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【10-003】2020年、中国のGDPは米国を超える

和中 清(㈱インフォーム 代表取締役)     2010年 7月 9日

 "2020年、中国のGDPは米国を超える"と言えば、大半の人はそんな馬鹿な、と思われるだろう。

 ゴールドマン・サックスのレポート「BRICSとともに見る2050年の道」では、2040年に中国のGDPが米国を抜くと予測しています。

 しかしその予測はあまりにも遅いと私は思います。2020年を百歩譲るとしても2025年にはその時代が訪れます。

中国、米国のGDP予測

中国、米国のGDP予測

 多くの人がそんな馬鹿な、と思うギャップはどこから生まれ、また2020年に米国を抜く根拠はどこにあるのでしょうか。

 その理由と根拠は五つあります。一つは日本での中国情報のミスリードです。日本ではあまりにも中国の実態を無視した情報、一部の問題をことさら肥大化してとりあげることによる情報のミスリードが多く、そのため中国の実態とのズレが起きています。ある日突然、"浦島太郎"のように成長した驚異の中国が日本人の目の前にあらわれるのはそのためです。

 ミスリードされた中国情報は既にこのコーナーの中でも述べていますので割愛しますが、興味のある方は私の近著「中国が日本を救う」(長崎出版)をぜひお読みください。

 二つには、多くの中国経済分析がその異質な社会の国民性、その人間的要素、社会主義という特異な社会で起きている経済的事象をとらえきれていないからです。日本や米国の先進国の経験で中国をとらえれば、実態とのギャップが生まれます。

 中国の成長予測が外れる大きな要因は、貧しい中国から生まれる経済的パワーが読み取れないためですが、それは社会主義国をとらえることの難しさでもあります。

 実際、1980年からこれまでの中国の成長予測の大方ははずれています。

 昨年、中国の自動車販売台数が1300万台を突破し、米国を抜きましたが、

 それは10年前すら予測しえなかったことです。

 中国人は過酷な歴史を生きた人です。閉塞感に覆われた社会が、市場経済社会に移行し、開放された社会になった時、人々がどんな意識で、どんな経済行動をするのか、そこからどんなエネルギーが生まれるのか、米国や日本、いや、その社会に身を置いた中国人すら予測しえないことです。

 2009年、中国は内需振興の一環として農村での家電普及のための補助金支給政策を実施しました。いわゆる家電下郷です。2010年にはその対象となる金額上限額を1.5倍から2倍に引き上げました。

家電下郷限度額

家電下郷限度額

 テレビの補助金支給対象の上限額は倍になり中国メーカーのスカイウエイは55インチの液晶テレビを6999元、およそ9万円で農村で販売し、TCLは52インチを農村市場に投入しています。

 おそらく日本人の持っている中国のイメージでは、農村で55インチの液晶テレビが売れるなんて考えられないことだと思います。

 私は91年からこれまで20年間、中国の成長の姿を目の当たりに見て来ましたが、その間痛切に感じることは、中国人の豊かさに向かい突き進む激しい思い、いわば"業"というものです

 貧しさと閉塞感の中でたまりたまったマグマが地上に出る時のようなとてつもないエネルギーを感じてきました。

 日本も戦後、経済成長を突き進みました。しかし右派闘争や文化大革命など、過酷な歴史の中で世界の繁栄から取り残され、どうしようもない貧しさの中で暮らしてきた中国人の豊かさと物を求めるその思いは、日本人や米国人ではとらえきれないものがあると感じてきました。

 その"業"が中国経済を動かす原動力になっています。

 また中国は面子主義の国です。その面子が人々の購買行動にもあらわれます。中華料理のテーブルを囲む時、招待した客が料理を残さず食べてしまえば、

 中国人には料理の数が足りず、はずかしいと感じます。

 食事をして、もし割り勘ということになった時、やはりそこにいられないほどの恥ずかしさを感じる人もいます。

 この面子主義は中国人の車や家電の購入など、いろんな経済行動にあらわれます。スカイウエイやTCLが55インチの液晶テレビを農村に投入するのは農村経済がそこまでの実力をつけてきたこととともに、この中国人の持つ面子のためでもあります。

 また中国人は自己主張が強く、自分を信じて、周囲を気にせず、人を押しのけてでも前に進むパワーを持っています。厚かましく、時に腹黒くとの教えそのままにつきすすむパワーには壮絶さすら感じます。

 私は中国人の車の運転にそれが凝縮されているといつも思います。日本人が中国に行き、そこで中国人の交通マナーを批判の目で見る人が多くいます。

 しかし中国のルールは先に行った方が勝ちです。少しでも隙間を見つけて先に行く。割り込みであろうがなんであろうが、中国は先に行った人を認める社会です。だからそんなマナーの中で喧嘩にもならず「ちくしょううまくやりやがって」くらいの感覚です。

 ビジネスも同じで、多くの人が成功した人を見て「うまくやりやがって、今にオレも」と考えます。ニューヨークにも出店した上海の著名なレストラン、小南国の石磊総裁が、以前、お店の警備員が、どうすれば自分の仕事がよくできるかを考えずに、いつも自分がオーナーになればどうするかということばかり考えて困ると嘆いていましたが、中国人の、今にオレもの精神も中国経済を早く押し上げる原動力です。

 このように中国人の"業"と"面子"と、"自己主張"は、中国経済を先進国の常識では考えられないスピードで上昇させるパワーとなっています。

 中国の経済成長を読むにはこれらの定性要素を読むことが非常に重要です。

 他人を意識し、控えめな心も働き、さらに節約、もったいないという心も強くあらわれる日本人の経済行動と中国人の行動とは異なることを理解することが、中国の成長を読む上で大切です。

 三つには、中国の政治です。その是非はともかく、その体制が経済の運営に好影響をもたらしています。さらに中国の政治は何かにつけて戦略的だということです。戦略に強く、決断をすれば、その政治的特権をフルに行使して、つき進む。この政治のスピード性は混乱している日本の政治と比較すれば歴然としています。ここにも成長予測と実態の間にギャップが生まれる要因があります。

 四つには既に中国には2020年にGDPが米国を抜く経済的諸要因が備わっていることです。

 私はその要素を以下の点でとらえています。

  1. 国際化の進展
  2. 外資投資のさらなる拡大
  3. 中国の技術水準の飛躍的向上と新産業の出現
  4. 内陸、農村の発展
  5. 環境、エネルギー分野の投資の拡大

 今、ものすごい勢いで中国の世界との交わりが進んでいます。

 その動きは多くの要素から読み取ることができます。

 市場を求める世界の資本の参入、技術を求める中国の国際対応、力をつけた中国企業の海外進出と海外企業の買収、国際人育成に向けた政府の留学政策、世界にあふれる中国人旅行者、上海や珠江デルタで進む金融国際化の動き、緊密化しているアセアンとのつながり、資源を求め世界の隅々に入り込む中国企業、そしてそれらの進行過程で進む人の交流など、いたるところに国際化のすさまじいエネルギーが感じられます。

 90年代初め、上海開発がスタートした時、中国人は揚子江を龍に譬え、いつの日か中国は上海を巨龍の頭として世界に飛び立つと形容しました。

 現在の世界に向かう中国は、20年前に夢見た龍の姿であり、まさにドラゴンドリームです。

 中国の国際化の第一歩は83年に始まりました。改革開放前の中国の海外交流の相手国は主に旧ソ連を初め、東欧諸国でした。83年、鄧小平は外国知識の導入を決定し、そこから海外との科学技術協力、協定が進みだしました。

 それが中国を世界の軌道に乗せようという90年代の「接軌」に繋がりました。

 改革開放前の中国の企業には営業もマーケテイングもありませんでした。政府の指示で物づくりが進み、企業にはR&D(研究開発)の考え方すらないのが中国でした。研究開発は旧ソ連から学んで、国が大学に研究所をつくり進められました。

 当時の第一汽車の第1号の乗用車「東風」は1960年前に生産されましたが、最初のモデルチェンジが行われたのは1980年を過ぎてからでした。

 そんな中国が国際化に向かい、既にJSTの各種の論文や研究報告にもあるように今では日本をしのぐ勢いで、世界との技術交流を中国は進めています。

 民主主義以外のものは何でも取り入れよと指示した鄧小平が今日の国際化する中国を生んだと言えるでしょう。また世界に散らばるか華僑ネットワークも国際化のスピードに貢献しています。このような国際化の動きが中国のさらなる経済成長を支え、そのスピードを速めます。

 次に外資投資のさらなる拡大が起こります。日本では中国の人件費の高騰やストライキなどにより中国への外資投資が減少するとのとらえかたもありますが、中国は世界の工場から世界の市場に移行しているという事実に目を向けるべきです。市場を求める動きは中国での開発センター投資など、ますます市場を取り込むための投資が増え、さらに経済の成長は金融や第三次産業分野の投資を誘います。

 また技術力を高め世界に向かう中国企業とのジョイントも増加するなど、投資の多様化がこれから起こります。日本から見ていてはどうしても世界の工場というイメージから抜け切れませんがすでに欧州、韓国、台湾、シンガポールなどが市場のための投資を積極化させている事実に着目すべきです。

シンガポールが環境分野への投資をして進められている天津濱海開発

シンガポールが環境分野への投資をして進められている天津濱海開発

 次に中国の技術水準の飛躍的向上による経済成長です。これもJSTの各種

 研究論文、報告をご覧いただければ理解していただけます。技術水準の向上によりこれから中国の輸出が単純な加工貿易から付加価値の高い分野にどんどん進化し、経済成長の大きなインパクトになります。

 また中国はこれから都市化が進み、都市住民の所得が拡大を続けます。そこで第三次産業の分野、サービス業を中心にこれまでになかった新しいビジネスチャンスが生まれ、新しい産業が起こり経済に活力を与えます。

 今、内陸の武漢では競馬場の実験が始まりました。武漢は高速鉄道網の正に臍にあたる都市ですが、租界時代の上海競馬場以来、初めての競馬場が成功すれば、次は沿海部にはカジノが誕生するでしょう。

 次に内陸、農村の発展が中国経済を支えます。現在の中国農村人口はおよそ

 7億人。各地で始まっている新農村建設は農村近郊の産業振興により農村人口をその周辺の街、郷鎮に移住させ近代化を進め、農業生産性を高めるものです。

 そのためにはまだまだ大きな公共投資も必要とされます。また新農村により建てられた住宅、そこに移り住む人々からは大きな内需が生まれます。

 新農村建設のため、すでにこれまでの社会主義の根幹を支える農村戸籍制度の改革、農地の流動化のための土地交易所まで施策が進んできていることに着目すれば、その先の大きな中国の内需が見えてきます。

 最後に環境、エネルギー分野の投資の拡大が中国経済に与えるインパクトで

 す。これもJSTの各種論文をご覧いただければ理解していただけると思います。一部の日本の知識人はともすれば中国の環境への取り組みを否定的にとらえがちですが、マクロでとらえた環境への取り組みとミクロでみた環境問題を冷静にとらえ中国の環境やエネルギーへの取り組みを考えねばなりません。

 環境とエネルギーはこれからの中国の安定した成長を支える大命題です。

 現在農村では100家庭あたり、約10台のクーラーが設置され、バイクの保有率も高まり、これから農村の自動車購入が話題になってきます。

 そんな中国が現在の石炭火力とガソリン中心のエネルギー政策で経済を運営していくことは不可能であることは自明の理でしょう。

 中国はここ数年で世界の再生可能エネルギー大国になり、また中国の致命傷となる水資源問題を解決するためにも環境への取り組みを急速に高めることは間違いありません。既に日本政府にも環境協力への強い要請がもたらされています。

 このように中国には既に2020年に米国を抜くための推進力となる経済的諸要因が備わっています。またすでにこのコーナーでご紹介したこれからの中国の成長のための経済大回廊が形成されていることにも注目すべきです。

 そして2020年に中国のGDPが米国を抜く五つ目の理由です。それは中国経済の隠れた理由で、中国の裏経済によるものです。中国の裏経済についてはまたあらためてこのコーナーで述べたいと思いますが、中国経済は表にあらわれたGDPだけを追っかけていてもつかめるものではありません。

 中国は流通している貨幣の量がそのGDPと比較して大きく経済の非効率さが問題とされますが、GDPにあらわれない経済の大きさを考えた場合、過剰流動性も真の中国経済も見えてきます。裏経済の大きさがどのような規模なのか、もちろん計算できるものではありませんが、私のこれまでの感覚からすればGDPの20%は超えるのは間違いないとも推測しています。

 今年中国のGDPが日本を超えると話題になってきましたが、裏経済を考えるとほんとうのGDPはとっくに日本を超えています。

 以上の五つの理由と今後の人民元レートの上昇なども考慮すれば、私は2020年に中国のGDPが米国を超えると考えています。

和中 清

和中 清:
㈱インフォームを設立、代表取締役

昭和21年生まれ、同志社大学経済学部卒業。
大手監査法人、経営コンサルティング会社を経て昭和60年3月に㈱インフォームを設立、代表取締役就任。
国内企業の経営コンサルティングと共に、1991年より中国投資のコンサルティングに取り組む。
中国と投資における顧問先は関西を中心に関東・甲信越・北陸から中国・四国と多くの中小企業に及ぶ。

主な著書・監修

  • 経営実践講座(ビデオ・テキスト全12巻) 制作・著作:PHP研究所
  • 自立型人間のすすめ(ビデオ全6巻)  制作・著作:PHP研究所
  • ある青年社長の物語~経営理念を考える~ (全国法人会総連合発行)
  • 経営コンサルティングノウハウ(ビデオ全4巻+マニュアル1冊) 制作・著作:PHP研究所
  • 上海投資ビデオシリーズ全4巻 (協力;上海市外国投資工作委員会)
  • 中国市場の読み方~13億の巨大マーケット(明日香出版)
  • 中国マーケットに日本を売り込め(明日香出版)
  • 中国が日本を救う(長崎出版)