【09-007】世界一流大学~中国人の世紀の夢~
2009年6月19日
劉宝存:
北京師範大学比較教育研究センター 国際・比較教育研究院長
1964年生まれ。中国共産党員。北京師範大学国際・比較教育研究院院長。教育部人文・社会科学重点研究拠点である北京師範大学比較教育研究センター長。教育学博士、教授、博士課程担当教員。2007年に教育部の新世紀における優秀人材支援計画に入選。
比較教育学と高等教育研究を専攻。「地域における高等教育の構造調整と高等教育機関の役割設定に関する比較研究」、「世界一流大学の形成過程およびメカニズムに関する国際比較研究」、「創造型国家の建設における中国の高等教育の地位と作用」、「国家直属の高等教育機関と市所属の高等教育機関による資源共有に関する研究」、「研究型大学における学科間連携に関する比較研究」といった国家レベルや省・部レベルの科学研究を主宰。Chinese Education and Society、『比較教育研究』、『外国教育研究』、『学位・大学院生教育』、『中国高等教育』といった雑誌において100以上の学術論文を発表。『大学理念に関する伝統と変革』、『世界一流大学の形成と発展』、『国際的視野で見る大学の革新教育』、『中国における教育改革の30年:高等教育編』、『現代における高等教育原理』などの著書を多数出版。
1998年5月4日、江沢民は北京大学創立100周年記念大会において「近代化を実現するため、中国は世界先端水準の一流大学を有しなければならない」と宣言した。1998年12月24日、教育部は『21世紀に向けた教育振興行動計画』を正式に発表し、「世界先端水準の一流大学および一流学科をつくり上げる」ことを提起した。その後、世界一流大学をつくり上げることが、中国の高等教育改革の課題となるとともに、有名な高等教育機関の努力目標にもなった。新中国成立後の重点大学整備から、20世紀90年代の「211プロジェクト」および「985プロジェクト」の実施を通じ、世界一流の高等教育機関をつくり上げるという夢は国内にくまなく浸透した。
1. 新中国成立から改革開放初期における中国の重点大学整備
新中国成立後、中国の高等教育は新しい1ページを開き、新たな歴史的時期に入った。だが、中国の高等教育はかなり多くの困難に直面した。それらは、(1)高等教育機関全体の規模が小さく、新中国成立当初では全国の高等教育機関は205校、うち公立大学124校、私立大学81校であった。(2)高等教育の地域的発展が極めてアンバランスで、全国の高等教育機関は華東地区が最多で73校、西南地区は42校であった。(3)学科設置が繁雑で、学科の構成が合理的でなかった。(4)教師の数が不足し、教育機関設立条件が悪く、教育水準が玉石混交である、などの問題があった。新中国成立後、中国の社会主義建設事業を進めるにつれ、旧ソ連に全面的に学んで政策を決め、重工業を優先的に成長させることにしたが、関連産業に必要な技術面の人材が非常に不足していた。この問題を解決するため、急速に一群の重点大学を整備し、人材の育成を加速したが、これは中国社会経済の発展にとって極めて意義があった。中国の重点大学は、新中国成立以前から存在していた高等教育機関を基礎とし、旧ソ連の経験を全面的に学び、大国への経済成長戦略と高等教育の回復・成長戦略を背景として徐々に成長してきた。
(1) 20世紀50年代における中国の重点大学の整備
1951年から1953年にかけてのの学部・学科整備を経て、1954年、中国の高等教育は旧ソ連的特色を持つ高等教育機関運営モデルをほぼ確立した。これは中国の高等教育がほぼ旧ソ連に対する全面的学習段階に入ったことも意味している。高等教育機関の管理経験をさらに模索し、旧ソ連の先進的な経験をより深く学ぶため、当時の高等教育部は全国の高等教育機関の中から一群の重点機関を認定し、これらの高等教育機関には国が制定した方針・政策の徹底、旧ソ連の先進的な経験の学習、教育改革の実施、行政的指導の強化等の各分野で一歩先を進ませ、経験を蓄積させた。高等教育部は適時その経験をまとめ、それらを普及してその他の高等教育機関を共に成長させるようにした。1954年10月5日、政務院文化教育委員会の承認を経て、高等教育部が『重点高等教育機関および専門家業務範囲に関する決議』を発布した。同『決議』では「重点教育機関の主要任務は以下の3つである。1つ目は質の高い各種の人材と科学研究人材を育成すること。2つ目は 高等教育機関のための教師を育成すること。それには大学院生と研修教師からなる研修クラスを設けたり、多くの本科卒業生を高等教育機関の教師として学校に留めるようにする。3つ目は教師育成、教育業務、教育資材等でその他の高等教育機関を支援すること。このほか、高等教育部に協力して必要な主要実験の実施、大きな課題の解決、外国人留学生の受け入れ、通信教育クラスの創設等を行わなければならないこと」[*1]とした。『決議』ではさらに重点高等教育機関認定の条件と原則を示した。それらは「(1)教師・設備等の条件が良いこと。(2)旧ソ連の専門家の指導と支援があること。(3)行政的指導が整っていること。(4)教育改革に顕著な成果と経験を有すること。重点高等教育機関は多すぎないようにし、指導を強化しやすいようにすること」[*2]であった。当時の高等教育機関の状況に基づき、『決議』では暫定的に、中国人民大学、北京大学、清華大学、哈爾濱工業大学、北京農業大学、北京医学院の6校を全国レベルの重点大学に認定した。これは新中国成立後、中国で最初の重点大学の確立であり、国は教師の配置転換や、外国人研究者の招聘、インフラの整備、学科設置等によって重点大学を支援した。数年の成長を経て、上述の重点大学は教師陣の充実および、キャンパスインフラの整備、教育水準、人材育成などが向上し、旧ソ連高等教育をよく学び、重点大学の総合的実力は高まった。
(2) 20世紀60年代における中国の重点大学の整備
1958年から1960年まで、中国の経済政策の「大躍進」に伴い、高等教育も「左」の思想的影響を深く受け、盲目的発展の現象を生んだ。盲目的発展のため、多くの大学では必要な物資や教師・設備が不足し、教育の質が確保できないばかりか、国家経済はその重い負担に耐えられなくなっていった。こうした状況に対応し、国は1959年1月に北京で教育業務会議を開いた。会議では教育業務の方針は主に「強化および調和、向上」であり、さらにこれを基礎として重点を設けた成長を目指し、重点教育機関の質を確保し、重点教育機関への支援を弱めることなく一般の大学にも配慮しなければならないと指摘した。1959年5月17日、国は『高等教育機関の中から一群の重点教育機関を指定することに関する決定』を通達した。同『決定』では、高等教育を発展させ、平均的に資源投入するによって高等教育の質の全般的低下をもたらさないようにし、高等教育の質を今後次第に高めようとするという観点から、既存の比較的基礎条件を備えた高等教育機関の中から少数の大学を指定し、現時点から措置を講じ始め、教育の質を重点的に高めることが必要だ、と指摘している。これにより、この時に指定された全国の重点高等教育機関16校は、北京大学、中国人民大学、復旦大学、中国科学技術大学、上海第一医学院、哈爾濱工業大学、清華大学、天津大学、上海交通大学、西安交通大学、華東師範大学、北京工業学院、北京航空学院、北京農業大学、北京医学院、北京師範大学である。この16校の指定効果を確保するため、『決定』では以下の要求を提起している:(一)上述の重点教育機関は、現時点から直ちに質の向上に重心を置き、中央の同意を経なければ学校の規模を拡大してはならず、また在校生の増加と学部・学科の増設を行ってはならない。学生募集では新入生が良好な政治的条件、文化水準および健康条件を備えていなければならない。学校運営では機構の合理化と倹約運営の原則を守らなければならず、浪費は許されない。(二)上述の重点教育機関は、必ず大学院生を募集して真剣に育成し、高等教育機関教師の研修任務を適度に支援し、他の教育機関との教材交換と教育経験の交流等を行うことで、全国の高等教育業務の質を高める。(三)上述の重点教育機関では、その指導者関係は従来通りで変化はない。『決定』の精神に基づき、教育部は重点高等教育機関16校の学科設置、学生募集数および成長規模を定めた。[*3] その後、国は中国医科大学、哈爾濱軍事工程学院、第四軍医大学および通訊工程学院の4校も全国重点高等教育機関に追加した。
1960年10月22日、国はさらに『全国重点高等教育機関追加に関する決定』を発布し、吉林大学、南開大学、南京大学、武漢大学、中山大学、四川大学、山東大学、山東海洋学院、蘭州大学、大連工学院、東北工学院、南京工学院、華南工学院、華中工学院、重慶大学、西北工業大学、合肥工業大学、北京石油学院、北京地質学院、北京郵電学院、北京鋼鉄学院、北京鉱業学院、北京鉄道学院、北京化工学院、唐山鉄道学院、吉林工業大学、大連海運学院、華東水利学院、華東化工学院、華東紡績工学院、同済大学、武漢水利電力学院、中南鉱業学院、成都電訊工程学院、北京農業機械化学院、北京林学院、北京中医薬学院、中山医学院、北京外国語学院、国際関係学院、北京政法学院、北京対外貿易学院、中央音楽学院、北京体育学院の44校を全国重点教育機関に追加し、全国重点高等教育機関は合計64校となった。1963年にはさらに浙江大学、厦門大学、上海外国語学院、南京農学院の4校を重点教育機関に追加した。これで全国の重点高等教育機関は合計68校となり、そのうち総合大学が14校、工業大学33校、医・薬科大学5校、農・林業大学4校、政治・法科・経済大学3校、師範大学2校、外国語大学2校、芸術大学1校、体育大学1校、軍事大学3校である。
重点大学に関する業務のため、教育部は1960年に重点高等教育機関業務会議を2回開催し、重点高等教育機関の目標および任務、規模、学科設置、管理について討論し、4月12日には『全国重点高等教育機関の学科設置および発展規模に関する意見(草稿)』を発表した。10月22日、教育部の『全国重点高等教育機関に関する暫定管理規則』を配布した。1961年1月26日~2月4日、教育部は北京で全国重点高等教育機関業務会議を開き、「調和、強化、充実、向上」の方針を徹底的に実施し、重点高等教育機関に対して「規模、任務、方向、学科の決定」を行い、さらに調和を通じて教育秩序を整備し、教育の質を高め、全国重点高等教育機関の集中管理を強化することを重点的に検討した。9月、教育部は『教育部直属の高等教育機関業務に関する暫定条例(草案)』(略称:「高等教育機関六十条」)を発布した。その後、一連の条例による規制と指導により、中国の重点大学の構築に関する切迫した問題は解決され、次第に安定した成長軌道を歩み始めた。
(3) 20世紀70年代から改革開放初期における中国の重点大学の整備
1966~1976年、中国では「文化大革命」が起こり、極「左」路線の影響を受け、一部の重点大学は取り消し、合併、運営停止、または農村、内陸部への移転となり、多くの校舎が占用され、計器、図書、設備が大量に破壊され、党政指導幹部と教師は深刻な打撃を受け、多くの教師は教育と研究を中断せざるをえず、少なからぬ人々は高等教育の場から去り、中国の高等教育の成長に極めて大きな影響を与え、一世代の人々の育成と成長が遅れてしまい、一定期間各専門分野の人材不足をもたらし、中国の経済社会の発展に深刻な影響を与えた。
「文革」終息後、党中央の指導の下、特に鄧小平が自ら指導して大きく推進したことで、高等教育分野は真っ先に混乱から正常にもどり、回復・再建の新段階に入った。1977年7月29日、鄧小平は教育部の業務報告を受け、「一群の重点大学を重視しなければならない。重点大学は教育の中心であり、科学研究の中心でもある」と指示した。1977年8月8日、彼は科学・教育業務座談会において『科学・教育業務に関する幾つかの意見』を述べた。彼は、「高等教育機関、特に重点高等教育機関は科学研究において重要な兵力であり、あらためてその認定をしなければならない。重点高等教育機関にはこの能力があり、人材を有している」[*4]と指摘した。
1978年1月27日、教育部党組織は党中央、国務院に『全国重点高等教育機関の回復と実施に関する報告』を提出し、同報告は2月17日、国務院の同意を得て配布された。報告に含まれる『全国重点高等教育機関の回復と実施に関する意見』の中で、教育部は全国重点高等教育機関を認定する際の原則を示している。それらは(1)すでに教師、設備、校舎等の学校運営条件が比較的整い、育成能力を速やかに拡張し、教育の質を高め、科学研究を実施し、四つの近代化のために大きな貢献ができること。(2)手薄な部分と手薄な地区の強化、辺境少数民族地区の高等教育事業の整備に役立つこと、等である。
最初に認定した88校の全国重点高等教育機関のうち、従来の指定を回復したのが60校(当時は未再開の中国人民大学、北京政法学院、国際関係学院、南京農学院、中国医科大学の5校を除く)、新規追加が28校:雲南大学、西北大学、湘潭大学、新疆大学、内蒙古大学、広東化工学院、長沙工学院、南京航空学院、西北電訊工程学院、河北電力学院、大慶石油学院、阜新煤鉱学院、東北重型機械学院、湖南大学、鎮江農業機械学院、西北軽工学院、湖北建築工程学院、長春地質学院、南京気象学院、武漢測絵学院、江西共産主義労働大学、大寨農学院、四川医学院、西南政法学院、中央民族学院。これら全国の重点高等教育機関は合計88校で、当時の全国高等教育機関総数405校の約22%を占めた。その後、「文革」中に運営停止であった5校が相次いで再開され、従来通り全国重点高等教育機関となった。国務院はさらに、西北農学院、西南農学院、華中農学院、華南農学院、瀋陽農学院、山西農業大学も全国重点高等教育機関として承認した。その後、広東化工学院が華南工学院に吸収合併され、大寨農学院が取り消されて、1979年末時点で全国の重点高等教育機関は合計97校となった。[*5]
- [*1]中央教育科学研究所編:『中華人民共和国教育大事記(1949-1982)』、北京教育科学出版社1984年版、第114ページ。
- [*2]羅雲:『中国重点大学と学科の整備』、中国社会科学出版社2005版、第66ページ。
- [*3]羅雲:『中国重点大学と学科の整備』、中国社会科学出版社2005版、第66ページ。
- [*4]何東昌主編:『中華人民共和国重要教育文献(1949-)』、海南出版社1998年版、第1055ページ。
- [*5]中央教育科学研究所編:『中華人民共和国教育大事記(1949-1982)』、北京教育科学出版社1984年版、第510ページ。
2. 「211プロジェクト」、「985プロジェクト」および世界一流大学の整備
1983年5月15日、全国高等教育業務会議が武漢で開かれた。会議において、南京大学、浙江大学、天津大学と大連工学院の4校の名誉校(院)長である匡亜明、劉丹、李曙森、屈伯川のベテラン教育家4名が連名で中央に対し、『50校前後の高等教育機関を国家重要建設プロジェクトに含むための提案』を提出し、全国700余校の高等教育機関の中から基礎がしっかりしていて、実力が高く、教育と科学研究水準の高い50校を選び、「高等教育構築の戦略的重点として国家重点建設プロジェクトに含め、集中的に投資」して重点的に整備を行うことを提案した。その名称は「重要中の重要」プロジェクトとした。同『提案』は鄧小平の重点大学を「教育の中心であり、科学研究の中心でもある」とした考え方に完全に適合し、鄧小平ら中央指導者と国務院の関係部門の大きな支持を得た。鄧小平の配慮の下、匡亜明らの提案は中央指導者の支持を得、その実施を開始した。1985年5月、元国家計画委員会が正式に通達し、北京大学、清華大学、復旦大学、西安交通大学および上海交通大学の5校が国家「第7次5ヵ年計画」の重点建設プロジェクトに加えられた。通常経費のほか、中科院、農牧漁業部および衛生部が管轄する中国科技大学、北京農業大学および中国医科大学の3校もそれぞれ異なる金額で国家重点投資を獲得した。1990年、「重点大学の強化に努力」および「重点学科の国際先進水準到達の努力」という構想が、中国高等教育の発展戦略として政府業務報告に書き込まれ、『国民経済・社会発展10年計画および第8次5ヵ年計画綱要』が策定された。その年、国家計画委員会は「第8次5ヵ年計画」期間に北京大学、清華大学等5校の重点的整備を引き続き支援するほか、中国人民大学、北京師範大学、南京大学、浙江大学、南開大学、天津大学の6校を国家重点建設プロジェクトに加えた。これにより、「第8次5ヵ年計画」期間に国家「重要中の重要」建設プロジェクトに含まれる大学は合計11校となった。[*6]
21世紀を間もなく迎える時期に、グローバル化と知識経済の波は中国を経済と科学技術を基礎とした総合国力競争の新時代に向かわせた。総合国力の競争は高等教育の戦略的成長を強く要求し、中華民族の復興という切迫した課題実現も中国の高等教育全般の水準の向上を必要とし、世界一流大学の構築は中国の高等教育の成長、総合国力の向上、および経済社会の調和的発展に対して極めて重要な現実的意義を与えることになった。こうした情勢の下、世界一流大学を目標とする重点大学の整備目標が次第に水面に浮かび上がった。1991年7月27日、国家教委は国務院に対して『重点大学および重点学科の重点的整備に関する報告』を提出した。同報告では国家教委が重点大学と重点学科を設置するプロジェクトを提案し、そのプロジェクトの略称は「211」計画としている。1991年12月31日、十分な協議を経て、国家教委、国家計委および財政部が共同で、李鉄映、鄒家華、王丙乾に『重点大学および国家重点学科の整備実施プランに関する報告』を提出した。報告では、2委1部が検討した結果、「国が国家経済、社会発展に適する『重点大学および重点学科整備プロジェクト』を設けることについて全員一致で同意した」と示した。1992年12月、国家教委は『普通高等教育の改革加速および積極的発展に関する意見』を策定し、「高等教育の発展では必ず質の向上を重視しなければならない。条件を備えた省、自治区、直轄市は国務院の関係部門とともに1、2校の地元、産業を代表する先進水準の高等教育機関および重点学科を重点的に構築する。これを基礎として、国家教委は国務院の関係総合部門とともに国家水準を代表する高等教育機関および学科を計画的に選び、国務院が承認済みの「211プロジェクト」に含め、期間を分けて順次実施する」ことを提案している。
(1) 「211プロジェクト」の実施・整備
1993年2月13日、中共中央と国務院が共同で『中国教育改革と発展に関する綱要』を発布した。同『綱要』では、「世界の新技術革命の挑戦に立ち向かうため、中央と地方等の各分野の力を集中し、100校前後の重点大学および重点学科に関する業務を実施し、21世紀初頭には一群の高等教育機関および学科を有し、教育の質、科学研究および管理において、世界の高水準に達するよう努力しなければならない」と指摘している。『綱要』の精神に基づき、1993年7月、国家教委は『高等教育機関および重点学科の重点的整備に関する若干の意見』を策定し配布した。同『意見』では、「211プロジェクト」を重点建設プロジェクトとして設け、21世紀に向けて100校前後の高等教育機関および重点学科を重点的に整備することを決定している。1994年7月3日、国務院は『〈中国教育改革と発展に関する綱要〉に関する実施意見』を発布し、(1)「211プロジェクトを実施」し、21世紀に向かい、100校前後の高等教育機関および重点学科を、時期を分けて重点的に整備し、2000年までに教育の質、科学研究、管理水準および学校運営効果等を向上させ、教育改革を進展させる。(2)一部の高等教育機関が21世紀初頭に世界一流大学の学術水準に近づくか達するように努力する、と述べている。
1.「211プロジェクト」実施の主要目標
1995年、国務院の承認を経て、国家計委、国家教委、財政部は共同で、『〈「211プロジェクト」実施全体計画〉に関する通知』(以下、『計画』とする)を発布した。同『計画』は「211プロジェクト」の実施を指揮する文書であり「211プロジェクト」の目標を規定している。これは全般の目標を示すとともに、「211プロジェクト」第1期の目標も示した。それは「21世紀に向かい、一群の高等教育機関および重点学科を重点的に整備する」ことであった。数年を経て、100校前後の重点高等教育機関および重点学科が教育の質、科学研究、管理水準、学校運営効果等を大きく向上させ、高等教育改革、特に管理体制改革では明らかな進展があり、国内において高水準人材の育成、経済建設と社会発展の課題解決のための拠点となった。そのうち一部の重点高等教育機関および一部の重点学科は、世界の同種の教育機関および学科の先進水準に近づくか達しており、大部分の教育機関の運営は明らかに改善し、人材育成、科学研究において大きな成果を獲得し、地域と産業の発展に貢献し、全体として国内の先進水準に達していて、国の発展の中核となり発展のモデルの役割を果たしている。
「211プロジェクト」第1期実施では順調に成果を獲得した。「211プロジェクト」第1期の経験の総括に基づいて、国家発展・改革委員会および教育部、財政部は2002年9月、『第10次5ヵ年計画期間での「211プロジェクト」実施に関する若干の意見』を共同で通達し、その中で「211プロジェクト」第2期の実施目標を、「211プロジェクト」教育機関の重点的整備を継続し、そのうちの大部分の教育機関において全体の教育、科学研究水準を国内トップクラスに到達させ、国および地方の経済、科学技術、社会の重要課題解決のための拠点にする、とした。
2.「211プロジェクト」実施の主要任務
1995年、国家計委、国家教委、財政部は共同で『「211プロジェクト」実施全体計画』を発布し、「211プロジェクト」実施の任務を規定した。それらは主に教育機関全般の条件の整備および重点学科の整備、高等教育公共サービス体制の整備である。そのうち、教育機関全般の条件整備はその基礎であり、重点学科の整備はその中核で、教育・科学研究水準の重要な指標となり、教育機関全般の水準向上のための有効な過程となる。また高等教育公共サービス体制の整備では、重点的に整備する教育機関を通じて、資源の共用や、全国へのサービス提供によって、中国の高等教育の基盤構築を全体的に強化し、高等教育機関の教育水準と効果を高める。
『計画』では「211プロジェクト」第1期実施計画の任務を下記のようにしている。(1)一部の高等教育機関を重点的に整備することにより、教育、科学研究および人材育成の全体水準を世界先進水準に近づくか達するようにし、国際的に高い名声と地位を確立する。(2)中国の社会主義建設と密切に関係し、重点学科が集中し、多くの公共サービス体制整備任務を遂行できる高等教育機関の教育と科学研究のインフラの向上、改善を重視することで、人材育成の質を顕著に高め、一部の重点学科が国際水準に近づくか達するようにするとともに、高等教育機関の中で中核となり、成長モデルの役割を発揮させる。基礎産業、支柱産業と密切に関係する教育機関と重点学科の整備を重点的に支援し、国が早急に必要とする高水準の専門人材と応用技術人材の育成に力を注ぐことで、「211プロジェクト」実施を経済建設の主戦場に向かわせる。(3)経済社会発展、科学技術進歩および国防建設と密切に関係する重点学科を強化し、社会主義市場経済に貢献する関係分野の高水準の人材の能力を引き上げる。(4)高等教育公共サービス体制の基本的枠組み整備を完了し、それには主に中国の教育と科学研究コンピュータ網、高等教育文献保障システム等を整備して、高等教育の持続可能な発展、重点学科の整備のために有効な条件を提供する。『「211プロジェクト」実施全体計画』は国民経済・社会発展中長期計画および第9次5ヵ年計画に組み入れられ、1995年から正式に実施となった。
「211プロジェクト」は5年の実施を経て、各参加教育機関はいずれも大きな成果を得た。2002年9月、国家発展・改革委員会、教育部および財政部は共同で『「第10次5ヵ年計画」期間における「211プロジェクト」実施強化に関する若干の意見』を通達し、「211プロジェクト」第2期実施における3つの主要任務を示した。
(1)重点学科整備の強化。重点学科整備には4つの主要措置がある。① 「第10次5ヵ年計画」期間において800前後の「211プロジェクト」重点学科の整備と発展に力を注ぐ。そのうち、「第9次5ヵ年計画」期間に構築済みで、さらに強化が必要な「211プロジェクト」重点学科の整備を引き続き支援するほか、新たな学科を選んで重点的に整備する。 ② 構造調整に力を注ぎ、新興学科と融合学科の発展を支援し、情報、生命、環境保護、新材料、新エネルギー等のハイテク学科、および社会主義市場経済体制構築にとって早急に必要な人文、社会科学の発展に尽力し、その一部の学科が世界先進水準に近づくか達するようにし、中国高等教育の配置と構造を合理的な重点学科体系につくり上げる。 ③ 重点学科の教育と科学研究条件を充実、改善させ、学科の段階的編成を強化し、高水準のイノベーション型人材の育成、高水準の科学研究成果産出の拠点において近代的設備水準を高める。
(2)高等教育公共サービス体制を整備し、高等教育情報化を加速させる。具体的措置は、① 中国の教育と科学研究コンピュータ網高速地区の主幹網のレベルアッププロジェクトを実施し、「211プロジェクト」教育機関および全国高等教育機関で日々高まっている高速接続の必要性に便利で迅速なルートを提供する。同時に36の主要ノードの接続能力、ネットワーク管理能力、安全防備能力および重点学科公共情報システムのサービス能力を強化し、全国で条件を備えたすべての高等教育機関用の光ファイバーをできるだけその所在都市の主要ノードに直接接続させる。 ② 高等教育文献保障システム第2期プロジェクトを実施し、中国高等教育文献保障システムの各サービス機能を引き続き整備、発展させ、データバンクの構築とサービスの導入を強化し、中国語全文デジタル資源、データバンク、デジタル図書館拠点、オンライン目録センターおよび公共サービスプラットホームを構築し、省レベル文献情報サービスセンターを設立し、全国高等教育機関図書館の自動化とネットワーク化を促進し、高等教育機関図書館の全般の情報化水準をさらに向上させる。また「高等教育機関中国語・英語図書デジタル化国際協力計画」の実施を支援し、高等教育機関の教育・科学研究に力強いデジタル資源サポートを提供し、図書デジタル化資源の共用を推進する 。③ 計器設備と良質資源の共用システムの構築により、高等教育公共サービス体制の運営環境を大幅に改善させる。重点学科の良質な教育、設備、情報等の資源を共用に役立てるため、重点学科構築と計器設備購入を結びつけ、レベル別の計器設備共用ネットワークを立ち上げ、さらに重点学科の情報および環境、優れた教師とカリキュラム等の共用資源システムを構築し、高等教育機関の良質資源共用の仕組みを構築して全国の高等教育機関に波及させ、中国の高等教育水準全般の発展をもたらす情報サービスプラットホームを構築する。
(3)「211プロジェクト」校の全般的整備。重点学科と公共サービス体制整備の支持をめぐり、「211プロジェクト」校の全面的環境整備を強化し、教育改革を推進、深化させ、教師陣、教育の質、科学的研究、管理レベルと学校運営効果の大幅なレベルアップを図り、全体的な高等教育の発展において「211プロジェクト」校が模範となり更なる役割を発揮すること。
「211プロジェクト」とは新中国が成立以来、直接的に最大の投資を行ってきた高等教育項目である。この為、国務院は専門に「211プロジェクト」の部門間調整グループを設立し、プロジェクト実施における重大な方針、政策の問題について調整し決定している。「211プロジェクト」第1期の整備は99校の高等教育機関で実施され、主に602の重点学科と2つの全国高等教育公共サービス体制整備の項目を設置した。第1期の実施資金は186.3億元、その内中央政府の特別項目としての出資は27.55億元、部門と地域による出資は103.2億元、学校の自己資金は55.6億元となった。その用途として、重点学科の整備に64.7億元、学校と全国の公共サービ体制整備に36.1億元、インフラ整備に85.5億元が用いられている。「211プロジェクト」第2期の整備は107校の大学で実施され、第2期の実施資金は187.5億元とし、その内、中央政府による出資は60億元、部門と地域間による出資は59.7億元、学校の自己資金は67.8億元となった。その用途として、重点学科整備に97.9億元、公共サービス体制整備に37.1億元、教師陣の整備に22.2億元、インフラ整備等に30.4億元が用いられている。
「211プロジェクト」実施計画に基づき、「第9次5ヵ年計画」の実施期間には、中国全国にすでに99校の高等教育機関(8校の調整合併後、実質91校)が国家の計委から承認を受けた「211プロジェクト」国家重点項目のリストに加わっている。その内、教育部直属校57校、中央部門直属校11校、省直属校20校、軍事学校3校となっている。「211プロジェクト」第2期実施末期には、新たに13校が追加、2009年2月には5校が追加された。学校の合併により、現在「211プロジェクト」校の総数は以下のリストに示す112校となっている。
北京大学 | 中国人民大学 | 清華大学 | 北京交通大学 |
北京工業大学 | 北京航空航天大学 | 北京理工大学 | 北京科技大学 |
北京化工大学 | 北京郵電大学 | 中国農業大学 | 北京林業大学 |
北京中医薬大学 | 北京師範大学 | 北京外国語大学 | 中国伝媒大学 |
中央財経大学 | 対外経済貿易大学 | 北京体育大学 | 中央音楽学院 |
中央民族大学 | 中国政法大学 | 華北電力大学 | 南開大学 |
天津大学 | 天津医科大学 | 河北工業大学 | 太原理工大学 |
内蒙古大学 | 遼寧大学 | 大連理工大学 | 東北大学 |
大連海事大学 | 吉林大学 | 延辺大学 | 東北師範大学 |
哈爾濱工業大学 | 哈爾濱工程大学 | 東北農業大学 | 東北林業大学 |
復旦大学 | 同済大学 | 上海交通大学 | 華東理工大学 |
東華大学 | 華東師範大学 | 上海外国語大学 | 上海財経大学 |
上海大学 | 第二軍医大学 | 南京大学 | 蘇州大学 |
東南大学 | 南京航空航天大学 | 南京理工大学 | 中国鉱業大学 |
河海大学 | 江南大学 | 南京農業大学 | 中国薬科大学 |
南京師範大学 | 浙江大学 | 安徽大学 | 中国科学技術大学 |
合肥工業大学 | 厦門大学 | 福州大学 | 南昌大学 |
山東大学 | 中国海洋大学 | 中国石油大学 | 鄭州大学 |
武漢大学 | 華中科技大学 | 中国地質大学 | 武漢理工大学 |
華中農業大学 | 華中師範大学 | 中南財経政法大学 | 湖南大学 |
中南大学 | 湖南師範大学 | 国防科技大学 | 中山大学 |
暨南大学 | 華南理工大学 | 華南師範大学 | 広西大学 |
海南大学 | 四川大学 | 重慶大学 | 西南交通大学 |
電子科技大学 | 四川農業大学 | 西南大学 | 西南財経大学 |
貴州大学 | 雲南大学 | 西藏大学 | 西北大学 |
西安交通大学 | 西北工業大学 | 西安電子科技大学 | 長安大学 |
西北農林科技大学 | 陜西師範大学 | 第四軍医大学 | 蘭州大学 |
青海大学 | 寧夏大学 | 新疆大学 | 石河子大学 |
「211プロジェクト」の実施以来、十数年を経て、「211プロジェクト」校の人材育成水準は絶えず上昇を続け、学科整備では大きな効果を得、革新能力は高まり、一部の学科では国際的な先進レベルに近づき、大きな影響をもたらす成果を数多く遂げ、中国の高等教育の全体的な実力は著しく強化されている。2008年1月16日、国務院温家宝総理は国務院常務会議を招集し、高等教育「211プロジェクト」実施の進捗状況をヒアリングした。会議では「211プロジェクト」第3期の実施(2007-2011)を行うことが議決され、経験を総括し、目標を明確化し、統一的に計画しながら各方面を考慮し、高水準の大学と重点学科の整備を速め、中国の高等教育の全体的発展を推進していくことが求められた。現在、教育部は「211プロジェクト」実施の成果とその経験を総括して、国家発展改革委員会や財政部と共同で、国務院常務会議で審議され承認を受けた「211プロジェクト」第3期実施の全体案に基づいて、「211プロジェクト」第3期実施方案を検討、作成し、「211プロジェクト」第3期の実施に向けて準備を進めている。
(2) 「985プロジェクト」の内容とその実施・推進
知識経済が重要視される時代となり、知識、情報、技術などが社会経済の発展に及ぼす影響がますます大きくなっている。ハイレベルな大学は、社会経済の発展を支える動力源またはエンジンとも言うことができる。このような状況下において、共産党や政府は中華民族の偉大なる復興という将来を見据え、世界レベルの一流大学を整備するという政策を打ち出している。1998年5月4日、江沢民氏は北京大学の創立100周年記念において次のように語った。「現代化の実現のため、中国は世界先進レベルの一流大学を持つべきである。一流大学はハイレベルな創造型人材を育成する施設でなければならない。将来を見据え客観的な真理を追究し、人類が直面している諸問題を解決するための科学的根拠を提供すべきである。知識イノベーションや科学技術を実際の生産活動に応用するための重要な推進手段にしなければなければならない。中華民族の優秀な文化が、世界の先進文明と交流するための架け橋となることが期待される」。江氏の意向を反映し教育部は1998年12月24日に『21世紀に向けた教育振興行動計画』を制定した。同『計画』では国家予算の集中的な投入や多角的な刺激政策が実施され、重点学科の整備を最優先し段階的に拡大していく方針である。一部の高等教育機関や既に世界先進レベルに近い条件を備えている学科を中心として計画が進められる。今後10~20年に一部大学や重点学科が世界先進レベルに達することを目指した同計画は「985プロジェクト」と呼ばれている。
1.「985プロジェクト」の推進における基本概念
1999年1月13日に国務院は教育部の『21世紀に向けた教育振興行動計画』を承認した。「985プロジェクト」第1期における基本概念は以下のとおりである。世界一流大学や国際的に知名度の高いハイレベルな研究型大学を整備することを目標とする。高等教育機関に対する新しい管理制度や運営制度を確立する。今世紀における最初の20年間を重要な戦略的機会と見なし、集中的な資金投入、重要度や特色の明確化、優位性の活用、画期的で持続可能な発展によって中国の特色を生かした一流大学を整備する。
「985プロジェクト」第1期は顕著な成果を上げている。大学における学科構造や学科設定の調整や改善、優秀な教師陣の結集、ハイレベルな創造型人材の育成クオリティの向上、世界先進レベルに近づくか達する研究成果の取得、高等教育機関の総合力や総合レベルの強化などが進んでいる。中国で世界一流大学を整備する上で、一定の経験を積み確かな基礎が整った。これはまた中国の経済、社会、文化の発展にとって重要な貢献となった。2004年6月2日、教育部と財政部は第1期プロジェクトに基づいて、『985プロジェクトの継続推進に関する意見』を発表した。同『意見』は「985プロジェクト」第2期の基本概念を明らかにしている。教育部・財政部が発布した『985プロジェクトの継続推進に関する意見』に基づいて、「985プロジェクト」第2期(2004-2007)では以下のような目標が定められている。第1期プロジェクトの成果を引き継ぎ、世界一流大学や国際的に知名度の高いハイレベルな研究型大学を整備するための基礎を引き続き強化していく。一部の学科が世界先進レベルに近づくか達するように時間や努力を惜しみなく費やし、世界一流大学を整備する。管理制度や運営制度の革新によって世界一流大学を整備する体制を積極的に模索する。世界トップレベルの学術指導者や学術チームを育成または招聘する。国家革新システムの整備に合わせ、「985プロジェクト」科学技術イノベーションプラットホームや「985プロジェクト」哲学・社会科学イノベーション拠点を重点的に整備する。一部世界トップレベルの学科の形成と整備を促進する。
2.「985プロジェクト」の推進における総合責任
関係部門や各参加機関による「985プロジェクト」第1期の総括に基づき、教育部と財政部は『「985プロジェクト」の継続推進に関する意見』を発表した。同意見が明らかにした「985プロジェクト」第2期の基本責任は以下のとおりである。
(1)体制の革新。世界一流大学を整備するという目的に基づき、現行の管理制度や運営制度を見直し、必要な改革を行い、上記目的の実現に適合させるようにする。人事制度改革を加速させ、競争や異動を中心とした人事管理制度、人材評価制度、科学的で理にかなったインセンティブ制度を確立する。優秀な人材を積極登用し、能力を存分に発揮できる環境を構築する。従来の学科構造に基づいた科学研究管理や学科整備モデルを改め、現代科学の発展トレンドに適する創造、交流、開放、共有といった特色を持つ運営制度を確立する。公開、公平、公正の原則に基づく投資収益を中心とした業績評価制度を確立する。
(2)チームの編成。良好な研究環境やそれに付随する保障制度を提供することによって、国内外から世界先進レベルの学術指導者、優秀な学術要員、大学の上級管理人材を招聘する。潜在能力が高い働き盛りの要員を育成することを重視し、レベルの底上げ、環境改善、集中教育といった多種多様な方法で優秀な若い人材を確保する。博士やポストドクターを駆動力としたイノベーションパワーを形成する。世界一流大学にふさわしい教師陣、管理チーム、技術サポートチームの確立を急ぐ。
(3)プラットホームの確立。世界最先端の科学技術や国家の近代化に伴う必要性を意識した「985プロジェクト」科学技術イノベーションプラットホームを確立する。学科整備計画の指揮を受ける同プラットホームは、国家の重大基礎研究、戦略的ハイテク研究、重大科学技術計画などに関連している。また国家実験室、国家重点実験室、国家工程研究センター、国家工程技術研究センターといった国家によるイノベーションプラットホームの整備計画と密接に繋がる。プラットホームの確立のためには、学科構造の徹底した調整、学科の発展余地の開拓、学科間交流の促進、情報共有の促進、ハイレベルな学術チームの創設、管理や運営の制度における開放、共有、競争、効率化の実践が必要である。またプラットホームに関する教育や科学研究の環境およびインフラ施設も整備、改善しなければならない。プラットホームの確立によって、高等教育機関の創造性や国民経済に関連した重要な科学技術問題を解決する能力を大幅に向上させる。また国家の重大プロジェクトを進行する能力やハイレベルな国際協力に参加するための競争力が強化される。学科の最適化や交流が促進すれば科学技術に関する重要な成果や世界トップレベルの学科が生み出され、国家革新システムの確立に重要な役割を果たす。国家、地域社会、経済の発展のためには学科の枠組みを越え創造性、交流性、開放性に富んだ「985プロジェクト」哲学・社会科学イノベーション拠点を確立する必要がある。人文・社会科学、自然科学、工程技術などの交流、浸透、融合を促進すれば、新しい学科、研究分野、研究方法を創造できる。グローバル、戦略的、先見的といった要素を備えた重要理論や問題の解決、共産党や政府に対する政策決定相談、社会主義の近代化に関する貢献、社会主義の物質文明や政治文明、精神文明の形成などに寄与する国家レベルの哲学・社会科学センターとなる。
(4)環境サポート。公的資源および計器や設備の共有プラットホームを早急に整備する必要がある。配置が合理的で、設備の完備した教育・科学研究施設を整備する。教育や科学研究の情報化やデジタル化を促進し、近代的な教育理論や教育技術に基づいた教育・科学研究環境を形成しなければならない。高等教育機関における図書館、データバンク、自動化水準が世界先進レベルに近づくか達するように努力すべきである。また高等教育機関における教育・科学研究インフラ施設を引き続き改善していく必要もある。
(5)国際的な交流や協力。国際的な学術交流や研究協力に寄与する環境を確立すべきである。世界的に有名な学者の招聘、研究協力、世界一流大学や学術機関との具体性のある提携、ハイレベル人材の共同育成や研究拠点の確立、ハイレベルな国際協力研究プロジェクトの展開、ハイレベルな国際学術会議の開催、外国人留学生の積極的な受け入れ、中国における高等教育機関の国際化の推進などを行う。
「985プロジェクト」が正式に起動した直後の1999年に北京大学と清華大学が最初に指定され、国家から各18億元の投資を受けた。続いて教育部は江蘇省、上海市、陜西省、浙江省、天津市、湖北省、福建省、山東省、湖南省、遼寧省、重慶市、四川省、広東省、北京市、安徽省、黒龍江省といった省・直轄市、国家科学技術委員会、中国科学院などの部門、委員会、科学研究機関と共に復旦大学、上海交通大学、南京大学、浙江大学、西安交通大学、北京師範大学、中国人民大学、中国科技大学、哈爾濱工業大学などを重点建設した。「985プロジェクト」第1期指定大学は合わせて34校だった。大学名は以下のとおりである。清華大学、北京大学、中国科技大学、南京大学、復旦大学、上海交通大学、西安交通大学、浙江大学、哈爾濱工業大学、南開大学、天津大学、東南大学、華中科技大学、武漢大学、厦門大学、山東大学、湖南大学、中国海洋大学、中南大学、吉林大学、北京理工大学、大連理工大学、北京航空航天大学、重慶大学、電子科技大学、四川大学、華南理工大学、中山大学、蘭州大学、東北大学、西北工業大学、同済大学、北京師範大学、中国人民大学。
「985プロジェクト」第2期では5つの高等教育機関が追加指定された。大学名は以下のとおりである。中国農業大学、国防科技大学、中央民族大学、西北農林科技大学、華東師範大学。2006年までに「985プロジェクト」第1期と第2期の指定大学は合わせて39校となった。「985プロジェクト」指定の重点大学の地域分布(2006年)は以下に示すリストのとおりである。
省・市 | 学校 | 数 | 比率 |
北京 | 北京大学、清華大学、中国人民大学、北京師範大学、北京理工大学、中国農業大学、中央民族大学、北京航空航天大学 | 8 | 20% |
上海 | 復旦大学、同済大学、上海交通大学 華東師範大学 | 4 | 10% |
陜西 | 西安交通大学、西北工業大学、西北農林科技大学 | 3 | 7% |
湖南 | 中南大学、湖南大学、国防科技大学 | 3 | 7% |
湖北 | 武漢大学、華中科技大学 | 2 | 5% |
四川 | 電子科技大学、四川大学 | 2 | 5% |
江蘇 | 南京大学、東南大学 | 2 | 5% |
遼寧 | 東北大学、大連理工大学 | 2 | 5% |
山東 | 山東大学、中国海洋大学 | 2 | 5% |
天津 | 天津大学、南開大学 | 2 | 5% |
広東 | 華南理工大学、中山大学 | 2 | 5% |
安徽 | 中国科技大学 | 1 | 3% |
浙江 | 浙江大学 | 1 | 3% |
黒龍江 | 哈爾濱工業大学 | 1 | 3% |
重慶 | 重慶大学 | 1 | 3% |
甘肃 | 蘭州大学 | 1 | 3% |
福建 | 厦門大学 | 1 | 3% |
吉林 | 吉林大学 | 1 | 3% |
- [*1]羅雲:『中国重点大学と学科の整備』、中国社会科学出版社2005版、第72ページ。
3. 世界一流大学を整備する面での成果
特に改革開放以降の中華人民共和国において、共産党や政府は国内状況に鑑み、高等教育の発展を促進するための政策や措置を積極的に推し進めてきた。中国的な特色を持つハイレベルな重点大学の建設、発展、底上げが進められたため世界の一流大学との距離は縮まり、中国における高等教育の発展は新たな段階に入った。特に「211プロジェクト」や「985プロジェクト」の実施によってハイレベルな整備、革新、体制改革などが継続的に進められてきた。中国の重点大学が、国際的な競争に参加し世界の一流大学として数えられるように段階的な発展を遂げてきた。重点大学建設の歴史を振り返れば、大きな成果を認めることができる。
(1) 重点整備大学の総合力の底上げによる世界の一流大学との距離が縮小
多年にわたる努力により、各重点整備大学の総合力が底上げされ世界の一流大学との距離は縮まったと言える。1996年の時点で大学院が設けられていた中国の大学30校のうち28校をアメリカ大学協会(AAU)に加盟する大学と比較することができる。科学研究コストの面で中国の28大学の科学研究費総額と縦断的研究経費の平均値をAAU加盟大学の平均値と比較すると、1995年は1:23.4と1:34だったのが2005年には1:6.2と1:6.8にまで縮まった。SCI論文の発表回数や被引用回数の面では1995年の1:15.1と1:51.7から2005年の1:3.6と1:6.2に縮まった。以上ことから10年にわたる「211プロジェクト」や「985プロジェクト」の推進によって中国における一部の重点大学とAAU加盟大学との差が縮まったことが分かる。特に科学研究能力やハイレベルな人材の育成の面で顕著である[*1]。
指標 | 1995年 | 2005年 | ||||
中国の28大学 | AAU加盟大学 | 比率 | 中国の28大学 | AAU加盟大学 | 比率 | |
在籍学生数 | 10443 | 18719 | 1:1.8 | 30426 | 21516 | 1:0.7 |
大学院生と学部生の比率 | 0.24:1 | 0.26:1 | -- | 0.36:1 | 0.26:1 | -- |
博士学位取得者数 | 68 | 381 | 1:5.6 | 452 | 362 | 1:0.8 |
専任教師数 | 1459 | 1384 | 1:0.9 | 2206 | 1548 | 1:0.7 |
科学研究総経費/億米ドル | 0.09 | 2.11 | 1:23.4 | 0.64 | 3.96 | 1:6.2 |
政府部門からの研究経費/億米ドル | 0.04 | 1.36 | 1:34 | 0.39 | 2.65 | 1:6.8 |
SCI論文発表数 | 180 | 2714 | 1:15.1 | 1172 | 4162 | 1:3.6 |
SCI論文被引用回数 | 126 | 6514 | 1:51.7 | 1543 | 9509 | 1:6.2 |
指標 | 1995年 | 2005年 | ||||
清華大学 | MIT | 比率 | 清華大学 | MIT | 比率 | |
大学院生と学部生の比率 | 0.4:1 | 1.2:1 | -- | 1.3:1 | 1.5:1 | -- |
博士学位取得者数 | 177 | 522 | 1:2.9 | 646 | 467 | 1:0.7 |
教師陣に占める博士学位取得者の割合 | 19% | 96% | 1:5.1 | 57% | 96% | 1:1.7 |
学校総経費/億米ドル | 0.54 | 13 | 1:24.1 | 4.4 | 20.4 | 1:4.6 |
科学研究総経費/億米ドル | 0.3 | 3.7 | 1:12.3 | 1.74 | 5.4 | 1:3.1 |
SCI論文発表数 | 231 | 3151 | 1:13.6 | 2915 | 4348 | 1:1.5 |
SCI論文被引用回数 | 330 | 10423 | 1:31.6 | 7184 | 13498 | 1:1.9 |
EI論文数 | 343 | 893 | 1:2.6 | 2976 | 847 | 1:0.3 |
特許取得件数 | 48 | 104 | 1:2.2 | 521 | 127 | 1:0.2 |
(2) ハイレベルな学科拠点の構築による、学科整備の大きな成果
大学教育、科学研究、サービス活動の支柱である学科の整備は「211プロジェクト」や「985プロジェクト」における中核となっている。「211プロジェクト」では重点学科整備のマクロ配置において各方面に配慮した統一計画を実施した。「第9次5ヵ年計画」において602のプロジェクト、「第10次5ヵ年計画」で777のプロジェクトが計画された。これらの重点学科構築プロジェクトは中国の社会主義建設の各方面の必要性に合致している。国際的な視野で当該学科の世界先進レベルを見据え、課題の達成を目指す創造型基礎学科プロジェクトもあれば、国家、地域、経済、社会の発展に寄与する応用学科プロジェクトもある。さらに先見的な見地から、学科の配置や構造に補填や調整を加えるために弱い学科を支援し育成するプロジェクトもある。[*2]「985プロジェクト」の実施過程において学科構築は極めて重要視されている。「985プロジェクト」における大学整備では共同構築、調整、提携、合併などの手段によって学科のそれぞれの優位性を取り入れ、総合性を強化している。「211プロジェクト」や「985プロジェクト」の実施過程において、国家重点学科や省の部門クラスの重点学科に依拠する国家重点実験室、国家工程センター、教育部人文・社会科学重点研究拠点、省の部門クラスの重点実験室や工程センターに必要な支援や強化が施されハイレベルな学科拠点の整備が促進された。各重点整備大学では学科成長の方向性や国家建設に関わる重要な分野を考慮し、洗練された学科設定、学科構造の調整や最適化、基礎学科の強化、新興学科や融合学科の成長促進などが進められ、国家重点学科体系が構築された。多年にわたる努力によって中国における重点整備大学の水準は総合的に底上げされた。国家の必要性に合致し、かつ理想的な構造や配置が実現した。学科の発展を全面的に支え、中国の近代化に寄与する重点学科体系が整いつつある。一部の重点学科の実力は明らかに向上しており、世界先進レベルに近づくか達する学科も一部存在している。
「211プロジェクト」においては人文・社会科学分野における基礎学科が特に重視され、高等教育機関における人文・社会科学分野の基礎学科は大いに成長した。多年にわたって、教育部の人文・社会科学重点研究拠点は「211プロジェクト」や「985プロジェクト」を通して、情報ネットワークなどのインフラ環境が改善され、国際学術交流プラットホームが構築された。また個性的な学術ホームページの開設や教育・科学研究環境の改善を通して、高等教育機関における人文・社会科学研究は飛躍的に成長した。重点研究拠点は全国的なシンクタンクまたは情報サービスセンターとして知られている。[*3]
(3) 優秀な人材の確保と創造型人材の育成
近年の「211プロジェクト」や「985プロジェクト」を通して専任教師陣はいっそう充実してきている。2005年までに「211プロジェクト」による専任教師の累積数は163581人に達した。人数の増加だけでなく教師陣の構造面でも改善が進んでおり、青年から中年の教師が圧倒的多数を占めている。高位職に就く45歳以下の教師の比率は年々増加しており、2005年には33%に達した。大学院卒の教師の比率も増加しており、31%が博士学位取得者である。教師陣の出身校構造も多様化しており外部から招聘された教師陣が年々増加している。「211プロジェクト」や「985プロジェクト」を通して大学は最先端の学科構築、国家経済や社会の発展、各分野との連携などに真剣に取り組んだ結果、創造型チームの形成が促進されてきた。
「211プロジェクト」と「985プロジェクト」の第1期や第2期を通して、中国における研究型大学は世界先進レベルの学科を備えるようになった。ハイレベルな学者や学科指導者が集結することにより研究型大学は優秀な人材の集まる戦略拠点となっている。現在、中国科学院や中国工程院のアカデミー会員のうち38.7%が高等教育機関に在籍している。このうち80%以上が「211プロジェクト」や「985プロジェクト」の指定大学に在籍している。国家の総合計画によると、国家重点研究室の61.7%に相当する113室が大学の所属となっている(このうち90%が「211プロジェクト」や「985プロジェクト」の指定大学に所属)。また試験的に運営されている国家実験室の50%は大学に所属している。国家工程研究センターの35.3%、哲学・社会科学研究員の80%も大学所属である。[*4] これら人材のうち特にハイレベルな人材は主に「211プロジェクト」や「985プロジェクト」の指定大学に集結している。彼らは国家の誇る創造型人材の中堅であり科学技術の革新を支えている。
優秀な教師陣を積極的に招聘すると同時に、「211プロジェクト」や「985プロジェクト」の指定大学は潜在能力のある優秀な青年学者の募集や育成にも力を入れている。優秀な人材が成長するための環境整備、支援、奨励などにより多くの若い学者が短期間で学術指導者へと成長している。2005年までに「211プロジェクト」指定大学では累積2340人の青年学者が教育部の「新世紀における優秀人材計画」に選ばれた。また全体の56%を占める764人の大学教師が「国家自然科学傑出青年基金」の支援を受けた。さらに全体の54%に相当する63のチームが国家基金委員会の革新研究団体に、871名が教育部の「長江学者奨励計画」の特別教授に、112のチームが教育部の「長江学者・革新チーム発展計画」に選ばれた。
各重点大学は数十年を費やして人材育成に関する総合環境を著しく改善してきた。「211プロジェクト」第1期および第2期では合わせて178.76億元の資金が大学のインフラ改善、公共サービス体系、教育・科学研究施設の建設のために投入され、人材育成能力が大幅に向上した。教育改革の成果も顕著であり、大学間、大学・企業間、大学・科学研究院間の提携が進展した。課外授業の開講や学生の創造性や応用力の育成に寄与する環境づくりにも積極的である。また大学生が開放的で創造性のある実験室に参加するための基本制度や運営方式を確立した。学生による教師の科学研究プロジェクトの参加や研究テーマの自主的な選定などを通して、学生の自主性や自立が促進された。
十数年にわたる努力により重点大学の人材育成能力は大幅に向上した。1995年における「211プロジェクト」指定大学の学部生は62.15万人、大学院生は博士コースの2.19万人を含む10.08万人であった。2005年には在籍学部生は157.95万人、大学院生は博士コースの14.30万人を含む62.88万人に増加した。2005年の学部生や大学院生の生徒数は1995年の2.5倍と6.2倍である。10年間の本科卒業生、修士学位取得者、博士学位取得者は242.17万人、50.62万人、11.69万人であった。中国の社会や経済の発展を支えるハイレベルな創造型人材が豊富に生み出されたと言える。
(四)科学研究能力の顕著な向上が生み出した数多くの際立った成果
十数年にわたる努力により「211プロジェクト」や「985プロジェクト」の指定大学は、国家の重大科学研究を担う能力や科学研究に関した総合力を強化することに成功した。科学研究費用の総額も大幅に増加した。「第8次5ヵ年計画」において「211プロジェクト」の指定大学が費やした科学研究費は合わせて122.72億元だったが、「第9次5ヵ年計画」においては336.22億元に達した。「第10次5ヵ年計画」では1019.82億元にまで増加し、「第8次5ヵ年計画」期間中の8.3倍となった。
「211プロジェクト」や「985プロジェクト」の指定大学を中心とした高等教育機関は、数多くの国家重点プロジェクトを手掛け革新的な成果を上げている。まさに中国の科学技術革新における主役と言うことができる。近年「高等教育機関が担当する国家自然科学基金プロジェクトは全国の3分の2近くとなっている。また「863計画」のプロジェクトは全国の3分の1、国家科学技術重大プロジェクトは全国の14%を占める。高等教育機関が国内外で発表した論文の数および国家自然科学賞を受賞したプロジェクトの件数は共に全国の約60%を占めている。1998年における職務特許件数のうち高等教育機関や科学研究機関が取得したものは全体の66.43%を占めた。それに対し企業による取得数は21.40%であった」。[*5] 「第10次5ヵ年計画」において中国の高等教育機関が受け取った科学研究費の総額は1300億元以上となる。61.9万件の科学研究課題を担当し146.3万件の論文を発表した。このうち世界の三大論文検索データベースに収められたものは17.6万件である。2005年末までに高等教育機関が保有する特許は発明新案2万件を含む3.5万件に達した。中国の高等教育機関は基礎研究やハイテク先進分野において多くの革新的成果を上げている。「第10次5ヵ年計画」において全国の高等教育機関が授与された国家自然科学賞は75件であり全体の55.07%を占めた。また国家技術発明賞の受賞数は全体の64.40%となる64件、国家科学技術進歩賞の受賞数は全体の53.57%となる433件であった。この中には国家自然科学一等賞1件と国家技術発明一等賞2件も含まれる。後者は国家技術発明一等賞の6年ぶりの該当者となった。[*6]
「211プロジェクト」の指定大学が担当する国家哲学・社会科学重大プロジェクトの件数や科学研究費も大幅に増加している。「第9次5ヵ年計画」と「第10次5ヵ年計画」において「211プロジェクト」の指定大学が担当した国家哲学・社会科学基金プロジェクトは1496件と2671件であった。受け取った研究経費は8.9億元と38.7億元だった。「第10次5ヵ年計画」において費やされた研究経費は「第8次5ヵ年計画」期間中に費やされた経費の19.6倍となった。「211プロジェクト」や「985プロジェクト」の指定大学は哲学・社会科学分野における重大プロジェクトを担い遂行することによって世界に関する理解、文明の伝承、理論の革新、政治協力や人材育成、社会サービスなどに貢献してきた。ハイレベルな研究成果を上げることにより、社会主義政治の発展、文化の近代化、優秀な民族文化の継承や伝承といった面で寄与してきた。多くの研究成果に対し中国共産党中央宣伝部から精神文明建設における「5つの1」工程賞や全国の高等教育機関を対象とした人文・社会科学優秀成果賞が授与された。
(5) 社会サービス機能の著しい強化による社会や経済の発展への大いなる貢献
「211プロジェクト」や「985プロジェクト」の指定大学が学科水準や実力を向上させたため、大学による社会サービス機能も強化された。これらの指定大学は生産性の高い農作物、家畜、樹木などの新品種を開発する面で数多くの成果を上げ、農業の近代化を促進してきた。また先端設備業界、情報産業、新素材業界などの需要を考慮し、重要技術の開発や応用に尽力し産業の発展や装備の国産化の促進を支えてきた。エネルギー、環境、交通といった経済や社会の発展および国防に関係する、かつ早急な科学技術サポートを必要としている産業や業界に関係する重要学科整備プロジェクトが選択されており、画期的な成果がもたらされている。医学科や生物技術分野のその他学科との交流や融合を通して、重大疾病の早期予防や診断、病気を引き起こす危険要素の制御、新薬開発、中国伝統医学に関する基礎理論の革新、中国伝統医学の伝承と発見といった分野で大きな成果を上げ、国民の健康に寄与してきた。国防に関する科学技術工業の発展、国防の近代化と武器装備の発展といった急を要する需要に対しても、資源共有や提携を伴う多くの科学研究プロジェクトを担っており、多くの重要成果を上げている。[*7]指定大学が学科を強化し技術面で重要な成果を上げることによって、関連産業の発展に不可欠な技術支援が提供され、社会や経済の発展を大いに促進している。
社会サービス機能の強化に伴い、重点整備大学が地域社会や経済の発展に及ぼす影響力がますます大きくなっている。科学研究、人材育成、技術譲渡、融資や消費、コミュニティサービス活動などを通して地域、経済や社会の発展を牽引している。十数年にわたって中国における高等教育機関の管理体制には一つの重要な特色がある。それは部所属の高等教育機関に対して部と省が共同で管理を行うことによって、地域社会や経済に密着した活動をできるようにする点である。数年にわたる努力により、省・部共同管理は大きな成果をもたらすようになっている。浙江大学、復旦大学、華中科技大学、山東大学といった研究型大学は既に地域における経済や社会の発展を支える中核となっている。地域の革新体系に欠かせない重要な要素である。浙江大学を例にすると、同大学は省内の20を超える市・県・区と全面的な技術提携関係にある。毎年2000名以上の教授、博士、大学院生で構成された研究開発・創業チームが各地を精力的に巡り、現地経済の「人材バンク」、「シンクタンク」、「革新請負人」としての役割を果たしている。
- [*1]「211プロジェクト」部門間協調グループ弁公室編集:『「211プロジェクト」発展報告(1995-2005)』。高等教育出版社2007版、20~21ページ。
- [*2]「211プロジェクト」部門間協調グループ弁公室編集:『「211プロジェクト」発展報告(1995-2005)』。高等教育出版社2007版、20~21ページ。
- [*3]「211プロジェクト」部門間協調グループ弁公室編集:『「211プロジェクト」発展報告(1995-2005)』。高等教育出版社2007版、23~24ページ。
- [*4]周済:『革新とハイレベルな大学の構築:第三回国際大学長フォーラムにおける講演』。『国家教育行政学院報』、2006年第9期、第9ページ。
- [*5]曾華国、李斌:『知識に爆発的なエネルギーを生み出させよう:高等教育機関と科学技術企業に対する考察』。『中国教育報』2000年12月2日。
- [*6]周済:『革新とハイレベルな大学の構築:第三回国際大学長フォーラムにおける講演』。『国家教育行政学院報』2006年第9期、第9ページ。
4. 中国において世界一流大学を整備する上での問題点と解決策
数十年にわたる努力により、中国の重点大学は学科構築、科学研究、人材育成、教師陣の充実化といった面で大きな成果を上げており、総合力や学術面での評判は日増しに向上している。しかし数々の問題ゆえに世界一流大学に追い付けていないという現実も存在する。中国において世界一流大学を整備するという任務は依然として遠い目標にも感じる。
(1) 中国において世界一流大学を整備する上での問題点と格差
世界一流大学という概念は歴史的な比較と結びついている。中国において世界一流大学を整備しようとする場合、国際的な比較という観点から中国における社会や経済の発展のための需要という背景を考慮して判断しなければならない。中国が世界一流大学を整備する上で達成してきた成果を誇ると同時に、依然存在する問題や格差にも目を向ける必要がある。
1. 「世界一流大学」という概念の不明瞭さが各大学の定める発展戦略目標に与える影響
「世界一流大学とは何か」、「どのように定義するか」、「その評価基準があるのか」といった問題が教育界に存在する。さまざまな意見が出されているが統一された見解はない。「世界一流大学」という概念が不明瞭であるため、一部のハイレベルな大学は自らの理解に基づいて近い将来に世界一流大学になるという目標を掲げている。例えば北京大学は1999年に17年を費やして整備することによって、2015年までに世界一流大学になると宣言した。同様に清華大学は2020年までに、浙江大学は15年も要さない2017年に、創立100周年を迎えた東南大学は50年を費やして21世紀半ばまでに世界一流大学になると宣言している。中国の大学と世界一流大学に一定の格差が存在していることを考えれば、各大学が世論や政府の支持を得るために功を焦って目標を打ち出していると言えるかもしれない。また、世界一流大学という概念が不明瞭であることもあって、中国の重点整備大学を「世界一流大学」として整備する過程や成果を客観的に評価する方法を導入することも大きな課題である。
2. 科学的な運営理念の欠如と、未確立の大学近代化
大学の運営理念は教育制度に関する一般的な理解に基づいて形成されており、大学の特色、機能、使命、目的、社会との関係といった一連の基本的な認識で基づいている。大学の成長の方向性は大学の理念によって定まる。言い換えれば、どのような理念があるかで大学の運営方針が方向付けられる。
中国は世界四大文明の発祥地であり、悠久の歴史や輝かしい文化を有しており、学問を究めようという伝統を持っている。成均、稷下学宮、太学、書院といった歴史的な学習機関が有名である。しかし過去の学習機関は現代的な意味での大学とは異なる。中国における大学理念や大学制度は西洋から伝えられたものだ。中国における大学理念の探求は清朝末期に始まり、蔡元培、梅貽琦、張伯苓といった教育家の努力によって1930年代に欧米式の大学理念が確立されていった。この理念が中国における大学の発展に大きな影響を与えたと言える。1949年に中華人民共和国が建国され、中国は新たな時代へと歩み出した。中国共産党の指導の下で社会主義の政治・経済制度に適し、かつ大学の発展を妨げない大学理念を模索し始めた。「中国現代における大学の成長は、政治家の策略や理念に導かれる時代となった」。[*1] 数十年にわたって中国における大学理念探求の歴史は試行錯誤の連続だ。中華人民共和国の建国当初はソ連の影響を受けソ連モデルの大学理念体系が整備され、主に工業化に適した大学理念の探求が始まった。しかし文化大革命によって大学理念の探求は中断させられ方向転換を余儀なくされる。その後、改革開放政策が取られるようになり、幅広い観点から探求が再開され、段階的に欧米モデルの大学理念が採用されていった。この過程においても大学の政治化、行政化、経済化、企業化といった傾向が見え隠れし、大学の運営理念や実践に影響を与えた。科学的な大学理念が欠落しているため、今でも大学制度の近代化が実現できずにいる。大学と政府、大学と社会、大学内部におけるさまざまな関係を正しく処理するのは非常に困難である。
3. 運営経費の不足と不合理な資金運用
世界一流大学を整備する上で十分な資金は必要不可欠な要素である。十分な運営経費は大学の成長を支えるもっとも基本的な物質的条件であり、世界一流大学の特徴の1つとも言える。世界の一流大学の運営経費を調べてみると、年間経費は概ね数億から十数億米ドルとなっている。また資金源は広範に及んでいる。下記に幾つかの世界著名大学を例に示す。2003-04会計年度におけるスタンフォード大学の年間支出は23億米ドル、ハーバード大学の年間支出は25億米ドルであった。また02-03年度におけるカリフォルニア大学ロサンゼルス校の年間支出は24億米ドルであった。英国ケンブリッジ大学の支出は6.46億ポンド、オックスフォード大学の年間支出は約4.6億ポンドであった。2003年度における日本の東京大学の支出も20億米ドルに達している。[*2] 中国の重点大学においても近年経費の増加が見られるが、運営経費の不足という状況に変化はない。世界一流大学と比べて著しく差があり、トップレベルに追い付くという目標の実現も危ぶまれる。
また、「211プロジェクト」および「985プロジェクト」の第1期や第2期を通して多くの資金が投入されてはいる、しかし多くはハード面の強化や人件費に充てられており、学科の成長、科学研究、問題解決や社会サービス、人材育成モデルの改革、教育過程などは軽視される傾向にある。限られた資金を有効に運用しているとは言えず、浪費さえ認められる。
4. 世界一流の学科や学科成長を左右する研究成果の欠如
世界一流の学科が世界一流大学の基礎となる。世界一流大学には世界を代表する一流学科が不可欠である。世界一流大学は例外なく世界を代表する学科を有しており、それゆえに名前が広く知られている。例えば経営学、政治学、化学、哲学で有名なハーバード大学、心理学、電子工学、植物学、教育学で有名なスタンフォード大学、電機工学、計算機科学、経済学、言語学、物理学、生物学で有名なマサチューセッツ工科大学、数学、哲学、理論物理学、天文学、化学で有名なプリンストン大学、物理学、医学、数学で有名なケンブリッジ大学、古典文学、数学、計算機科学、物理学、生物学、医学で有名なオックスフォード大学などがある。多年にわたる努力によって中国の重点大学における学科は幅広い分野を有するようになった。しかし欧米諸国の一流大学のように世界の学術発展を牽引するような学科は存在しない。一部の大学では愚かにも学科の幅を広げることだけに注目し、内容を充実させることが軽視されている。
世界一流大学は卓越した教師陣と十分な研究経費によってハイレベルな科学研究が可能となっている。また創造的で画期的な研究および当該分野における研究の方向性を左右するような研究成果の供給源となることができる。卓越した研究成果こそが世界一流大学に輝きを与えている。「211プロジェクト」や「985プロジェクト」といった重点大学を整備するための努力により、中国の重点大学の科学研究能力が継続的に強化されており、数多くの研究成果も発表されている。しかし質の高い研究成果が僅かであるという事実にも目を留めなければならない。質の高い論文の件数や引用率といった面では、欧米の主要大学から大きく離されておりノーベル賞受賞者も皆無である。
5. 総合力で世界一流大学に劣る中国の大学
中国における主要な世界の大学ランキングによると、アメリカ、ドイツ、イギリス、日本、カナダといった国々の大学がトップ100の80%、トップ200の70%、トップ300の66%近くを占めている。これらの国々が世界中の優秀な大学や研究機関を数多く占拠しているわけであり、科学研究力は非常に強い。中国大陸にはトップ100にランキングされた大学は存在しない。北京大学(192)と清華大学(196)がトップ200入りしているのみである。全体の僅か1%に過ぎない。国際的な指標であるSCI論文の発表件数に関する統計によると、各有名大学はSCIやSSCI論文の発表件数、引用件数、NatureやScienceへの論文掲載数、ノーベル賞を受賞した教師の数などで突出している。これらの指標により世界一流大学としての評価が決まる。中国における一部の重点大学は合計40以上の学科が世界先進レベルに近づいている。例えば、2005年に清華大学の材料科学科はSCI論文の発表件数で世界第2位、SCI論文の被引用件数で世界第14位となった。また北京大学の化学科もSCI論文の発表件数や被引用件数でランキング入りしている。しかし中国の重点大学は前述した分野における総合力で世界レベルに達していない。以下の表は中国の大学と米国の有名大学の総合力を比較している。特に科学研究水準の面で中国の大学が遅れていることが分かる。優秀な研究チームや科学研究体系が欠けているため、科学研究における競争力が低いと言える。[*3]
大学 | ノーベル賞 | N | SCI論文 | 科学研究費 | 教師の博士学位取得比率 | 教師とポストドクターの比率 | 教師と学部生の比率 | 大学院生中の留学生比率 | 大学院生と学部生の比率 | 総合点数 |
総数 /教師との比率 | 総数/教師との比率 | 総数/教師との比率 | 総数/教師との比率 | |||||||
ハーバード大学 | 100 58 | 100 58 | 100 62 | 64 30 | 99 | 100 | 38 | 57 | 100 | 100 |
Aグループ平均 | 53 51 | 50 50 | 47 42 | 58 40 | 97 | 40 | 51 | 60 | 69 | 69.6 |
Bグループ平均 | 14 18 | 26 24 | 51 21 | 84 27 | 93 | 14 | 21 | 48 | 24 | 45.6 |
Cグループ平均 | 0 0 | 2.4 11 | 12 10 | 19 13 | 90 | 5.2 | 18 | 40 | 14 | 20.0 |
清華大学 | 0 0 | 0.3 2.9 | 20 11 | 18 7.8 | 36 | 13 | 43 | 2.9 | 46 | 17.2 |
北京大学 | 0 0 | 0.8 3.9 | 21 6.8 | 8.4 2.1 | 23 | 7.8 | 60 | 6.9 | 44 | 15.6 |
南京大学 | 0 0 | 0.6 5.9 | 16 16 | 3.3 2.5 | 33 | 10 | 23 | 4.8 | 24 | 11.8 |
復旦大学 | 0 0 | 0.3 3.7 | 13 11 | 5.5 3.4 | 27 | 12 | 25 | 7.6 | 31 | 11.7 |
上海交通大学 | 0 0 | 0.03 1.2 | 7.3 5.8 | 12 7.4 | 27 | 7.8 | 25 | 2.9 | 24 | 10.2 |
浙江大学 | 0 0 | 0.06 1.2 | 15 5.9 | 15 4.6 | 19 | 6.1 | 23 | 0.7 | 18 | 9.6 |
西安交通大学 | 0 0 | 0.00 0.00 | 4.5 2.4 | 5.5 2.3 | 13 | 2.6 | 25 | 1.9 | 17 | 6.1 |
(2) 中国が世界一流大学を整備するための提案と対策
知識経済時代の大学は、社会発展の舞台において脇役から主役へと変化している。社会の中心的機関として、国家や地域の経済発展や社会の進歩を牽引している。激しさを増す国際競争の中で、ハイレベルな大学は国家のコア競争力を支える重要な要素である。中国は国際社会における競争力を強化しなければならない。総合的国力を高めるためには、一群の世界一流大学を整備し成長させる必要がある。中国が創造型国家創設の戦略目標を掲げるようになり、大学に空前のチャンスと試練が訪れている。世界一流大学を創設・整備することは切実な課題である。中国は時代に乗り遅れることなく海外の大学を参考として、世界一流大学を整備していくべきである。
1. 正しい大学理念や科学的な指標体系の確立
世界一流大学を創設・整備するための第一歩は正しい大学理念の確立である。大学の発展史においてニューマン、フンボルト、フレクスナー、ヤスパース、ハッチンス、コールバーグ、蔡元培、梅貽琦といった国内外の教育家が大学理念に関する研究を行っている。ニューマンは自著『大学の理念』の中で、「大学はあらゆる学問を探求する場所である」と述べている。[*4] フレクスナーによると「大学は学問の中心であり、知識の保存、系統だった知識の増加、人材育成に努めなければならない」。[*5] この考えを継承し発展させたハッチンスは自著『学習社会論』の中で「大学は人格の完全な象徴、文明を保存する機関、学術を探求する社会である」と語った。[*6] ヤスパースは社会の求める大学について身近な存在、純粋かつ独立していて偏見のない科学研究、真理を探究する機会の提供といった要素を上げている。大学は真理の探求や伝達を使命とする人々と共に真理を追究するための機関である。ヤスパースは自著『大学の理念』における序文の中で、「大学は学者と学生が共同で真理を追究するための組織である」という主旨に触れている。[*7] 以上のことから大学が学者による組織、高度な学問を探求し伝達する機関、高度の学問を探求し伝達する機関であることが分かる。世界一流大学を創設・整備するために、我々も正しい大学理念を確立する必要がある。大学は高度な学問を探求し伝達する機関である。決して権力や地位を追求する官僚のための機関、あるいは経済的利益を追求する企業のための組織ではない。
世界一流大学を創設・整備するには、先進的な運営理念に加えて具体的な指標体系も必要である。世界一流大学に関する基準や指標体系を制定し、一流大学への進歩の過程を科学的に評価しなければならない。基準や評価指標体系の制定にあたっては、世界一流大学に共通する基本的な特徴や国内外を代表する大学における評価指標体系を参考にできる。科学的で融通性に富んだ世界一流大学の基準や評価指標体系は、中国が世界一流大学を整備する面で大きな助けとなるはずである。
2. 教育関連経費の拡充とその正しい運用
前述のとおり世界一流大学の重要な特徴には十分な運営経費が含まれている。それは世界一流大学を整備し発展させるもっとも基本的な物質的要素である。中国の大学は歴史が新しく学術経験が乏しいため、欧米の一流大学に追い付き追い越すためには長期的で十分な投資が必要である。
十数年に及ぶ「211プロジェクト」および「985プロジェクト」の第1期や第2期を通して、100余の指定大学に対し重点的な投資や整備が行われ、良い結果が現れている。「211プロジェクト」第3期は既に起動し、「985プロジェクト」第3期も計画中である。投入される資金が増加するという頼もしい情報が伝えられている。しかし中国の経済状況を考えると政府の資金投入だけでは物足りない。海外の一流大学では積極的に資金調達を行い、資金源の多様化を実現しており参考に値する。第一に中国政府は大学を対象とした専用支援基金の設立、税金の減免措置、産業界との連携の奨励などを行うべきである。大学が委託研究、技術譲渡、コンサルタント、人材育成といった方法で企業の発展を促進する代わりに、企業から資金援助を受けることができる。また企業は大学の技術開発のための試験拠点や人材育成のための研修拠点にもなれる。第二に大学が研究成果を応用したハイテク企業を設立し、株式上場によって資金調達を行えるように政府が優遇措置を提供すべきである。第三に中国政府は海外の経験に倣い基金組織、社団、個人が大学に対して行う寄付行為に関して税の減免を実施するべきである。第四に中国政府は海外の大学が行っている資金調達に倣い、大学が債権や宝くじを発行することを許可し、大学の社会的な信用性を利用して可能となった資金調達や融資に対して税の減免を実施すべきである。
3. 学科の整備による世界一流の学科の達成
学科の整備は大学にとって最も統合的で影響力の大きい作業である。また世界一流大学を整備するための基礎である。世界一流大学を創設・整備するためには、中国の大学は科学技術の発展に関する国際的な動向および国内水準や基盤を十分に理解すべきである。中国における経済や社会の発展に寄与する要素に基づき、戦略的で国民経済や社会の発展に影響力のある分野の学科や研究テーマを確立すべきである。また中国における大学の発展モデルに適していることも考慮すべき要素である。
中国における科学技術の発展戦略は統一した計画や実施を基礎としている。重点分野や優先課題を計画的に取り決めることによって、眼下の問題を解決し経済や社会の発展を理想的に支えている。中国における高等教育機関の先駆者であり自主的な改革を推進する原動力である大学は、創造的な国家建設の要求に適合しなければならない。運営面における総合力や教育の質を底上げすることが基礎的な目標である。『国家の科学技術の発展に関する中長期的な計画綱要(2006-2020)』によって定められた重点分野や優先課題に基づき、的を絞った戦略によって発展する学科を見極め、方向性を定めることができる。中国の大学は学科の多様性という利点を生かし学科の融合や提携および新学科の創成を促進すべきである。また新理論や新技術によって新産業を形成することができる。
人文・社会科学は自然科学と同様に創造性のある国家建設に不可欠な要素である。また国家の革新体系を支える重要な要素でもある。中国の大学において人文・社会科学を整備する場合、国家の発展に関与する重要で深遠な諸問題をテーマとして研究すべきである。人文・社会科学を中華文明の宣伝や創造、先進的な中国文化の発揚、国民の精神衛生や文化的素養の向上、重要な社会問題を解決するための戦略提案などに応用することができる。
当然のことだが、国家が重点的に成長を促進する分野の学科や社会問題のすべてに対応できる研究型大学など存在しない。それゆえに優位性のある学科や地域的特殊ニーズに応じて、限りのある資源を集中的に運用すべきである。一部の条件に恵まれた学科が画期的に成長すれば、相対的に優位となる。また各大学は学科整備の面で平均的に努力を傾けることはできない。重要なのは際立った特色であり、可能性のある学科に優位性や特色を持たせる努力が必要である。
4. 自由で伸び伸びとした学術環境の構築と、世界一流大学にふさわしい文化的環境の整備
ハーバード大学の学長を務めたローウェルは次のように語っている。経験が示す次の事実を誰も否定することはできない。知識を増加させるためには2つの方法がある。1つ目は特定分野の研究に従事し、制限を受けることなく真理を追究する方法である。2つ目は発見した真理を思う存分に自分の学生に伝授することである。これは高等教育における定理となっている。研究者の発見が正しくても誤りでも十分な説明が行われれば物事の関連性が明らかになる。これは唯一の方法である。教授は自らの分野において絶対的な自由を享受すべきである。彼には自らの発見した真理を伝える義務がある。これが学問の自由に関する原則であり、そうでないと知力の発展が危険にさらされる。[*8]ローウェルの後を継いだボクも大学に次のような要求を提出している。「学者たちが大学内で人為的な制限を受けることがあってはならない。異なる見解を持つ教授を罰さず、言論の自由や権利を保障すべきである。また大学外の敵対的圧力による干渉を受けるべきではない」。[*9]
ハーバード大学の学長を務めた二人のように、学問の自由を大学の真髄と見なす教育家は多い。ドイツの実存主義教育家であるヤスパースによると、大学とは高度な学問の探求や真理の追究を行う機関として、真理に基づく原則にのみしたがい、権威に屈服することはない。「つまり大学は絶対的な教育の自由を擁護する必要がある。国家は大学がいかなる党派政治、政治哲学、宗教からも干渉されず独立した立場で科学研究や教育を推進できるように保護しなければならない」。[*10] 自由と安全が保証された学者のみが科学的真理を探究することができる。学問の自由という環境下でのみ創造的な成果や創造型人材が育まれる。
世界一流大学を創設して発展させることと、自由で伸び伸びとした学術環境は密接に関係している。一流の人材、一流の研究成果、一流の学科、一流の大学は自由で伸び伸びとした学術環境の中でのみ形成される。中国において世界一流大学を整備するためにも良好な学術環境は不可欠である。学術討論を奨励し学者たちが自由な探求や衝突の中で新たな思想や理論を導き出し、学科を充実させていくことが望まれる。
5. 評価制度の改善による、世界一流大学の整備と順調な成長
前述のように、「211プロジェクト」や「985プロジェクト」を中心として中国は数十年にわたり莫大な資金を世界一流大学を整備するために投入してきた。資金の使用効果について中国では諸表の作成、査収、検収などによって評価を行っている。しかし教育、経済、文化といった視点からの分析に欠けている。使用効果と効率の比較や必要な改善も行われていない。これでは資金の無駄使いを引き起こしかねない。また世界一流大学を整備する面での進捗状況や方向性を正しく評価することも困難だ。
世界一流大学を順調に整備していくために、その評価制度を確立・整備する必要がある。「211プロジェクト」や「985プロジェクト」の指定大学に対して追跡調査を実施し、世界の一流大学に関する評価基準や指標体系に基づいて進捗状況を審査すべきである。「211プロジェクト」や「985プロジェクト」で投入された資金について費用便益分析を行うと同時に、奨励制度や責任制度を導入する必要がある。経費の使用効果や収益の高い大学に対して追加投資を行い、逆に経費の使用効果や収益の低い大学に対しては投資を減らさなければならない。同時に国家資金を不適切に使用した大学の責任を追及すべきである。
- [*1] 杜作潤:『中国における大学理念、過去と未来』。『高等工程教育研究』、1997年第3期。
- [*2]資料出所:ハーバード大学、スタンフォード大学、オックスフォード大学、ケンブリッジ大学、東京大学の年度会計報告。
- [*3]中国科学評価研究センターの邱均平らによる『世界一流大学や学科の競争力に関する評価研究報告』。科学出版社2007年版、220ページ。
- [*4]John Henry Cardinal Newman.The Idea of a University: Defined and Illustrated. Chicago. Ill.Loyola University Press, 1987.464.
- [*5]Abraham Flexner Universities: American,English,German. New York,etc.: Oxford University Press, 1930.230.
- [*6]何欽思著:『教育の現況と将来』。香港:今日世界出版社、1976年、第22ページ。
- [*7]Karl Jaspers. The Idea of the University.London : Peter Owen Ltd, 1965.19.
- [*8]Samuel Eliot Morison. Three Centuries of Harvard:1636-1936. Belknap Press of Harvard University Press, 1994.454.
- [*9][米]デレク・ボク著:『象牙の塔を超えて』。浙江教育出版社。2001年、第27ページ。
- [*10]Karl Jaspers. The Idea of the University. London : Peter Owen Ltd. 1965. 141.
主要参考文献:
- 王英傑、劉宝存:『世界一流大学の形成と発展』。山西教育出版社、2008年。
- 羅雲:『中国の重点大学と学科整備』。中国社会科学出版社、2005年。
- 「211プロジェクト」部門間協調グループ弁公室編集:『「211プロジェクト」発展報告(1995-2005)』。高等教育出版社、2007年。
- 邱均平:『世界一流大学や学科の競争力に関する評価研究報告』。科学出版社、2007年。
- 胡炳仙:『中国の重点大学政策:過去と未来』(博士論文)。華中科技大学、2006年。