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【11-001】日本を追い抜いた中国の科学技術

2011年 1月26日

5 中国の科学技術政策

 改革開放以来わずか30年余、歴史上に例のない急激な経済発展、科学技術発展をもたらした原因は何か。

 背景には、古来の火薬、羅針盤、紙の製法の発明から窺える中国国民の科学的資質の優秀性、優秀かつ膨大な国民による激烈な競争社会があると思うが、直接の原因は、中国共産党による強力に統合された政治行政組織から生み出される、適切かつ一貫した科学技術政策とその実行にある。

(1)科学技術政策の歴史・・・共産党政府設立当初から最重要視

 1949年、共産党政府設立と同時に、今日中国の科学技術を牽引している中国科学院を設立。翌年には、中国科学技術部の前身、全国自然科学連合会、全国科学技術普及協会が設立されている。

 1955年、国務院科学規画委員会を設立、最初の中長期計画「科学技術発展遠景計画」を策定、「科学の進歩」を共産党のスローガンとし、1963年から67年「科学技術発展規画」を策定。以降、今日まで5年ごとに改定される。

 これまでの期間はソ連をモデルとして、計画経済、国家防衛を目的としていたが、1970年代後半以降は、市場経済、経済発展を目的とする科学技術政策に変更。

 1978年には、鄧小平が「国防、農業、工業、科学技術」の「四つの現代化」を、そして、「科学技術は第一の生産力である。」が党のスローガンとなり、あらゆる施策の根幹となり、今日まで変わらない。

 1993年「科学技術進歩法」が策定、2007年には改定され、科学技術を第一の生産力と位置づけ、イノベーション国家を目指すとともに、研究の自由、奨励、知的財産戦略の策定、税制の支援等諸制度を整備するとともに、GDPにしめる研究開発投資の比率を引き上げることを明記し、財政支出の増加を規定している。本法は74条に及び、科学技術の推進全般について、詳細かつ具体的に規定され、中国科学技術政策の根幹となっている。

 1995年、国務院は、「科学技術の進歩の加速に関する決定」を公布。科学と教育をともに発展させ、国を興す「科教興国」を決定。科学技術大プロジェクトへの集中投資が加速、更に、科学技術以上に教育への投資が加速する。

 1999年には、国務院は「科教興国」から「自主イノベーション戦略」へ転換、「技術イノベーションの強化、ハイテクの発展、産業化の実現に関する決定」を公布。

 胡錦濤主席は、党の方針として「人を中心とした広範、強調、持続可能な科学の発展観と調和社会の建設」を新たな目標とし、2006年「国家中長期科学技術発展綱要(2006年から2020年)」を公布。自主イノベーション、重点飛躍、発展支持、未来牽引を党の指導方針とした。

(2)現在の科学技術政策の概要

1)共産党全国人民代表会議

 共産党全国人民代表会議(全人代)がスローガンとして党の基本方針を出す。スローガンは、主席が交代するごとに新たに出されるが、一貫して科学技術は、最重要政策としてうたわれている。

 次に、スローガンを受け、国務院が国全体の計画として、「国家中長期発展規画」(15年計画)を策定。更に、国務院の計画を受け、科学技術部が中心となって「国家中長期科学技術発展規画」(2006年~2020年)を策定(表5-1)。これを元に5カ年計画を策定、現在は、「第11次5カ年科学技術発展規画」(2006年から2010年)中(表5-2)で、これらの計画を元に、科学技術部を中心に各省によって、広範かつ極めて多くの具体的な計画、プロジェクトが策定され、実行に移されている(図5-1)。

表5-1「国家中長期科学技術発展規画」(2006~2020年)の主な発展目標
指標 2020年目標
全社会R&D/GDP 2.5%以上
対外技術依存度 30%以下
科学技術の進歩の経済成長に対する貢献率 60%以上
中国人の発明特許・国際科学論文の引用数 世界上位5位
出典:JST中国総合研究センター「平成21年版中国の科学技術の現状と動向」により作成。
表5-2「第11次5ヵ年計画」期間(2006~2010年)の科学技術発展の主な目標
指標 2010年目標
全社会R&D/GDP 2%
対外技術依存度 40%以下
国際科学論文の引用数 世界上位10位
中国人の発明特許ライセンス件数 世界上位15位
科学技術の進歩の経済成長に対する貢献率 45%以上
ハイテク産業の増加額/製造業の増加額 18%
科学技術人材の人数 5,000万人
科学技術に関する従業員数 700万人
R&Dの活動に従事する科学者とエンジニアのFTE換算値 130万人/年
出典:JST中国総合研究センター「平成21年版中国の科学技術の現状と動向」により作成。
図5-1

図5-1:「第11次5ヵ年」科学技術計画体系図

出典:「平成21年版中国の科学技術の現状と動向」

 図5-1の「国家科学技術計画体系」を見ていただくとわかるとおり、これは、壮大な国家戦略に基づく、産業技術政策、国土振興策、イノベーション政策、中小企業政策、農業政策、教育政策を包含した国家発展改造計画であり、それぞれが、具体的であり、政府全体が一丸となって、着実に実行に移されている。わが国の科学技術基本計画は、まったく異質なものである。

2)中国科学技術政策の特徴

 中国共産党のスローガン、国務院の基本政策において、中国の発展は、科学技術によるとの方針が徹底しており、科学技術は、常に最重要政策として位置づけられている。

 政治のトップに意思が明確で、政権が変わっても政策が継続され強化されている。政治のトップ中国共産党全人代の9人の常務委員のうち、8人が自然科学系、胡錦濤主席は、清華大学出身科学者、習近平常務委員も精華大学出身である。

 中国では、科学技術分野の政策、施策は、政治のトップから行政まで、長年その行政分野について経験深い専門家が携わっている。彼らによって、政策は、周到に検討議論されてつくられ、実行に移されている。科学技術に対する関心と理解がわが国と全く違う印象を受ける。

 また、全人代、国務院のような、国全体を考え、調整する機関の権限が強く、政策もその実行も各省が一丸となって行っている。

3)政策は、中国と世界の現状を踏まえ、よく検討されて、柔軟かつ大規模な政策が次々と打ちだされ、確実に実行されており、うらやましい限りである。

 ちなみに、わが国は、「科学技術基本計画」が策定されたのは、1996年。研究開発投資目標が守られたのは、第一期(1996年から2000年)のみ。以降、第二期、第三期(目標25兆円に対し、21.6兆円達成)ともに守られていない。政策を責任を持って作成し、実行する体制になっていない。

 中国は、わが国よりはるかに歴史が古く、高度な「科学技術政策先進国」である。



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