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【08-01】ニッポンの中国人研究者part1~「日本における中国人科学技術人材の活動状況調査」より~

今井 寛(筑波大学大学院教授・中国総合研究センター特任フェロー)   2008年1月20日

中国人研究者の意識とは

 「中国の科学技術」と「科学技術人材」を対象とした調査研究に関わっていていつも感じるのは、

 日本で活動している中国人研究者達はどんなことを考えているのか、ということだ。

 時折耳にするのが「日本に来た中国人研究者は元々日本を希望していた訳ではなかった」とか「日本である程度業績を上げた後は渡米か中国への帰国を希望し ている」といった話だ。日本人としては、優 秀な研究者が他の国を目指しているというのは寂しい気がするが、真偽の程は定かではない。

 そんな訳で、2004年度から2006年度まで科学技術振興機構、科学技術政策研究所及び政策研究大学院大学の三機関が連携・協力して「日本における中 国人科学技術人材の活動状況調査」が行われた( 日本総研も一部作業に参加)。筆者もプロジェクトの企画段階から取り組んできた。

 調査の具体的な方法や結果については、2007年11月に中国総合研究センターが編集した報告書があるのでそちらを参照にして欲しいが、まず日本国内の 大学・公的研究機関・民 間企業を対象として機関アンケートを行った後、引き続き各機関の在籍者で協力に同意して頂いた外国人研究者に対して2006年1月 に個人アンケートを実施した。

 今回はこのうち中国語の調査票に回答した中国人研究者122名の結果について、幾つか紹介したい。なお、回答者の割合は全て小数第一位を四捨五入した数字(%)を用いる。

 回答者の属性

 122名のうち、大学・公的研究機関に所属する研究者の役職を見ると、教授6%、助教授8%、助手12%などとなっている。またポストドクトラルは40%であり比較的高い。

 雇用形態としては、終身雇用17%に対して任期付き雇用は66%である。

 性別については、記載があった回答について見ると、男性と女性が3対1くらいになる。

 年齢は、三十代が全体の5割、四十代が3割を占める。

 最終的に学位を取得した地域としては、日本が4割、中国が6割であった。

 従って、本アンケート調査における最もメジャーな回答者像は「中国で学位を取得後来日して、大学か公的研究機関でポスドクをしている三十代の男性のポスドク」ということになる。大 まかなイメージがつかめるだろう。

日本は第一志望だったか

 元々日本に来たかったのかどうかという例の疑問については「海外での研究活動を考える際に、日本は、あなたの第一志望国でしたか」という問いに対して「はい」が48%、「いいえ」も48%と拮抗している。< /p>

 この数字を大きいとみるか、小さいとみるかは人によって違うだろう。自分の見聞きした範囲からすると、若い中国人の「米国に留学したい」気持ちにも色々 とあると思う。日本人も同じだろうが「 絶対にアメリカがいい」という人から「周囲も希望してたんで自然にそう感じていた」くらいまで、その強さは様々であ る。 「日本が第一志望だった中国人研究者は殆どいない」という状況ではないことに、少 し安心する。

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なぜ日本を選んだのか

 では「日本を選択した理由」はどうだろうか(複数回答可)。まず「研究施設や研究設備が充実しているため」が42%、「対象とする研究分野において、日 本の研究レベルが高いため」が 40%というところが目をひく。やはり研究者にとっては、研究に取り組みやすい環境が大切なのである。

 続いて「自国での指導教官から推薦されたため」が38%というのもある。話を聞いてみると、日中両国の指導教官同士が古い友人だったというケースも多い。 派遣側は「あの人の研究室なら安心」となるし、受 け入れ側も「あの人の弟子なら優秀で信頼できるだろう」と考える。人と人とのフェイス・トゥ・フェイスの つながりが重要という所以である。

 また、研究者もまず生活者なのだと感じるのが「文化的に親しみがもてるため」37%、「地理的に近く、行き来しやすいため」30%である。確かに中国行 きの飛行機に乗ると、3〜4 時間くらいで到着してしまう。髪の色や肌の色も同じだし時差も殆どないため、欧米ほど「外国にいるんだ・・・」という感慨や緊 張感もない。このような日本に対する見方は、今 後中国が豊かで成熟した社会になればなる程、地理的にも文化的にも近い日本が比較的気軽に行ける外国として 希望されてくるのではないか。 生活が豊かになると、研 究面ならいざしらず生活面でも厳しい環境に身を置いても上昇したいと熱望する人が、減ってくると考えられるからだ。 もちろん今後とも日本の研究水準が世界的に見ても高いことが前提ではあるが。

 一方、日本での研究活動の契機となった制度や仕組みをみると、国費留学は17%、私費留学は21%と意外と低い。最も多いのはポスドクなど「日本機関か らの研究ポストの提供」で50%を占める。研 究機関が外部の競争的資金で研究プロジェクトを起こしたケースや、自己資金での任期付き雇用などが考えられ る。

 日本を選択した理由について紹介したが、次回は来日後の日本に対する認識の変化、負担に感じられる点、今後とも日本での活動を希望するかどうか等について紹介したい。