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【11-001】日本を追い抜いた中国の科学技術

2011年 1月26日

3 中国の科学技術水準

 中国の科学技術水準は、まだまだレベルが低いという評価の反面、世界トップクラスとの評価も聞く。世界水準から見てどのように評価すべきか。いろいろな面について、多様な評価があり、画一的な評価は、極めて難しい。多方面から総合的に判断せざるを得ない。

(1)一般的科学技術水準 

 科学技術振興機構研究開発戦略センター(CRDS)では、平成21年4月、わが国の最先端研究者356人から、ヒアリングを行い、「国際技術力比較調査」を行った。

 この調査では、最先端科学技術分野①電子情報通信②ナノテクノロジー・材料③先端計測技術④ライフサイエンス⑤環境技術⑥臨床医学の分野について274項目、それぞれ、①大学、公的研究機関の「研究水準」②企業の研究開発レベルである「技術開発水準」③企業の生産現場の「産業技術力」を調査した。その結果、世界水準からみて、非常に進んでいると評価された項目は、以下のとおり。

「電子情報通信」

 集積回路(高周波、アナログ)(産業技術力)、光通信(産業技術力)、光メモリー産業技術力)、マルチメディアシステム(研究水準、技術開発水準)、ネットワークシステム(産業技術力)、情報通信端末技術(産業技術力)

「ナノテクノロジー・材料」

 ナノ空間・メソポーラス材料(研究水準)、新型超伝導材料(研究水準)、単分子分光(研究水準)、国際標準・工業標準(取り組み水準)

「先端計測技術」

 Ⅹ線、γ線(分光分析法)技術開発水準、産業技術力)

「ライフサイエンス」

  環境・ストレス応答(植物学)(産業技術力)

「臨床医学」

 診断機器(MRI、CT、PET以外)(創薬基盤)

 それ以外では、全体的にみて、米国が圧倒的に進んでおり、欧、日がそれに次ぐ地位にあるが、中国は、欧、日に急速に追いつきつつあるとの評価結果であった。

 中国科学技術部科学技術情報研究所は、CRDSの調査結果を中国語に翻訳して分析したが、同様の傾向との感触を得ている。

(2)ビッグ・プロジェクト

 CRCが、中国におけるビッグ・プロジェクトの調査を重ねた結果の概要は、次のとおり。

1)原子力

 国際エネルギー機関の2009年のデータによれば、中国の原子力発電設備容量は、

 8.59百万kWと少なく、米国の12分の一、日本の5分の一、世界11位である。一方、極めて野心的な原子力発電計画を有しており、建設中の原子力発電設備容量は

 16・4百万kW、準備中の原子力発電設備容量37.5kWと、それぞれ、圧倒的に世界第一位である(図3-1)。更に、国際原子力機関の原子力長期展望によれば、原子力利用を高く予測した場合、中国は、2030年には、米国を抜き、世界最大の原子力発電利用国となり、2060年には、米国の1.9倍、わが国の5倍以上の巨大な原子力発電利用国となる(表3-1)。

図3-1

図3-1:各国別建設中及び準備中の原子力発電容量

原典:WNAデータ2009

出典:「平成21年版中国の科学技術力について(ビック・プロジェクト編)」により作成。

表3-1:世界の原子力発電の長期的展望単位:GW(百万kW)
  2008年 2030年(High) 2060年(High)
ブラジル 2 30 100
カナダ 13 30 40
中国 9 200 750
63 75 110
20 50 80
インド 4 70 500
日本 48 70 140
ロシア 22 80 180
韓国 18 50 80
11 30 80
99 180 400
世界計 367 1339 3688
原典:WNAデータ 2009
出典:「平成21年版中国の科学技術力について(ビック・プロジェクト編)」により作成。

 稼働率は、わが国よりはるかに高く、韓国に次ぐ世界第二位である。

 発電立地は、中国全土に広がっている。

 技術は、ロシア等からの導入を図りつつ国産炉を開発してきた。最近は、米、仏の世界最高水準の炉を導入しつつ、国産化比率を高め、自主技術の確立を目指している。

 中国は、フランス、わが国と同様、核燃料サイクル政策即ちプルトニュウム利用政策をとっている。世界中の各国から、戦略的にウラン資源を確保し、国内で、ウランの生産、加工を行い、ウラン濃縮技術を保有し、再処理技術は開発中である。中国核工業集団公司では、2011年1月、再処理技術開発に成功、プルトニウムを取り出しに成功したと報道された。中低レベルの廃棄物処分場は、2箇所整備され、高レベル廃棄物処分技術は開発中で、最終処分シナリオを検討中である。さらに、高速増殖炉、高温ガス炉実験炉を開発中であり、核融合はITER(国際核融合計画)に参加、強力にすすめている。原子力のあらゆる分野について、最先端の技術を導入しつつ、自主技術の確立を目指し、着々と成功しつつある。

 将来の膨大な原子力発電、原子力産業の需要を見すえ、巨大な原子力行政体制、産業群が出来上がっている。

 原子力行政は、工業情報化部傘下の「中国国家原子能機構」が、計画の策定、審査、監督、輸出管理、核物質管理、国際交流等行政を一元的に担っている。

 傘下の「中国核工業集団公司」は、100社以上の企業、事業体、設計院、研究所の集合体で、職員は10数万人といわれる。原子力発電、核燃料サイクル(ウラン探鉱、精錬、加工、濃縮、使用済み燃料再処理、放射性廃棄物処理)、放射線利用全般の研究開発、設計、生産、運転管理を担う。

 このほか、中国広東核電集団有限公司、中国電力投資集団公司、中国核電工程公司、中国核動力研究設計院、国家核電技術公司、等々の企業群に加え、膨大な数のメーカーが原子力開発を担っている。

 また、研究開発の面では、中国原子能科学研究院をはじめ、原子力関係研究機関、大学等豊富な人材を育てつつ、広範かつ重厚な世界に冠たる研究体制が出来上がっている。

2)宇宙輸送システム分野

 有人宇宙飛行に成功した中国の宇宙科学技術は、世界最高水準にある。以下の活動を見ると、日本は、はるかに抜き去られ、もはや追いつくことができない状況が理解できる。

 そして、これを支える、明確な政策、軍を含む膨大な行政組織、ロケット、衛星の研究所群、製作企業群が出来上がっていることも重要である。

①打ち上げロケットの性能

 現在は、「長征」2号、3号、4号のシリーズロケットにより打ち上げが行われている。既に、有人衛星「神舟」を打ち上げた「長征2F」(低軌道打ち上げ能力8.4トン)、静止衛星打ち上げ能力5.2トンを有する「長征3B」等欧米並みの能力を有する優れたロケットを有しているが、現在開発中の低公害新型エンジン「長征5」の最強モデルは、静止衛星14トン、低軌道衛星25トンの打ち上げが可能であり、欧米をはるかに凌ぐ性能となる。2010年には、天津に、工場9棟からなる大型ロケット産業基地の基本建設が完成する(図3-2)。

図3-2

図3-2:運用中及び計画中の長征ロケット及び各国主要ロケットの打上げ能力

出典:「平成21年版中国の科学技術力について(ビック・プロジェクト編)」により作成。

②ロケット打ち上げ回数と成功率、打ち上げ場

 「長征」シリーズは1970年から118回の打ち上げが行われ、9回失敗、成功率は、

 92.4%、米、ロ、欧、日は90.95%以下。最近12年一度も失敗がないことは驚異的といわれている。

 打ち上げ場は、内陸部、酒泉、西昌、太原の3箇所にあったが、最近、赤道に近いため安価に打ち上げが可能な海南島に第4の打ち上げ場が建設された。

 有人宇宙船着陸場は、内モンゴル自治区四子王旗にある。

3)人工衛星技術

 人工衛星技術は、世界水準にあるといわれ、標準化を積極的に行っている。

 多くの人工衛星が打ち上げられ、通信放送、地球観測、航行測地が積極的に行われている(表3-2)。カーナビ、航空、航行管制に不可欠な測位システムは、長らく米国の軍事システムGPSが使われ、独壇場であったが、その重要性に鑑み、ロシアはグロナス、ヨーロッパはガリレオという独立システムを構築しつつある。中国も既に「北斗」という衛星を打ち上げ、2012年にはアジアを、2020年には全地球をカバーする独自の計画を打ち出している。と同時にガリレオ計画とも協力関係にある。ナイジェリア、タイの通信装置の打ち上げ。気象データをアジア、太平洋諸国18カ国に無償提供。また、イギリス、トルコ、ナイジェリア、アルジェリアと5カ国の衛星と災害監視衛星群を構成するなど国際活動が極めて活発で、宇宙技術が外交にフルに利用されている。

表3-2 各国の年代別衛星打上げ数
年 代 米 国 欧 州 ロシア 日 本 中 国 インド カナダ
1957-1960 35 - 9 - - - -
1961-1970 629 21 483 1 1 - 3
1971-1980 247 43 1053 19 7 3 6
1981-1990 234 47 1123 31 23 9 5
1991-2000 535 112 442 32 30 14 7
2001-2009 251 106 184 58 64 22 14
総 計 1931 329 3294 141 125 48 35
1991-の小計 786 218 626 90 94 36 21
出典:「平成21年版中国の科学技術力について(ビック・プロジェクト編)」により作成。

4)宇宙科学分野

 宇宙の観測、研究を行う宇宙科学分野の衛星は、これまで4機の打ち上げがあるが、うち2機は、欧州宇宙機構と共同活動である。

 また、月探査計画の面では、2007年10月、月探査衛星「蟐蛾」一号を打ち上げ、成功、月の全球マップを公表。2010年10月、「蟐蛾」二号が打ち上げられた。第2フェーズでは、月面着陸調査、第3フェーズ2kgのサンプル採取、2025年から2030年有人着陸、その後、月面有人基地設置の構想を持っている。

5)有人宇宙活動

 有人宇宙計画は、無人の場合より10倍の予算が必要といわれ、わが国には明確な計画はない。中国の有人宇宙船「神舟」は、1999年から無人で4回打ち上げられ、2003年10月「神舟」5号には1名、6号には2名、7号には3名が乗船した。7号では、船外活動が行われた。

 更に、2010年には、無人宇宙実験室「天宮」を打ち上げ、宇宙ステーションを構築し、これを有人宇宙ステーションにつなげる予定。

6)宇宙開発関連組織

 工業情報部国防科学技術工業局のもとの「国家航天局」傘下に、「中国航天科技集団公司」(多数の企業の集団、ロケット、衛星等の開発、製作担当。総従業員数十二万人。)と「中国航天科工集団公司」(宇宙関連装備の開発・製造、情報、金融、建築を担当。総従業員数10万人)がある。

 研究は、科学院に多くの関連研究所があり、工業・情報化部傘下の北京航空航天大学南京航空航天大学ハルピン工業大学西北工業大学、中央軍事委員会傘下の国防科学技術大学が中心となって行われているほか、清華大学等教育部傘下の大学でも行われている。

 人材養成は、上記大学で行われている。

 ロケットの打ち上げ、管制、衛星の管制は、人民解放軍総装備部が行っている。

 宇宙開発には、軍が深く関わっており、その予算、人員等膨大と思われるが、定かでない。

(3)海洋開発政策

 中国は、明確な海洋政策を有し、海洋基本法を制定し、海洋主管省庁(中国国家海洋局)を定め、2008年には、2010年から2020年までの「国家海洋事業発展計画」を定めて、海洋観測、海洋環境保全、海洋科学研究、海洋開発技術開発、海洋イノベーションシステム、教育、人材育成等々広範多彩な分野の計画を進めている。

 世界最高水準の海洋調査船及び海中探査機、海洋観測衛星、海洋観測ステーションを整備し、行政機構を整備し、海洋観測を強力に進めている。2010年8月、科学技術部と

 国家海洋局は、自主技術による有人潜水調査船「こう龍号」は、3759メートルの深さに到達と発表している。2011年には、5000メートル、その後、7000メートルを目指す計画。

 また、極めて短期間の間に、極地調査船を建造、南極に3基地を建設、南極、北極の観測を精力的に進めている。

 また、中国は、韓国、日本と並ぶ世界最大の造船国である。

 さらに、海洋における石油、天然ガスは、全体の3割を占め、その開発は極めて重要であるが、中国は、このための機構「中国海洋石油総公司」を設け、強力に開発をすすめている。「中国海洋石油総公司」は、欧米の体制と異なり、20数社の子会社群を有し、海底での調査、探鉱、生産、装置開発、サービスまで、一貫して行うことのできる強力な体制となっている。これらの活動は、渤海、東シナ海、南シナ海、のみならず、ナイジェリア、アンゴラ等国外でも行われている。

 また、3000メートル級深海石油掘削技術開発、メタンハイドレード調査船の開発など利用のための総合技術開発をすすめている。

(4)科学技術インフラ

1)加速器

 中国科学院高エネルギー物理学研究所に、電子・陽電子衝突型加速器BEPCⅡ設置されているが、欧米、わが国に比べ、まだレベルは低い。建設、計画中の加速器は幾つかあり、それらは、世界最高水準である。

 科学院上海応用物理学研究所の放射光施設には、電子加速エネルギー3・5GEV。世界最高のわが国のスプリング8のGEVには劣るものの、欧米並みの性能で、わずか4年で建設している。ビーム数は60で、スプリング8とほぼ同じ。全国500の利用者が待っており、逐次、利用に供されるという。ビーム建設の費用(日本では1本約10億円)は全て科学院負担。わが国は、利用者負担原則であるため、完成後16年経つが全てのビームが利用されていはいない。

2)スパコン

 スパコンの性能は、本年11月に発表された米国の大学などで構成する「TOP500ランキング」によれば、国防科学技術大学が開発した「天河1A」は、1秒当たり演算回数2570兆回で、第二位の(従来世界第一位)米国クレイ社のスパコンを5割上回り、世界第一位となった。また、従来世界第二位であった深セン国立スパコンセンターの「星雲」は、世界第3位となった。ちなみに、わが国の最高位は、東京工業大学の「つばめ」が4位に食い込んだ。

 スパコンの設置台数についても、「TOP500ランキング」においてわが国(26台、3位)を抜き、41台と世界第2位。

 スパコンは、科学技術力の源。誠に憂うべき事態になっている。

3)シークエンサー等

 ライフサイエンス研究の基盤、次世代DNAシークエンサーの導入は、科学院北京ゲノム研究所に30台。中国人ゲノム、稲ゲノム、パンダゲノムなどを解析、世界中の注目を集めている。さらに、上海、深センにゲノム研究の拠点を建設予定。わが国のわずか14台をはるかに凌ぐ。

(5)総括

 以上、一般の科学技術水準、ビッグプロジェクトの水準の概略をみてもわかるとおり、現状において、全ての面でわが国より勝っているとは言い難いものの、壮大な政策の明確性、そのための膨大な研究開発体制及び生産体制、資源配分の姿勢、急激な伸び率を考慮すると、まもなくわが国を抜き去ると考える。



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