中国実感
トップ  > コラム&リポート 中国実感 >  【19-001】中国お手伝いさん事情――無敵の「おばさん」からアプリの専門サービスへ

【19-001】中国お手伝いさん事情――無敵の「おばさん」からアプリの専門サービスへ

2019年1月16日

斎藤淳子:ライター

 米国で修士号取得後、北京に国費留学。JICA 北京事務所、在北京日本大使館勤務を経て、現在は北京を拠点に、読売新聞、共同通信、時事通信のほか、中国の雑誌『瞭望週刊』など、幅広いメディアに寄稿している。

 お手伝いさんや家政婦というと日本ではほぼ上流家庭の特権だが、男女共働きで核家族化が進み、豊富な労働力を抱える中国の都市部では日本よりも身近な存在だ。そもそも、中国語の「家政婦」は「おばさん」という意味の「阿姨」(アーイ)と呼ぶ。文字通り子守りから家事全般を何でも引き受けてくれる「おばさん」的な存在だ。

 筆者宅にも15年前の子持ち駐在員時代には阿姨がいて、週5日朝8時過ぎから帰宅するまでお世話になった。出勤中は子守り、掃除、洗濯、買い出しのほか、豚の角煮や餃子などの素晴らしい夕食を準備し、突然の残業や来客の夕食対応も丸ごと引き受けてくれた。我が阿姨は人柄も良く、働く女性の絶大な味方になってくれた。

 一方で、当時は良く「阿姨さん武勇伝」も耳にした。猛烈におしゃべりな人や家でシャワーや昼寝をする旧国営企業の習慣が抜けない人、床の雑巾と台布巾を一緒に洗っていた人など。また、こちらでは「我が社の阿姨はお金儲けのために手段を選ばず雇い主を騙すようなことはない、誠実な人間です」などという紹介業者の広告もあり、思わず心配になる。

 こんな一部の失格阿姨への対策故か、近年のお手伝い業は規範化され、専門化されつつある。最新の紹介機関は阿姨を研修したのち格付けし、以前のようにマルチな「阿姨」としてではなく、大きく「母子ケア」、「ハウスキーパー」、「高齢者ケア」の3つの「専門分野」に分けて派遣する。

 そのうち、シェアが一番大きいのは母子ケアで、その中でも一番中国らしい高級サービスが「月嫂」だ。中国には家継ぎを重視する伝統を背景に、産後ひと月ほど母体を保護する習慣(「月子」〈ユエズ〉)がある。そうした風土を背景に現代の一人っ子ママから絶大な支持を得ているのが「月嫂」というサービスだ。「月嫂」は産後1~2カ月、泊まり込みで新生児の面倒とお母さんへの栄養食の提供や健康チェックなど母子限定の世話をする。他の家事はしないのに、費用は泊まり込みの一般家政婦の2倍の1万元(約16万円)以上と高額だ。日本人には少々過剰に見えるが、イマドキの新米ママの不安感と経済力と地位を反映したサービスのようだ。

image

写真①:「月嫂」は都市部で人気の高級サービスの一つ。撮影/楊涛

image

写真②:紹介所が主催する訓練を受けて「月嫂」として派遣される。撮影/劉文華

 次にシェアが多いのが一般的なハウスキーパーで、こちらは時間給だ。そして、3つ目が高齢者ケアだが、月給は4,500元前後と業界内では最低レベル。中国は、日本と逆で、新生児ケアとは対照的に、高齢者介護の重要性や専門性はまだ確立されていない故かもしれない。

 これら以外にも、最近は珍しい家政婦も登場している。子供の早期英語教育を念頭に置いたフィリピン人家政婦や、大卒中国人家政婦、接待もこなし大面積の掃除の研修も受けた「別荘専用家政婦」、さらには米国での出国出産にお伴する「出国ビザ保有」の産褥嫂さんまでいるという。

 また、近年は、家政婦紹介業界でもデジタル化が進み、携帯アプリから候補者の履歴書や写真をチェックし、派遣予約ができる大手傘下の新興企業も出現。今や「日本式」「収納師」による服や台所のスーパー片づけサービスも携帯から予約できる。

 中国の家政婦業界では、15年前は良くも悪くも無敵な阿姨さんが何でも対応してくれたが、最近はこんな風に専門化、多様化、デジタル化が進んでいる。北京のお手伝いさん業界の深化はまだまだ続きそうだ。


※本稿は『月刊中国ニュース』2018年12月号(Vol.82)より転載したものである。