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【14-002】影の銀行問題を考える(その6)

2014年 1月 7日

和中 清

和中 清: ㈱インフォーム代表取締役

昭和21年生まれ、同志社大学経済学部卒業、大手監査法人、経営コンサルティング会社を経て昭和60年、(株)インフォーム設立 代表取締役就任
平成3年より上海に事務所を置き日本企業の中国事業の協力、相談に取り組む

主な著書・監修

  • 『中国市場の読み方』(明日香出版、2001年)
  • 『中国が日本を救う』(長崎出版、2009年)
  • 『中国の成長と衰退の裏側』(総合科学出版、2013年)

その5よりつづき

国と地方の借金を単純に足して“借金づけ”と言うのはナンセンス

 日本のある週刊誌にこんな記事がある。「IMFによると、中国の公的債務のGDP比率は昨年末で22%にすぎない。日本の236%、米国の107%という財政状況に比べ、格段に健全であるはずの中国の国債がなぜ格下げされたのか。じつは中国政府が公表する公的債務には、地方政府の債務は含まれていない。中国の地方政府は借金まみれなのだ」

 今、日本の多くのマスコミが国の債務に地方債務を加え、「借金漬け中国」を批判する。しかし、単純に地方債務を国の債務に足しての批判は間違っている。地方債務は平台債務で、融資平台は投資、開発会社である。事業会社なので資産も、事業収入もある。抱える土地の含み益もある。バブル批判も多いが、バブルなら、なおさら含み益も膨らむ。

 中国でも、地方債務が財政収入の100%を超えることが問題になる。主要18省の調査では、政府責任債務が財政収入の100%を超えた省都が9、最高は189%である。殊に山西、四川、甘粛、遼寧、黒竜江など中西部と東北に債務上限を超えるところが多い。地方債務が20兆元なら、2012年の地方財政収入の3.27倍となる。

 地方財政収入には、土地譲渡収入も事業収入も入っていない。本来、債務リスクとは、財政と土地と事業収入、資産を考慮したリスクでなければならない。開発会社は、いざとなれば株式化で売却もできる。債務だけを引っ張り出しての批判は、不安を煽るだけだ。

 地方債務が明確になれば、国も対応する。地方に残す債務、財政部が引き受ける債務、一定の条件で地方に債券発行許可を与え、資産管理会社もつくるだろう。

図1

中国は返済せずに債務負担を減らせる国、動的中国から債務リスクを読むべき

 地方の返済能力が解るには時間がかかる。債務の全体もまだ把握できない。そのために、先の週刊誌のように単純に国の債務に地方債務を重ねて債務リスクを考える。つまり、地方債務の全てに国が責任を負う場合にどうなるかである。

 国が責任を持つかどうかの議論もある。国は地方には自主権もあり、債務責任も持つべきと主張する。だが分税制で税収も分けている。責任も半分ずつと考えるのが妥当と思える。

 地方債務は国と地方の出来レースだ。地方は予算赤字も起債も認められない中で、体制の安定と成長のために、何億もの農民を受け入れて市街建設を進めねばならない。

 国は地方債務に見て見ぬふりをしてきただけである。それが予想を超えて拡大し、ショックを受けているのが本音だろう。国はどこかで妥協し地方債務を引き受けざるを得ない。

 2012年の中央政府債務残高は、国債、政府性金融債など7.76兆元であり、GDP比15%である。国債の多くはインターバンク(銀行間)市場で消化され、人民銀行、商業銀行、保険の保有が9割となっている。

図2

 地方債務が想定最高額の25兆元であるなら、中央と地方の債務合計は32.8兆元で、GDP比63%である。2013年12月、中国社会科学院は中央と地方の債務合計は28兆元、GDP比53%と発表している一方、今年9月の日本の債務は1011兆円、GDPの209%、うち国債残高は840兆円。2020年に、国債残高は1000兆円を超えると見られる。

 中国は高成長と物価上昇で、返済せずとも借金負担を減らすことができ、日本もそれを狙うが、経済環境が違う。

 しかし中国には、中央と地方の債務の他に、鉄道部などの事業性債務があり、その金額も大きい。中国中鉄会社の債務は現在、約2.7兆元あり、政府が保証している。だがこれも平台債務と同じで、単純に国の債務に足して問題視は出来ない。中国の高鉄(高速鉄道)網は建設途上である。以前にこの欄で述べた、高鉄の大回廊が完成すれば大きな事業収入が生まれる。雲南省の昆明や広西自治区の南寧とプノンペン、ホーチミン、バンコク、クアラルンプール、シンガポールが高鉄で繋がれば、大回廊の資産価値は一気に上昇する。中国政府が進めている高鉄外交は、それも戦略的に見据えてのことだろう。

 なにしろ13億人の大動脈だ。海外旅行ですら1億人時代が近い。だから中国の債務リスクの批判は、動的中国を捉えての考察、批判でなければならない。日本では、中国の高鉄や空港建設に対し、利用者も少なく赤字と批判する人もいる。そういう人は一度、高鉄や飛行機で国内移動をして、13億人の移動のすさまじさを体験すればいいと思う。

中国には債務返済の三つの金庫がある

 さらに中国には、債務返済の三つの金庫がある。

一は土地である。中国には将来の土地収入の他に、過去に使用権を与えた土地がある。

土地使用権の期限は40年、50年、70年である。40年なら早いものはあと20年ほどだ。

 中国の土地制度が何処に向かうのか。体制の根幹に関わる問題であるが、土地の流動化は避けて通れない。農村集体土地も担保が認められ、政府を通さない直接譲渡が進む。流動化の先に私有化があるかは不明だが、私有化での土地収入は財政の大きな魅力だ。私有化にしろ、期限更新にしろ、その時に大きな財政収入が見込める。

 二は国有企業である。国務院国資委(国有資産監督管理委員会)の統計で、2010年末の全国国有企業数は124,455社である。その総資産は69兆元、純資産は25兆元である。

 2010年の中国500強企業の63%が国有企業、500強企業の総資産の90%、純利益の82%が国有企業である。その管理区分別の内訳が下図である。

国有企業管理区分別数
2012年12月現在
*国資委管理企業・・・国有資産監督管理委員会 管理企業
出処・・・国務院発展研究中心資料
管理 会社数
中央企業(国務院国資委管理企業) 124
中央企業子会社 23,738
政府中央部門管理企業 6,974
地方国資委管理企業(子会社含) 52,371
その他 地方政府管理国有企業 41,248
合計 124,455

 国資委が管理する124社の中央国有企業の総資産は24兆元、純資産は10兆元あり、中央企業と別に、財政部管理の銀行、保険、証券の中央、地方国有金融業がある。その2010年末の総資産は75兆元、純資産は5兆元である。

 本来国有企業とは、政府持分比率が50%以上の企業であるが、それを下回る国有企業もある。子、孫会社の増加と多角経営で国有の定義もあいまいになり、外資合弁国有企業も存在する。

 今後、国有企業の政府持株比率は低下するが、国有企業は債務返済の大きな財源である。中国には地方政府破産の法律はないが、問題が大きくなれば、地方も管轄の国有企業資産を売却して債務返済に充当するだろう。

 三は外貨準備である。中国は経常収支と資本収支のダブル黒字国だ。その大半は米国債や金融機構債に投資され、中国は世界一の米国債保有国である。3兆7千億ドルの外貨準備に対し、2012年末の対外債務は7370億ドルである。その多くは貿易の短期ローンで、対外債務には輸出取引の収入裏付けもある。外貨準備も対外債務、国の債務返済の金庫の一つである。

 以上、影の銀行リスクについて述べた。稿を閉じるにあたり、筆者自身、どうして影の銀行が日本や米国で、大きな中国リスクとして語られるのか、不思議な思いもしている。

 年率8%近い経済成長を続け、かつ政府がインフレに神経を配り、通貨供給を抑える国のGDP比63%の債務と、お金をばらまき、それでも2%の物価目標を達成できず、成長率が1%台に低迷する国のGDP比209%の債務のどちらが問題なのかは言うまでもない。

 影の銀行リスクを声高く叫ぶ裏に、中国リスクを大きくしたいとする一部の人たちの意図も感じる。それが嫌中、反中思想とも結びつき、対中ビジネスの停滞が続くことが危惧される。或いは、「皆で渡れば怖くない」で、中国も債務危機国の仲間に引きずり込みたいだけなのだろうかとも思う次第である。