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【12-002】「中国経済は投資依存で、消費の割合の低さが問題」は本当か その1

和中 清(㈱インフォーム 代表取締役)     2012年 5月15日

必然的に進む分散化

 2011年末、中国の人口は13.47億人、都市人口比率が51.27%になりました。

 この都市人口は、都市に住む長期滞在人口です。2009年末には中国に、2.3億人の農村流動人口、すなわち故郷の土地を離れて働く人々がいました。そのうち統計上、農民工とされた人口は1.67億人で、流動人口の6千万人余りは、統計に入っていません。そのため、多くの農民工が都市人口統計の背後に隠れている、と思われます。

 前回この欄で、中国の分散経済について述べました。今後20年間で、中国は都市人口比率を75%に高め、2020年までに1億人の農民を都市に移住させる計画です。そのためにも、人口の分散化、経済の分散化が必要です。

 中国経済は産官学軍経済とも述べましたが、政府は今、必死に分散経済を推し進めています。これまではタブーだった、とも言える戸籍制度改革も始まりました。

 重慶市では3~5年の間、市内で働いた農民工に市の戸籍を与える、という戸籍制度改革が行われ、同市で働く農民工800万人のうち、350万人が昨年末までに都市戸籍を取得した、と見られています。

 内陸都市への分散を進める前提となる労働力確保に関して、様々な施策が進められています。河南省では2010年の省内への労働力転移、すなわち他省から故郷の河南省に戻った農民工が1141万人になり、前年比75.16%増加しました。半面、労働力が流出する沿海都市は大変で、沿海部の労働局は対策に躍起です。

[表1] 2009年上海と内陸都市の経済比較
出典:中国城市統計年鑑2010
都市 GDP(万元) GDP成長率(%) 固定資産投資(万元) 社会消費品小売総額(万元)
上海 150,464,500 8.24 52,733,299 51,732,408
武漢 46,208,600 13.70 30,011,045 21,640,873
鄭州 33,085,053 11.40 22,890,810 14,347,614
長沙 37,447,641 14.70 24,417,763 15,249,091
重慶 65,300,100 14.90 53,179,185 24,790,110
成都 45,026,032 14.70 40,258,902 19,499,459

 3月、広東省東莞市では市政府が、飛行機代、宿泊費を政府負担で各地の職業学校の就職担当者を招待し、学校と企業のお見合いを実施しましたが、黒竜江省を除く全国の学校が参加しました。

 天津市では濱海開発が進んでいますが、区同士で農民工の奪い合いが起き、政府自ら山東省での募集活動を始めました。戸籍制度が変わり、農村でも都市と同じ社会保障を受けられるようになれば、農民工の内陸転移はさらに進みます。[表1]は、上海市と内陸都市の比較ですが、農民工の内陸転移に比例して中国の分散経済はさらに進んでいくでしょう。

問題のある米国、日本の中国情報

 このように、社会主義を支えてきた戸籍制度も変化しています。しかし、米国や日本では、無理に一定のイメージの中に中国を押し込め、誤解を与えている見方もあります。

 最近、CNNインターネット版では、台湾系の富士康(Foxconn)の中国工場で働く農民工が、あたかも牢獄で働く奴隷のように扱われているかのような報道がなされました。

 これは、冨士康を退職した社員へのインタビューをもとに報道されたものですが、深圳市、武漢市、鄭州市など、富士康が進出しているエリアでは、むしろ、基本給などの待遇を、いかに富士康の採用条件に近づけられるか、が企業の悩みの種になっています。

 私が協力する工場にも、富士康を退社した社員が応募して来ます。彼らに、富士康のどこが過酷なのかを聞くと、例えば、静電気防止器具の装着を忘れて作業し、注意を受けたにもかかわらず、同じミスを3回繰り返せば辞めさせられる、というような話です。それは、むしろ当然でしょう、と思えることだったりします。

 また、最近、私の協力する工場では、学校を卒業して入社した4人の社員が、入社5日目の就業時間中、無断で工場を抜け出して街に遊びに行く、ということが起こりました。理由を聞けば、せっかく都会にきたので街を見たかった、という、小学生の子供でもまだ分別があるのではないか、と思えるような出来事でした。甘やかせば、わがままが抜けきれず、厳しくすれば、耐えられない。中国農村の子供たちにも、そのような現象が目立ってきました。

 すでに農民に対する各種税金が廃止され、耕作補助金も支給されるようになり、内陸部の町に行けば、真顔で「農村戸籍が欲しい」と言う人までいますが、それでも中国農民は現代の奴隷、と語る知識人がいます。CNNの報道のように、中国イコール人権問題、と単純な思考でとらえれば、読み誤ります。

「中国は投資依存で、個人消費が問題」論への疑問

 最近、ある経済誌に「繁栄か失速かの中国経済」という特集が載っていました。その記事では、中国は大きな歪みを内包したまま、経済成長路線を進んでいる、と述べられ、そこで引き合いに出されたことの一つが、中国と日本のGDPの構成比の相違、中国の個人消費の割合の低さと投資依存経済に対する問題指摘です。中国の投資依存経済については、日本でも多くの識者が語るところです。

 しかし、私はこの見方に大きな疑問を持っています。そもそも、中国は本当に、GDPに占める消費の割合が、問題とされるほど低いのでしょうか。

 2011年末には、中国の民用自動車保有台数は10,578万台で、昨年より16.4%増えました。うち個人保有の自動車は7,872万台、そのうち乗用車は4322万台で、同25.5%の増加でした。

 2011年の世界の自動車生産台数は8010万台で、うち中国が1840万台を占めています。二輪車も含む中国の免許保有人口は、今年2月には2.36億人になり、うち女性の免許人口が18.96%で、5人に1人の割合に近づいています。中国進出企業では、製造現場の一般社員の自動車通勤が増え、工場の駐車場の確保が話題となっています。

[グラフ1]

グラフ1
[表2] 2011年乗用車販売ランキング 上位10車種
出典:中国汽車工業協会データ
車種 車種(英語名) 販売台数(万台)
別克 凱越 Buick Excelle 25.35
大衆 朗逸 Volkswagen Lavida 24.75
雪仏蘭 科魯茲 Chevrolet Cruze 22.12
大衆 捷達 Buick Excelle 25.35
大衆 宝来 Volkswagen Bora 20.70
大衆 桑塔納 Volkswagen Santana 20.40
雪仏蘭 賽欧 Chevrolet Sail 19.79
天津 夏利 Tianjin Xiali 19.65
現代 悦動 Hyundai Elantra 19.10
福特 福克斯 Ford Focus 18.90

 深圳市では、2007年3月に自動車保有台数が100万台を突破し、今年の2月には200万台に達しました。特区成立から27年で100万台、100万台から200万台へは4年で達成しています。

 第12次5カ年計画によると、2015年の新エネルギー車の生産販売目標は50万台です。BMWは、2013年に中国産5系ハイブリッド車を市場に投入するのをはじめ、アウデイーQ5、フォルクスワーゲンのゴルフ、フォードなど、続々と新エネルギー車の市場デビューが控えています。

 トヨタの2015年の新エネルギー車中国販売計画は160万~180万台で、販売目標全体の20%を新エネルギー車が占めることになります。

 2011年の中国の自動車販売台数は、前年比2.45%増の低い伸び率で、市場の翳りが取りざたされました。しかし、市場を仔細に見れば、乗用車は同5.19%増、ベンツ、BMWなどの高級車が伸び、日産ティアナの好調な販売が話題になるなど、翳りと言われるような状況では決してありません。また、SUV車が前年比20.19%増加するなど市場が個性化していることが読み取れます。

 また、今後4年間、中国の電子商取引人口は毎年3000万人ずつ増加し、2015年には全小売額に占めるネット取引の比率は3.3%から7.4%に上昇する、と見られています。ネット取引大手、淘宝の取扱額は、2009年が2千億元、2010年は4千億元、2011年には6千億元に拡大しています。

 携帯電話普及率は人口100人当たり73.6台、工信部(工業和信息化部)の最近の統計では、今年1月の携帯電話総契約数は約10億台、うち3G契約数が1.37億台となっています。

 中国では今、礼品(ギフト)市場が話題です。中国礼品産業研究院によると、市場規模は約8000億元、うち個人は5055億元、企業団体が2629億元です。今年の春節(旧正月)期間、中国人が国外で買ったブランド品などの“贅沢品”消費は、72億米ドルに達した、と報道されました。2011年の”贅沢品”の年間消費額は125億㌦で、世界の28%を占めた、と言われています。

 ルイ・ヴィトン、カルティエ、エルメスが、中国の富豪の好むブランド品のビッグ3ですが、高級ブランド品市場での中国のウエートは年々高まっています。中国にあるブランド品のアウトレットモールは400を超え、百聯集団は米企業とともに、上海で世界最大のアウトレットモールを計画しています。

 中国人の旅行は、70%がビジネス旅行ですが、2016年には休暇旅行が45%に高まる、と予測されています。2011年のマカオへの旅行客は2800万人、うち中国本土からは1600万人が訪れ、60%近くを占めます。マカオでカジノを訪れた人の93%が本土からの客という調査があり、本土客がカジノで使った額は、一人当たり11,901パタカ(MOP)と言われています。中国では、毎年6000億元が賭博資金として国外に流れていると見られ、中国の旅行業界の年間総収入を超えています。

 一方、これまで消費生活が話題にならなかった農村も変化しています。

 2009年から2011年にかけて、全国で設置された村鎮銀行は725になり、全国村鎮銀行の昨年末の人民元貸付残高は1696億元、年間増加額は944億元でした。「家電下郷」(農村部への普及策)、「汽車(自動車)下郷」の次に、「銀行下郷」も始まろうとしています。このような実情を踏まえずに、中国の消費の低さは問題である、ととらえてもよいのでしょうか。(この項つづく)


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