【12-03】庶民が付けたビルの「あだ名」
鈴木 暁彦(中国総合研究センター フェロー) 2012年11月 2日
「股引(ももひき)。しかもローライズだ」。
中国で建築中の超高層ビルのデザインが、インターネットでひとしきり大きな話題となった。「ローライズ」は股間からウエストまでの丈が短いボトムのデザインで、中国でも流行している。ネ ットユーザーが写真とともにブログに投稿、内容が面白い、と次々と転載され、新聞にも取り上げられて「あだ名」は一気に有名になった。
江蘇省蘇州市の超高層ビル「東方之門」。高さは300メートルに達し、2013年の竣工予定で、新しいランドマークになる。
広州の人気タブロイド紙、南方都市報は、ネット上での話題として、写真つきで掲載。「”ローライズ股引”の独特の造形が、ミニブログ(微博)のホットな話題になった。ネットユーザーの中には、『 中央テレビ本部の”大きなパンツ”も、これで寂しくなくなった』とからかう者さえいる」と紹介した。
(http://gcontent.oeeee.com/6/9a/69a5b5995110b36a/Blog/262/7bdd69.html)
「大きなパンツ」は、中国国営中央テレビ(CCTV)本部ビルのあだ名。奇抜なデザインの巨大ビルは、北京のビジネス街に建ち、威容を誇っているが、北京市民は通俗的な名前で呼んで笑い飛ばし、溜 飲を下げている。
ネットで「股引」ビル旋風が巻き起こった後、次に話題をさらったのは、浙江省杭州市の建設プロジェクトだ。プロジェクトの正式な名前は「杭州オリンピック国際エキスポセンター」。施 設を構成する体育館とプールの双子ビルの完成イメージ図に対し、ネットユーザーは「ビキニ」ビルというあだ名を付けた。北京の「パンツ」、蘇州の「股引」に次いで、庶民はさらに通俗的な「ビキニ」の 呼び名をビルに与えたわけだ。
(http://www.voc.com.cn/article/201209/201209091743515964004.html)
蘇州の「股引」のあだ名については、地元共産党委員会機関紙の蘇州日報が噛み付き、「ローライズの股引には風刺の意味もあるが、『世界第一門』という設計者の意図を読み取るには、文化的な見識が必要だ。教 養がなければ、東方之門は見えない」と、ネットユーザーを暗に批判した。これに対し、あるネットユーザーは「建築のことは分からないが、ビルが美しいかどうかという問題は、大 衆や歴史の検証を受けなければいけない。”股引”という呼び名は完全に否定的な意味ではなく、からかっているにすぎない。蘇州日報は、教養がなければ”東方之門”は分からない、というが、態 度が独断的であるだけでなく、度量が少し小さく見える」と指摘した。
中国は各地で大型プロジェクトが目白押し。次々に奇抜なデザインのビルが建っているが、こうしたプロジェクトは基本的に密室政治によって決められ、一 般市民の意見や考えがプロジェクトに反映される機会はほとんどないのが実情。ネットユーザーは、ビルにあだ名を付けて風刺するとともに、ネット上での転載によって人口に膾炙する様子を楽しみながら、気 晴らしをしているようだ。
(注)クーは、衣へんに車。チャーは、衣へんに叉。