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【17-002】中国経済の変化と逆行する日本の中国離れ(その2)

2017年 2月16日

和中 清

和中 清: ㈱インフォーム代表取締役

昭和21年生まれ、同志社大学経済学部卒業、大手監査法人、経営コンサルティング会社を経て昭和60年、(株)インフォーム設立 代表取締役就任
平成3年より上海に事務所を置き日本企業の中国事業の協力、相談に取り組む

主な著書・監修

  • 『中国市場の読み方』(明日香出版、2001年)
  • 『中国が日本を救う』(長崎出版、2009年)
  • 『中国の成長と衰退の裏側』(総合科学出版、2013年)
  • 『仕組まれた中国との対立 日本人の83%が中国を嫌いになる理由』(クロスメディア・パブリッシング、2015年8月)

その1よりつづき)

進む「日本の中国離れ」

 そんな中国経済の変化の裏で懸念することが起きている。「日本の中国離れ」である。

 2015年5月、「中国製造2025」の公布に関する国務院の通知が出た。通知には以下のことが書かれている。「産業化や情報化、都市化、農業近代化が同時に進展する中、内需の巨大な潜在力によって中国製造業発展には大きな可能性が生まれている。それぞれの産業には新たな設備の需要、人々には新たな消費の需要、社会管理・公共サービスには新たな生活の需要、国防建設には新たな安全の需要がある。こうした需要は、製造業における重大技術設備の革新や商品の品質・安全性、公共サービス施設の提供、国防施設の保障などのレベルと能力の向上を必要としている。全面的な改革深化と一層の開放拡大は、製造業発展の活力と創造力を一層引出し、製造業の転換・グレードアップを促進する力となっている」(JST 研究開発戦略センター 海外動向ユニット「『中国製造 2025』の公布に関する国務院の通知の全訳」 より)

 製造業は経済成長の新たな原動力を生み出し、国際競争に立ち向かえる新たな優位を生む重点分野とされ、「中国で製造」から「中国で創造」への転換、「中国の速度」から「中国の品質」への転換、「中国製品」から「中国ブランド」への転換を実現するのが「中国製造2025」で、そのモデルはドイツのインダストリー4.0である。

 「中国製造2025」の推進のために製造業の対外開放は一層進む。国内企業の先進技術やハイエンド人材の導入支援を進めるため、海外企業との共同出資、協力、海外での合併、買収を政府が支援する。

 「十三五 国家戦略性新興産業発展計画」でも情報技術、新材料、新エネルギー、省エネ環境保護などの戦略新産業を育成し、創新能力を高めるため国際合作を深化させることが掲げられている。

 そんな中で「欧米の中国接近」と「日本の中国離れ」が起きている。ドイツは「中国製造2025」に大きな市場拡大を予測し、中国との経済的結びつきを強めている。中国の工業文化発展戦略のモデルとされるのも日本でなくドイツのようである。李克強総理は「匠の精神」を語ったが、言葉の向こうにあるのもドイツで、今後ドイツが中国の工業文化発展に深く関与するだろう。

 次のグラフは海外から上海への技術と設備導入額の国別、年度別推移である。航空機、鉄道、電子、医療などでドイツやフランス、米国が中国への技術投下を進めるのと逆に、日本の中国離れが見える。

図1

 2015年、中国の対外建設工程等請負契約額は1,540億7千万ドルである。日本との請負契約は僅か0.1%だが、英国やフランスとの契約が増えている。2015年のフランスとの契約額は18億4千万ドル、全体の約1.2%である。

 昨年1月から11月までの中国の一帯一路関連の対外建設工程等請負契約額は1,003.6億ドルで前年比40.1%増加した。それは中国の対外工程請負額の52.1%に達する。一帯一路の到達点はドイツ、フランス、イギリスでもある。それに向かい着々と現代版シルクロードが建設される。中国がより強くそれらの国と繋がるのも当然の帰結かもしれない。

 さらに日本の中国直接投資も急激に減少している。諸外国の中国投資と日本の投資では中身も違う。2015年の中国への海外直接投資のうち製造業への投資は31.3%だが、日本の直接投資の60%が製造業である。拡大する市場に向けた現地生産のための投資ならば希望はあるが、昔のままの生産基地投資なら、変化する中国経済と日本企業の対応のズレが起きる。卸・小売、サービス業分野の日本の投資が少ないことも懸念される。

図2
図3
図4
図5

 さらに中国離れは人の交流でも起きている。グラフは上海市への国別入国者の推移である。日本のみが急激に数を減らし、遠く離れた米国が日本の数に近づいているのがわかる。

図6

 このように技術導入、直接投資、人の交流、貿易などいろいろな項目を見ても「日本の中国離れ」が進んでいる。それは「中国の日本離れ」ともなる。日本企業が「技術を盗られる」「中国は怖い」で中国から離れれば、反比例のように中国と欧米の結びつきが深まる。

図7
図8

「政冷経冷」の間に進む中国市場への欧米の進攻と深耕

 「日本の中国離れ」は第二次安倍政権後一層進み、政治、経済両面の中国離れが進んでいる。「政冷経熱」と言われる時もあったが、良好な政治的関係無くして、経済が熱を帯びることはない。

 トランプ時代の米国は対中圧力を強める。だが米中の絆は強い。独立戦争後からの政治的、経済的協調と対立の長い歴史もある。中国が保有する米国債や米国への投資も考えた場合、相互補完の関係でもある。両国の軍勢力、軍産業から見れば、対立も勢力拡大の道具に思える。また両国は、先の大戦で共に日本と戦った仲間である。絆は容易には崩れない。トランプは対中貿易赤字を問題とする。だが、2007年の米国の対中輸出は日本の対中輸出の約半分だったが2015年には日本の対中輸出を超えている。日本の対中輸出には生産基地の現地工場への部品輸出が相当額ある。それを考慮すれば米国が深く中国市場に対応しているのは明らかである。「米中経済の緊密化」「日本の中国離れ」は双方の貿易額からも読める。

図9
図10

 トランプ大統領は事業家で、価値と判断の基準は利益とお金である。そのため、中国への圧力は「もっと米国製品を買え」の裏返しとなる。歴史的に対外戦略で本音と建て前を使い分ける米国に従う日本は、直接衝突を避ける米国に代わり緊張の矢面に立ち、コストを負担し、かつ衝突の当事者となる可能性も高くなった。トランプ大統領が火を点け、火事場に入るのは日本である。

 緊張が高まれば「政冷経冷」で「日本の中国離れ」は一層進む。そして米国企業が中国市場に深く入り込む。

 中国経済の変化を敏感に読み取り行動するのは、隣国の日本でなく、欧米である。国内の「爆買い」に浮かれている間に、日本が大切なことを逃すことを危惧する次第である。

(おわり)