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【18-002】新しい中国の驚異が始まる(その2)

2018年 4月23日

和中 清

和中 清: ㈱インフォーム代表取締役

昭和21年生まれ、同志社大学経済学部卒業、大手監査法人、経営コンサルティング会社を経て昭和60年、(株)インフォーム設立 代表取締役就任
平成3年より上海に事務所を置き日本企業の中国事業の協力、相談に取り組む

主な著書・監修

  • 『中国市場の読み方』(明日香出版、2001年)
  • 『中国が日本を救う』(長崎出版、2009年)
  • 『中国の成長と衰退の裏側』(総合科学出版、2013年)
  • 『仕組まれた中国との対立 日本人の83%が中国を嫌いになる理由』(クロスメディア・パブリッシング、2015年8月)

その1よりつづき)

5億人の家計所得が250万円を超える人口の出現

 筆者は2010年出版の拙著[1]で、中国では、2020年に5億人の家計可処分所得が250万円を超える人口が出現すると述べた。250万円は現在、14.5万元ほどである。都市の平均家族数を2.8人とすれば、一人平均5.18万元である。

 中国統計の2016年の5段階での都市住民一人平均所得はグラフのようになっている。全家庭の20%を占める高収入家庭の一人平均所得は既に7万元を超えた。

図1

 2016年の都市人口は7.9億人で、高収入家庭人口は約1.6億人である。

 次の中上位クラスの一人平均所得は4.2万元で、過去3年の平均伸び率8.56%でそのまま所得が上がれば、中上位家庭の所得は2020年に5.8万元になり、250万円を超える高所得と中上位所得層の人口は3.2億人になる。次の中位クラスの所得は2020年には4.5万元になる。

 中位クラスでは、5.18万元と6,800元の差があり、月間所得では565元少ない。

 筆者はこれまで「日中論壇」で、中国の裏経済と裏所得について述べた。都市住民にはアルバイトや副収入、また不法所得などの表に現れない裏所得が多く存在する。

 最近、地方政府の統計のごまかし、水増しが日本でも報道されたが、中国全体で考えると過大なGDPより隠れたGDPの方がはるかに大きい。都市の裏所得に比べると565元は微々たる金額でもある。裏所得を考えると中位クラスのかなりの家庭の平均所得も5.18万元を超える。仮にその数を中位家庭の三分の一の5,300万人とすると都市の3.7億人が年の可処分所得が14.5万元、250万円以上の家庭人口ということになる。

 さらに農村が豊かになっている。特に都市近郊農村が顕著である。それは内陸都市の農村にも拡大し、農村の都市化でさらに豊かな農民も増える。

 統計では、2016年の農村高収入家庭の平均収入は2.8万元で、2020年に4.2万元になる。

 2016年の農村人口は5.9億人でその20%の高収入家庭の人口は1.18億人である。農民にも統計に現れない所得は多い。特に都市近郊農村では顕著である。表に出ない家賃収入や副業、アルバイトをする農民も多い。筆者は仕事で広東省の市街地から車で1時間半ほどの農村にある工業団地に行くことが多い。団地周辺では農民が3、4階建てのアパートを建てそれを賃貸している。その賃貸料だけでも年に150万円ほどになり、その支払いに領収書は発行されない。つまり受け取る農民の裏所得になる。またアパートに住む人のために小さな飲食店や日用品を売る店をつくり、副収入を得る農民も多い。

 農村高収入層の2020年の予想額である4.2万元と5.18万元との差の0.98万元は月額で815元である。裏収入でその差も埋まる。そして都市と農村を足せば2020年に可処分所得が250万円を超える家庭人口は約5億人になる。

中国は「先富」から「共同富裕」の社会に向かい始めた

 筆者が予想したとおり2020年に世帯所得が250万円(14.5万元)を超える人口は5億人になる。先に掲げた5段階の平均可処分所得は統計上の数字である。中上位層や上位層に行くほど隠れた所得も多い。それらを考えると中国社会の旺盛な消費も納得できる。

 年間のべ1億人を超える海外旅行も年間のべ50億人近い国内旅行も日本や欧米、香港での爆買いも、年に3,000万台を超える自動車販売も、活発な住宅市場も、上昇が続くネット販売も双11の売上も、贅沢品と言われる海外高級ブランド品の販売もそれで理解できる。

 さらに中国の驚異はその5億人だけではない。彼らを追いかける約9億人もの巨大人口の存在こそが真の驚異である。

 次のグラフのように可処分所得(都市と農村住民)の増加率が高い上位10地域は全て内陸である。そして沿海部と内陸との所得格差も徐々に縮まり、中国は「先富」から「共同富裕」社会への新領域に入る。

図2

 2017年の中国の都市化率は58%弱である。これからさらに都市化が進み同時にサービス経済の比重が増す。2013年にはGDPの増加額に占める第三次産業の比重は46.7%だったが5年後の今年は52%を超える。都市化とサービス経済の進展は世帯所得250万円の仲間入りをする人々の増加に拍車をかける。

 最近の賃金調査での平均給与月額は既に金融業で2万元を超え、サービス業では情報産業など1.5万元に近づいている業種も多い。

 2017年の大学生就職調査によると大専、中専(中等専門学校)卒業生の平均月額賃金は5,628元になっている。サービス経済の進展でサービス業に就職する学生も増え、大学、大専卒業生の賃金は上昇する。卒業後に直ぐに結婚する共働き夫婦ですら家計の平均所得が250万円に近づいている。

新しい「中国の驚異」が始まる

 筆者はこれまで、中国は投資牽引経済ではなく消費が経済を支えていると述べてきた。それがますます顕著になる。これから中国は中産階級の増加で驚異的な消費の時代を迎えるだろう。

 次のグラフは毎年の社会消費品小売総額の伸び率と成長率、都市住民平均可処分所得の伸び率との比較である。このグラフを見てもわかるように常に社会消費品小売総額の伸び率が成長率と可処分所得の伸び率を上回る。ここにも裏経済と裏所得の影響が見える。

図3

 さらにこの数年、内陸都市の社会消費品小売総額の増加が目立つ。2016年の伸び率では北京が6.5%、上海が8.0%に対し、貴州省は13.0%、チベット(西蔵)自治区は12.5%、安徽省は12.3%、重慶市は13.2%、江西省は12.0%だった。

 また次のグラフのように都市住民一人平均消費支出の増加率が高い地域も内陸である。

図4

 2005年から2014年までの10年間の賃金上昇率は広東省が148%であるのに対し、貴州省は268%、新疆ウイグル自治区は244%、陝西省は242%と内陸が高く、それが内陸の消費に影響している。また先に見たように可処分所得の伸び率の上位10地区も全て内陸である。

 中国社会の旺盛な消費は商業銀行が発行するクレジットカードにも現れている。南方都市報によると全国規模の9銀行が昨年新たに発行したクレジットカードは1.26億枚に達した。民生銀行は前年比での増加率は119%、工商銀行は107%、平安銀行は80%と、驚くべき増加をしている。累計のカード発行枚数は工商銀行が14,300万枚、招商銀行が10,023万枚、農業銀行が8,481万枚に達している。

 世界7位の経済体である「長三角」経済圏、間もなく韓国経済を超える広東省、また2020年代前半に韓国経済を超える江蘇省や山東省、分散による活発な地域経済、それによる中産階級の増大、世帯所得が250万円を超える5億人もの人口、これからその仲間入りをする9億もの人々、さらに拡大する消費牽引経済。「先富」から「共同富裕」に向かっている中国社会。それは「新しい中国の驚異」の始まりでもある。

(おわり)


[1] 拙著『2020年までの中国戦略』(DVD、電子出版)株式会社インフォーム、2010年