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【13-006】中国の大学生の就職難は経済問題ではなく社会の問題(その2)

2013年 8月 9日

和中 清

和中 清: ㈱インフォーム 代表取締役

昭和21年生まれ、同志社大学経済学部卒業。
大手監査法人、経営コンサルティング会社を経て昭和60年3月に㈱インフォームを設立、代表取締役就任。
国内企業の経営コンサルティングと共に、1991年より中国投資のコンサルティングに取り組む。
中国と投資における顧問先は関西を中心に関東・甲信越・北陸から中国・四国と多くの中小企業に及ぶ。

主な著書・監修

  • 経営実践講座(ビデオ・テキスト全12巻) 制作・著作:PHP研究所
  • 自立型人間のすすめ(ビデオ全6巻)  制作・著作:PHP研究所
  • ある青年社長の物語~経営理念を考える~ (全国法人会総連合発行)
  • 経営コンサルティングノウハウ(ビデオ全4巻+マニュアル1冊) 制作・著作:PHP研究所
  • 上海投資ビデオシリーズ全4巻 (協力;上海市外国投資工作委員会)
  • 中国市場の読み方~13億の巨大マーケット(明日香出版)
  • 中国マーケットに日本を売り込め(明日香出版)
  • 中国が日本を救う(長崎出版)

中国の大学はもっと実務教育にも力を注ぐべき

その1よりつづき)

 2年前から、農村の職業学校の募集面接で採用を決めても、両親と相談の結果、大学入試を受けるので工場に行くのを断る生徒が増えた。中国の大学は、大学生数が職業学校生を大幅に上回る時代に突入した現実を直視すべきだ。

 中国の大学生数はグラフ3およびグラフ4のように増加してきた。2000年に入ってからは経済成長率をはるかに上回る伸び率である。入学定員を増やし、院校など新しい学院を増やしてきた当然の結果でもある。

図1

グラフ3 中国の大学在校生数推移

中華人民共和国国家統計局編「中国統計年鑑」(2012)より作成

図2

グラフ4 中国の大学在校生前年伸び率

「中国統計年鑑」(2012)より作成

 筆者は以前に、河北省秦皇島にある燕山大学の教員に、もっと現実を見て、実務教育も取り入れるべきと話したことがある。当時、日本語科には優秀な学生も多数いたが、大学では川端康成などの文学を学び、採用後、仕事で使う日本語を一から教育しなければならない学生も多く、余裕のない中小企業にはつらいものがあった。

 また中国は資格偏重社会にも陥っている。MBAなどの資格取得をキャリアと誤解する人も多い。そのため各種の講習会が花盛りだ。政府幹部にも休日に専門の管理教育を受講するケースが少なくない。仕事をしながら資格を取る人も多く、その努力には頭も下がるが、取得が目的で実践応用ができず、資格もまたデスクに座り人に指示をするためのものと誤解している人も散見される。

中小企業への就職は企業にも、大学生にもリスクが大きい

 大学生630万人、一般農民工400万人、都市の一般労働者1000万人が就職を待つと言われる時代でもある。大学生は中小企業にも目を向け、積極的に就職先を探すべき時代だが、内定率が低いのは、学生が中小企業を敬遠し、企業も彼らを敬遠するからである。

 今、20~35歳までの中国人の一職場の平均勤続年数は3年に満たないだろう。

 履歴書の退職理由には「発展を求めて」と記載する人が多い。聞こえはいいが、腰が落ち着かない。中国の経済環境を見れば仕方のないことだが、いつも隣の青い芝を見ているようにも見え、職場を変えることがキャリアと誤解する人も多く、資格取得がさらに落ち着きをなくさせる。

 履歴書の職務経験欄には、その仕事のあらゆる経験が並べられ、2~3年の勤務期間で本当にこれだけのことをしたのかと、眉に唾をつけて履歴書を見なければならない場合も多い。

 例えば品質管理の業務では品質全般管理、予算作成、目標管理、予算管理、品質保証体制、品質基準と管理規定構築、顧客クレーム処置、原因分析、品質改善計画推進、再発防止フォロー、PDCA改善方法による現場工程不良低減推進、部下の品質意識向上、品質標準教育、部下の業績評価、部下のモラル向上などの記述が並ぶ。

 大学生が現実に気づき中小企業への就職を決めても、それは仮の棲家と考える人も多い。今の職場の自分は真の姿ではない。遠い夢を見ながら地に足がつかずに仕事をする人も多い。大学生を採用しても勤務期間は長くて3年、これでは中小企業が大学生を採用するには大きなリスクを伴う。

 しかし一方で、大学生の受け皿となる企業側の問題も大きい。筆者が協力する工場において、企業内部で組長、主任、課長、部長を育てるようにと指導するが、現実には非常に難しい課題でもある。

 中国進出企業、特に中小企業の多くは、他の企業で経験を積んだ現場管理者を採用して中国事業を進める。その管理者は中等職業学校を出て、叩き上げの経験を持つ人が大半だ。

 彼らの多くは現場で叱られ、怒鳴られて育ち、叱ることが管理、権限と考える人が多い。彼らの部下の理想は、何も言わず自分に従う部下であり、自分も苦労したので部下も苦労して当然と考える人も多い。そこに経験を積ませるべく大学卒業生が配属された場合、その結果は明らかである。管理者は彼らを、自分の立場を脅かす存在としてしかとらえず、部下への態度は敵対的となる。このため入社した大学生はたいてい1年で離職する。

 また進出企業も、中国での人の管理の難しさが進出時の刷り込みとして作用し、即戦力と強い管理者を求める傾向が強いため、中国事業での人材の長期ビジョンを持てない場合も多い。ことに中小企業はそうならざるを得ない。それゆえ大学生が中小企業に入社しても、企業側の原因によって1、2年で離職し、大学卒業生の失業率は常に高くなるのである。

中国の失業率の日本でのとらえ方にも問題が多い

 これまで述べたように中国の大学生の就職内定率の低さの背後には、多くの社会的要因が潜む。それを単純に社会不安に結びつけてしまうから日本の中国情報が混乱する。親が引き止め、3千元の賃金で割に合わないと考える学生に社会不安は起こらない。

 大学生の就職だけでなく、中国の失業率のとらえ方も同じことが言える。日本では中国政府が発表する失業率は嘘で経済成長も怪しいと著書で述べる人がいる。一面だけを見れば事実でもあるが、本質をとらえず誤りでもある。中国政府が発表する失業率は登記失業率であり、都市就業者に対する都市の失業管理センターで登記した失業者の比率を言う(グラフ5、グラフ6およびグラフ7参照)。

図3

グラフ5 都市登記失業率推移

「中国統計年鑑」(2012)より作成

図4

グラフ6 登記失業率が高い13地区

「中国統計年鑑」(2012)より作成

図5

グラフ7 登記失業率が低い11地区(2011年)

「中国統計年鑑」(2012)より作成

 その計算の問題には二つある。一つはセンターに登記しない失業者が多いことである。

 登記の強制力はなく、失業保険の給付手続きも煩雑で、自己都合退職は給付の対象でない地域もあるなどの諸要因があり、センターに申請、登記しない人も多い。登記しない失業者を加えると失業率は高くなるので、一面では事実である。

 しかし嘘をついているわけではない。他の統計方法がないのでそんな計算にならざるを得ないだけのことであり、その補完として他の機関が失業実態調査を行い発表している。

 もう一つの問題は、都市で働く農民工が計算から除外されていることである。だが、農民工を加えて登記失業率を計算すれば失業率は下がる。農民工の失業率は都市戸籍就業者の失業率よりかなり低いからである。

 西南財経大学の失業実態調査では、グラフ8のように高学歴ほど失業率が高く、大学本科卒業者の失業率は16.4%である。その原因は既に述べたとおりである。

図6

グラフ8 21~25歳都市労働者学歴別失業率(2012年7月)

西南財経大学調査データ、『南方都市報』(2012年12月14日)より作成

 農民工は農民でもあり、絶えず自発的失業を繰り返し、失業率の計算に入れれば失業の実態が掴めない。日本の中国進出企業にも農民工の年間離職率が200%を超える工場もある。つまり平均勤続期間は6カ月ということになる。

 また、農民工の多くは失業しても失業保険の申請をしない。手間をかけて少額の申請をするより、次の就職先を探す方が早いからでもある。

 リーマンショックの時、農民工の失業が日本で話題になった。筆者が関係する工場の管理者募集で求職者に連絡したが、多くの人が正月が終わり、ひと月が過ぎても故郷に留まったままだった。そのような農民工の失業をどう考えるかは難しい問題だ。

 中国で発表されるデータを読むのは難しいものがある。すぐに答えを求めずに、いったん咀嚼して考えねばならないと、大学生の内定率や失業率を見て思う。中国の実像をつかむのが難しいことを改めて感じる次第である。(おわり)