【12-003】瀋心亮:国家生物医学戦略への貢献
科学技術日報 2012年 3月26日
政府から特別手当を受けている瀋心亮氏は控えめな性格で、ほとんどインタビューを受けないため、検索エンジンでも同氏に関する報道を見つけることができない。しかし、国家薬典委員会委員、国 家ハイテク研究発展計画(863計画)生物・医薬技術分野専門家グループ専門家、中国証券監督管理委員会第1回創業板発行審査委員会委員、中国医薬バイオテクノロジー学会遺伝子工学薬品・ポリペプチド薬品・ワ クチン専門委員会副主任委員などのそうそうたる肩書きは、瀋氏の業界内における高い影響力を示している。これまでの成果とこれから未来に対し、瀋氏は感慨ひとしおだ。一人の科学技術者として、瀋 氏の一番の望みはやはり実験室に戻り、バイオ産業の研究に情熱を注ぎ、落ち着いて丹念に研究し、未知の分野を探索することだ。瀋氏はこの無限の楽しみを得るために、生涯をかけて努力し続けたいと望んでいる......& amp; amp; lt; /p>
瀋氏は研究者である。30年間のキャリアの中で、同氏はバイオ新薬「神経成長因子」の開発を担当したほか、「第9次五カ年計画」の難関突破計画と「第10次五カ年計画」の863重点プロジェクト「 遺伝子組み換えE型肝炎ワクチン研究」に取り組み、また「重大伝染病ワクチン緊急時大規模作成技術(国家重大伝染病特別プロジェクト2008-2010)」を組織・実施した。その間、瀋 氏は蘭州生物製品研究所の第四研究室主任から副所長となり、そして北京生物製品研究所の副所長から所長となり、さらに共産党副党書記に就任し、現在は中国生物技術集団公司の副総経理を務める。このほか「手足口病( EV-71)ワクチンの開発」(国家科学技術サポート計画プロジェクト2008-2011)の首席科学者を担当するなど、瀋氏はこれまで、堅 実な仕事ぶりと豊かな成果で研究者としてのキャリアに輝かしい歴史を残してきた。
瀋氏は、ビジネスマネージャでもある。「第11次五カ年計画」科学技術発展計画では、科学技術難関突破において企業が果たす役割がより強化された。当時北京生物製品研究所の所長だった瀋氏は、中 国生物技術集団公司により推薦され、様々な審査の結果、863計画・生物医薬技術分野専門家グループ専門家となり、863計画生物医薬分野の研究方向決定に参加した。こ れにより瀋氏はより高いプラットフォームに立ち、より広い視野を得ることができた。
第一線の研究者からバイオ製薬の一連の重大研究プロジェクトのリーダーへ、そして国家バイオ医薬産業科学技術の計画決定者へと、瀋氏は人生の価値を徐々に昇華させた。そして現在、瀋氏は再編•統 合を経た中国生物技術集団で研究統合リーダーの重責を負っている。
性器ヘルペス組換えベクターワクチンの開発
1982年、瀋氏は蘭州大学を優秀な成績で卒業し、蘭州生物製品研究所に就職した。全く無名の技術幹部から研究を率いる副所長になるまで、瀋氏は同研究所で22年間働いた。
瀋氏は「研究員たるもの、杓子定規で融通が利かないようではいけない。新しいものを求め続ける衝動を持ち、イノベーションを通じて発見の楽しさを享受しなければならない」と語る。彼のイニシアチブの下、同 研究所では遺伝子工学技術プラットフォームが確立された。このプラットフォームで、瀋氏率いるチームは「第9次五カ年計画」難関突破計画と「第10次五カ年計画」863重点プロジェクトの資金援助を獲得し、「 遺伝子組み換えE型肝炎ワクチンの開発」を開始した。
瀋氏は30年以上の研究の歴史を感慨深く振り返る。「研究者は孤独に耐えなければならない。最大の試練は根気と持久力だ。なぜなら1%の成功は往々にして99%の失敗の上に築かれているからだ。ア イデアと結果がいつも一致するとは限らない。無数の変更、衝突、分析...。そこに近道はなく、一歩ずつ進めていくしかないのだ」「真の科学者というものは、たやすくあきらめず、最 後まで着実にやり遂げなければならない。どのような立場にあっても科学実験は絶対に自分の手で行い、経験を蓄積しなければならない。このプロセスにショートカットは無い。また、壁 にぶつかったときはしっかりと分析・総括し、問題の核心を見つけ、新たな道を切り開かなければならない」。
性器ヘルペス組換えベクターワクチンの開発の途中、実験のことを考えすぎて「夢の中でもアイデアを練っていた」と笑う瀋氏。「ある時夢の中で解決方法を思いつき、すぐに実験室に行きたかったが、夜 中は実験室が閉まっているのでまずアイデアをノートにとってから翌日の朝一番に実験室に駆け込んだ、ということもあった」。
瀋氏によると、性器ヘルペスを引き起こす最大の原因は単純ヘルペスウイルスだ。近年、性器ヘルペスの発症率は各国で高まり続けており、感染率が最高の性病の1つとなっている。瀋 氏率いる課題グループは性器ヘルペスの組換えベクターワクチンの開発に取り組み、2009年にはSev/gDとSev/ICP27(混合比1:1)ワクチンの免疫学的効果の観察を終えた。実験により、2 種類のワクチンを同時に筋肉内注射すると免疫干渉が生じることが分かった。具体的には、2種類のワクチンを個別に接種した時と比べ、体液性免疫(中和抗体価)と細胞性免疫が低下した。これまでに、す でにSev/gBのワクチン構築が完了している。
手足口病ワクチンに向けた挑戦 初戦に勝利
2008年3月、感染力の非常に高いウイルス性疾患、手足口病が安徽省阜陽市で大流行した。感染した児童23人が死亡し、政府および人々の注目を集めた。衛生部は同年5月、手 足口病を伝染病予防法で規定される丙類伝染病リストに組み込んだ。瀋氏の職業的な感覚はこれに敏感に反応した。
2005年~2007年の中国流行病学研究データによると、手足口病の重篤例の81.59%、死亡例の96.43%はEV-71の感染によるものであった。瀋氏の頭の中で、病 原ウイルスEV-71に対応するワクチン開発の構想がますます明確となった。
先見の明とユニークな視点を持つ瀋氏は2008年の春~夏、国家科技部に国家科学技術サポート計画2000万元プロジェクトの資金援助を申請してこれを取得し、手足口病(EV-71)ワ クチンの開発に着手した。科技部と中国生物技術発展センター、国家政策の積極的なサポートを受けた課題グループは、強固な基盤と十分な準備が功を奏し、わずか2年半で難関を突破。通 常のサイクルよりも2年前倒しでEV-71ワクチンの設計、パイロット試験、有効性テスト、安全性評価、品質管理など、全ての前臨床研究を終えた。
瀋氏は「2010年12月24日、中国生物技術集団は国家食品薬品監督管理局が発行するEV-71不活化ワクチン臨床研究許可書を獲得し、世界初の不活化ワクチンの中国での発売に向け、重 要な一歩を踏み出した」と誇らしげに語る。
同プロジェクトの首席科学者である瀋氏は、とても謙虚にこう語る。「これほど短期間で臨床研究許可書を獲得できたのは、北京生物製品研究所が数十年間にわたってウイルス分離・ス クリーニング面で蓄積してきた豊富な経験のおかげであり、大規模な細胞培養および純化分野で積み上げた長年の経験のおかげであり、研究所全体が投入した資源、チームワーク、統括的な科学管理のおかげである」。瀋 氏によると、それでも課題の推進においては大きな困難に見舞われたという。周知のとおり、現在世界では手足口病のワクチンがまだ販売されていない。研究過程において直面したボトルネックの1つは、動 物モデルの問題だった。なぜなら、世界にはまだEV-71ワクチン有効性評価のための適切な動物モデルが存在しないからだ。
瀋氏の研究は長年の経験を基にイノベーションを重ね、中国国内流行株(048マウス株)を用いて知的財産権を有するEV-71感染新生仔ラットモデルを確立した。中 国国内流行株をベースとするEV-71感染新生仔ラットモデルは現時点で世界唯一であり、EV-71 ワクチンの前臨床評価に向けて科学的なサポートと信頼できる保証を提供した。
EV-71ワクチンの臨床研究は現在急ピッチで行われており、瀋氏も神経を尖らせている。「今はまだ勝利を祝う段階には程遠い。他の科学研究と同じく、新薬の開発の最終的な成功は、困 難と問題を一つ一つ解決することの上に成り立っている。ある段階で躓く可能性も存在する。これは、科学研究の困難な点であり、残酷な点でもある」。しかし長年の努力と経験により、瀋氏は困難に直面しても慌てず、自 信をもっている。EV-71ワクチンは瀋氏と研究チームの希望であり、中国生物技術集団の希望であり、国と国民の希望なのだ。