魏の人に出会った。その人は、北 に向かって馬車を走らせており、「楚へ行く途中」と季に告げた。季は、「楚へ行くならなぜ北に向かっているのか?楚は南にあるのでは」と言ったものの、「私の馬はいい馬だから」という返事が返ってきた。そして、「 いい馬でも、方向が違う」と告げると、「私はたっぷり金を持っているから」と返答され、「 お金がたくさんあっても、本当に方向が違いますよ」と告げると、「私の車夫は馬車を操るのが上手ですから」と いう返事が返ってきた。最後に、「それらの条件により、あなたは楚からさらに遠ざかってしまう。あ なたの目的と行動は正反対で、目的にはたどりつけない」と告げたという。
「南轅北轍」という言葉は現在、意志と行動が矛盾していることの例えとして用いられ、中国には他に「背道而馳」、「適得其反」など、他にもよく似た四字熟語がある。しかし、現在の中国、特 に高速鉄道時代に入り、「南轅北轍」が物理的に可能になっている。
先日、国慶節(建国記念日、10月1日)に合わせた連休期間中、湖北省武漢市の友人が北方地方へ行こうとしたものの、京広高速鉄道(北京-広州)のチケットが手に入らず、南に向かう高速鉄道に乗って、湖 南省長沙市へ行き、そこから迂回して最終的に京滬高速鉄道(北京-上海)に乗って目的地へ到達した。高速鉄道はスピードが速く、連休で時間も十分あったため、そのような足取りでも、時間の無駄はほとんどない。高 速鉄道のスピードのメリットと網の目のように張り巡らされている高速鉄道網を活用して、目的地にたどり着いたのだ。
昔、南の楚へ向かうために、馬車を北に走らせていた魏の人が目的地にたどり着けなかったのに対して、現在では南方地方に住む人が北に向かうために、南の方向に出発し目的地にたどり着いてしまうとは、実 におもしろい。友人は、「これは今の発達した高速鉄道のおかげ」と話していた。
近年、中国の高速鉄道は拡大を続け、多くの人にとって便利な交通機関となっている。2008年2月26日から、中国鉄道当局は科学技術当局と共同で、時 速380キロの新世代高速列車を走らせるための研究開発を進めている。中国では高速鉄道がまさに雨後の筍のように発展、拡大している。
新浪財経網と現代電視網のニュースからそれを見てみよう。
「2008年8月1日、中国初の完全自主知的財産権を有する世界一流の高速鉄道・京津都市間鉄道(北京-天津)が開通した。」
「2009年12月26日、世界最長で、工事が最も複雑だった時速350キロの武広旅客専用線(武漢-広州)が開通した。」
「2010年2月6日、世界で初めて陥没しやすい黄土の地域に線路が敷かれ、中国中部と西部を結ぶ時速350キロの鄭西旅客専用線(鄭州-西安)が開通した。」
「2012年12月1日、世界で初の標高が高く極寒地域の高速鉄道・哈大旅客専用線(哈爾浜(ハルビン)-大連)が開通し、東北三省の主要都市を結んだ。冬季でも、同 鉄道はハルビンと大連を4時間40分で結んでおり、時速200キロで走行している。」
「2013年7月、江南水郷を越える寧杭旅客専用線(南京-杭州)が開通した。」
「2014年6月、一度の工事で造られたものとしては世界最長の高速鉄道である蘭新線第二複線(蘭州-ウルムチ)が開通した。」
「2016年12月、滬昆旅客専用線(上海-昆明)が全線開通し、雲南省へのアクセスが便利になった。」
「今年 8月3日、河北省張家口と内蒙古(モンゴル)自治区呼和浩特(フフホト)を結ぶ高速鉄道の鳥蘭察布(ウランチャブ)とフフホト東区間が開通した。1 18万3千平方キロメートルの内モンゴルの草原を走る初の高速鉄道だ。」
現在では高速鉄道があるため、北京と上海間の移動は6時間もかからず、国慶節前に導入された時速350キロの「復興号」に至っては、上海と北京をわずか 4時間半で結んでいる。国慶節の連休期間中、多 くの人は高速鉄道で旅行などに出かけた。
中国の最新の高速鉄道「復興号」
「復興号」の車内
中国国家統計局によると、2012年の中国共産党第18回全国代表大会以降、中国は高速鉄道の建設への資金投入を加速させ、高速鉄道網が急速に形成されており、現在、「八縦八横」の 中国高速鉄道網が形成されている。
「八縦」は、
- 東部沿海鉄道(瀋陽-大連-煙台-杭州-寧波-温州-厦門(アモイ)-広州-湛江)
- 京滬線(北京-上海)
- 京港線(北京-深圳/九龍)
- 京哈京港澳線(ハルビン-長春-瀋陽-北京-石家荘-鄭州-武漢-長沙-広州-深圳-香港)
- 呼南線(フフホト-南寧)
- 京昆線(北京-昆明)
- 包(銀)海線(包頭-海口)
- 蘭(西)広線(蘭州-広州)
を指す。
「八横」は、
- 綏満線(綏芬河-牡丹江-ハルビン-斉斉哈爾(チチハル)-海拉爾(ハイラル)-満州里)
- 京蘭線(北京-蘭州)
- 青銀線(青島-銀川)
- 陸橋線(連雲港-阿拉山口)
- 沿江通道(重慶-武漢-南京-上海)
- 滬昆線(上海-昆明)
- 厦渝線(アモイ-龍岩-贛州-長沙-常徳-張家界-黔江-重慶)
- 広昆線(広州-昆明)
を指す。
「八縦八横」はほぼ全線開通しており、2016年末の時点で中国全土の高速鉄道は計2万3千キロで、2012年末と比べて1万4 千キロ伸びた。高速鉄道が占める割合は2012年末の9.6%か ら18.5%にまで上昇し、その距離は世界一で、世界の総距離の60%以上を占めている。
以前はアクセスが悪く、埋もれていた観光地には、高速鉄道が開通したため多くの観光客が押し寄せるようになり、自然の美しい地域の観光サービス収入は日に日に増加している。第一財経網の報道によると、貴 広旅客専用線(貴陽-広州)が開通して以降、もともと静かな場所だった貴州の肇興村は年々にぎやかになっている。2016年、肇興景勝地には中国国内外から前年同期比56.27%増 の延べ124万800人の観光客が訪れ、観光収入は合わせて前年同期比31.06%増の7億3 千万元(約124億円)に達した。また、開通から約2年の間に、広 東から貴州に向かった観光客は延べ3700万人に達した。
統計によると、2016年、中国全土では延べ12億2千万人が高速鉄道を利用し、2012年と比べると2.1倍となった。これは、世界の他の国や地域の総和を超える数に相当する。高速鉄道の発展は、中 国を「小さく」しており、行きたいときにすぐに行きたい場所へ行ける環境が整ってきている。
高速鉄道網の構築により、都市群や都市圏の発展も加速した。バスなどに比べると、高速鉄道や都市間鉄道などは、多くの人を乗せることができるほか、目的地に時間通りに到着し、安全性も高く、都 市発展の基礎となっている。産業の移転や合理的な配置は、高速鉄道、都市間鉄道の整備にかかっている。広東省を例にすると、現在、高速鉄道、都市間鉄道ネットワークが構築され、さ まざまな産業が珠江デルタや広東省の東・西・北地域で合理的な計画を進めることができるようになっているほか、ハイエンドサービス業-ミドル・ハイエンド製造業—労働密集型産業のつながりが形成されている。
中国第一財経網の報道によると、今年5月、「一帯一路」(the Belt and Road)の参加国20ヶ国の若者がこのほど、自分が考える中国の「新四大発明」を選出し、その中でも「高速鉄道」が「 モバイル決済」、「シェア自転車」、「ネット通販」を抑えて彼らが最も母国に持ち帰りたいと願う「中国のライフスタイル」となった。そんな中国の高速鉄道に賛辞を送りたい。