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【19-002】2019年の中国経済展望~中国経済は沈まない~(その2)

2019年2月18日

和中 清

和中 清: ㈱インフォーム代表取締役

昭和21年生まれ、同志社大学経済学部卒業、大手監査法人、経営コンサルティング会社を経て昭和60年、(株)インフォーム設立 代表取締役就任
平成3年より上海に事務所を置き日本企業の中国事業の協力、相談に取り組む

主な著書・監修

  • 『中国市場の読み方』(明日香出版、2001年)
  • 『中国が日本を救う』(長崎出版、2009年)
  • 『中国の成長と衰退の裏側』(総合科学出版、2013年)
  • 『仕組まれた中国との対立 日本人の83%が中国を嫌いになる理由』(クロスメディア・パブリッシング、2015年8月)

その1よりつづき)

民営企業が力をつけ、貿易の“薄”米国も動き始めた

 海関統計では2018年の中国の輸出入総額は30.51兆元で、前年比9.7%の増加だった。

 うち輸出は16.42兆元、7.1%の増加、輸入は14.09兆元、12.9%の増加だった。

 次のグラフはドルベースでの輸出入額の推移である。

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 輸出入総額が10兆元台に達したのは2005年、20兆元台に達したのは2010年、そして昨年30兆元を超えた。昨年は節目の年である。その節目の年に中米貿易摩擦問題が起きた。

 前回の日中論壇 で中米貿易問題はむしろその打撃は米国の方が大きいと述べ、米国はどこかで矛先を収めざるを得ないことを述べた。

 もちろん米国との貿易摩擦は中国にも大きな影響をもたらす。

 しかし次のグラフに見るように2017年の中国から米国への輸出額はアジアの国々への輸出額の39%である。昨年はさらにその差が拡大している。

 既に貿易の“薄”米国が始まりつつある。“脱”ではなく“薄”である。

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 前回の日中論壇 で述べたように中国から米国への輸出の多くは雑貨類である。中国の産業構造の転換とともに自ずとその比重は低下する。

 “薄”米国は2018年の中国海関統計にも現れている。

 中国とEU、米国、ASEANの輸出入額の前年増加率は各々、7.9%、5.7%、11.2%である。

 一方、一帯一路沿線国との貿易額は13.3%と大きく伸びている。その中でもロシア、サウジアラビア、ギリシャとの貿易は各々、24%、23%、33%の増加である。

 地域別貿易額では、西部12省の貿易額の伸び率が高い。昨年の東部沿海10省の貿易額伸び率は8.8%であったのに対し、西部地域は16.1%の増加である。西部地域の貿易の増加が大きいことは、一帯一路の沿線国や欧州への貨物列車「中欧班列」での貿易が増加していることでもある。

 さらに昨年は貿易の中身にも大きな変化が見えた。2008年の中国の貿易額(輸出+輸入)は2.56兆ドル、企業別の割合は国有企業が23.9%、外資企業が55.1%、民営企業が21.1%だった。しかし2018年の貿易総額は4.62兆ドル、民営企業の貿易額は1.83兆ドルで全体の39.7%、ほぼ4割を民営企業が占めるようになった。貿易額の増加貢献率では民営企業は50%を占める。民営企業の輸出で大きく伸びたのはIC集積回路、液晶パネル、スマートフォンで、殊に集積回路の前年増加率は51%に達した。

 米国の「中国製造2025」への“いちゃもん”や華為技術(ファーウエイ)潰しはこのような民営企業や一部の電子産業での中国台頭への米国の苛立ちでもある。

 このように貿易面では貿易相手先国の変化、西部地域の貿易伸び率の上昇、民営企業の比重の増加が見られ、これは中国経済にとり希望のある注目すべき変化である。

製造業への外資投資が拡大している

 「中国製造2025」の進展や環境投資の拡大で外資投資にも変化が起きた。下記のグラフは中国への外資投資に占める製造業への投資推移である。昨年の外資直接投資額は1,350億ドル、前年比3%の増加だったが、製造業への外資投資は20%増加し、全投資に占める比率が30%に回復した。グラフに見るように2010年以降、製造業への投資比率は下降を続け、同時に卸・小売、サービス業への投資が拡大を続けたが、製造業への投資が増加したのは昨年の変化のポイントの一つである。外資企業にとって「中国製造2025」による製造業の質的転換や政府の積極的な環境投資、就業人口の減少を見越した積極的な設備投資は市場の大きな魅力である。進化する製造業の市場拡大に対し外資が投資を増加させていることも希望の見える変化である。

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労働年齢人口、就業人口が下降に転じた

 昨年は中国社会の大きな変化があった。出生人口が減り、労働年齢人口、就業人口が下降に転じたことである。

 次のグラフは中国の年度別出生率を表している。

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 出生人口は一人っ子政策の見直しで、2016年に1,786万人と2,000年以来の最高を記録した。だが、2017年はその効果も薄れ前年に比べ63万人減少し、2018年も引き続き200万人の減少となった。2018年の出生率10.94%は1949年以来、最も低い値である。

 昨年の出生数は1,523万人、死亡数は993万人で、中国の人口は530万増加して13億9,538万人になった。依然、中国の人口は増加を続け14億人が目前に迫る。

 そのうち16歳~59歳の労働年齢人口は8億9,729万人で総人口の64.3%を占めるが、労働年齢人口は前年に比べ470万人減少した。

 その結果、次のグラフのように、就業人口が減少に転じた。2017年の就業人口は7億7,640万人、昨年は7億7,586万人で54万人の減少となった。これは1961年以来初めてである。

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 さらに昨年には、60歳以上人口が2億4,949万人、総人口の17.9%、65歳以上人口が1億6,658万人、総人口の11.9%を占めている。

労働年齢人口と就業人口の下降は中国経済の問題にはならない

 国連調査では中国の人口は2030年から負の成長になり、2065年の人口は12.48億人との予測である。現在の出生率からすれば人口減少はそれより前倒しで進む。しかし2065年の人口を予測し、それを問題視してもあまり意味がない。

 45年先である。科学技術は長足の進歩を遂げるし、社会も就業条件も労働環境も全く変わる。大切なことは人口減少を与件とし、いかに国や社会を変えられるかである。

 中国は巨大な就業人口が成長を支えた。何億もの農民工を都会に送り「世界の工場」ができた。就業人口の減少は「人口ボーナス」の時代が終わり、経済への負の影響も予想される。

 しかし筆者はそれを深刻な問題とは考えず、むしろ前向きに見ている。

 その理由は出生率が下がり、高齢者が増加しても依然、中国は巨大人口を抱え、8億人もの就業者がいる。出生人口の低下や就業者の減少だけを見て悲観的に考えることもない。そこにはなお巨大人口と巨大市場が存在する。

 また、中国経済は既に就業者や労働年齢人口の減少を織り込み進んでいる。

 リーマンショックの後、日本では盛んに「3,000万人の失業」と社会の混乱が報じられたが、既にその時から工場の採用難、殊に若い女性の採用難が始まり、その後もずっと続く。

 農民工の供給源である戸籍地を離れ都会で暮らす流動人口数はグラフのように2015年から下降に転じ、採用難に拍車をかけている。

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 次のグラフは中等職業学校への入学者の推移である。2011年から減少が続く。

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 減少の原因の一つは、以下のグラフのように普通高校や大学進学者が増えたことである。

 さらに海外への留学生も2010年頃から急速に増加した。

 だから当然、中等職業学校への入学者は減る。

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 筆者もリーマンショック後、地方の職業学校を回り学生と面接したが、当時から農村の子供たちの大学進学による入学数の減少と職業学校の経営難が話題だった。

 職業学校は農民工の供給源で、その減少は企業の採用に影響を与える。

 さらに中国人は起業の意欲が旺盛である。フロンティア精神を持ち前向きにいろんな事に挑戦する気風を持つ。だから起業し、あるいはいったん勤めた後に故郷に戻り、友人や親戚の人と事業を起こす人も多い。グラフは個体戸就業人員の推移である。やはり2010年頃から都市でも農村でも急速に増加している。

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 だから、労働年齢人口や就業者数が下降に転じることも、既にずっと前から予測されていることであり、多くの企業も採用難には慣れっこになっている。工場の自動化と昨年の製造業の設備投資の増加はその対策の一つでもある。

 今や中国は低賃金で労働集約型の加工業の時代でもない。大学進学率の上昇はそれだけ質の高い就業者の増加にもつながる。

労働年齢人口と就業者数の低下は経済にデメリットより好影響をもたらす

 一方、次のグラフのように製造業からサービス業への就業者のシフトが続く。

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 さらに、職種別の就業人口を見れば金融業や情報、技術サービス、不動産業が活発な労働者の受け皿になっている。産業構造の転換が進んだ深圳などの大都市では、技術人材の採用も非常に難しくなっている。

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 今後の中国経済の成長を考えると、サービス業にも労働年齢人口の減少、就業者数の減少の影響が及ぶ。そのためサービス業でもその対策が進むだろう。

 インターネットの小売販売はさらに拡大し、就業者不足を補う。日本では買い物時に顧客に「カードでもいいですよ」の言葉が未だに交わされているが、中国は既に「現金でもいいですよ」の時代になっている。

 ケンタッキーなど飲食業もスマホでの注文、決済が増え、サービス人員の削減が続く。多くの駐車場では現金支払いがないので管理人がいなくなった。

 中国では労働年齢人口や就業者が減少しても、その上を行く対策が進むだろう。世界トップのネット社会なので対策も進めやすい。労働人口や就業者の減少のデメリットより、それに対応するための新ビジネスや工場の自動化投資、サービス業の情報投資など、経済に与えるメリットの方が大きい。

 日本では人手不足や年金不足で停年延長と停年後の再雇用が話題である。だが中国は逆である。“どうして60歳を過ぎてまで働くの”“日本の職場ではどうして老人が多いの”“日本人はかわいそう”これが中国人一般の持つ感覚である。退職した夫婦が孫の面倒を見て、若い夫婦の労働を支える。老後に旅行や趣味を楽しむ。老人マーケットは経済にも良い影響を与えている。

 中国は労働年齢人口、就業者の減少さえも飛躍のチャンスにするだろう。

 昨年のいくつかの変化を読めば中国経済の底は堅く決して沈むことは無い。むしろこれからの政府の刺激策によっては、今年、浮上する可能性も高い。

(おわり)


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