【12-004】「中国経済は投資依存で、消費の割合の低さが問題」は本当か その3
和中 清(㈱インフォーム 代表取締役) 2012年 5月24日
不動産投資に見る特異な中国事情
中国の改革開放の突破口となった深圳特区が1980年に誕生して32年、中国で本格的な市場経済が動き始めてから、まだ20年程度です。
中国の都市化が話題になっていますが、1982年の都市化率(全人口に対する都市住民の割合)は21.13%にすぎません。
[グラフ3]
[グラフ4]は、中国の都市の住宅販売面積の推移です。今後の都市化の進展を考えると、2020年まで、毎年8億~10億㎡の住宅販売が続く、と私は考えています。
[グラフ4]
今でこそ世界の脚光を浴びる国際都市・上海ですが、20年ほど前までは、国有経済のウエートの高い街でした。そこに住む大半の人たちは、国から割り当てられ、家賃がほぼ不要のアパートや、旧租界時代の建物の狭い一室に、家族が肩を寄せ合って暮らしていました。
その彼らが、市場経済の進展とともに、一斉に住宅を求めて立ち上がったわけです。住宅以外の支出を控えて、収入の多くを住宅購入用の貯蓄に回せば、必然的に投資は拡大し、消費の割合は下がります。
農村社会も同じです。ここ数年、家電を農村部に普及させる「家電下郷」が話題になりました。しかし、10年ほど前の内陸部の農村は、土でできた家も目立っていました。
農村出身の青年に、「子供の頃と比べて故郷はどう変わりましたか」と尋ねると、多くの人が目を輝かせて、「道路が変わり、“泥の家”がコンクリートになった」と変化を語ってくれます。村の工場で働いて得た賃金や、都市部に出稼ぎに出た子供たちからの仕送りなどによって、農家の収入は増え、泥の家が3階建ての家になった、といった話を聞きます。
[グラフ5]
中国の不動産市場の裏に潜む特異な社会風土も、考えるべきです。
中国は個人の不動産投資が盛んな国です。信じるものはお金、お金をもたらす一番の近道が不動産だ、という考え方は、日本のバブル時代も、今の中国も同じです。私が協力する会社の女性部長は35歳ですが、これまでに購入した住宅は11戸、現在保有する住宅は3戸と、住宅投資が生き甲斐のように語ります。
私は、中国人の不動産投資にはチャンス獲得への強い意思、これまでの社会体制の反動、また、体制に対する不安心理が大きく影響している、と考えています。
“誰もがお金持ちになれる”というチャンスに、乗り遅れまいとの意思、私有財産を制限された社会から、“自分のモノ”を実感できる社会への変化、そして社会主義体制への不安を和らげるためか、形のあるモノにすがる心が、不動産投資に向かわせているのではないか、とも思います。中国の富豪は、すでに96万人に達した、とフォーチュン誌は発表しています。
上海には13万人の富豪がいるとも言われますが、その20%が不動産投資で財を成した人と聞きます。そんな社会風土が多くの人を不動産投資に向かわせ、消費社会にも影響しているのではないでしょうか。
投資主導の経済は消費主導の経済に変わる
中国を成熟した日本と比較して、問題を指摘することにも無理があります。
中国の国土は日本の26倍。中国で初めて高速道路が開通したのは1988年、上海市街地と近郊の嘉定を結ぶ区間でした。わずか20年余り前まで、住宅も、道路も、橋も、鉄道も不足した国だったのです。投資が牽引する経済になるのも仕方ありません。
そんな中国に、投資を控えて消費の割合を高めるべきだ、と指摘すること自体がナンセンスです。私たちは、日本の無駄な公共投資を頭に描き、つい中国も同じではないか、と考えがちですが、投資の後ろに控えている消費に、もっと目を向けるべきです。
公共投資によって村に橋をかけ、住宅の前の泥の道が舗装され、村の小学校の窓にガラスが入り、国道ができて、高速道路につながる。村を通る高速道路で空港に行き、そこから飛行機で香港やマカオに旅行する農民も増えてきました。泥の家がコンクリートになれば、次に来るのが農村消費の変化です。
家が新しくなれば、次は太陽熱温水器、シャワー室、エアコン、オートバイ、そして小型車、旅行へと夢は広がります。出稼ぎ先の都市から内陸部の農村に帰り、近郊の工場で働く子供たちのために二世帯住宅を建て、住宅の内装工事も始まります。[表4]は、農村の家庭100戸当たりの耐久消費財の推移です。
出典:中国統計年鑑 | |||||||
年 | バイク | 洗濯機 | 冷蔵庫 | クーラー | カラーTV | パソコン | 携帯電話 |
1985 | 0.7 | 1.9 | 0.1 | 0.8 | |||
1990 | 0.9 | 9.1 | 1.2 | 4.7 | |||
1995 | 4.9 | 16.9 | 5.2 | 0.2 | 16.9 | ||
2000 | 21.9 | 28.6 | 12.3 | 1.3 | 48.7 | 0.5 | 4.3 |
2007 | 48.5 | 45.9 | 26.1 | 8.5 | 94.4 | 3.7 | 77.8 |
2008 | 52.5 | 49.1 | 30.2 | 9.8 | 99.2 | 5.4 | 96.1 |
2009 | 56.6 | 53.1 | 37.1 | 12.2 | 108.9 | 7.5 | 115.2 |
2010 | 59 | 57.3 | 45.2 | 16 | 111.8 | 10.4 | 136.5 |
消費の割合が低い背後には、ものすごい消費エネルギーが潜み、投資依存から消費牽引への転換も読め、投資が今後の消費の呼び水になる、と考えるべきではないでしょうか。(この項つづく)
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