【17-008】進化する中国高鉄の旅行市場への影響と日本旅行への波及(その3)
2017年10月 4日
和中 清: ㈱インフォーム代表取締役
昭和21年生まれ、同志社大学経済学部卒業、大手監査法人、経営コンサルティング会社を経て昭和60年、(株)インフォーム設立 代表取締役就任
平成3年より上海に事務所を置き日本企業の中国事業の協力、相談に取り組む
主な著書・監修
- 『中国市場の読み方』(明日香出版、2001年)
- 『中国が日本を救う』(長崎出版、2009年)
- 『中国の成長と衰退の裏側』(総合科学出版、2013年)
- 『仕組まれた中国との対立 日本人の83%が中国を嫌いになる理由』(クロスメディア・パブリッシング、2015年8月)
(その2よりつづき)
増え続ける国内旅行者
中国の旅行市場には明るい要素が多い。昨年の国内旅行総人数は44.4億人、旅行総収入は4.69兆元で旅行産業の経済貢献率は11%。今年の旅行産業直接投資額は1.5兆元を超え、前年比20%の増加予定である。2040年の国内旅行総人数は140億人との予想すらある。
そのため政府も旅行産業振興に力を入れる。政府は中国旅行投融資促進大会を開き、500億元の旅行産業基金を開設し、国家開発銀行など12の金融機関は“十三五”期に2.1兆元の資金を産業振興に準備する。2016年末には全国に126件、総額6,000億元の旅行産業投資基金もある。
1999年の「国慶節黄金周期」(ゴールデンウィーク)の全国旅行人数は4,000万人、旅行総収入は140億元だったが、2015年の「黄金周期」の人数は5.26億人、総収入は4,213億元になった。国家旅游局の発表では今年の10月1日から8日までの国慶節休暇期間の旅行人数は7.1億人、総収入は5,900億元である。
国慶節は海外旅行が集中する時期でもある。旅行消費市場調査報告(注①)の海外旅行時期調査では春節休暇が20%、国慶節が17%である。
中国には全土に雄大な自然と多くの観光資源がある。世界遺産は52(文化遺産36、文化自然遺産4、自然遺産12)で世界一をイタリアと競う。CCTVでは地方都市が競うように観光CMを放映している。次の2つのグラフは国内旅行者数と都市と農村住民の一人平均旅行費用の推移である。農民の旅行費用が2010年以後、急速に増加している。
さらにインターネット旅行サイトが市場の拡大を促進する。中国のスマホの消費への影響には凄まじいものがある。自動販売機の飲料購入や市場のおばさんの野菜販売すら既にスマホ決済の時代だ。2018年まで7年間のホテルや航空券のインターネット旅行市場の年平均成長率は予測も含め30%である。
農民工が高鉄利用客になる
鉄道関係部門の調査では、高鉄の「長春-吉林」間の乗客の月平均収入は4,300元、天津と山東省の済南間は6,700元、在来線の普通列車利用客の平均は3,200元と報告された。
今はまだ高鉄利用客に農民工の姿は少ない。だがその所得も着実に上昇している。グラフは都市就業者平均賃金の伸び率である。2015年の平均賃金の前年伸び率が高い西蔵自治区、雲南省、貴州省は6年前の各々2.16倍、2.01倍、2.18倍である。
農民工も様々である。深圳の筆者の身近にいる農民工には近くの湖南省から出てきた人が多い。また温暖な気候に憧れて哈爾濱(ハルピン)など北方の人も多い。
今はまだ、湖南省の農民工の多くは故郷に帰る時、バスや普通列車を利用する。だがいずれ彼らも高鉄の乗客になる。既に「貴陽-広州」線の貴定県駅ではそれが現れている。しかもその数は全国で1.6億人を超える。
高齢化社会が旅行市場を拡大する
2016年末の中国の60歳以上人口は2.3億人、対総人口比率は16.7%、2020年には2.55億人、比率は17.8%になる。65歳以上の老齢人口比率が20%に達するのは2035年である。
日本では中国の高齢化社会を問題視する論も多いが、中国ではそうでもなく、2050年の老人市場規模は50兆元、養老産業市場規模は22兆元に達すると、市場への効果で肯定的にとらえる意見も多い。
年配者の旅行の増加はデータにも現れている。今年の京東の夏季旅游消費報告の旅行者年齢別調査では70后(1970年代生まれ)が旅行者の20%を占め、消費額も前回調査の77%増と急増した。旅行消費市場調査報告によると海外旅行の50后(50年代生まれ)~70后の割合は41.9%で、うち58歳以上は5.4%である。
農村の社会保障の問題もあるが、都会の老人には余裕のある生活をする人も多い。
国有企業従業員も社会保険制度に組み込まれつつあるが、これまで公務員や学校の先生、医者、国有企業従業員は退職後も賃金を支給された。臨時手当や紅包もある。いきなり銀行口座に振り込まれた1万元のお金を見て“この振込は何ですか、貰っていいのですか”と元の職場に問い合わせる人さえいる。
人力資源と社会保障部の統計では8,900万人の企業退職人員と1,700万人の機関事業単位退職人員の2016年の基本養老金月平均支給額は2,400元で、2015年まで毎年10%以上(2016年6.5%、2017年5.5%)上昇した。地方政府管理者や大学の先生など月に1万元を超える退職後賃金を受け取る人も多い。だから老人も旅行市場と高鉄の有力顧客なのである。
一方、学生もその有力顧客である。大学入試を終えた700万人の新入生、2,600万人の在校生は夏季旅行市場の主な客である。中国では中高大学生の夏休みの“遊学”がブームでどこに行っても学生が目立つ。北京発のニューヨーク便にも多くの高校生が乗っている。
航空旅客も増加が続く。2015年の国内旅行者数は2000年の5.36倍だが、国内航空旅客数は6.5倍である。2015年の航空機利用客は3.94億人に達した。そのため各地の空港拡張が進む。香港空港の年間旅客数は約6,000万人、近隣の広州空港が約5,000万人、深圳空港が約3,000万人だが、2020年の深圳空港旅客数は4,500万人と見込まれ、第四ターミナルが建設中で、さらに同市の坪山に香港と共用で第二空港の建設が計画されている。広州空港も第三期改造で第四、第五滑走路と第三ターミナルが建設される。北京も新国際空港を建設中、上海浦東空港も第三、第四ターミナルの建設中である。因みに2016年の羽田空港の年間旅客は8,012万人、中部空港は1,096万人、関西空港は2,571万人である。
だが、中国の飛行機は出発が遅れがちだ。筆者も多い月は移動で10回ほど飛行機を使う。
遅延率の公式発表は無いが百度百科を見ると定時出発率(15分以内)は2009年、81.9%である。ただしこれは乗客が搭乗後の遅延を計算に入れていないだろう。搭乗後に5時間待つこともあり、筆者の感覚では実際の遅延率は40%を超えると思う。
広大な国土の中国は雷雨など自然の影響を受けやすく、また軍が管制を行い、その空域コントロールも遅延につながる。
一方高鉄は、事故の影響で計画速度を下回る減速を続けている。だがいずれ速度は上がる。時速300㎞で運行の全長1,318㎞の「北京-上海」線の設計速度は時速380㎞で9月に時速350㎞にスピードを上げ、北京-上海間は4時間24分になった。
2010年には時速486㎞のテストに成功し、将来は時速400㎞を超えると鉄道関係者は話す。
時速400㎞を超える速度では香港-ハルピン間を8時間で走る。航空輸送の限界からも高鉄が旅行市場発展の鍵を握る。
「市民下郷」と高鉄の役割
沿海と内陸の人の交流が活発になれば内陸の成長も進む。そのため政府は「市民下郷」(都市住民を農村へ)で旅行市場の発展に力を入れている。
故郷を離れる農民工と農村の都市化で「村民進城」(農民が都市に)が進み、中国農村は“空心化”(空洞化)で郷鎮(村)の空き家が目立つ。空き家活用で都市住民に農村体験を奨励して村の起業に結びつけ、少数民族の生活向上も図るのが「市民下郷」である。各地の村も「農村音楽祭」「田園自転車行」「地方特色食文化祭」「農業体験」などの企画を立て「市民下郷」を取り込んでいる。改築された村の住宅で休暇を過ごす都市住民も増えている。世界自然遺産の「荔波」の村々では多くの村民が民宿を経営している。
湖南省では脱貧困達成の15%に旅行産業が貢献したと言われる。「市民下郷」も高鉄整備が不可欠である。「貴陽-広州」線も「市民下郷」を取り込み乗客が増える。先に述べた貴州省黔東南苗族侗族自治州の旅行収入の増加も「市民下郷」が影響している。
また「村民進城」も内陸住民の都市移動を増やす。都会で働く若者に会いに父母が都会を訪れる。農閑期に都市に住む親戚を訪ねる農民も増える。
日本への中国人旅行者はまだ少ない
中国人の海外旅行者述べ人数(香港、澳門を含む)は2015年に1.28億人になった。海外旅行消費額は推計で2,920億ドル、米国やドイツをしのぎ世界一である。
グラフは2004年を100とした国内旅行者数と海外旅行者数の指数の推移である。
国内旅行に比例して海外旅行も伸び、近年は国内旅行の伸び率を上回る。国内旅行が香港やマカオ旅行へと続き、ベトナム、タイ、日本、米国、欧州旅行につながる。
筆者は10年前に出版した著書で「やすらぎを求めて日本に来る人が増えて中国人の日本観光は年間1,000万人になり、1兆円の消費市場が生まれる。上海から福岡まではわずか1時間強である。豊かになった中国人の思いが週末、飛行機に1時間乗れば満たされるなら、金曜の夕に上海を発ち、2泊3日でやすらぎをもとめ日本に来る人も増える」と書いた。
海外旅行の消費は米国旅行の平均消費が14,380元、日本旅行が10,854元で、10,000元以上の消費が35.4%である。1,000万人が日本に来れば、1兆円を優に超える中国人の旅行消費市場が生まれる。
だが予想に反して日本旅行は沈滞した。2015年から訪日客が急増して爆買が話題になったが、それは本来の姿に近づきつつあるということである。
2005年を100とした2013年の渡航先別指数は、日本164、韓国504、シンガポール277、香港298、マカオ298、ベトナム210である。2012年まで居住地制限があった米国旅行でさえ2008年を100として254である。
2005年の日本旅行は韓国旅行を上回っていたが、韓国旅行は2013年に425万人になり日本を大きく超えた。2013年には米国旅行が日本旅行を超えている。
東日本大震災や政治問題が日本旅行に影響した。2010年には、尖閣の漁船衝突事件(9月)が国慶節旅行に影響し、回復の兆しが見えたところに東日本大震災(2011年)と尖閣国有化(2012年9月)で日本旅行の低迷は2013年まで続いた。
だが低迷の原因は震災や政治的影響とばかり言い切れない。2014年の中国人の海外旅行に占める訪日旅行の割合は2%で、比率では10年前の水準に達していない。他の国への旅行が増大し、日本旅行が低迷したのは、ビザ発給の受け入れ体制の遅れが原因であることは明らかである。本来、もっと早く日本旅行ブームが見られたはずである。だが近年、対応も進み、政治的緊張も和らいで、2016年の中国人訪日旅行者は637万人と急増した。しかし637万人は多いように見えるが筆者が想定した数の六割強に過ぎない。
2015年の韓国旅行者は611万人、シンガポール旅行者は209万人だった。国土の広さ、観光地の数、多彩さ、宿泊施設や交通インフラを比較した場合、637万人は少ない。しかもその数にはビジネス訪問も含まれる。
昨年の国内旅行総人数は44.4億人、香港、マカオへの中国人旅行者は7,000万人である。
彼らは次にベトナム、タイ、シンガポール、韓国、日本、米国、欧州に向かう。日本はそれらの人々の誘致ができているとは言えない。
中国人の日本旅行には「モノ」も影響した。日本に来る中国人の多くは家族、友達、親戚から買い物を頼まれ、日本到着後に肩の荷を下ろすように家電ショップ、ドラッグストア、デパートに飛び込む中国人も多い。彼らの買い物は時計、カメラ、炊飯器、紙おむつ、化粧品、薬、お菓子など多彩である。それを手にした人は“私も日本に”との思いがつのり日本への旅行者が増える。「モノ」も「おもてなし」も成熟社会の日本が積み上げた価値で、その価値を求めて来日する中国人が増える。
夏季は1年の4分の1の海外旅行が集中するが、今年の6月末から8月末まで全国143都市から3,000万人が出国し、66か国、218都市の旅行プランが販売された。
「旅行消費市場調査報告」によると海外旅行者の居住地で、最も多い直轄市・省は北京市、上海市、浙江省、広東省、江蘇省で、天津市、遼寧省、山東省がそれに続く。内陸の四川省も上位にある。海外に向かう内陸、農村の人も控えている。内陸発着便の増加で内陸からの旅行者も増える。「八縦八横」の進展と地方空港の整備が進めば、中国人はさらに海外に出かけやすくなる。
また中国人の海外旅行の急成長に果たす銀聯カードの役割も見逃せない。その手軽さ、便利さが若い80后、90后の世代に合っている。既に銀聯カードは世界の162カ国をカバーし、加盟店舗数は4,100万、220万台のATMで使用が可能である。
カジノは海外旅行目的の僅か0.57%
今後、中国人の旅行の多様化、個性化が進み個人の「オーダーメイド旅行」が増える。
そのため旅行業界は対応を進めている。来年のマルクス生誕200年の影響なのか、エンゲルス生誕地のドイツ、ブッパータール市を訪問する中国人が5年で倍増し、昨年4,782人が訪れた。空海の聖地、高野山を訪れる中国人も多い。筆者の住まいに近い大阪の能勢町の山間部にある住民も知らない人が多い木工アトリエでさえ、中国人の見学者が増えた。
その近くでは、中国人グループが日本でゴルフをするための住宅を建てた。環球時報は飛騨市の神岡鉄道など廃線を利用した自転車走行を紹介している。
市場が成熟すれば団体旅行は「クルーズ旅行」「家族旅行」「私だけの旅」に変わるのは必然である。「旅行消費市場調査報告」の希望する同行者では家族が最多である。希望する海外旅行の目的では、クルーズ旅行が最も多い。香港のクルーズ船運航会社の雲頂集団(ゲンティン香港)は広州市旅行公司の広之旅国際旅行会社と15万トンの世界ドリーム号を中国に投入する合作協議を行っている。そして家族旅行が続き、カジノは僅か0.57%で最下位である。カジノ誘致を望む日本の自治体は来場客の多数に中国人を見込む。だがカジノは中国人の旅行目的と合致しない。中国人が日本旅行に望むのは家族との落ち着いた癒しの時間と体験である。
しかも日本のカジノは運営ノウハウを持ち、エンタテイメントに優れた澳門と集客を争うことになり、結果として日本人の博打好きを増やすだけになりかねない。また日本がカジノを誘致すれば、対抗手段で中国も内地にカジノを誘致するだろう。既に日本はパチンコ、競馬、競輪と博打大国である。カジノ誘致に予算をつぎ込むより増加する観光客受け入れのインフラ整備に時間と金をつぎ込む方がよほど経済活性化につながる。安直に地方創生をカジノに頼るのも大きな問題である。
「旅行消費市場調査報告」では、2015~2016年の自由旅行は半自由旅行も含めて54.8%である。この原稿を書いている時、深圳空港で二人づれの中国人OLに行先を聞くとソウルに行くという。彼女は今年、東京にも行ったと楽しそうに語っていた。ソウル旅行も自由旅行である。
毎年数次の海外旅行をする人は旅行者の31%を占める。団体旅行から家族旅行、自由旅行に旅行スタイルが移るのは、経済成長で所得が上昇すれば当然である。日本も高度成長期の団体旅行が個人旅行、家族旅行になり、職場の団体旅行も影が薄くなった。
新婚旅行は宮崎、沖縄、グアム、ハワイからより個性的な行先が求められた。香港やフランス、イタリアへのブランド品買い物ツアーもめっきり減った。
中国も同じだ。しかも中国は成長スピードが速い。日常はビジネスと株や不動産、理財投資の喧噪で暮らす人が多いだけに「癒しの旅」にはより切実さがある。西蔵旅行ブームはその現れでもある。雄大な西蔵の自然への憧れだけでなく、悠久の大地と調和してゆったりと人生を送る西蔵人に接することに“癒し”を求めているのだろう。
だから中国人の旅行は日本より早く個性化に向かう。日本人は集団の中で安心を得るが中国人は独立心も旺盛で、個人主義も積極性も強い。「私だけの旅」は中国人の性格にも合う。「癒し」「家族」「個性」が今後の中国人の海外旅行の主流である。
カジノ旅行はそんな中国人から見れば成金趣味で時代遅れの「ダサイ」旅行である。
「成長の大回廊」と“癒し”の旅
筆者は「日中論壇」で中国の高速鉄道について「広大な国土と移動の時間を必要とする中国では、高速鉄道が及ぼす経済、文化、人々の生活に与える影響は計り知れないものがある」と述べた(10-002 中国の高速鉄道 )。
中国の国土は広い。日本では新幹線を利用しなくても在来線や高速バスの代替も可能である。だが中国はそういうわけにはいかない。「北京-上海」の高鉄が運行される前は筆者もよく北京発20時の夜行列車を利用した。上海まで12時間で、その時代の内陸での移動はさらに大変だった。
「八縦八横」「十縦十横」の経済効果は多大である。旅行の利便性だけでなく、高鉄が沿海、中部、西部、北部、西北部さらにシルクロード経済帯、21世紀海上シルクロードにつながる経済大回廊を形成する。
筆者は次のようにも述べた。「発展は沿海だけと多くの人が考えていた間に中国の経済発展は点から線で結ばれ、それがさらに環状ラインで繋がれて成長の回廊がくっきりと姿をあらわしているのがわかる。その回廊は内陸の成長と中国の安定した経済発展を保証する成長の大回廊となる」(09-007 成長の大回廊 )
いつか新幹線と中国高鉄の共通周遊乗車券が発売され、それで日本と中国の旅をする夢のようなことも実現するかも知れない。
今はまだ乗客より駅員が多い高鉄駅がある。だが、新幹線の「奥津軽いまべつ駅」の1日の利用客は約60人であるという。列車によっては乗客より駅員が多いが、日本のその光景は日本らしさで肯定的に語られ、中国の光景は嘲笑まじりで報道される。
「乗客より駅員が多い」と笑っている間にその姿が変わるのが中国である。中国が長期的、戦略的な組み立てで動いていることを理解して対中戦略を考えるべきである。
国内、海外ともに中国人の旅行が拡大を続けることは間違いない。高鉄や航空機の利便性も増す。だが真に質の高い旅行文化が形成されるには課題も多い。高鉄や航空機をハードとするなら、それを支えるソフトの充実が重要である。
大回廊が形成され利便性は増したが、駅や観光地の案内や表示、顧客サービスは顧客満足にはほど遠い。今後の中国人の旅行目的の一つは“癒しの旅”である。観光地のゴミや大音響はそれに逆行する。トイレの汚れ、景観を損なう看板など課題も多い。大声や喫煙マナーなど旅行者自身が問われる課題もある。多くの高速道路のサービスエリアもまだ一時代前のままである。ハードの進歩に比べ、ソフトの充実にはまだ多大な時間を要する。
それはサービス教育や標語だけで得られるものではない。
中国人は国内旅行で“癒し”の願望が満たされなければ、海外への旅でそれを求める。
成熟社会の日本にはそれを満たすソフトが揃っている。それを視野にさらに受け入れ体制を充実すべきである。
(おわり)
注① 「中国公民出境(城市)旅游消費市場調査報告」(世界旅游城市聯合会編著、北京出版集団公司)