和中清の日中論壇
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【10-002】中国の高速鉄道

和中 清(㈱インフォーム 代表取締役)     2010年 5月18日

 2004年に中国は川崎重工、フランスのアールストンなど3社と高速鉄道技術導入の合作協議を進め、翌年にはシーメンスと契約して、中国の高速鉄道開発がスタートしました。

 初期車輌の購入、設計や製造、テスト技術、中国人技術者の指導などの契約を結び、高速鉄道分野での海外市場の飽和をネタに台湾の高速鉄道より40%、韓国より20%、スペインより14%の低価格で契約を結び、90億元の開発費を削減したとも言われています。

 その契約から3年で、車輌量産化を完成させ、2007年には北京、天津の環渤海エリア、上海、杭州などの長江デルタ、さらに深圳、広州の珠江デルタで高速列車、和諧号を走らせ、2008年4月には唐山で時速350㎞のCRH3型列車を走らせ、2008年6月には北京、天津区間で時速394㎞を達成し、その技術の蓄積で昨年12月26日に広州、武漢を結ぶ武広高速鉄道が開通しました。

 武広高速鉄道は全長1068㌔、広州から武漢までを最短3時間8分、試験運転では最高時速394キロを達成しています。

 完成した広州南駅は空港のターミナルのような3層構造の設計で、広いコンコースとその下に配列された10を超える高速鉄道のプラットホームは圧巻です。コンコースの天井には4200㎡の面積に太陽光発電パネルが設置されています。

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 列車の振動はほとんど感じられないほど安定し、騒音も日本の新幹線とくらべて遜色なく、むしろ乗客の大きな話し声や大声で歌う歌などがよほど気になる室内です。

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 中国の高速鉄道計画は「四縦」「四横」と呼ばれ、縦、横各々4本の総延長13千㎞の世界最長の高速鉄道網です。縦の高速鉄道の一つが、広州から武漢を結び、さらに中国の中部地域を縦断して北京に至る「 京廣線」です。言わば背骨のように中国の真ん中を南から来たに縦断して、さらに北京から黒龍江省のハルピンまでの、もう一つの縦の線に繋がります。

 四縦の残る二つは、香港、深圳から台湾対岸、福建省の福州をとおり沿海部を走って上海に至る路線と上海から南京、山東省の済南を通り北京に至る路線です。

 今年の年末には、上海から北京が開通し、さらに四横の一つの上海から武漢、が開通し、2012年には武漢から北京、武漢からさらに西の成都までの路線も開通しますので、中国人の距離感、時間間隔が一変する時代になってきました。

 広州から北京を通り、ハルピンまで完成すれば、実に総延長4000kmの世界に類を見ない高速鉄道となります。

 また広州からは、広深港高速鉄路で深圳さらに香港の西九龍と繋がり、既に深圳の新都心、現代的オフィスビルや新政府庁舎が立ち並ぶ市民中心では、高鉄福田駅の高層ビルが建設されています。

 この高速鉄道が前にこのコーナーでご紹介した成長の大回廊の礎となり、中国の10の都市群、長三角都市群、珠三角都市群、京津翼都市群、山東半島都市群、遼中南都市群、中原都市群、川渝都市群、関中都市群、海峡西岸都市群、長江中遊都市群が高速鉄道で結ばれることになります。

 昨年、開通した武広高速により、広東省と中部の湖南省、湖北省が3時間経済圏として姿を現したことになります。香港、深圳の国際金融貿易都市と珠江デルタ、中部振興の中心の長江中遊都市群が3時間で繋がり、武漢では北京の中関村に次ぐソフト開発基地を目指す、光谷創意産業園や175平方kmの広大な中国・アセアン加工・物流基地、五象新区建設が始まるとともに、4本の地下鉄建設工事が進み、これまで隔絶されていた周辺の市域との一体化も進んできています。

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 また四縦、四横以外にも、近距離の高速鉄道計画が進む。広州からベトナム国境の広西壮族自治区の南寧まで近距離高速鉄道、南広線の計画があり、将来は日本の技術で建設されるベトナムの新幹線とも結ばれる可能性を持ち、さらにシンガポールまで繋がる可能性を秘めるのが中国の高速鉄道計画です。

 そのため、ベトナム国境の南寧では、アセアンとの貿易だけでなく、街そのものがアセアン色が高まり、今市内では大規模な東盟商務区建設が進み、アセアン領事館が多数設置されるとともに、アセアンの雰囲気が漂う街区建設が始まり、アセアン諸国だけでなく、コーリアン街まで建設されています。

 広大な国土と移動の時間を必要とする中国では、高速鉄道が及ぼす、経済、文化、人々の生活に与える影響には計り知れないものがあります。

 今、始まり出した農民工の内陸での定着は、その兆しとも言えます。

和中 清

和中 清:
㈱インフォームを設立、代表取締役

昭和21年生まれ、同志社大学経済学部卒業。
大手監査法人、経営コンサルティング会社を経て昭和60年3月に㈱インフォームを設立、代表取締役就任。
国内企業の経営コンサルティングと共に、1991年より中国投資のコンサルティングに取り組む。
中国と投資における顧問先は関西を中心に関東・甲信越・北陸から中国・四国と多くの中小企業に及ぶ。

主な著書・監修

  • 経営実践講座(ビデオ・テキスト全12巻) 制作・著作:PHP研究所
  • 自立型人間のすすめ(ビデオ全6巻)  制作・著作:PHP研究所
  • ある青年社長の物語~経営理念を考える~ (全国法人会総連合発行)
  • 経営コンサルティングノウハウ(ビデオ全4巻+マニュアル1冊) 制作・著作:PHP研究所
  • 上海投資ビデオシリーズ全4巻 (協力;上海市外国投資工作委員会)
  • 中国市場の読み方~13億の巨大マーケット(明日香出版)
  • 中国マーケットに日本を売り込め(明日香出版)
  • 中国が日本を救う(長崎出版)