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【09-007】世界一流大学~中国人の世紀の夢~

2009年6月19日

4. 中国において世界一流大学を整備する上での問題点と解決策

 数十年にわたる努力により、中国の重点大学は学科構築、科学研究、人材育成、教師陣の充実化といった面で大きな成果を上げており、総合力や学術面での評判は日増しに向上している。しかし数々の問題ゆえに世界一流大学に追い付けていないという現実も存在する。中国において世界一流大学を整備するという任務は依然として遠い目標にも感じる。

(1) 中国において世界一流大学を整備する上での問題点と格差

 世界一流大学という概念は歴史的な比較と結びついている。中国において世界一流大学を整備しようとする場合、国際的な比較という観点から中国における社会や経済の発展のための需要という背景を考慮して判断しなければならない。中国が世界一流大学を整備する上で達成してきた成果を誇ると同時に、依然存在する問題や格差にも目を向ける必要がある。

1. 「世界一流大学」という概念の不明瞭さが各大学の定める発展戦略目標に与える影響

 「世界一流大学とは何か」、「どのように定義するか」、「その評価基準があるのか」といった問題が教育界に存在する。さまざまな意見が出されているが統一された見解はない。「世界一流大学」という概念が不明瞭であるため、一部のハイレベルな大学は自らの理解に基づいて近い将来に世界一流大学になるという目標を掲げている。例えば北京大学は1999年に17年を費やして整備することによって、2015年までに世界一流大学になると宣言した。同様に清華大学は2020年までに、浙江大学は15年も要さない2017年に、創立100周年を迎えた東南大学は50年を費やして21世紀半ばまでに世界一流大学になると宣言している。中国の大学と世界一流大学に一定の格差が存在していることを考えれば、各大学が世論や政府の支持を得るために功を焦って目標を打ち出していると言えるかもしれない。また、世界一流大学という概念が不明瞭であることもあって、中国の重点整備大学を「世界一流大学」として整備する過程や成果を客観的に評価する方法を導入することも大きな課題である。

2. 科学的な運営理念の欠如と、未確立の大学近代化

 大学の運営理念は教育制度に関する一般的な理解に基づいて形成されており、大学の特色、機能、使命、目的、社会との関係といった一連の基本的な認識で基づいている。大学の成長の方向性は大学の理念によって定まる。言い換えれば、どのような理念があるかで大学の運営方針が方向付けられる。

 中国は世界四大文明の発祥地であり、悠久の歴史や輝かしい文化を有しており、学問を究めようという伝統を持っている。成均、稷下学宮、太学、書院といった歴史的な学習機関が有名である。しかし過去の学習機関は現代的な意味での大学とは異なる。中国における大学理念や大学制度は西洋から伝えられたものだ。中国における大学理念の探求は清朝末期に始まり、蔡元培、梅貽琦、張伯苓といった教育家の努力によって1930年代に欧米式の大学理念が確立されていった。この理念が中国における大学の発展に大きな影響を与えたと言える。1949年に中華人民共和国が建国され、中国は新たな時代へと歩み出した。中国共産党の指導の下で社会主義の政治・経済制度に適し、かつ大学の発展を妨げない大学理念を模索し始めた。「中国現代における大学の成長は、政治家の策略や理念に導かれる時代となった」。[*1] 数十年にわたって中国における大学理念探求の歴史は試行錯誤の連続だ。中華人民共和国の建国当初はソ連の影響を受けソ連モデルの大学理念体系が整備され、主に工業化に適した大学理念の探求が始まった。しかし文化大革命によって大学理念の探求は中断させられ方向転換を余儀なくされる。その後、改革開放政策が取られるようになり、幅広い観点から探求が再開され、段階的に欧米モデルの大学理念が採用されていった。この過程においても大学の政治化、行政化、経済化、企業化といった傾向が見え隠れし、大学の運営理念や実践に影響を与えた。科学的な大学理念が欠落しているため、今でも大学制度の近代化が実現できずにいる。大学と政府、大学と社会、大学内部におけるさまざまな関係を正しく処理するのは非常に困難である。

3. 運営経費の不足と不合理な資金運用

 世界一流大学を整備する上で十分な資金は必要不可欠な要素である。十分な運営経費は大学の成長を支えるもっとも基本的な物質的条件であり、世界一流大学の特徴の1つとも言える。世界の一流大学の運営経費を調べてみると、年間経費は概ね数億から十数億米ドルとなっている。また資金源は広範に及んでいる。下記に幾つかの世界著名大学を例に示す。2003-04会計年度におけるスタンフォード大学の年間支出は23億米ドル、ハーバード大学の年間支出は25億米ドルであった。また02-03年度におけるカリフォルニア大学ロサンゼルス校の年間支出は24億米ドルであった。英国ケンブリッジ大学の支出は6.46億ポンド、オックスフォード大学の年間支出は約4.6億ポンドであった。2003年度における日本の東京大学の支出も20億米ドルに達している。[*2] 中国の重点大学においても近年経費の増加が見られるが、運営経費の不足という状況に変化はない。世界一流大学と比べて著しく差があり、トップレベルに追い付くという目標の実現も危ぶまれる。

 また、「211プロジェクト」および「985プロジェクト」の第1期や第2期を通して多くの資金が投入されてはいる、しかし多くはハード面の強化や人件費に充てられており、学科の成長、科学研究、問題解決や社会サービス、人材育成モデルの改革、教育過程などは軽視される傾向にある。限られた資金を有効に運用しているとは言えず、浪費さえ認められる。

4. 世界一流の学科や学科成長を左右する研究成果の欠如

 世界一流の学科が世界一流大学の基礎となる。世界一流大学には世界を代表する一流学科が不可欠である。世界一流大学は例外なく世界を代表する学科を有しており、それゆえに名前が広く知られている。例えば経営学、政治学、化学、哲学で有名なハーバード大学、心理学、電子工学、植物学、教育学で有名なスタンフォード大学、電機工学、計算機科学、経済学、言語学、物理学、生物学で有名なマサチューセッツ工科大学、数学、哲学、理論物理学、天文学、化学で有名なプリンストン大学、物理学、医学、数学で有名なケンブリッジ大学、古典文学、数学、計算機科学、物理学、生物学、医学で有名なオックスフォード大学などがある。多年にわたる努力によって中国の重点大学における学科は幅広い分野を有するようになった。しかし欧米諸国の一流大学のように世界の学術発展を牽引するような学科は存在しない。一部の大学では愚かにも学科の幅を広げることだけに注目し、内容を充実させることが軽視されている。

 世界一流大学は卓越した教師陣と十分な研究経費によってハイレベルな科学研究が可能となっている。また創造的で画期的な研究および当該分野における研究の方向性を左右するような研究成果の供給源となることができる。卓越した研究成果こそが世界一流大学に輝きを与えている。「211プロジェクト」や「985プロジェクト」といった重点大学を整備するための努力により、中国の重点大学の科学研究能力が継続的に強化されており、数多くの研究成果も発表されている。しかし質の高い研究成果が僅かであるという事実にも目を留めなければならない。質の高い論文の件数や引用率といった面では、欧米の主要大学から大きく離されておりノーベル賞受賞者も皆無である。

5. 総合力で世界一流大学に劣る中国の大学

 中国における主要な世界の大学ランキングによると、アメリカ、ドイツ、イギリス、日本、カナダといった国々の大学がトップ100の80%、トップ200の70%、トップ300の66%近くを占めている。これらの国々が世界中の優秀な大学や研究機関を数多く占拠しているわけであり、科学研究力は非常に強い。中国大陸にはトップ100にランキングされた大学は存在しない。北京大学(192)と清華大学(196)がトップ200入りしているのみである。全体の僅か1%に過ぎない。国際的な指標であるSCI論文の発表件数に関する統計によると、各有名大学はSCIやSSCI論文の発表件数、引用件数、NatureやScienceへの論文掲載数、ノーベル賞を受賞した教師の数などで突出している。これらの指標により世界一流大学としての評価が決まる。中国における一部の重点大学は合計40以上の学科が世界先進レベルに近づいている。例えば、2005年に清華大学の材料科学科はSCI論文の発表件数で世界第2位、SCI論文の被引用件数で世界第14位となった。また北京大学の化学科もSCI論文の発表件数や被引用件数でランキング入りしている。しかし中国の重点大学は前述した分野における総合力で世界レベルに達していない。以下の表は中国の大学と米国の有名大学の総合力を比較している。特に科学研究水準の面で中国の大学が遅れていることが分かる。優秀な研究チームや科学研究体系が欠けているため、科学研究における競争力が低いと言える。[*3]

表5 中国の一部大学と米国の有名大学の総合力比較
大学 ノーベル賞 N SCI論文 科学研究費 教師の博士学位取得比率 教師とポストドクターの比率 教師と学部生の比率 大学院生中の留学生比率 大学院生と学部生の比率 総合点数
総数 /教師との比率 総数/教師との比率 総数/教師との比率 総数/教師との比率
ハーバード大学 100   58 100   58 100   62 64    30 99 100 38 57 100 100
Aグループ平均 53    51 50    50 47    42 58    40 97 40 51 60 69 69.6
Bグループ平均 14    18 26    24 51    21 84    27 93 14 21 48 24 45.6
Cグループ平均 0     0 2.4   11 12    10 19    13 90 5.2 18 40 14 20.0
清華大学 0     0 0.3  2.9 20    11 18   7.8 36 13 43 2.9 46 17.2
北京大学 0     0 0.8  3.9 21   6.8 8.4   2.1 23 7.8 60 6.9 44 15.6
南京大学 0     0 0.6  5.9 16    16 3.3   2.5 33 10 23 4.8 24 11.8
復旦大学 0     0 0.3  3.7 13    11 5.5   3.4 27 12 25 7.6 31 11.7
上海交通大学 0     0 0.03  1.2 7.3   5.8 12   7.4 27 7.8 25 2.9 24 10.2
浙江大学 0     0 0.06  1.2 15   5.9 15   4.6 19 6.1 23 0.7 18 9.6
西安交通大学 0     0 0.00 0.00 4.5   2.4 5.5   2.3 13 2.6 25 1.9 17 6.1
Aグループはハーバード大学、スタンフォード大学、マサチューセッツ工科大学、カリフォルニア工科大学、イェール大学、プリンストン大学、コロンビア大学などの一流私立大学。Bグループはカリフォルニア大学バークレー校、カリフォルニア大学ロサンゼルス校、ワシントン大学シアトル校、ミシガン大学、ウィスコンシン大学、イリノイ大学、ノースカロライナ大学などの一流公立大学。Cグループはコロラド州立大学、ニューメキシコ大学、ワシントン州立大学、コネチカット大学、デラウェア大学、オクラホマ大学、テネシー大学などの有名公立大学。資料出所:劉念才、程瑩、劉莉、趙文華:『中国の有名大学と世界の一流大学の格差』。『高等教育研究』2002年第2期、第19ページ。

(2) 中国が世界一流大学を整備するための提案と対策

 知識経済時代の大学は、社会発展の舞台において脇役から主役へと変化している。社会の中心的機関として、国家や地域の経済発展や社会の進歩を牽引している。激しさを増す国際競争の中で、ハイレベルな大学は国家のコア競争力を支える重要な要素である。中国は国際社会における競争力を強化しなければならない。総合的国力を高めるためには、一群の世界一流大学を整備し成長させる必要がある。中国が創造型国家創設の戦略目標を掲げるようになり、大学に空前のチャンスと試練が訪れている。世界一流大学を創設・整備することは切実な課題である。中国は時代に乗り遅れることなく海外の大学を参考として、世界一流大学を整備していくべきである。

1. 正しい大学理念や科学的な指標体系の確立

 世界一流大学を創設・整備するための第一歩は正しい大学理念の確立である。大学の発展史においてニューマン、フンボルト、フレクスナー、ヤスパース、ハッチンス、コールバーグ、蔡元培、梅貽琦といった国内外の教育家が大学理念に関する研究を行っている。ニューマンは自著『大学の理念』の中で、「大学はあらゆる学問を探求する場所である」と述べている。[*4] フレクスナーによると「大学は学問の中心であり、知識の保存、系統だった知識の増加、人材育成に努めなければならない」。[*5] この考えを継承し発展させたハッチンスは自著『学習社会論』の中で「大学は人格の完全な象徴、文明を保存する機関、学術を探求する社会である」と語った。[*6] ヤスパースは社会の求める大学について身近な存在、純粋かつ独立していて偏見のない科学研究、真理を探究する機会の提供といった要素を上げている。大学は真理の探求や伝達を使命とする人々と共に真理を追究するための機関である。ヤスパースは自著『大学の理念』における序文の中で、「大学は学者と学生が共同で真理を追究するための組織である」という主旨に触れている。[*7] 以上のことから大学が学者による組織、高度な学問を探求し伝達する機関、高度の学問を探求し伝達する機関であることが分かる。世界一流大学を創設・整備するために、我々も正しい大学理念を確立する必要がある。大学は高度な学問を探求し伝達する機関である。決して権力や地位を追求する官僚のための機関、あるいは経済的利益を追求する企業のための組織ではない。

 世界一流大学を創設・整備するには、先進的な運営理念に加えて具体的な指標体系も必要である。世界一流大学に関する基準や指標体系を制定し、一流大学への進歩の過程を科学的に評価しなければならない。基準や評価指標体系の制定にあたっては、世界一流大学に共通する基本的な特徴や国内外を代表する大学における評価指標体系を参考にできる。科学的で融通性に富んだ世界一流大学の基準や評価指標体系は、中国が世界一流大学を整備する面で大きな助けとなるはずである。

2. 教育関連経費の拡充とその正しい運用

 前述のとおり世界一流大学の重要な特徴には十分な運営経費が含まれている。それは世界一流大学を整備し発展させるもっとも基本的な物質的要素である。中国の大学は歴史が新しく学術経験が乏しいため、欧米の一流大学に追い付き追い越すためには長期的で十分な投資が必要である。

 十数年に及ぶ「211プロジェクト」および「985プロジェクト」の第1期や第2期を通して、100余の指定大学に対し重点的な投資や整備が行われ、良い結果が現れている。「211プロジェクト」第3期は既に起動し、「985プロジェクト」第3期も計画中である。投入される資金が増加するという頼もしい情報が伝えられている。しかし中国の経済状況を考えると政府の資金投入だけでは物足りない。海外の一流大学では積極的に資金調達を行い、資金源の多様化を実現しており参考に値する。第一に中国政府は大学を対象とした専用支援基金の設立、税金の減免措置、産業界との連携の奨励などを行うべきである。大学が委託研究、技術譲渡、コンサルタント、人材育成といった方法で企業の発展を促進する代わりに、企業から資金援助を受けることができる。また企業は大学の技術開発のための試験拠点や人材育成のための研修拠点にもなれる。第二に大学が研究成果を応用したハイテク企業を設立し、株式上場によって資金調達を行えるように政府が優遇措置を提供すべきである。第三に中国政府は海外の経験に倣い基金組織、社団、個人が大学に対して行う寄付行為に関して税の減免を実施するべきである。第四に中国政府は海外の大学が行っている資金調達に倣い、大学が債権や宝くじを発行することを許可し、大学の社会的な信用性を利用して可能となった資金調達や融資に対して税の減免を実施すべきである。

3. 学科の整備による世界一流の学科の達成

 学科の整備は大学にとって最も統合的で影響力の大きい作業である。また世界一流大学を整備するための基礎である。世界一流大学を創設・整備するためには、中国の大学は科学技術の発展に関する国際的な動向および国内水準や基盤を十分に理解すべきである。中国における経済や社会の発展に寄与する要素に基づき、戦略的で国民経済や社会の発展に影響力のある分野の学科や研究テーマを確立すべきである。また中国における大学の発展モデルに適していることも考慮すべき要素である。

 中国における科学技術の発展戦略は統一した計画や実施を基礎としている。重点分野や優先課題を計画的に取り決めることによって、眼下の問題を解決し経済や社会の発展を理想的に支えている。中国における高等教育機関の先駆者であり自主的な改革を推進する原動力である大学は、創造的な国家建設の要求に適合しなければならない。運営面における総合力や教育の質を底上げすることが基礎的な目標である。『国家の科学技術の発展に関する中長期的な計画綱要(2006-2020)』によって定められた重点分野や優先課題に基づき、的を絞った戦略によって発展する学科を見極め、方向性を定めることができる。中国の大学は学科の多様性という利点を生かし学科の融合や提携および新学科の創成を促進すべきである。また新理論や新技術によって新産業を形成することができる。

 人文・社会科学は自然科学と同様に創造性のある国家建設に不可欠な要素である。また国家の革新体系を支える重要な要素でもある。中国の大学において人文・社会科学を整備する場合、国家の発展に関与する重要で深遠な諸問題をテーマとして研究すべきである。人文・社会科学を中華文明の宣伝や創造、先進的な中国文化の発揚、国民の精神衛生や文化的素養の向上、重要な社会問題を解決するための戦略提案などに応用することができる。

 当然のことだが、国家が重点的に成長を促進する分野の学科や社会問題のすべてに対応できる研究型大学など存在しない。それゆえに優位性のある学科や地域的特殊ニーズに応じて、限りのある資源を集中的に運用すべきである。一部の条件に恵まれた学科が画期的に成長すれば、相対的に優位となる。また各大学は学科整備の面で平均的に努力を傾けることはできない。重要なのは際立った特色であり、可能性のある学科に優位性や特色を持たせる努力が必要である。

4. 自由で伸び伸びとした学術環境の構築と、世界一流大学にふさわしい文化的環境の整備

 ハーバード大学の学長を務めたローウェルは次のように語っている。経験が示す次の事実を誰も否定することはできない。知識を増加させるためには2つの方法がある。1つ目は特定分野の研究に従事し、制限を受けることなく真理を追究する方法である。2つ目は発見した真理を思う存分に自分の学生に伝授することである。これは高等教育における定理となっている。研究者の発見が正しくても誤りでも十分な説明が行われれば物事の関連性が明らかになる。これは唯一の方法である。教授は自らの分野において絶対的な自由を享受すべきである。彼には自らの発見した真理を伝える義務がある。これが学問の自由に関する原則であり、そうでないと知力の発展が危険にさらされる。[*8]ローウェルの後を継いだボクも大学に次のような要求を提出している。「学者たちが大学内で人為的な制限を受けることがあってはならない。異なる見解を持つ教授を罰さず、言論の自由や権利を保障すべきである。また大学外の敵対的圧力による干渉を受けるべきではない」。[*9]

 ハーバード大学の学長を務めた二人のように、学問の自由を大学の真髄と見なす教育家は多い。ドイツの実存主義教育家であるヤスパースによると、大学とは高度な学問の探求や真理の追究を行う機関として、真理に基づく原則にのみしたがい、権威に屈服することはない。「つまり大学は絶対的な教育の自由を擁護する必要がある。国家は大学がいかなる党派政治、政治哲学、宗教からも干渉されず独立した立場で科学研究や教育を推進できるように保護しなければならない」。[*10] 自由と安全が保証された学者のみが科学的真理を探究することができる。学問の自由という環境下でのみ創造的な成果や創造型人材が育まれる。

 世界一流大学を創設して発展させることと、自由で伸び伸びとした学術環境は密接に関係している。一流の人材、一流の研究成果、一流の学科、一流の大学は自由で伸び伸びとした学術環境の中でのみ形成される。中国において世界一流大学を整備するためにも良好な学術環境は不可欠である。学術討論を奨励し学者たちが自由な探求や衝突の中で新たな思想や理論を導き出し、学科を充実させていくことが望まれる。

5. 評価制度の改善による、世界一流大学の整備と順調な成長

 前述のように、「211プロジェクト」や「985プロジェクト」を中心として中国は数十年にわたり莫大な資金を世界一流大学を整備するために投入してきた。資金の使用効果について中国では諸表の作成、査収、検収などによって評価を行っている。しかし教育、経済、文化といった視点からの分析に欠けている。使用効果と効率の比較や必要な改善も行われていない。これでは資金の無駄使いを引き起こしかねない。また世界一流大学を整備する面での進捗状況や方向性を正しく評価することも困難だ。

 世界一流大学を順調に整備していくために、その評価制度を確立・整備する必要がある。「211プロジェクト」や「985プロジェクト」の指定大学に対して追跡調査を実施し、世界の一流大学に関する評価基準や指標体系に基づいて進捗状況を審査すべきである。「211プロジェクト」や「985プロジェクト」で投入された資金について費用便益分析を行うと同時に、奨励制度や責任制度を導入する必要がある。経費の使用効果や収益の高い大学に対して追加投資を行い、逆に経費の使用効果や収益の低い大学に対しては投資を減らさなければならない。同時に国家資金を不適切に使用した大学の責任を追及すべきである。


  • [*1] 杜作潤:『中国における大学理念、過去と未来』。『高等工程教育研究』、1997年第3期。
  • [*2]資料出所:ハーバード大学、スタンフォード大学、オックスフォード大学、ケンブリッジ大学、東京大学の年度会計報告。
  • [*3]中国科学評価研究センターの邱均平らによる『世界一流大学や学科の競争力に関する評価研究報告』。科学出版社2007年版、220ページ。
  • [*4]John Henry Cardinal Newman.The Idea of a University: Defined and Illustrated. Chicago. Ill.Loyola University Press, 1987.464.
  • [*5]Abraham Flexner Universities: American,English,German. New York,etc.: Oxford University Press, 1930.230.
  • [*6]何欽思著:『教育の現況と将来』。香港:今日世界出版社、1976年、第22ページ。
  • [*7]Karl Jaspers. The Idea of the University.London : Peter Owen Ltd, 1965.19.
  • [*8]Samuel Eliot Morison. Three Centuries of Harvard:1636-1936. Belknap Press of Harvard University Press, 1994.454.
  • [*9][米]デレク・ボク著:『象牙の塔を超えて』。浙江教育出版社。2001年、第27ページ。
  • [*10]Karl Jaspers. The Idea of the University. London : Peter Owen Ltd. 1965. 141.

主要参考文献:

  1. 王英傑、劉宝存:『世界一流大学の形成と発展』。山西教育出版社、2008年。
  2. 羅雲:『中国の重点大学と学科整備』。中国社会科学出版社、2005年。
  3. 「211プロジェクト」部門間協調グループ弁公室編集:『「211プロジェクト」発展報告(1995-2005)』。高等教育出版社、2007年。
  4. 邱均平:『世界一流大学や学科の競争力に関する評価研究報告』。科学出版社、2007年。
  5. 胡炳仙:『中国の重点大学政策:過去と未来』(博士論文)。華中科技大学、2006年。
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