【14-013】中国の住宅市場はどうなるか、バブル崩壊は嘘か真か(その2)
2014年 7月28日
和中 清: ㈱インフォーム代表取締役
昭和21年生まれ、同志社大学経済学部卒業、大手監査法人、経営コンサルティング会社を経て昭和60年、(株)インフォーム設立 代表取締役就任
平成3年より上海に事務所を置き日本企業の中国事業の協力、相談に取り組む
主な著書・監修
- 『中国市場の読み方』(明日香出版、2001年)
- 『中国が日本を救う』(長崎出版、2009年)
- 『中国の成長と衰退の裏側』(総合科学出版、2013年)
(その1よりつづき)
バブル崩壊、厳冬論は、木を見て森を見ずの論
だが、住宅市場の調整は微調整であり、厳冬とかバブル崩壊と言うべきものではない。
今、中国国内でも市場のとらえ方は、二つに分かれている。すでに転換点を迎え、暴落の可能性を指摘する論と、それは"杞人憂天(杞憂)"であるとする論だ。
西南財経大学が29の省、市、自治区の4万戸の家庭の住宅保有状況を調査した。その調査では都市の住宅所有率は89%、農村の所有率は96.7%、また都市の個人住宅の空き室率(個人所有住宅のうち使用せずに空き住宅になっている率)は22.4%であるとの報告があった。
この調査をそのまま受け止めれば、中国の住宅市場は非常に暗いものとなり、バブル崩壊、暴落に結びつく。中国の国内でもこの調査データから、現在の住宅需要数3250万戸と空き住宅数5248万戸を導き出すと、空き住宅の60%で住宅需要が満たせるので、市場の先行きは暗いと結論づける滅茶苦茶な報道もあり、市場のとらえ方が混乱している。
筆者は西南財経大学の調査には大きな問題があると考えている。また、調査報告を咀嚼し、市場を取り巻く環境を考えて、調査結果を読まねば判断を誤ると思っている。
文明が進み、いろんな分野で専門化が進めば、人間の情報判断力は、逆に退化することがある。木にばかり眼が向き、森を見なくなるからだ。バブル崩壊、厳冬論にもそれが見える。13億人もの国の歴史や社会環境、どのような経緯で経済成長をしたのかを考えることなく、目の前の木のみを見ているように思う。日本でも中国でも記者の知性が問題である。
中国の住宅市場は実需により成長した
バブル崩壊を期待して、見出しで煽り、無理に崩壊、厳冬に導く一部の報道は論外だが、崩壊論が高まるのは、体制も異なる13億人の経済実態が掴みにくいということでもある。
さらに日本では、過熱した投資、格差、腐敗、影の銀行、幽霊建物等、中国の負の情報が氾濫する。北京でも上海でも1㎡、1万元の住宅はあるのに、6万元の住宅が持ち出され、一般の人が北京で住宅を取得するのは一生無理とも紹介される。グラフは、広州市の区別平均住宅価格である。同じ市でもこれだけ違う。極端な事例や問題がクローズアップされるので、一時の市場調整もバブル崩壊となりがちだ。
中国の住宅販売が大きく増加したのは1998年頃である。1986年の住宅販売面積は1835万㎡、2012年の販売面積の1.86%に過ぎない。1986年から1990年の5年間の合計でも、1億1797万㎡、2012年の12%である。つまり、13億人の大半の人が、24年前には住宅を持たず、90年代半ばから、一斉に住宅取得に向かったということだ。
中国の住宅市場は投資バブルで支えられていると言われるが、事実は違う。中国の住宅市場は経済成長と都市化の進展による実需で成長した。1977年の都市人口比率は17.52%、1981年に20.16%、1991年でも26.9%、2012年になり52.57%である。
住宅を所有しなかった13億の国民が、ヨーイドンで住宅に向けて一斉に走り出したのだから、市場が急拡大し過熱するのも当然である。
森に目を向ければ、中国には大きな住宅需要が残されている
グラフは1991年から2012年までの中国の住宅販売面積の推移である。22年間の総販売面積は79億6880万㎡、1戸の平均面積を80㎡とすれば、推計9961万戸の販売である。
2012年の都市人口、7億1182万人を都市の平均家庭人口2.86人で割れば、家庭数は約2億5000万であり、そのうち9961万の家庭が住宅を取得したならば、都市家庭の住宅取得率は40%となる。即ち、都市家庭の60%がまだ住宅を取得できていないか、1990年以前の古い住宅に居住している。西南財経大学の調査とは大きな違いである。
だからその調査は、どんな方法で、どんな家庭を調査したのかが問題である。調査が正しくても、89%と報告された都市の住宅所有者には、24年以上前の古い住宅に住む人も多い。また、自己所有ではなく、国有企業や学校など、国の住宅に昔からの権利で住む人も多いということだ。調査で住宅を所有しているかと問われても、その殆どは是(イエス)と答えるだろう。
ただ、推計した都市家庭の住宅未取得率、60%の捉え方も複雑である。割り引いて考えねばならない要素もある。一方で、未取得家庭が増える要素もある。
割り引いて考えねばならないのは、都市家庭の60%、人口で4億3000万人の中には都市に住む単身の農民工もいる。また所得が低く、すぐには取得が不可能な人も多いことである。
価格が高騰した住宅を購入できる人は、既に購入済だということもある。だから60%、1億5000万の家庭の全てが、近い将来の住宅取得予定者であるとも言えない。
しかし一方で、22年間の住宅販売面積79億6880万㎡には、複数の住宅購入者への販売面積が含まれる。西南財経大学の調査の都市個人住宅の空き室率22.4%がそれを示す。それを考慮すれば、まだ住宅を取得できていない家庭はさらに増える。さらに一般の産権のない小産権房への規制が強化される。既に北京の昌平区や海口市で違法建築の小産権房が撤去されている。災害の危険のある土地に建てられた小産権房も少なからずあり、今後、小産権房購入のリスクに人々が気づけば、表の住宅市場、すなわち一般住宅市場の需要は増える。
また経済成長が続くかぎり、住宅市場も生き物のように変化する。22年間の購入者の中でも、さらにレベルの高い住宅を求める人も生まれるので、西南財経大学の調査から市場の先行きを断定することはできない。
都市常住流動人口の住宅未取得者だけでも2億人
西南財経大学調査の都市住民の住宅所有率、89%が怪しいことは別の点からも言える。
中国には戸籍地と居住地が異なる流動人口が2011年の調査で2.3億人いる。2013年末の上海全市の人口は前年より34.72万人増加し、2415.15万人、常住戸籍人口は1425.14万人、常住非戸籍人口比率は41%である。深圳の非戸籍人口比率は72.7%である。
国家人口計劃生育委員会の流動人口動態監側調査では、流動人口の84.87%が農業戸籍、15.1%が非農業戸籍である。その農業戸籍の78.3%、非農業戸籍の72.98%が既婚者、16歳~34歳までの年齢層は農業戸籍では54.98%、非農業戸籍では55.84%。さらに流動人口で住宅を自己所有している割合は、農業戸籍で11%、非農業戸籍では26.58%である。
つまり都市の流動人口は2.3億人、うち住宅を所有していない人は約2億人いる。
2012年の都市人口は7億1182万人、家庭の平均人口は2.86人なので、都市家庭数は2億4889家庭である。西南財経大学調査の都市の住宅所有率が正しいとすれば、住宅未所有率は11%で、都市の未所有家庭は2738万家庭、人口数では7830万人に過ぎない。国の流動人口調査の住宅未所有人口、2億人だけと比較しても大きな差がある。先の推計値と重ねて考えれば、西南財経大学の調査は大きな問題があるということになる。
冷静に考えるなら、都市住民の住宅所有率が89%という数字は信じ難いとなるはずだが、一方で、中国は住宅バブルとの思いが中国人の頭の中にも刻まれているので、そんな情報もすんなり受け入れられて、こら大変だとなっている。
(その3へつづく)