【07-004】躍進する上海地区の知財活動~上海市知識産権局を訪ねる~
内野 秀雄(中国総合研究センター フェロー) 2007年6月20日
中国は5月1日(メーデー)から7日までをゴールドウィーク7連休とするのが恒例化している。そのため、直前の4月30日までは土日でも通常 出勤となっている。われわれは4月29日(日)に 上海市知識産権局(Shanghai Intellectual Property Administration=SIPA)を訪ね、国際合作処・厳睿副処長にSIPAの活動状況を紹介してもらった。
上海市知識産権局は2000年4月に上海市専利管理局から現在の名称に変更され、事業部門から行政機関に変り、上海市人民政府の直属機関となった。中央には国務院直 属の国家知識産権局があり、地 方には上海市知識産権局をはじめとする各省、市、自治区、更に区、県などの行政単位に至るまでの地方政府所属の知識産権局が ある。中国では「発明専利」(日本の「特許」に相当)、「実用新型専利」(同「 実用新案」)、「外観設計専利」(同「意匠」)の3つ特許権は知識産権局が 主管し、商標権は工商行政管理局が、著作権は版権局がそれぞれ管轄している。中国の「専利」は、英語で「Patent」と訳され、特 許に相当する。中国の 特許法の正式な中国語の名称は「中華人民共和国専利法」である。
国家知識産権局と上海市知識産権局の機能は何か?
国家知識産権局の機能は、(1)特許法、知的財産権関連の法規・規則・制度の見直し、(2)対外知財活動方針、政策の研究・策定及び国際協力・交流・交渉 (3)全 国特許活動発展計画の策定及び特許関連情報ネットワークの拡充(4)特許権の確定・権利侵害判断基準の策定、特許権付与機関の指定・管理、地方に 対する特許紛争処理・ニセモノ取締りの指導、特許代理機関の指定( 5)特許法及び関連法規の宣伝・教育・訓練(6)国務院から与えられたその他の業務の遂行、である。これに対して、上海市知識産権局の機能は、
- 国家の特許関連法律、法規、方針等の実行と共に、上海市の実情に合った地方の特許活動に関する法規、規則、施策等の策定並びにそれらの実施
- 上海市独自の特許中長期発展計画の策定、実施及び特許と関連産業の調和の取れた発展戦略の研究、政策提言
- 特許申請の受理及び法に基づく特許紛争の処理、ニセモノ特許行為の取締り
- 特許法及び知財権関連法律、法規の宣伝・教育・訓練
- 特許技術マーケット、特許仲介サービス機関及び特許ライセンス貿易の管理及び他の政府機関の技術輸出入に関わる特許業務に対する協力
- 市の特許情報の公表及び特許情報ネットワークの構築、特許情報資源の開発利用に対する指導
- 市の対外知財活動の調整、香港、マカオ、台湾地区を含む海外との協力・交流
- 行政再討議の受理及び行政訴訟の応訴
- 市政府から与えられたその他の業務の遂行
など9項目が挙げられる。
上海市知識産権局と国家知識産権局はどのような関係にあるか?
上海市知識産権局は他の省、市、自治区の知識産権局と同様に国家知識産権局の業務指導を受けているが、国家知識産権局に隷属する機関ではない。上海市知識産権局の人事権は上海市人民政府にあり、事 業予算は地方政府の交付金で賄っている。
中国における特許申請は、国家知識産権局専利局受理処または全国各地に設けられている国家知識産権局専利局代弁処で受理されている。受理された特許の審査 と権利付与は国家知識産権直属の国家知識産権局専利局によって行なわれているので、上海市知識産権局を含む地方政府直属の知識産権局には特許審査権と付与 権を有していない。上 海市知識産権局の建物の一階ロビーの一角に「国家知識産権局上海専利代弁処」が構えられているが、それは国家知識産権局専利局が上海 市知識産権局の中に設置した特許申請代弁処である。
上海市知識産権局の組織・機構
上海市知識産権局の中に1つの室と5つの処が設けてられている。それらは総務の仕事を担当する弁公室とニセモノの摘発・起訴・法の執行を担当する 政策法規処、特許戦略の提案・人 材育成を担当する企画発展処、特許の管理・実施・ライセンス貿易を担当する専利管理処、他機関との協調・違法行為の共同取 締りを担当する協調管理処、外国との協力・交流を担当する国際合作交流処である。上 海市知識産権局の職員数は局長以下43名と意外に少ない。各部署の人員 内訳は、政策法規処5名、企画発展処5名、専利管理処10名、協調管理処4名、国際合作交流処3名、残 り16名は局長以下幹部及び弁公室の職員が占めてい る。そのほかに、連携機関として上海市知識産権サービスセンターと上海市知識産権発展研究センターがある。上海市知識産権サービスセンターは、国内外の特 許関連データ・文献の収集、加工、整理、検索サービスを提供し、特許技術の商品化、産業化、市場化サービス及び知的財産権の訓練、教育を実施している。ま た、上 海市知識産権発展研究センターは海外の知的財産権に関する情報収集や発展動向の研究を行っている。
上海市知識産権局を中核メンバーとする「上海市知識産権合同会議」(Shanghai Intellectual Property Joint Conference)は2004年に設立された。現 在23の正式メンバー機関と8のオブザーバー機関から構成されている「上海市知識産権合同会議」の事 務局は上海市知識産権局の中に設置されている。「上海市知識産権合同会議」の主な職責は、知 財行政管理部門と法律執行部門の調整、重要な知財計画・施策・ 法規の策定、全市規模の違法摘発統一行動の実施、知財保護に向けた宣伝教育の強化、国内外の知財組織との交流・協力の促進を行なうことである。
上海市知識産権局と日本との交流・協力
上海市知識産権局は日本知的財産協会(JIPA)及び日本の企業との交流・協力にも積極的取組んでいる。日本知的財産協会との協力により“企業成 長と知財戦略”を主題とする『 第1回日中企業連携知財権フォーラム』(2005年9月)、 “商業秘密の保護”をテーマとする『第1回上海・日中企業知財権連携会議』(2006年2月)が開催された。最近では、日産自動車知財部代表団、ト ヨタ自 動車知財部代表団が相次いで上海市知識産権局を訪問、知財保護政策及び知財活動について意見・情報を交換した。
上海市の最新知財活動成果
上海市知識産権合同会議事務局は最近「2006年上海知的財産権発展と保護状況白書」を発表した。それによると、2006年の上海市の特許、実用 新案、意匠の出願件数は史上最高の36,042件、前 年比10.1%増、全国ランキング第5位、そのうち特許出願件数は12,050件、同15.4%増、 全国ランキング第3位。特許、実用新案、意匠の権利取得数は16,602件、同31.7%増、そ のうち特許権取得数は2,644件である。また、上海市科 学技術委員会指定の52の科学技術教育によって市を興すという重要産業科学技術難関攻略プロジェクトでは747件の専利出願が実施されている。上 海の企業 の専利出願件数は24,835件、前年比8.5%増、総出願数の68.9%を占める。大学の専利出願数は3,066件、前年比3.8%増、連続して全国ラ ンキング1位をキープしている。